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第一部 五・五章 番外編 雷神がいない魔術師の話
番外編 87話 雷神のいない魔術師の話 6
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その後、昌が起こした大爆発を聞いた一般人の通報と、リタの通報によって警察と探索者ギルドの執行部が駆けつけ、廃倉庫内で伸びている男達を全員ドナドナしていった。
灯里と昌はギルドに保護されて、二度目となる応接室で警察と共に事情聴取を受けた。
「えっと、つまりあの人達のクランというのは、公式には存在していないってことですか?」
「そうなります。そういったクランは非公認クラン、あるいは闇クランと呼ばれ、取り締まりの対象となります。今回あなた達を拉致したクランは、レッドグリードエッジという、犯罪者クランです」
事情聴取の後、灯里の両親が仕事から戻ってくるまではギルドの中にいたほうが安全だとして応接室に残り、そこで尋問を終えたギルド支部長の優樹菜がやってきて、事情を説明する。
「そういう闇クランは厳しく取り締まっているって言いますけど、結局こうして私達が連れ去られたんですけど。本当にちゃんと対策しているんですか?」
「……耳の痛い発言ですね。正直なところ、トカゲの尻尾切りのように堂々巡りしているんです。全てを逮捕したと思っても、一部が生き残っていてそこから再建されてしまう。完全にこちらの不手際と実力不足によるものです。申し訳ありません。どのような補償も致します」
優樹菜が深く頭を下げる。
まだ探索者の世界に足を踏み入れたばかりで、そういう闇の部分などはほとんど聞いたことはない。
聞いたことがあるとするならば、それは現在も炎上中のブラッククロスのことだけで、それ以外は本当に知らない。
ドラマとかではそういう闇の部分を排除するために、組織が一丸となって様々なことをやって、色々なトラブルがありつつも最終的にはその闇の部分を取り除くことに成功している。
だが現実はそう簡単にはいかないようで、取り除いたと思ってもほんの少し残っている部分から、また元通りになってしまうと言う。
「補償ね。私は別にお金が欲しいわけじゃないし別に要らないんだけど、何かしたいなら灯里ちゃんにしてあげてください。知っての通り、あの腐れギルドに狙われていますから」
「それはもちろん、全霊をもって」
「……美琴のお父さんの付けた護衛がいながら拉致されているから、どうにも信用できない部分があるのは仕方のないことなのかな」
灯里のことを少し離れた場所から監視していた護衛達は今、同じ応接室に通されて部屋の隅でガチ凹みしている。
本来は美琴のことを護衛するために、龍博が個人の資産を使って設立した警備会社のボディーガードなのだが、美琴がそう簡単に誘拐できるような女の子ではないこともあって、今までは龍博の会社の警備にあたるしか仕事がなかったらしい。
そんな彼ら彼女らだが、今回は美琴の方からのお願いということもあって非常に力を入れていたのに、結局護衛を失敗してしまった。
「それで、依頼者は誰だったんですか? まあ、予想は容易だけど」
何度か闇クランの男が口にしていた、依頼者という言葉。
レッドグリードエッジは犯罪者集団ということもあり、非公認のクランであることもあって全員がライセンスを所持していない。
そのため、ダンジョンに潜って素材採取や核石回収による金策ができず、地上での依頼をこなすしかないのだが、ライセンスがないからギルドの依頼を受けることもできない。
そのため、裏取引による暗殺や誘拐などの汚れ仕事を行うことで、お金を稼いで日々を生活しているとのこと。
「燈条さんを誘拐するように依頼したのは、予想通り黒原仁一氏です。依頼を出した理由は、精神的にもまだ成長しきっていない子供を恐怖で支配することで、自分の言いなりになる奴隷にして、年齢にそぐわぬ魔術の腕を全て自分のために使わせることで、最強の地位を確固たるものにするためだそうです」
「…………バカだバカだとは思っていたけどさ、ここまで底抜けのバカだとは思わなかった」
