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第一部 六章 月の魔術師。そして太陽の、
91話 月の魔術師、雷神と会って限界化する
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姿を見せたのは、美琴より十センチほど背の低い少女だった。
ダンジョンの中にいるにも関わらず、キラキラと淡い光を発しているように見える綺麗な銀髪。強気な性格を表す様に少し釣り目気味で、太陽のような明るい橙色の瞳をしている。
どこかで見たような覚えがあり、記憶の中を辿って探っていると、灯里と出会ったばかりの頃に一度だけ見たことがあった。
見た、というよりも観たと言った方がいいだろう。
あの銀髪の少女は、かつてはブラッククロスのパーティーでグループで配信活動をしていたアタックチャンネルにいた魔術師、ルナ・エトルソスだ。
活動域が世田谷だということは分かっていたので、いずれこうして鉢合わせることになるとは思っていたが、こんなタイミングだとは思わなかった。
「うぇ!? ミノ飛ばした先に人が───美琴様!?」
ルナは美琴の存在に気付くと、驚いたように目を丸く見開いた後に雪のように白い頬がゆえに、分かりやすく赤く染まる。
そういえば、彼女があのパーティーを抜けた後に配信活動をソロで始めた際、初配信の時に美琴に影響されたと言っていたらしいこと、アイリから聞かされていたのを思い出す。
「オオオオオオオオオオオオオ!!」
立ち上がったミノタウロスが太い棍棒を振りかざしながら、ルナの方に向かって行く。
彼女は未だにこちらを向いており、これは危険だと狙いを定めて雷を放とうと左腕を前に伸ばすが、五歩進んだところでいきなり地面に倒れる。
倒れたというよりも強い力で上から押さえつけられているようで、必死に起き上がろうとしているが抗えばその分だけ力が強くなっているのか、徐々に体が潰れて行っている。
『なるほど。変わった魔術でサポートをしていたと聞いておりましたが、重力操作系の魔術の使用者ですか』
「重力操作って、結構強い魔術じゃない?」
『魔術式が複雑化しやすいもので、使用者は少ない稀有な魔術です。ただ、あれは指定した範囲の重力を操るものなので、サポートには向いていないはずですが』
魔術師どころか術師ですらないので、どういう原理で重力を操っているのかなんて分かりやしないが、把握している範囲で有名な術師の中に重力を操る人はいないため、確かに稀有なのだろう。
「すごい……! 本当に美琴様とアイリ様だ……! このダンジョンに潜っててよかった……!」
「なんかすっごい感動されているんだけど」
『お嬢様のファンであることは、ルナ様当人の口から配信内でたびたび語られておりますからね。あの杖だって、先の方がやけに幅広なので解析をしてみましたが、仕込み杖となっており上を外すと薙刀になるようです』
「あれ仕込みなんだ」
言われてよく観察してみれば、魔術師の杖と呼ぶには随分と細いし、先の方を除けば随分真っすぐだ。
アニメや漫画とかに出てくる魔術師や魔法使いには、確かに先端以外の太さが均一な杖を持っているキャラクターもいるが、よく見かけるのは木を削ったような形をした杖だ。
灯里の持っている杖も四十センチほどの短杖で、あれも木を削って作ったようなものだ。世界で一番有名なあの魔法使いの映画の杖のようだと、最初見た時に思った。
トライアドちゃんねるの慎司は杖を使わずに、自分の体に直接魔術を付与する形で戦っているので、実はルナのような長い杖を持つ魔術師を見るのは、これが初めてだったりする。
「ゴ、オォオオアアアアアアア!」
「私の最高の推しに出会えて感激しているんだから、空気読みなさいよ!」
強くなっていく圧力に抗ってミノタウロスが立ち上がるが、それに怒ったルナが杖の先をミノタウロスに向けて、そこに魔力を可視化するほど収束させていく。
