妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

文字の大きさ
上 下
88 / 309
恋愛編

26-1話【seminar in Chiba】西園寺 すみれ:宴会(藍原編)①

しおりを挟む
 早朝に着いた千葉の温泉施設は、思ったより、かなり……さびれていた。潰れかけの小さな旅館みたいなところで、部屋数も少なく、ほとんど貸し切り状態。よくよく聞いたら、旅館自体はもう機能していなくて、民間企業とか自治体にスポットで貸し出して何とか使ってるらしい。擦り切れた畳の和室に案内され、西園寺先生とふたりで泊まることになった。

「何だ、藍原さんと同部屋?」
「西園寺先生、さすがに同じ病院の先生を連れ込もうとか企んでたわけじゃないですよね? 学会のときと違って、行きずりなんて簡単な話じゃないですよ」

 不満そうな西園寺先生に釘を刺す。

「あら、行きずりだろうとなかろうと、別に私は気にしないわよ。気持ちよければオーケー」
「そ、そういう問題ですか……」
「あら、セックスに快楽以外の何を求めるというの」
「……愛とか」

 途端に西園寺先生が吹き出す。

「可愛い可愛い甘ちゃんね、藍原さん」
「いや、普通だと思いますけど……」

 あたしだって、妄想ではあれやこれやしてるけど、現実にするなら、愛あるセックスがいい。……まあ、確かに、そうじゃないシチュエーションにも多少は憧れるけど。……いやいや、でもやっぱり、後悔はしたくないしね。だからこそ、そういう憧れは、妄想だけで処理するのよ。……ああでも、愛を貫くあまり、最高の快楽を逃してしまうほうが、後悔するのかしら……? はっ、いけない、あたしったら、西園寺先生に感化されてる……!?

「まっ、別にいいわ。藍原さんとお泊まりする機会だって滅多にないし。それはそれで、楽しませてもらいましょう」

 含みのある西園寺先生の笑顔が妙に引っかかるけど、気にしないことにする。根ほり葉ほり聞かれそうになったら、口を貝にして、寝ればいいのよ!

 セミナーは、旅館の中の大会場みたいなところで始まった。ざっと40人くらい参加している。知らない顔もあったけど、だいたいは見覚えがある先生たちばかり。中には、外科の西先生もいた。……西園寺先生、西先生に仕掛けに行かないといいけど。

 セミナーの内容は、最近の研修医制度事情に始まり、指導医の在り方のお勉強など。コーチングとかメンタルケアとか、指導医として身につけなければいけないスキルの説明と、ワークショップ形式での実践。例えば、研修医を指導するのに、むやみやたらと叱ってはいけないとか、何がダメなのか具体的に指導しろとか、行き過ぎた指導で人間性を否定するなとか、落ち込んでる部下の扱い方とか。セクハラ、パワハラ問題にも触れられた。
 聞けばどれも当たり前のことなんだけど、確かに、医者の世界では、あり得ない指導がいまだに行われいることがある。外科系は特に厳しいという噂。手技でミスすると蹴りが入るとか! 飲みに誘われたら断ってはいけないとか……!

 ま、いわれたとおりのスケジュールをこなして、1日目は終了。旅館だけど厨房も機能していないから、夕飯は宴会場でケータリングの食事になった。

「みなさん、今日は1日お疲れ様です。まだ明日もありますんで、二日酔いにならない程度に飲みましょう!」

 セミナー責任者の精神科医局長、後藤田先生の発声で宴会が始まった。

「ったく、こんなしけた宴会場でまずい食事食わされて、これじゃあ酔うもんも酔えないわよねえ」

 ビール片手に西園寺先生が愚痴りに来た。

「西園寺先生は、酔えないくらいがちょうどいいと思います」
「は? どういう意味よ」
「だって、博多のときみたいにナンパに出かけちゃうでしょ?」
「馬鹿にしないでよ、こんな千葉の田舎にいい男なんているわけないでしょ。どうせナンパするなら……」

 そしてあたりをきょろきょろと見回す。お目当ての人物を見つけると、手招きした。

「西! ちょっとこっち来なさいよ」

 うわっ、やっぱり西先生だ! 西先生は怪訝な顔で振り返ったあと、あたしの姿を見つけて少しだけ笑顔になり、近寄ってきた。

「藍原先生、どうも。こないだの論文は、うまく行きましたか?」
「あ、はい、おかげさまで、今結果待ちです。お世話になりました」
「ちょっと! あなたを呼んだのは私なんですけど?」

 西園寺先生が不機嫌そうに西先生に絡む。……西園寺先生、もうすでに酔ってるんじゃないかしら? それとも、これがデフォルト? 考えたらあたし、西園寺先生とお酒飲んだこと、なかったわ……。
 せっかく西先生が来たので、訊いてみる。

「西先生。西園寺先生って、酔うとどうなるんですか?」
「え? うーん、そうだなあ、まあ、絡むよね」
「でも、わりといつも、絡みキャラですよね?」
「そうですね、それが、ひどくなりますね」
「どんなふうに、絡むんですか?」
「え?」

 西先生はちらりと西園寺先生を見やると、すぐ視線を外した。

「ん……まあ、いろいろと」

 ……うわっ、ちょっと、今の視線の動きといい方……めちゃくちゃ意味深じゃないですか! き、き、気になる……!

「西先生……西園寺先生に、絡まれたことは……」
「そりゃまあ、学生時代は、しょっちゅうね」
「ななな、何をされたんですか……!?」
「ちょっと藍原さん! 聞こえてるわよ」

 西園寺先生から待ったがかかった。やっぱり本人の前では聞き出せないか……と思いきや。

「そんなことは、私に直接訊きなさいよ」
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...