「あまりにも杜撰ですし、確かにまだ十五歳と幼く精神的にもまだ未熟でしょうけど、少なくともモンスターを前にして普通に戦えているのですから、恐怖で支配するなんてことは不可能です。ましてやあの燈条家の次女ですから、もし仮に燈条さんがブラッククロスに無理やり加入させられて、このことが燈条雅火様の耳に入れば……」
辺り一面を灰燼に変えて炎の海の中でブチ切れている雅火の姿を想像し、背筋を震わせる。
ただでさえ理不尽代表のような能力なのに、怒り狂った状態になれば魔法の威力は通常時よりも跳ね上がる。
下手したらここ世田谷が消滅しかねないため、そんなことにならなくて本当によかったと胸をなでおろす。
「ま、まあ、あの人はそう簡単にこっちに来られるような立場じゃないから……」
「この間日本に来た時、イギリス魔術協会を消し炭にするって脅しをかけて、休みをもぎ取ったって言ってました」
「……」
以前日本に、灯里の誕生日を祝うためにサプライズ帰国した雅火の休日の取り方を思い出し、それを口にすると昌が頬を引きつらせる。
いくら不死身の魔神とはいえど、魔法使いを相手にするのは骨が折れるのだろうか。
そもそも、魔神の使う権能というのがどのようなものなのか、全く分からない。一応、権能はある事柄について権利を主張し、行使できる能力であることは知っているため、かなり魔法に近いものなのではと予想している。
「それで、その情報はすぐに開示するんですか?」
「いえ。これは最後のとっておきの切り札です。些細なきっかけを引き金にブラッククロスを追い詰めていき、無様にあがく彼に止めを刺す必殺の弾丸として、今回の依頼の件を開示します」
「す、すぐには逮捕しないんですね」
「本当は今にでも解散命令を出したいところですが、まだその時ではない気がするのです。もっと、逃げ場がなくなるほど徹底的に追い詰めることができることが、この先起きるような気がするのです」
「……実は未来視の魔眼とか持ってたりしません?」
「そんな便利なものがあれば、苦労はしないでしょうね」
何を感じたのか、昌が目を細めながらそう聞く。
その問いに対して優樹菜は、本当にそれがあればよかったのにと言わんばかりに、しょんぼりとした顔をして答える。
「とりあえず、ブラッククロスの一件が終わるまでは、可能な限り雷電さんと一緒に行動してください。彼女の隣ほど、安全な場所はありませんから」
「わ、分かりました」
「桜ケ丘さんも、できれば護衛を付けたほうがよろしいかと」
「別に要らないですよ。こんなでも、結構戦えますから」
結構どころか、殺しても死なない不死身の魔神だと知っているため、なんとも言えない表情をする灯里。
一応、警察やギルドの執行部が来るまでの間に、昌とリタの正体については絶対に公言しないことを誓約魔術で誓ったため、この誓約を破棄しない限りは強制力が働いて該当部分の言葉を発することができなくなる。
聞くだけ聞いた後、昌は紅茶とお茶菓子を口にしてギルドを後にした。
あれだけ凄惨な暴力を受けたというのに、炎で癒すという意味の分からない現象で傷は完治しており、念のためにと使った回復魔術も作用している気配もなかった。
アモンとバアルゼブルという魔神が同時に現れた以上、もしかしたら他にもソロモン七十二柱の魔神がいるかもしれないとは思っていたが、まさか美琴のすぐそばにいるとは思いもしなかった。
もう一人のベリアルは、住んでいる場所が新宿なのでほとんど関わりはないそうだが、それでも東京都内に最低でも魔神が三柱いることになる。
ここまで来たら、残り全てが日本国内に集中していてもおかしくはないなと、白い湯気の上がっている紅茶を火傷しないようにゆっくり飲みながら思う。
しばらくすると大急ぎでやってきた両親が、怪我もせず無事であることに安堵したのか涙を流しながら抱き着いてきた。
ここでようやく、近くに魔神という強大な存在がいたから和らいでいたが、本当はどうしようもなく怖かったことを心が思い出して、泣きはしなかったが体を震わせて両親に抱き着く。
帰宅後は母親が腕を振るって豪華な夕飯を作り、少しでも怖い記憶をいい記憶で上書きしようとしてくれた。