「月夜の繚歌・繊月!」
呪文を唱えずに、まるで決められているキーワードでも口にするように言い、その直後に銀色の三日月が杖から放たれてミノタウロスに衝突する。
魔術というよりも、魔術で物質を作り出してぶつけているようなもののようで、物理耐性の高いミノタウロスには効果がいまいちなようだ。
これで苦戦しているようなら、ここで雷を放って加勢するが、見た感じ優勢なのでそれもできない。
かといって、ここではいさようならと立ち去ってしまうのも、なんだか忍びない。
「月夜の繚歌・銀光の王座!」
どうしようかと考えていると、ルナが再び魔術を使う。
彼女の背後に綺麗な満月が現れて、その美しさに見とれていると、突然ミノタウロスが苦しむように声を上げる。
どうしたのだろうかとそちらに目を向けると、ルナの背後に現れた満月に恐怖しているかのように体を震わせている。
下層最強格のモンスターを怯えさせるなんて、あれに一体どのような効果があるのだと頬を引きつらせると、ルナが再び三日月を杖から放つ。
先ほどと同じようにぶつかって消えるだけだと思ったが、ミノタウロスにぶつかった三日月は消滅するどころか、物理耐性が異常に高いミノタウロスの硬い肉をやすやすと切り裂き、その命を刈り取った。
「どういうこと?」
『分かりません。あのような魔術、見たことがありません』
常にネットの膨大な海に繋がって大量の情報を得ているアイリでも、あの魔術は知らないと言う。
なるほど、確かにあれはかなり特殊だし、もしあの満月がモンスターに対する強力なデバフと味方への強力なバフ効果があるとするならば、猪突猛進な行動しかできない元パーティーでも下層まで行けるかもしれない。
「これで邪魔者はいなくなったわね! ……どうしよう、顔が超よすぎて直視できない」
ごろりと転がった核石を拾ったルナがこちらを見るが、目と目が合った瞬間にぽっと頬を赤らめて背を向けてしまう。
”なんじゃ今の魔術!?”
”おー、すげー”
”月の魔術とかかっこよすぎん?”
”名前がルナなのも関係しているんだろうなー”
”ルナちゃんの配信から来ました! お姉さんのその恰好、ちょっとえっちすぎやしませんか?”
”肩出しミニ丈ならまだしも、谷間すら見えるとかやばすぎ”
”このスタイルで女子高生とか信じられん”
”向こうから視聴者流れて来たわwww”
”ルナちゃんの方も同じこと起きてるで”
どうやら彼女も配信をしているようだ。
少し見回すと、壁の方に張りついている大きなトカゲにカメラがくくり付けられていて、あれで撮影しているようだ。
「は、は、は、はじめ、ましてぇ……。る、るにゃ……ルナ・エトルソスです……! そ、その、美琴様の大ファン、です!」
恐ろしく緊張しているようで、声が面白いくらい震えているし、途中で噛んでいた。
そこまで緊張しなくてもいいだろうと小さく苦笑を浮かべる。
「初めまして、ルナちゃん。琴峰美琴よ。あなたのことは、一応知ってはいるわ」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ。と言っても、名前と顔くらいしか知らなかったけど。あぁ、あと元はあのクランのパーティーにいたことくらいかしら」
「あまり触れないでください。あんなバカどもと組んでいたなんて、人生最大の黒歴史なんです……」
十四歳の中学生の女の子にすらバカと言われるほど、あのパーティーは酷かったようだ。
「あなたの使う魔術、すごく綺麗ね。本物の月みたい」
「あ、ありがとうございます! はあぁ……! 美琴様に綺麗って言われた……!」
”この子美琴ちゃんのガチファンじゃんwww”
”本物に会えたから、結構脳焼かれてんだろうな”
”自己紹介の時に噛んだの可愛い”
”確か十四歳の中学生じゃなかったっけ”
”なぜルナちゃんのリスナーじゃない奴が知ってる”
”前に灯里ちゃんが言ってたのを覚えてた”
”灯里ちゃんって誰ぞ”
”魔法使いの妹”
