妄想女医・藍原香織の診察室

Piggy

文字の大きさ
上 下
85 / 309
恋愛編

24話【off duty】大橋 潤也:「来ないと殺すから」(大橋編)①

しおりを挟む
 花金の夜。することもなくて部屋でシコってたら、電話が鳴った。知らない番号だ。こんな時間に誰だ?

「もしもーし」
『……今どこ』
「え? 家だけど……て、誰?」
『今すぐ来い』
「は?」
『歌舞伎町、〇×屋の前。来ないと殺す』
「え? え? ちょっと、誰?」

 なんだよ、このドスの利いた女の声。どっかで聞いたことあるような声だったりいい方だったりするけど……え。まさか、ひょっとして……

「か、楓さん?」
『30分以内に来ないと殺すから』
「え!? 30分って、今から――」

 ブチッ。プーッ、プーッ。

 ……って、切れてるし。なんだ、今の電話? いや、でも。これはまさに、千載一遇のチャンス。何だかよくわからないけど、ちょっとだけ嫌な予感もするけど、俺に選択の余地はないっ!

 半勃起のチンコを急いでパンツにしまって、俺は大急ぎで出かけた。 
 人生最高のダッシュで、何とか29分後に〇×屋に到着。……いた。楓さんだ。うわ、こんな物騒な繁華街で、可愛い子がひとりで雑居ビルの階段に座ってる。これはまずいって。

「か、楓さん! どうしたの、何かあった?」

 振り向いた楓さんの顔を見て、思わず、うっと声を漏らす。これはヤバい。ヤバいって。目の座り方が半端ねえ。こないだ新條の部屋で飲んだときより、数倍ヤバい。

「大橋……」

 ひゃー、呼び捨てだし。

「大橋。付き合え」
「え? え? い、いいの? 俺と付き合ってくれんの!?」
「違うだろー!! 酒に付き合えっていってんの!」
「あ、そっち? でも楓さん、もう充分に酔っぱらってるっぽいけど」
「文句あんの!?」
「……いや、ないっす」

 うひゃー、めちゃ絡んでくる。でもいいや、楓さんと飲めるなら。こんな楓さんも、悪くない。
 近くのこじんまりした居酒屋に入り直して、ふたりで日本酒を飲む。

「岡林先生が……岡林先生が……藍原先生狙いだったんだって……」

 1杯飲んだあと、楓さんが語り出した。さっきより、女らしい声に戻ってる。

「え、岡林って、あの? 藍原先生って、あの藍原先生……?」
「……ほかに誰がいるんだよ!?」

 うひゃっ、たまに地雷踏むと豹変するなあ。

「藍原先生だってさー。そりゃ、勝ち目ないよねー。藍原先生、すごく可愛いもん。頭もいいし、胸もでかいし、性格もいいし」
「そ、そんなの関係ねーよ! 俺は藍原先生の胸より、楓さんの胸のほうが好きだよ」
「あんたに好かれても意味ないの!」
「……すんません」
「あーあ、藍原先生狙いじゃなかったら、まだあたしにも脈あったのかな~」
「……」

 まいったなあ。楓さん、キレながら、涙ぐんでんじゃん。藍原先生か。確かに、可愛いよ。あのムカつくほどイケメンの岡林とだったら、美男美女カップルでお似合いだ。でも俺は、楓さんのほうがいいけどな。上気した顔で、気持ちよさそうに喘ぐ楓さんの姿……忘れられない。

「……楓さん。そんな奴もう忘れてさ、俺にしなよ」
「……」
「楓さん?」
「……キモチワルイ……」
「え……」

 慌ててトイレに連れて行くと、楓さんは数回げえげえ吐いた。でも、それでちょっとすっきりしたみたいだ。キレモードから、ちょっとまともに戻った。

「楓さん、酒はもうやめよう。お店出るよ?」
「ん……」

 苦しそうに顔を歪めてうなずく。息も絶え絶え、体はアルコールで真っ赤だ。
 楓さんに肩を貸しながら、俺は夜中の歌舞伎町に出た。酔っぱらった体には、秋の夜風が冷たい。ネオン街を駅に向かいながら、もう終電がないことに気づく。

「楓さん……」

 楓さんは何もいわずに、ぐったりしながら俺に寄り掛かって歩いてる。

「楓さん……もう遅いよ。……どっか入ろ?」

 返事はない。俺は、楓さんを連れて、色とりどりの看板が軒を並べる脇道に入った。
しおりを挟む
感想 154

あなたにおすすめの小説

双葉病院小児病棟

moa
キャラ文芸
ここは双葉病院小児病棟。 病気と闘う子供たち、その病気を治すお医者さんたちの物語。 この双葉病院小児病棟には重い病気から身近な病気、たくさんの幅広い病気の子供たちが入院してきます。 すぐに治って退院していく子もいればそうでない子もいる。 メンタル面のケアも大事になってくる。 当病院は親の付き添いありでの入院は禁止とされています。 親がいると子供たちは甘えてしまうため、あえて離して治療するという方針。 【集中して治療をして早く治す】 それがこの病院のモットーです。 ※この物語はフィクションです。 実際の病院、治療とは異なることもあると思いますが暖かい目で見ていただけると幸いです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

My Doctor

west forest
恋愛
#病気#医者#喘息#心臓病#高校生 病気系ですので、苦手な方は引き返してください。 初めて書くので読みにくい部分、誤字脱字等あると思いますが、ささやかな目で見ていただけると嬉しいです! 主人公:篠崎 奈々 (しのざき なな) 妹:篠崎 夏愛(しのざき なつめ) 医者:斎藤 拓海 (さいとう たくみ)

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。

処理中です...