94 / 96
第一部 六章 月の魔術師。そして太陽の、
94話 怪物の棲家(下層版)
しおりを挟む
その後も下層で、ルナの後方支援を受けながら下層のモンスターを蹂躙していく。
「オォオオオオオオオオオギャアアアアアアアアアアアア!?」
出会い頭に雄たけびを上げて突進してきたミノタウロスを、また冠のようなものを出してもらって、雷による加速をせずに両断し、雄叫びがそのまま悲鳴に変わる。
「セェイ!」
妖鎧武者が不意打ちのように飛び出して攻撃を仕掛けてきたが、神がかった反応速度で回避し、気合と共に繰り出した回し蹴りで粉砕する。
「鬼は外ってね」
「ギャアアアアアアアアアアア!?」
大柄な鬼がたくさんの小鬼を連れてやってきたが、大豆程度の小さな稲魂を作り出して、それらを全部射出することでまとめて祓う。
”これだよこれこれ! これが見たかった!”
”美琴ちゃんの配信の定番の、超ハイスピードモンスター殲滅!”
”ずっとこれが見たかった! もうあのアホどもを気にしなくていいから、これからもたくさん観れるぞ!”
”えぇ、なにこれえ……”
”やばいとは聞いていたけど、やばいどころの話じゃねえwww”
”なんで下層のモンスターが揃いも揃って瞬殺されてんだよwwwww”
”ルナちゃんのバフ込みで考えても殲滅速度がおかしい”
”おーおー、ルナちゃんの配信から流れ込んできた新規達が困惑しとる”
”美琴ちゃんの配信を最初期から観ている古参ワイ、困惑する新規を前に愉悦を感じて酒を飲む”
”今更だけどさ、これだけやべーことやっててなんで半年も埋もれてたんだよ”
最近はあまり見ることのなかった、美琴のさくさく攻略を観ることができた視聴者達は、その喜びを分かち合うようにコメントを大量に書き込んでいく。
その中に、ルナの方から流れ込んで来た視聴者達が、困惑したようなコメントを書いていく。
ここまで大きくなってまだ三か月弱ではあるが、アモン戦の後の三週間や深層上域攻略後の三週間を除いて、ほぼ毎回このようなことをやっていたため、いつも来てくれている視聴者達は見慣れている。
最初こそ、異常なまでの殲滅と進行速度に困惑していたが、何度もやっていく内にそのハイスピードがたまらないようで、もっと早く行けるのではないかと言ってくる始末だ。
あの時の困惑していた時期が懐かしいなと時々感じていたので、久々にいつも通りの美琴の配信に困惑するようなコメントを見られて、少しだけご機嫌になる。
「配信でも十分迫力があるのに、実際に見るともっと派手な見栄えする派手な動きの薙刀術と雷、艶のある鴉の濡れ羽色の上質の絹のような長髪と、美琴様の魅力をこれでもかと引き立てる美しい着物のコラボレーションが、もうっ、最ッ高! 本当に今日、ここに来れてよかった……!」
「なんか後ろで、変なレポしているのが聞こえるんですけど」
『あまり気になさらないほうがいいでしょうね』
「いや、気にしないことなんてできないわよ」
肩越しに振り返ると、興奮しているのか頬を上気させて杖を抱き、体をくねくねとよじらせている。
さっきからずっと美琴のことがすごいとばかり言っているが、ルナも十分常識はずれな能力をしている。
実際にバフを受けて分かったが、全ての能力が少なくとも五倍以上まで跳ね上がる。
しかも同じ魔術の重ね掛けもできるようで、攻撃が当たる直前に武器そのものに一瞬だけという時間制限をかけることで、攻撃力の上昇幅を数十倍に跳ね上げる上に重ね掛けするため、その瞬間の攻撃力は元の百倍以上にまで登る。
確かにこんなバフを常に受けた状態でいれば、自分達が強くなったと錯覚するだろう。だがこれは、恩恵であると同時に諸刃の剣だ。
効果が切れた瞬間に、何か副作用のようなものがあるわけではない。
なら何が危険かというと、自分の正しい実力を把握することができなくなり、適正レベルよりも上のところに挑んでしまうことが当たり前になってしまうことだ。
事実、かつてのルナのパーティーは、せいぜい中層程度の実力しかないにも関わらず、最上呪具を買ったからという理由だけで下層まで進んでいた。