そのおかげもあってか、忘れるということはできなかったが頭の隅に追いやることはどうにかでき、その日は食後はすぐにお風呂に入ってベッドに潜り込み、体と心を休ませた。
灯里と昌はギルドに保護されて、二度目となる応接室で警察と共に事情聴取を受けた。
「えっと、つまりあの人達のクランというのは、公式には存在していないってことですか?」
「そうなります。そういったクランは非公認クラン、あるいは闇クランと呼ばれ、取り締まりの対象となります。今回あなた達を拉致したクランは、レッドグリードエッジという、犯罪者クランです」
事情聴取の後、灯里の両親が仕事から戻ってくるまではギルドの中にいたほうが安全だとして応接室に残り、そこで尋問を終えたギルド支部長の優樹菜がやってきて、事情を説明する。
「そういう闇クランは厳しく取り締まっているって言いますけど、結局こうして私達が連れ去られたんですけど。本当にちゃんと対策しているんですか?」
「……耳の痛い発言ですね。正直なところ、トカゲの尻尾切りのように堂々巡りしているんです。全てを逮捕したと思っても、一部が生き残っていてそこから再建されてしまう。完全にこちらの不手際と実力不足によるものです。申し訳ありません。どのような補償も致します」
優樹菜が深く頭を下げる。
まだ探索者の世界に足を踏み入れたばかりで、そういう闇の部分などはほとんど聞いたことはない。
聞いたことがあるとするならば、それは現在も炎上中のブラッククロスのことだけで、それ以外は本当に知らない。
ドラマとかではそういう闇の部分を排除するために、組織が一丸となって様々なことをやって、色々なトラブルがありつつも最終的にはその闇の部分を取り除くことに成功している。
だが現実はそう簡単にはいかないようで、取り除いたと思ってもほんの少し残っている部分から、また元通りになってしまうと言う。
「補償ね。私は別にお金が欲しいわけじゃないし別に要らないんだけど、何かしたいなら灯里ちゃんにしてあげてください。知っての通り、あの腐れギルドに狙われていますから」
「それはもちろん、全霊をもって」
「……美琴のお父さんの付けた護衛がいながら拉致されているから、どうにも信用できない部分があるのは仕方のないことなのかな」
灯里のことを少し離れた場所から監視していた護衛達は今、同じ応接室に通されて部屋の隅でガチ凹みしている。
本来は美琴のことを護衛するために、龍博が個人の資産を使って設立した警備会社のボディーガードなのだが、美琴がそう簡単に誘拐できるような女の子ではないこともあって、今までは龍博の会社の警備にあたるしか仕事がなかったらしい。
そんな彼ら彼女らだが、今回は美琴の方からのお願いということもあって非常に力を入れていたのに、結局護衛を失敗してしまった。
「それで、依頼者は誰だったんですか? まあ、予想は容易だけど」
何度か闇クランの男が口にしていた、依頼者という言葉。
レッドグリードエッジは犯罪者集団ということもあり、非公認のクランであることもあって全員がライセンスを所持していない。
そのため、ダンジョンに潜って素材採取や核石回収による金策ができず、地上での依頼をこなすしかないのだが、ライセンスがないからギルドの依頼を受けることもできない。
そのため、裏取引による暗殺や誘拐などの汚れ仕事を行うことで、お金を稼いで日々を生活しているとのこと。
「燈条さんを誘拐するように依頼したのは、予想通り黒原仁一氏です。依頼を出した理由は、精神的にもまだ成長しきっていない子供を恐怖で支配することで、自分の言いなりになる奴隷にして、年齢にそぐわぬ魔術の腕を全て自分のために使わせることで、最強の地位を確固たるものにするためだそうです」
「…………バカだバカだとは思っていたけどさ、ここまで底抜けのバカだとは思わなかった」
「あまりにも杜撰ですし、確かにまだ十五歳と幼く精神的にもまだ未熟でしょうけど、少なくともモンスターを前にして普通に戦えているのですから、恐怖で支配するなんてことは不可能です。ましてやあの燈条家の次女ですから、もし仮に燈条さんがブラッククロスに無理やり加入させられて、このことが燈条雅火様の耳に入れば……」
辺り一面を灰燼に変えて炎の海の中でブチ切れている雅火の姿を想像し、背筋を震わせる。
ただでさえ理不尽代表のような能力なのに、怒り狂った状態になれば魔法の威力は通常時よりも跳ね上がる。
下手したらここ世田谷が消滅しかねないため、そんなことにならなくて本当によかったと胸をなでおろす。
「ま、まあ、あの人はそう簡単にこっちに来られるような立場じゃないから……」
「この間日本に来た時、イギリス魔術協会を消し炭にするって脅しをかけて、休みをもぎ取ったって言ってました」
「……」
以前日本に、灯里の誕生日を祝うためにサプライズ帰国した雅火の休日の取り方を思い出し、それを口にすると昌が頬を引きつらせる。
いくら不死身の魔神とはいえど、魔法使いを相手にするのは骨が折れるのだろうか。
そもそも、魔神の使う権能というのがどのようなものなのか、全く分からない。一応、権能はある事柄について権利を主張し、行使できる能力であることは知っているため、かなり魔法に近いものなのではと予想している。
「それで、その情報はすぐに開示するんですか?」
「いえ。これは最後のとっておきの切り札です。些細なきっかけを引き金にブラッククロスを追い詰めていき、無様にあがく彼に止めを刺す必殺の弾丸として、今回の依頼の件を開示します」
「す、すぐには逮捕しないんですね」
「本当は今にでも解散命令を出したいところですが、まだその時ではない気がするのです。もっと、逃げ場がなくなるほど徹底的に追い詰めることができることが、この先起きるような気がするのです」
「……実は未来視の魔眼とか持ってたりしません?」
「そんな便利なものがあれば、苦労はしないでしょうね」
何を感じたのか、昌が目を細めながらそう聞く。
その問いに対して優樹菜は、本当にそれがあればよかったのにと言わんばかりに、しょんぼりとした顔をして答える。
「とりあえず、ブラッククロスの一件が終わるまでは、可能な限り雷電さんと一緒に行動してください。彼女の隣ほど、安全な場所はありませんから」
「わ、分かりました」
「桜ケ丘さんも、できれば護衛を付けたほうがよろしいかと」
「別に要らないですよ。こんなでも、結構戦えますから」
結構どころか、殺しても死なない不死身の魔神だと知っているため、なんとも言えない表情をする灯里。
一応、警察やギルドの執行部が来るまでの間に、昌とリタの正体については絶対に公言しないことを誓約魔術で誓ったため、この誓約を破棄しない限りは強制力が働いて該当部分の言葉を発することができなくなる。
聞くだけ聞いた後、昌は紅茶とお茶菓子を口にしてギルドを後にした。
あれだけ凄惨な暴力を受けたというのに、炎で癒すという意味の分からない現象で傷は完治しており、念のためにと使った回復魔術も作用している気配もなかった。
アモンとバアルゼブルという魔神が同時に現れた以上、もしかしたら他にもソロモン七十二柱の魔神がいるかもしれないとは思っていたが、まさか美琴のすぐそばにいるとは思いもしなかった。
もう一人のベリアルは、住んでいる場所が新宿なのでほとんど関わりはないそうだが、それでも東京都内に最低でも魔神が三柱いることになる。
ここまで来たら、残り全てが日本国内に集中していてもおかしくはないなと、白い湯気の上がっている紅茶を火傷しないようにゆっくり飲みながら思う。
しばらくすると大急ぎでやってきた両親が、怪我もせず無事であることに安堵したのか涙を流しながら抱き着いてきた。
ここでようやく、近くに魔神という強大な存在がいたから和らいでいたが、本当はどうしようもなく怖かったことを心が思い出して、泣きはしなかったが体を震わせて両親に抱き着く。
帰宅後は母親が腕を振るって豪華な夕飯を作り、少しでも怖い記憶をいい記憶で上書きしようとしてくれた。
そのおかげもあってか、忘れるということはできなかったが頭の隅に追いやることはどうにかでき、その日は食後はすぐにお風呂に入ってベッドに潜り込み、体と心を休ませた。
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