コメント欄が盛り上がっている中でも、自分の推している人物に会えたことがよほど嬉しいようで、頬に両手を当てながら体をくねらせている。
普通にそこら辺を出歩いているので、意外と気楽に会える有名人みたいなことを近所の人から言われることがあるため、そんなに自分と会えることが特別なのだろうかと、ルナの反応を見て首を傾げる。
『お嬢様だって、好きな俳優とばったり鉢合わせて顔と名前を知っていてくれるだけでなく、綺麗と言われたらあのような反応をするでしょう?』
「流石にルナちゃんみたいな反応までは行かないわよ。というか、あなた今私の思考を読まなかった?」
『何を考えているのか、なんとなく分かったので』
「眷属のみんなにも言われているけど、もうAIの領域から外れているわよ」
これ以上進化されると怖い。
一旦一部の行き過ぎたデータの削除とかしたほうがいいのではと思うが、なんかそれも予測されてネット上に自分のバックアップを残しておいて、後で修復とかされそうだ。
「美琴様はこれから深層に行くんですか?」
ひとしきり体をくねらせていたルナが我に戻り、興味津々といった表情で聞いてくる。
「いいえ。放課後攻略だと時間が限られてきちゃうから、今日は下層までにしようかなって。土曜日は、最近パーティーを組んだ灯里ちゃんが用事が入っちゃったから、ソロで深層攻略でもしようかなって思っているけど」
「ソロで深層……!? 流石は、世田谷を救った上に深層上域攻略最大の立役者……」
「そんなたいそうなものじゃないと思うんだけどなあ」
ソロであれば、軽く本気を出せば深層のモンスターでも十分蹂躙可能なのは、ストレス発散しに行った時に確認済みだ。
だがあの時は、情報を持ち帰ることが最優先で倒すことはその次の目的であったため、やりすぎないように力を抑えておく必要があった。
そんな中で、被害が三桁まで行かずに済んだのは優秀な指揮能力を発揮した、第一班の班長と、臨んだ未来の結果までの策略を授けるバラム、そして数々の優秀な探索者達がいたからだ。
もちろん、自分があの中心にいた自覚はある。魔神としての能力と火力は、何もかもが未知数なあの場所では何よりも重宝された。
それでも、深層上域攻略は美琴一人で成し遂げた偉業ではなく、あの作戦に参加した全員が成し遂げた偉業なのだ。
「私も深層行ってみたいけど、美琴様ほど強くはないし、こうしてお話しできるだけでも光栄なのに、ついて行くなんてそんな恐れ多いことはできない……」
「私、そんな神社に祀られている神様みたいなものじゃないからね? 確かに、雷神としての権能とかは持ってはいるけど」
まるで本物の神様と対話しているかのような対応をするルナに、苦笑を浮かべながら言う。
魔神であるので神様であることには変わりはないのだが、それは能力がそうなのであって、それ以外はれっきとした人間だ。
悪ノリする視聴者のような感じで神様と呼んでいるのではなく、純粋に尊敬しているからそのように呼んでいるように感じるが、どうであれ神様扱いはあまりされたくない。
「あ、ご、ごめんなさい! 美琴様は、神様扱いされるのが嫌いでしたね。五体投地でお詫びします!」
「そこまでしなくていいから!? 分かってくれるだけで十分だから! ちょっと、土下座しないで!? 絵面的に結構危ないから!」
”うははははははwwwwww”
”この子おもしれーなwww”
”神様扱いはやめますからの、土下座謝罪決行しようとするとか草”
”今までの配信で散々推しだと言ってたけど、もう暴走状態じゃんルナちゃんよぉwww”
”自分の推しに会えて暴走する中学生配信者”
”土下座を必死に止めようとする美琴ちゃんも可愛い”
”これ、知らん人が観たら中学生の子を土下座させようとしているように見えなくもないな”
”美琴ちゃんの周りには、こう、色んな意味ですごい人しか集まらないのかwwwww”
視聴者達は視聴者達で、土下座を決行しようとするルナを止めようとしている美琴という構図を楽しんでいるのか、ルナを説得するようなコメントが一つも流れてこない。