その結果が、ブラッククロスのとてつもない腐敗の露出と大炎上に繋がったわけだ。
「美琴様、私の魔術はどうですか?」
ジュエルシェルという、宝石を食べることで自分の殻を宝石に変質させるヤドカリのようなモンスターを倒し、地面に散らばった綺麗な宝石を見て拾って持ち帰りたい欲をぐっとこらえていると、ルナが目を輝かせながら聞いてくる。
「素直な感想を言うと、すごく強力な魔術ね。攻撃と支援の両方がここまで高水準なのは、多分珍しいんじゃないかしら。あなた一人でも、十分下層を攻略できるだけの強さはあると思うわ」
「ありがとうございます!」
「ただ、バフ系の月魔術はあまり乱用はしちゃいけないわね。あくまで私の感覚だけど、攻撃が当たる瞬間に効果時間をすごく短くするのを条件に、上昇幅を通常よりも上げている月魔術を、同じ場所に複数重ね掛けしているわよね?」
「よ、よく分かりましたね? その通りです」
やはりそうかと、指を顎に当てる。
「味方にバフをかけることは悪いことじゃないわ。むしろ、これだけ強力ならどんな状況でも乗り切ることができると思う。でも、それを戦闘中常時かけ続けていると、かけられている側の人はそれが自分の実力だと誤認してしまうわ。心当たりはあるんじゃないかしら」
「……あります」
「あと、多分だけど、月魔術の詳細とか全部は明かしていなかったんじゃない? 明かせない部分があるのは誰にでもあるから仕方がないけど、バフ系の効果は共有していた方がよかったと思う」
味方の手札を知っているのと知っていないのとで、連携のしやすさは大きく変わる。
美琴の場合は、知っていようがいなかろうが、その場で即興で合わせることは可能だが、それは雷を使うことで情報の処理速度を高めているからこそできることだ。
普通の探索者であればそんな芸当はできないので、事前に味方の手の内を全てでなくとも把握していた方が、より後方支援を受けやすくなる。
魔術は離れた場所から攻撃ができる利点があるが、規模がどうしても大きくなりやすい分射線管理が非常に大事だ。
呪文を唱え終えていざ魔術を放つという瞬間、射線上に味方がいると放つことができなくなってしまう。
あとはどんな手札を持っているのか知らないからどう動いていいのか分からず、普段通りの実力を出し切れなくなってしまうデメリットもある。
そのためにも、教えられる範囲だけでもいいから教え合うほうがためになるということを、ルナに教える。
ちなみにこれは全て、トライアドちゃんねるの三人からの受け売りだ。教えてもらっておいたよかったと、話している時に思った。
「なるほど。先にお互いの手を理解することで、連携力を高める……。いいお勉強になりました!」
”それ、トライアドちゃんねるの三人から教えてもらってたものだよー”
”美琴ちゃんはソロ活動が長いから、人に教えられるだけの連携知識がないという”
”それがまた可愛いんだけどね”
”全てにおいて可愛いからって肯定する奴がいて草”
”でも可愛いじゃん”
”可愛いけどさ”
”可愛いは正義。百合はこの世の全て。上質な百合であればそれは神の創作物”
「あ、あまり可愛いって言われると流石に恥ずかしいんだけど……」
突然コメント欄に溢れかえる可愛いコメントに、頬を赤くして口元を隠す美琴。
その仕草すらも刺激したのか、ますますコメントで溢れかえっていく。
投げ続けられる可愛いコメントから逃げるように背を向けて歩き出し、その後ろをルナが楽しそうな足取りで付いてくる。
どうして視聴者達は、一つでも可愛いというコメントを書きこむと、その流れに乗って一斉に同じコメントを書きこんでくるのか理解できないでいると、広い場所に出る。
何か既視感があるなと思ったら、美琴とルナを取り囲むように空間全体に亀裂が入り、その亀裂からモンスターが続々と姿を見せる。
”あ”
”またかよwww”
”やっぱり抜けてるというか、ぽんこつというか”
”何落ち着いてんのここの視聴者達!?”
”モンスターハウスやぞ!?”
”いや、まあそうだけど、美琴ちゃんいるし”
”スタンピードソロ殲滅実績持ちは頼もしいよ?”
「モンスターハウス……。またやっちゃった」
「前も会話していたら入り込んでいましたよね」
「ここで逃げることもできるけど、逃げたらライセンス一発取り消しの違反行為になりかねないし、倒すしかないわね」
「ではサポートします」
「できればバフ系は強くかけないでね。あまりやりすぎると、感覚が狂いそう」
「でしたら、モンスターに対するデバフ系で行きます」
「お願い。……たまにはこっちで行こうかしら」
雷薙をブレスレットの中にしまい、七つに分割してある力のうち一つを物質化して、胸から引っ張り出す。
取り出した武器は刀。一見すれば、取り出した場所的にかつて一度だけ使った真打・夢想浄雷かと思われるが、こんなところであんなものを作ったら一撃でダンジョンが崩壊する。
それを視聴者達もよく分かってくれているようで、真打ではないかというコメントはなかったが、代わりに陰打ちか、というコメントが見受けられた。
「私にはない大きな谷間から出てくる刀……。ちょっと刀が羨ましい……」
「なんで時々、眷属のみんなと同じようなことを言うの?」
「私も眷属ですから」
「そうだった……」
しかもただの眷属ではなく、もはや狂信者の域に達しているヘビーリスナーだ。
時々何にでも嫉妬するコメントが出てくるのを見たが、もしかしたらそれはルナなのではないかと疑う。
「それじゃあ、広域デバフ行きます! 月夜の繚歌・氷輪の宮殿」
かつん、と音を立てて杖を地面に突き立てると、ルナの頭上に氷のように冷たく輝く満月が現れる。
それだけで終わらず、その月を中心に景色が塗り替わる。
気付いた時には、冷たく輝く月を背景に大きな宮殿が展開されていて、うっすらと霧のようなものがかかっていた。
名前からして、氷結系のデバフ効果のある魔術なのだろう。少しだけ、ひやりとした空気を感じることができるが、動きには一切の支障が出ない。
こうしてバフ・デバフ系の魔術を使う魔術師とは初めて組むが、術式の対象は起動する時点で先に決めているのか、あるいは見境なしにかかるが精密な操作で外されているのかのどちらかなのかと考える。
「デバフ領域の展開完了です! 思いっきり行きましょう!」
「そ、そうね。あまり長いことここにいると他のモンスターも来そうだし、さっさと終わらせちゃいましょう」
残っている六つの力のうち二つを合わせて、それを使って雷を放出する。
バチバチと走る雷を体と右手の刀にまとわせて、一度深く呼吸をしてから、雷鳴と共にモンスターの軍勢に向かって飛び出していく。
「オォオオオオオオオオオギャアアアアアアアアアアアア!?」
出会い頭に雄たけびを上げて突進してきたミノタウロスを、また冠のようなものを出してもらって、雷による加速をせずに両断し、雄叫びがそのまま悲鳴に変わる。
「セェイ!」
妖鎧武者が不意打ちのように飛び出して攻撃を仕掛けてきたが、神がかった反応速度で回避し、気合と共に繰り出した回し蹴りで粉砕する。
「鬼は外ってね」
「ギャアアアアアアアアアアア!?」
大柄な鬼がたくさんの小鬼を連れてやってきたが、大豆程度の小さな稲魂を作り出して、それらを全部射出することでまとめて祓う。
”これだよこれこれ! これが見たかった!”
”美琴ちゃんの配信の定番の、超ハイスピードモンスター殲滅!”
”ずっとこれが見たかった! もうあのアホどもを気にしなくていいから、これからもたくさん観れるぞ!”
”えぇ、なにこれえ……”
”やばいとは聞いていたけど、やばいどころの話じゃねえwww”
”なんで下層のモンスターが揃いも揃って瞬殺されてんだよwwwww”
”ルナちゃんのバフ込みで考えても殲滅速度がおかしい”
”おーおー、ルナちゃんの配信から流れ込んできた新規達が困惑しとる”
”美琴ちゃんの配信を最初期から観ている古参ワイ、困惑する新規を前に愉悦を感じて酒を飲む”
”今更だけどさ、これだけやべーことやっててなんで半年も埋もれてたんだよ”
最近はあまり見ることのなかった、美琴のさくさく攻略を観ることができた視聴者達は、その喜びを分かち合うようにコメントを大量に書き込んでいく。
その中に、ルナの方から流れ込んで来た視聴者達が、困惑したようなコメントを書いていく。
ここまで大きくなってまだ三か月弱ではあるが、アモン戦の後の三週間や深層上域攻略後の三週間を除いて、ほぼ毎回このようなことをやっていたため、いつも来てくれている視聴者達は見慣れている。
最初こそ、異常なまでの殲滅と進行速度に困惑していたが、何度もやっていく内にそのハイスピードがたまらないようで、もっと早く行けるのではないかと言ってくる始末だ。
あの時の困惑していた時期が懐かしいなと時々感じていたので、久々にいつも通りの美琴の配信に困惑するようなコメントを見られて、少しだけご機嫌になる。
「配信でも十分迫力があるのに、実際に見るともっと派手な見栄えする派手な動きの薙刀術と雷、艶のある鴉の濡れ羽色の上質の絹のような長髪と、美琴様の魅力をこれでもかと引き立てる美しい着物のコラボレーションが、もうっ、最ッ高! 本当に今日、ここに来れてよかった……!」
「なんか後ろで、変なレポしているのが聞こえるんですけど」