画面から目を離しているから、何か打ち込んだところで読まれないと思っている様子だ。
そんなのはいいから、この暴走している女の子をどうにかしてくれと叫びたい気分だった。
ダンジョンの中にいるにも関わらず、キラキラと淡い光を発しているように見える綺麗な銀髪。強気な性格を表す様に少し釣り目気味で、太陽のような明るい橙色の瞳をしている。
どこかで見たような覚えがあり、記憶の中を辿って探っていると、灯里と出会ったばかりの頃に一度だけ見たことがあった。
見た、というよりも観たと言った方がいいだろう。
あの銀髪の少女は、かつてはブラッククロスのパーティーでグループで配信活動をしていたアタックチャンネルにいた魔術師、ルナ・エトルソスだ。
活動域が世田谷だということは分かっていたので、いずれこうして鉢合わせることになるとは思っていたが、こんなタイミングだとは思わなかった。
「うぇ!? ミノ飛ばした先に人が───美琴様!?」
ルナは美琴の存在に気付くと、驚いたように目を丸く見開いた後に雪のように白い頬がゆえに、分かりやすく赤く染まる。
そういえば、彼女があのパーティーを抜けた後に配信活動をソロで始めた際、初配信の時に美琴に影響されたと言っていたらしいこと、アイリから聞かされていたのを思い出す。
「オオオオオオオオオオオオオ!!」
立ち上がったミノタウロスが太い棍棒を振りかざしながら、ルナの方に向かって行く。
彼女は未だにこちらを向いており、これは危険だと狙いを定めて雷を放とうと左腕を前に伸ばすが、五歩進んだところでいきなり地面に倒れる。
倒れたというよりも強い力で上から押さえつけられているようで、必死に起き上がろうとしているが抗えばその分だけ力が強くなっているのか、徐々に体が潰れて行っている。
『なるほど。変わった魔術でサポートをしていたと聞いておりましたが、重力操作系の魔術の使用者ですか』
「重力操作って、結構強い魔術じゃない?」
『魔術式が複雑化しやすいもので、使用者は少ない稀有な魔術です。ただ、あれは指定した範囲の重力を操るものなので、サポートには向いていないはずですが』
魔術師どころか術師ですらないので、どういう原理で重力を操っているのかなんて分かりやしないが、把握している範囲で有名な術師の中に重力を操る人はいないため、確かに稀有なのだろう。
「すごい……! 本当に美琴様とアイリ様だ……! このダンジョンに潜っててよかった……!」
「なんかすっごい感動されているんだけど」
『お嬢様のファンであることは、ルナ様当人の口から配信内でたびたび語られておりますからね。あの杖だって、先の方がやけに幅広なので解析をしてみましたが、仕込み杖となっており上を外すと薙刀になるようです』
「あれ仕込みなんだ」
言われてよく観察してみれば、魔術師の杖と呼ぶには随分と細いし、先の方を除けば随分真っすぐだ。
アニメや漫画とかに出てくる魔術師や魔法使いには、確かに先端以外の太さが均一な杖を持っているキャラクターもいるが、よく見かけるのは木を削ったような形をした杖だ。
灯里の持っている杖も四十センチほどの短杖で、あれも木を削って作ったようなものだ。世界で一番有名なあの魔法使いの映画の杖のようだと、最初見た時に思った。
トライアドちゃんねるの慎司は杖を使わずに、自分の体に直接魔術を付与する形で戦っているので、実はルナのような長い杖を持つ魔術師を見るのは、これが初めてだったりする。
「ゴ、オォオオアアアアアアア!」
「私の最高の推しに出会えて感激しているんだから、空気読みなさいよ!」
強くなっていく圧力に抗ってミノタウロスが立ち上がるが、それに怒ったルナが杖の先をミノタウロスに向けて、そこに魔力を可視化するほど収束させていく。
「月夜の繚歌・繊月!」
呪文を唱えずに、まるで決められているキーワードでも口にするように言い、その直後に銀色の三日月が杖から放たれてミノタウロスに衝突する。