『あまり気になさらないほうがいいでしょうね』
「いや、気にしないことなんてできないわよ」
肩越しに振り返ると、興奮しているのか頬を上気させて杖を抱き、体をくねくねとよじらせている。
さっきからずっと美琴のことがすごいとばかり言っているが、ルナも十分常識はずれな能力をしている。
実際にバフを受けて分かったが、全ての能力が少なくとも五倍以上まで跳ね上がる。
しかも同じ魔術の重ね掛けもできるようで、攻撃が当たる直前に武器そのものに一瞬だけという時間制限をかけることで、攻撃力の上昇幅を数十倍に跳ね上げる上に重ね掛けするため、その瞬間の攻撃力は元の百倍以上にまで登る。
確かにこんなバフを常に受けた状態でいれば、自分達が強くなったと錯覚するだろう。だがこれは、恩恵であると同時に諸刃の剣だ。
効果が切れた瞬間に、何か副作用のようなものがあるわけではない。
なら何が危険かというと、自分の正しい実力を把握することができなくなり、適正レベルよりも上のところに挑んでしまうことが当たり前になってしまうことだ。
事実、かつてのルナのパーティーは、せいぜい中層程度の実力しかないにも関わらず、最上呪具を買ったからという理由だけで下層まで進んでいた。
その結果が、ブラッククロスのとてつもない腐敗の露出と大炎上に繋がったわけだ。
「美琴様、私の魔術はどうですか?」
ジュエルシェルという、宝石を食べることで自分の殻を宝石に変質させるヤドカリのようなモンスターを倒し、地面に散らばった綺麗な宝石を見て拾って持ち帰りたい欲をぐっとこらえていると、ルナが目を輝かせながら聞いてくる。
「素直な感想を言うと、すごく強力な魔術ね。攻撃と支援の両方がここまで高水準なのは、多分珍しいんじゃないかしら。あなた一人でも、十分下層を攻略できるだけの強さはあると思うわ」
「ありがとうございます!」
「ただ、バフ系の月魔術はあまり乱用はしちゃいけないわね。あくまで私の感覚だけど、攻撃が当たる瞬間に効果時間をすごく短くするのを条件に、上昇幅を通常よりも上げている月魔術を、同じ場所に複数重ね掛けしているわよね?」
「よ、よく分かりましたね? その通りです」
やはりそうかと、指を顎に当てる。
「味方にバフをかけることは悪いことじゃないわ。むしろ、これだけ強力ならどんな状況でも乗り切ることができると思う。でも、それを戦闘中常時かけ続けていると、かけられている側の人はそれが自分の実力だと誤認してしまうわ。心当たりはあるんじゃないかしら」
「……あります」
「あと、多分だけど、月魔術の詳細とか全部は明かしていなかったんじゃない? 明かせない部分があるのは誰にでもあるから仕方がないけど、バフ系の効果は共有していた方がよかったと思う」
味方の手札を知っているのと知っていないのとで、連携のしやすさは大きく変わる。
美琴の場合は、知っていようがいなかろうが、その場で即興で合わせることは可能だが、それは雷を使うことで情報の処理速度を高めているからこそできることだ。
普通の探索者であればそんな芸当はできないので、事前に味方の手の内を全てでなくとも把握していた方が、より後方支援を受けやすくなる。
魔術は離れた場所から攻撃ができる利点があるが、規模がどうしても大きくなりやすい分射線管理が非常に大事だ。
呪文を唱え終えていざ魔術を放つという瞬間、射線上に味方がいると放つことができなくなってしまう。
あとはどんな手札を持っているのか知らないからどう動いていいのか分からず、普段通りの実力を出し切れなくなってしまうデメリットもある。
そのためにも、教えられる範囲だけでもいいから教え合うほうがためになるということを、ルナに教える。
ちなみにこれは全て、トライアドちゃんねるの三人からの受け売りだ。教えてもらっておいたよかったと、話している時に思った。
「なるほど。先にお互いの手を理解することで、連携力を高める……。いいお勉強になりました!」
”それ、トライアドちゃんねるの三人から教えてもらってたものだよー”
”美琴ちゃんはソロ活動が長いから、人に教えられるだけの連携知識がないという”
”それがまた可愛いんだけどね”
”全てにおいて可愛いからって肯定する奴がいて草”
”でも可愛いじゃん”
”可愛いけどさ”
”可愛いは正義。百合はこの世の全て。上質な百合であればそれは神の創作物”
「あ、あまり可愛いって言われると流石に恥ずかしいんだけど……」
突然コメント欄に溢れかえる可愛いコメントに、頬を赤くして口元を隠す美琴。
その仕草すらも刺激したのか、ますますコメントで溢れかえっていく。
投げ続けられる可愛いコメントから逃げるように背を向けて歩き出し、その後ろをルナが楽しそうな足取りで付いてくる。
どうして視聴者達は、一つでも可愛いというコメントを書きこむと、その流れに乗って一斉に同じコメントを書きこんでくるのか理解できないでいると、広い場所に出る。
何か既視感があるなと思ったら、美琴とルナを取り囲むように空間全体に亀裂が入り、その亀裂からモンスターが続々と姿を見せる。
”あ”
”またかよwww”
”やっぱり抜けてるというか、ぽんこつというか”
”何落ち着いてんのここの視聴者達!?”