魔術というよりも、魔術で物質を作り出してぶつけているようなもののようで、物理耐性の高いミノタウロスには効果がいまいちなようだ。
これで苦戦しているようなら、ここで雷を放って加勢するが、見た感じ優勢なのでそれもできない。
かといって、ここではいさようならと立ち去ってしまうのも、なんだか忍びない。
「月夜の繚歌・銀光の王座!」
どうしようかと考えていると、ルナが再び魔術を使う。
彼女の背後に綺麗な満月が現れて、その美しさに見とれていると、突然ミノタウロスが苦しむように声を上げる。
どうしたのだろうかとそちらに目を向けると、ルナの背後に現れた満月に恐怖しているかのように体を震わせている。
下層最強格のモンスターを怯えさせるなんて、あれに一体どのような効果があるのだと頬を引きつらせると、ルナが再び三日月を杖から放つ。
先ほどと同じようにぶつかって消えるだけだと思ったが、ミノタウロスにぶつかった三日月は消滅するどころか、物理耐性が異常に高いミノタウロスの硬い肉をやすやすと切り裂き、その命を刈り取った。
「どういうこと?」
『分かりません。あのような魔術、見たことがありません』
常にネットの膨大な海に繋がって大量の情報を得ているアイリでも、あの魔術は知らないと言う。
なるほど、確かにあれはかなり特殊だし、もしあの満月がモンスターに対する強力なデバフと味方への強力なバフ効果があるとするならば、猪突猛進な行動しかできない元パーティーでも下層まで行けるかもしれない。
「これで邪魔者はいなくなったわね! ……どうしよう、顔が超よすぎて直視できない」
ごろりと転がった核石を拾ったルナがこちらを見るが、目と目が合った瞬間にぽっと頬を赤らめて背を向けてしまう。
”なんじゃ今の魔術!?”
”おー、すげー”
”月の魔術とかかっこよすぎん?”
”名前がルナなのも関係しているんだろうなー”
”ルナちゃんの配信から来ました! お姉さんのその恰好、ちょっとえっちすぎやしませんか?”
”肩出しミニ丈ならまだしも、谷間すら見えるとかやばすぎ”
”このスタイルで女子高生とか信じられん”
”向こうから視聴者流れて来たわwww”
”ルナちゃんの方も同じこと起きてるで”
どうやら彼女も配信をしているようだ。
少し見回すと、壁の方に張りついている大きなトカゲにカメラがくくり付けられていて、あれで撮影しているようだ。
「は、は、は、はじめ、ましてぇ……。る、るにゃ……ルナ・エトルソスです……! そ、その、美琴様の大ファン、です!」
恐ろしく緊張しているようで、声が面白いくらい震えているし、途中で噛んでいた。
そこまで緊張しなくてもいいだろうと小さく苦笑を浮かべる。
「初めまして、ルナちゃん。琴峰美琴よ。あなたのことは、一応知ってはいるわ」
「ほ、本当ですか!?」
「えぇ。と言っても、名前と顔くらいしか知らなかったけど。あぁ、あと元はあのクランのパーティーにいたことくらいかしら」
「あまり触れないでください。あんなバカどもと組んでいたなんて、人生最大の黒歴史なんです……」
十四歳の中学生の女の子にすらバカと言われるほど、あのパーティーは酷かったようだ。
「あなたの使う魔術、すごく綺麗ね。本物の月みたい」
「あ、ありがとうございます! はあぁ……! 美琴様に綺麗って言われた……!」
”この子美琴ちゃんのガチファンじゃんwww”
”本物に会えたから、結構脳焼かれてんだろうな”
”自己紹介の時に噛んだの可愛い”
”確か十四歳の中学生じゃなかったっけ”
”なぜルナちゃんのリスナーじゃない奴が知ってる”
”前に灯里ちゃんが言ってたのを覚えてた”
”灯里ちゃんって誰ぞ”
”魔法使いの妹”
コメント欄が盛り上がっている中でも、自分の推している人物に会えたことがよほど嬉しいようで、頬に両手を当てながら体をくねらせている。
普通にそこら辺を出歩いているので、意外と気楽に会える有名人みたいなことを近所の人から言われることがあるため、そんなに自分と会えることが特別なのだろうかと、ルナの反応を見て首を傾げる。
『お嬢様だって、好きな俳優とばったり鉢合わせて顔と名前を知っていてくれるだけでなく、綺麗と言われたらあのような反応をするでしょう?』
「流石にルナちゃんみたいな反応までは行かないわよ。というか、あなた今私の思考を読まなかった?」
『何を考えているのか、なんとなく分かったので』
「眷属のみんなにも言われているけど、もうAIの領域から外れているわよ」
これ以上進化されると怖い。
一旦一部の行き過ぎたデータの削除とかしたほうがいいのではと思うが、なんかそれも予測されてネット上に自分のバックアップを残しておいて、後で修復とかされそうだ。
「美琴様はこれから深層に行くんですか?」
ひとしきり体をくねらせていたルナが我に戻り、興味津々といった表情で聞いてくる。
「いいえ。放課後攻略だと時間が限られてきちゃうから、今日は下層までにしようかなって。土曜日は、最近パーティーを組んだ灯里ちゃんが用事が入っちゃったから、ソロで深層攻略でもしようかなって思っているけど」
「ソロで深層……!? 流石は、世田谷を救った上に深層上域攻略最大の立役者……」
「そんなたいそうなものじゃないと思うんだけどなあ」
ソロであれば、軽く本気を出せば深層のモンスターでも十分蹂躙可能なのは、ストレス発散しに行った時に確認済みだ。
だがあの時は、情報を持ち帰ることが最優先で倒すことはその次の目的であったため、やりすぎないように力を抑えておく必要があった。
そんな中で、被害が三桁まで行かずに済んだのは優秀な指揮能力を発揮した、第一班の班長と、臨んだ未来の結果までの策略を授けるバラム、そして数々の優秀な探索者達がいたからだ。
もちろん、自分があの中心にいた自覚はある。魔神としての能力と火力は、何もかもが未知数なあの場所では何よりも重宝された。
それでも、深層上域攻略は美琴一人で成し遂げた偉業ではなく、あの作戦に参加した全員が成し遂げた偉業なのだ。
「私も深層行ってみたいけど、美琴様ほど強くはないし、こうしてお話しできるだけでも光栄なのに、ついて行くなんてそんな恐れ多いことはできない……」
「私、そんな神社に祀られている神様みたいなものじゃないからね? 確かに、雷神としての権能とかは持ってはいるけど」
まるで本物の神様と対話しているかのような対応をするルナに、苦笑を浮かべながら言う。
魔神であるので神様であることには変わりはないのだが、それは能力がそうなのであって、それ以外はれっきとした人間だ。
悪ノリする視聴者のような感じで神様と呼んでいるのではなく、純粋に尊敬しているからそのように呼んでいるように感じるが、どうであれ神様扱いはあまりされたくない。
「あ、ご、ごめんなさい! 美琴様は、神様扱いされるのが嫌いでしたね。五体投地でお詫びします!」
「そこまでしなくていいから!? 分かってくれるだけで十分だから! ちょっと、土下座しないで!? 絵面的に結構危ないから!」
”うははははははwwwwww”
”この子おもしれーなwww”
”神様扱いはやめますからの、土下座謝罪決行しようとするとか草”
”今までの配信で散々推しだと言ってたけど、もう暴走状態じゃんルナちゃんよぉwww”
”自分の推しに会えて暴走する中学生配信者”
”土下座を必死に止めようとする美琴ちゃんも可愛い”
”これ、知らん人が観たら中学生の子を土下座させようとしているように見えなくもないな”
”美琴ちゃんの周りには、こう、色んな意味ですごい人しか集まらないのかwwwww”
視聴者達は視聴者達で、土下座を決行しようとするルナを止めようとしている美琴という構図を楽しんでいるのか、ルナを説得するようなコメントが一つも流れてこない。
画面から目を離しているから、何か打ち込んだところで読まれないと思っている様子だ。
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