”モンスターハウスやぞ!?”
”いや、まあそうだけど、美琴ちゃんいるし”
”スタンピードソロ殲滅実績持ちは頼もしいよ?”
「モンスターハウス……。またやっちゃった」
「前も会話していたら入り込んでいましたよね」
「ここで逃げることもできるけど、逃げたらライセンス一発取り消しの違反行為になりかねないし、倒すしかないわね」
「ではサポートします」
「できればバフ系は強くかけないでね。あまりやりすぎると、感覚が狂いそう」
「でしたら、モンスターに対するデバフ系で行きます」
「お願い。……たまにはこっちで行こうかしら」
雷薙をブレスレットの中にしまい、七つに分割してある力のうち一つを物質化して、胸から引っ張り出す。
取り出した武器は刀。一見すれば、取り出した場所的にかつて一度だけ使った真打・夢想浄雷かと思われるが、こんなところであんなものを作ったら一撃でダンジョンが崩壊する。
それを視聴者達もよく分かってくれているようで、真打ではないかというコメントはなかったが、代わりに陰打ちか、というコメントが見受けられた。
「私にはない大きな谷間から出てくる刀……。ちょっと刀が羨ましい……」
「なんで時々、眷属のみんなと同じようなことを言うの?」
「私も眷属ですから」
「そうだった……」
しかもただの眷属ではなく、もはや狂信者の域に達しているヘビーリスナーだ。
時々何にでも嫉妬するコメントが出てくるのを見たが、もしかしたらそれはルナなのではないかと疑う。
「それじゃあ、広域デバフ行きます! 月夜の繚歌・氷輪の宮殿」
かつん、と音を立てて杖を地面に突き立てると、ルナの頭上に氷のように冷たく輝く満月が現れる。
それだけで終わらず、その月を中心に景色が塗り替わる。
気付いた時には、冷たく輝く月を背景に大きな宮殿が展開されていて、うっすらと霧のようなものがかかっていた。
名前からして、氷結系のデバフ効果のある魔術なのだろう。少しだけ、ひやりとした空気を感じることができるが、動きには一切の支障が出ない。
こうしてバフ・デバフ系の魔術を使う魔術師とは初めて組むが、術式の対象は起動する時点で先に決めているのか、あるいは見境なしにかかるが精密な操作で外されているのかのどちらかなのかと考える。
「デバフ領域の展開完了です! 思いっきり行きましょう!」
「そ、そうね。あまり長いことここにいると他のモンスターも来そうだし、さっさと終わらせちゃいましょう」
残っている六つの力のうち二つを合わせて、それを使って雷を放出する。
バチバチと走る雷を体と右手の刀にまとわせて、一度深く呼吸をしてから、雷鳴と共にモンスターの軍勢に向かって飛び出していく。
0
お気に入りに追加
1,019
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

チートを貰えなかった落第勇者の帰還〜俺だけ能力引き継いで現代最強〜
あおぞら
ファンタジー
主人公小野隼人は、高校一年の夏に同じクラスの人と異世界に勇者として召喚される。
勇者は召喚の際にチートな能力を貰えるはずが、隼人は、【身体強化】と【感知】と言うありふれた能力しか貰えなかったが、しぶとく生き残り、10年目にして遂に帰還。
しかし帰還すると1ヶ月しか経っていなかった。
更に他のクラスメイトは異世界の出来事など覚えていない。
自分しか能力を持っていないことに気付いた隼人は、この力は隠して生きていくことを誓うが、いつの間にかこの世界の裏側に巻き込まれていく。
これは異世界で落ちこぼれ勇者だった隼人が、元の世界の引き継いだ能力を使って降り掛かる厄介ごとを払い除ける物語。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。


~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる