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第一部 五・五章 番外編 雷神がいない魔術師の話
番外編 83話 雷神のいない魔術師の話 2
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「灯里ちゃんは美琴様とダンジョン潜ってるから、懐事情は大分暖かいんだね」
「全部は使えないから、得た収益を全部お母さんに預けて、そこからお小遣いみたいな形でもらうことになっているけど、まあそうだね」
新作の洋服や、ずっと欲しかった可愛いアクセサリー、一つだけでもいいから買ってみたかったI&Mの化粧品など、今までよりもお財布事情が潤ったことにより、欲しいもの全部とまではいかないが、最優先でほしかったものが手に入れられて、非常に満足げな顔をする灯里。
凛も一応、魔術の本場のイギリスで魔術の修練を積んだ先祖が、その技術を日本に持ち帰って一族の中だけで細々と魔術を受け継ぎ続けた魔術師の家系であるため、正直な話灯里の家よりもお金持ちだ。
しかし研究するための場所と材料、その他諸々の資料などを買い集めるためにお金が溶けていくため、家は大きいし着ているものも上質なシルク生地の服だが、実際の生活はかなり質素だと言う。
それもあってか凛はかなりの貧乏性で、灯里がぽんとかなりの額のお金を出したのを見た時は、かなり驚かれた。
デパートの中をあちこち見て回ったので、一旦ベンチに腰を掛けて休む。
「そう遠くないうちに、灯里ちゃんはそのお金を全部自由に使えるようになるんだね」
「私だって魔術師なんだから、大きくなったら今まで以上に研究に力を入れるよ。もしかしたら、稼いだお金のほとんどが研究費でなくなるかも」
「そうなったらあたしに相談しなさい。それに関しては大先輩だから」
「頼りになるのかならないのか、よく分からない先輩だねそれ」
胸を張って凛は言うが、あまり頼りにはしないほうがいいかもしれない。
それに、もしかしたら美琴がクランを設立して設備などを整える際に、魔術の研究室とその材料や機材が欲しいと言えば、揃えてくれそうな気がする。
血の繋がりなんてない、言ってしまえば赤の他人だが、まるで妹のように可愛がってくれるのでやるはずがないだろと自分で否定できない。
「それよりお腹空いたー。……いつもはいい子にしているからさ、今日はちょっと悪い子にならない?」
「な、何を考えてるの?」
「むっふっふ。あたしについて来れば分かることよ」
ベンチから立ち上がり、手を引っ張られながら五階にあるフードコートに向かい、一軒一軒が製麺所で有名なうどん屋や、お腹が空いたら即大きなステーキを食べるステーキ専門店を無視していき、リーズナブルかつそれなりに美味しい、赤い看板と黄色の文字が目印のファストフード店に並ぶ。
「ちょっと悪い子になるっていうからどこに行く気かと思ったけど、ここなんだ」
「普段はあまり食べちゃダメとか言われるし、油も多くてカロリーが高いから理解もできるけど、どうも定期的に食べたくなるのよね」
「それはまあ、理解できなくはないけどさ、もうちょっと言い方とかなかったの?」
てっきり、中学生が入ったらちくちくと視線を向けられるようなお店に連れて行かれるのではと思った。
「ちょっと不安そうにしてる灯里ちゃん、可愛かったよー」
「からかわないでよ~」
ぎゅーっと凛が抱き着いてきて、列に並びながら少しじゃれ合う。
周囲から微笑まし気な目を向けられながら並び、順番が回ってくる。
凛は一番安いスタンダードなハンバーガーのセットとアイスティーを注文し、灯里は期間限定の文字が書かれている、チリソースチキンタツタバーガーのセットを注文し、飲み物は凛と同じアイスティーにした。
レシートを渡されて、それに書かれている文字が電光掲示板に表示されるまで待つ。
「ねえ、あの琥珀色の髪の子さ、灯里ちゃんじゃない?」
「ほんとじゃん。うわー、ちっちゃくて可愛いー! ザ・妹って感じ」
「そういえば、今日は雷電さん深層攻略に行ってるもんね。お友達と来ているのかしら」
自分の番号が表示されるのを待っていると、左の離れたほうからそんな会話が聞こえてきた。
ちらりと横眼で見ると、美琴と同い年くらいの少女三人が、空になった容器を片手にゴミ箱の方に向かって歩きながらこちらを見ていた。
美琴の本名はもはや神話となっているあの戦いの時に広まってしまっているため、全く知らない人が本名を口にしていてもおかしくはないが、彼女と同い年くらいだと同じ高校に通う女子高生なのかと感じる。
ちょっと見られているのが恥ずかしいなと、頬のほんのりと朱に染めて少しだけ俯く。
タイミングよく番号が表示されたので、注文したものを受け取って空いている席を探して歩き回る。
土曜日ということもあって人が多く、空きを探すのに一苦労だ。
「あれ、灯里ちゃんじゃない。奇遇ね」
窓側の方が開いているのを見つけたのでそこに行くと、少し前に一度だけ聞いたことのある声がした。
そちらを向くと、明るい茶髪を緩く縛っておさげにしている少女、桜ケ丘昌がポテトを一本右手に持ってこちらを見ていた。
「昌さん、こんにちわ」
「ん。こんにちわ。珍しいわね、こんなところで会うなんて」
「私も少し驚きました」
昌とは少し前に、下校中に偶然美琴と一緒に歩いているところに遭遇した。
その時に、彼女が美琴のリアル面でのマネージャーであることを教えてもらい、昌がいなければ美琴という大物配信者が現れなかったのだと思い、その場で感謝の言葉を述べた。
「……そこの子は?」
「私のクラスメイトで親友の、藍沢凛ちゃんです。この子も魔術師なんですよ」
「ちょっと、人にホイホイ教えないでよ」
「大丈夫。この人、美琴さんのマネージャーだから」
「美琴様を配信業界に送り込んだMVPの方なの!?」
凛のその発言に、昌は少しだけぽかんとしてから、くすりと笑みを浮かべる。
「MVPて。私はただ、せっかく人を引き寄せる容姿でとんでもないスタイルにとんでもない能力持っているんだから、それを活かさない手はないでしょってアドバイスしただけなんだけど」
「それでも、そのアドバイスのおかげで今人類に大きく貢献しようとしているんです! ありがとうございます!」
「そこの魔法使いの妹にも同じようなことを言われたわね」
苦笑しながらそう言い、サクサクとポテトを食べる昌。
「昌さんはどうしてここに?」
「んー? まあ、友達に声をかけられてね。暇してるんだったらどっか行こうって言われて、ここに来たって感じ。ほら、あそこでナンパで足止め喰らってる奴がそう」
長いポテトで左の方を指すと、うどん屋の少し手前辺りでいかにもチャラい感じの男性に絡まれている、アッシュブロンドの髪をアシンメトリーにして顔の左半分を隠した、ミステリアスな雰囲気の女性が少し困ったような顔をしていた。
少し離れているので分かりづらかったが、魔力で目を強化してみると、まさかの外国人だった。それもはっと息を呑むほどの美人だ。
「リタって言うんだけど、あいつあんな大人っぽく見えて私や美琴と同い年なのよね。……どうしてこう、私の周りには背が高いスタイルのいい女の子が集まるんだろう」
「それはきっと、昌さんがそういう星の下に生まれたからですよ」
「なんかすっごい目をきらっきらさせながら言ってきたけど、なんかちょっと怖いんですけど」
「気にしないでください。凛ちゃんはこういう子なので」
「あぁ、そういう……。ま、まあ、趣味は人それぞれだしね」
凛がまるで、本当にただの友人同士の関係とは思っていないような目を昌に向け、その謎の眼差しに少し引く昌。
どうしたのだと灯里に聞いてきたので、言葉を少し濁しながら言うと理解してくれたようで、よく分からない笑みを浮かべる。
「お待たせして申し訳ありません、昌。……おや? そちらの方は?」
白い湯気の上がっているたぬきうどんを持ってやってきた、アッシュブロンドの美女もとい美少女のリタが、昌の隣に座る灯里と凛を見て首を傾げる。
「こっちの子は燈条灯里ちゃん。魔法使い燈条雅火の実妹よ。あんたの雇い主が美琴の配信観てるっていうし、知らないわけじゃないでしょ。で、その隣の子は灯里ちゃんの友達の藍沢凛ちゃん。魔術師だってさ」
「そうでしたか。初めまして、灯里様、凛様。わたしはリタ・レイフォードと申します。お見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします」
想像以上の大人な女性の色気と上品さで、ドキドキしながら挨拶をする。
その隣で、凛が目を輝かせながらも何かを思い出そうとしているのか、うーんと唸っている。
「どうしたの?」
「いや、レイフォードってどこかで聞いた気がするんだよね」
「そう? 私は何も思わないけど」
昌の隣に座ったリタのことを凝視しながら、一生懸命思い出そうと頭を捻ること一分ほど。
「あ、思い出した! イギリスのハンドメイドの時計屋さんの名前だ!」
綺麗な所作でうどんを食べ始めていたリタが、凛のその発言で一瞬だけ体が硬直するように震える。
「時計屋さん?」
「そう! 何年か前になくなっちゃって、世界中の時計愛好家たちが悲しみに暮れるほど愛されてた、歯車と鍵巻き式のゼンマイで動く超超超超精密な時計を作る時計屋さん、『R印の時計工房』を運営していた一族だよ! おじいちゃんが昔買ったやつがあって最近貰ったんだけど、デジタル時計よりも精度が高くてびっくりしちゃったのよ」
「へー。そんなにすごい時計を作るのに、なくなっちゃったんだ」
そういえば、何かの拍子にその話を聞いた覚えがあるのを思い出す。
確か父親がパソコンを開きながら、いつかはこの工房で自分だけの時計を作って欲しかったと、少し悲しそうな顔をしながら言っていた。
「そうなのよ。調べても理由が出てこなくってさ、都市伝説とかでは世界の理に反するレベルの時計を作ったから国に消されたとか、魔術の研究もしていたからその研究の過程で何かやばいことがあって全員事故死したとか、色々と言われてるわ。どれも眉唾だけど」
デジタル時計という現代の技術で作られたものよりも精度がいいアナログ時計、それも鍵巻き式ゼンマイで動くアンティーク系の時計を作れるだけの技術があるのに、どうしてなくなってしまったのだろうか。
リタの方を見ると、先ほどと表情を変えずに上品にうどんを食べているが、心なしか、少し痛みをこらえているようにも見える。
「そこのお嬢さんが何か言ってるけど、説明とかはしないわけ?」
昌が最後の一本のポテトをくるくると指で顔の前で回しながら、何も言わないリタに問う。
「話しても面白いものではありませんから。それに、人には話したくないものだってあるのですよ。あなたにだって、言えないことの一つや二つ、あるのではないですか?」
「それもそーだ。そういうわけだから、あまりこのことには触れないで頂戴。本人も、話したくはないみたいだし」
「えー」
「凛ちゃん、聞きたい気持ちは分かるけど、ね」
「はーい」
灯里に諭されて渋々といった様子で聞くのを諦め、注文したハンバーガーの包装を解いてかぶりつく。
灯里も包装を解いてかぶりつき、サクサクとした触感とピリッとした辛さのあるチリソースの味を楽しむ。
凛や昌、リタと会話しながら半分ほど食べて、アイスティーをストローで啜っている時に、ふとまた一つ思い出す。
レイフォード家について調べた時、確かその当時の夫妻には高校生になる息子一人と、養子に取った養女がいたと書いてあった。
もしかしてと思ってちらりとリタを見るが、その時のことを知っているわけじゃないし、リタ本人も語りたがらないようなので、気にはなるが忘れるように努める。
「全部は使えないから、得た収益を全部お母さんに預けて、そこからお小遣いみたいな形でもらうことになっているけど、まあそうだね」
新作の洋服や、ずっと欲しかった可愛いアクセサリー、一つだけでもいいから買ってみたかったI&Mの化粧品など、今までよりもお財布事情が潤ったことにより、欲しいもの全部とまではいかないが、最優先でほしかったものが手に入れられて、非常に満足げな顔をする灯里。
凛も一応、魔術の本場のイギリスで魔術の修練を積んだ先祖が、その技術を日本に持ち帰って一族の中だけで細々と魔術を受け継ぎ続けた魔術師の家系であるため、正直な話灯里の家よりもお金持ちだ。
しかし研究するための場所と材料、その他諸々の資料などを買い集めるためにお金が溶けていくため、家は大きいし着ているものも上質なシルク生地の服だが、実際の生活はかなり質素だと言う。
それもあってか凛はかなりの貧乏性で、灯里がぽんとかなりの額のお金を出したのを見た時は、かなり驚かれた。
デパートの中をあちこち見て回ったので、一旦ベンチに腰を掛けて休む。
「そう遠くないうちに、灯里ちゃんはそのお金を全部自由に使えるようになるんだね」
「私だって魔術師なんだから、大きくなったら今まで以上に研究に力を入れるよ。もしかしたら、稼いだお金のほとんどが研究費でなくなるかも」
「そうなったらあたしに相談しなさい。それに関しては大先輩だから」
「頼りになるのかならないのか、よく分からない先輩だねそれ」
胸を張って凛は言うが、あまり頼りにはしないほうがいいかもしれない。
それに、もしかしたら美琴がクランを設立して設備などを整える際に、魔術の研究室とその材料や機材が欲しいと言えば、揃えてくれそうな気がする。
血の繋がりなんてない、言ってしまえば赤の他人だが、まるで妹のように可愛がってくれるのでやるはずがないだろと自分で否定できない。
「それよりお腹空いたー。……いつもはいい子にしているからさ、今日はちょっと悪い子にならない?」
「な、何を考えてるの?」
「むっふっふ。あたしについて来れば分かることよ」
ベンチから立ち上がり、手を引っ張られながら五階にあるフードコートに向かい、一軒一軒が製麺所で有名なうどん屋や、お腹が空いたら即大きなステーキを食べるステーキ専門店を無視していき、リーズナブルかつそれなりに美味しい、赤い看板と黄色の文字が目印のファストフード店に並ぶ。
「ちょっと悪い子になるっていうからどこに行く気かと思ったけど、ここなんだ」
「普段はあまり食べちゃダメとか言われるし、油も多くてカロリーが高いから理解もできるけど、どうも定期的に食べたくなるのよね」
「それはまあ、理解できなくはないけどさ、もうちょっと言い方とかなかったの?」
てっきり、中学生が入ったらちくちくと視線を向けられるようなお店に連れて行かれるのではと思った。
「ちょっと不安そうにしてる灯里ちゃん、可愛かったよー」
「からかわないでよ~」
ぎゅーっと凛が抱き着いてきて、列に並びながら少しじゃれ合う。
周囲から微笑まし気な目を向けられながら並び、順番が回ってくる。
凛は一番安いスタンダードなハンバーガーのセットとアイスティーを注文し、灯里は期間限定の文字が書かれている、チリソースチキンタツタバーガーのセットを注文し、飲み物は凛と同じアイスティーにした。
レシートを渡されて、それに書かれている文字が電光掲示板に表示されるまで待つ。
「ねえ、あの琥珀色の髪の子さ、灯里ちゃんじゃない?」
「ほんとじゃん。うわー、ちっちゃくて可愛いー! ザ・妹って感じ」
「そういえば、今日は雷電さん深層攻略に行ってるもんね。お友達と来ているのかしら」
自分の番号が表示されるのを待っていると、左の離れたほうからそんな会話が聞こえてきた。
ちらりと横眼で見ると、美琴と同い年くらいの少女三人が、空になった容器を片手にゴミ箱の方に向かって歩きながらこちらを見ていた。
美琴の本名はもはや神話となっているあの戦いの時に広まってしまっているため、全く知らない人が本名を口にしていてもおかしくはないが、彼女と同い年くらいだと同じ高校に通う女子高生なのかと感じる。
ちょっと見られているのが恥ずかしいなと、頬のほんのりと朱に染めて少しだけ俯く。
タイミングよく番号が表示されたので、注文したものを受け取って空いている席を探して歩き回る。
土曜日ということもあって人が多く、空きを探すのに一苦労だ。
「あれ、灯里ちゃんじゃない。奇遇ね」
窓側の方が開いているのを見つけたのでそこに行くと、少し前に一度だけ聞いたことのある声がした。
そちらを向くと、明るい茶髪を緩く縛っておさげにしている少女、桜ケ丘昌がポテトを一本右手に持ってこちらを見ていた。
「昌さん、こんにちわ」
「ん。こんにちわ。珍しいわね、こんなところで会うなんて」
「私も少し驚きました」
昌とは少し前に、下校中に偶然美琴と一緒に歩いているところに遭遇した。
その時に、彼女が美琴のリアル面でのマネージャーであることを教えてもらい、昌がいなければ美琴という大物配信者が現れなかったのだと思い、その場で感謝の言葉を述べた。
「……そこの子は?」
「私のクラスメイトで親友の、藍沢凛ちゃんです。この子も魔術師なんですよ」
「ちょっと、人にホイホイ教えないでよ」
「大丈夫。この人、美琴さんのマネージャーだから」
「美琴様を配信業界に送り込んだMVPの方なの!?」
凛のその発言に、昌は少しだけぽかんとしてから、くすりと笑みを浮かべる。
「MVPて。私はただ、せっかく人を引き寄せる容姿でとんでもないスタイルにとんでもない能力持っているんだから、それを活かさない手はないでしょってアドバイスしただけなんだけど」
「それでも、そのアドバイスのおかげで今人類に大きく貢献しようとしているんです! ありがとうございます!」
「そこの魔法使いの妹にも同じようなことを言われたわね」
苦笑しながらそう言い、サクサクとポテトを食べる昌。
「昌さんはどうしてここに?」
「んー? まあ、友達に声をかけられてね。暇してるんだったらどっか行こうって言われて、ここに来たって感じ。ほら、あそこでナンパで足止め喰らってる奴がそう」
長いポテトで左の方を指すと、うどん屋の少し手前辺りでいかにもチャラい感じの男性に絡まれている、アッシュブロンドの髪をアシンメトリーにして顔の左半分を隠した、ミステリアスな雰囲気の女性が少し困ったような顔をしていた。
少し離れているので分かりづらかったが、魔力で目を強化してみると、まさかの外国人だった。それもはっと息を呑むほどの美人だ。
「リタって言うんだけど、あいつあんな大人っぽく見えて私や美琴と同い年なのよね。……どうしてこう、私の周りには背が高いスタイルのいい女の子が集まるんだろう」
「それはきっと、昌さんがそういう星の下に生まれたからですよ」
「なんかすっごい目をきらっきらさせながら言ってきたけど、なんかちょっと怖いんですけど」
「気にしないでください。凛ちゃんはこういう子なので」
「あぁ、そういう……。ま、まあ、趣味は人それぞれだしね」
凛がまるで、本当にただの友人同士の関係とは思っていないような目を昌に向け、その謎の眼差しに少し引く昌。
どうしたのだと灯里に聞いてきたので、言葉を少し濁しながら言うと理解してくれたようで、よく分からない笑みを浮かべる。
「お待たせして申し訳ありません、昌。……おや? そちらの方は?」
白い湯気の上がっているたぬきうどんを持ってやってきた、アッシュブロンドの美女もとい美少女のリタが、昌の隣に座る灯里と凛を見て首を傾げる。
「こっちの子は燈条灯里ちゃん。魔法使い燈条雅火の実妹よ。あんたの雇い主が美琴の配信観てるっていうし、知らないわけじゃないでしょ。で、その隣の子は灯里ちゃんの友達の藍沢凛ちゃん。魔術師だってさ」
「そうでしたか。初めまして、灯里様、凛様。わたしはリタ・レイフォードと申します。お見知りおきを」
「よ、よろしくお願いします」
想像以上の大人な女性の色気と上品さで、ドキドキしながら挨拶をする。
その隣で、凛が目を輝かせながらも何かを思い出そうとしているのか、うーんと唸っている。
「どうしたの?」
「いや、レイフォードってどこかで聞いた気がするんだよね」
「そう? 私は何も思わないけど」
昌の隣に座ったリタのことを凝視しながら、一生懸命思い出そうと頭を捻ること一分ほど。
「あ、思い出した! イギリスのハンドメイドの時計屋さんの名前だ!」
綺麗な所作でうどんを食べ始めていたリタが、凛のその発言で一瞬だけ体が硬直するように震える。
「時計屋さん?」
「そう! 何年か前になくなっちゃって、世界中の時計愛好家たちが悲しみに暮れるほど愛されてた、歯車と鍵巻き式のゼンマイで動く超超超超精密な時計を作る時計屋さん、『R印の時計工房』を運営していた一族だよ! おじいちゃんが昔買ったやつがあって最近貰ったんだけど、デジタル時計よりも精度が高くてびっくりしちゃったのよ」
「へー。そんなにすごい時計を作るのに、なくなっちゃったんだ」
そういえば、何かの拍子にその話を聞いた覚えがあるのを思い出す。
確か父親がパソコンを開きながら、いつかはこの工房で自分だけの時計を作って欲しかったと、少し悲しそうな顔をしながら言っていた。
「そうなのよ。調べても理由が出てこなくってさ、都市伝説とかでは世界の理に反するレベルの時計を作ったから国に消されたとか、魔術の研究もしていたからその研究の過程で何かやばいことがあって全員事故死したとか、色々と言われてるわ。どれも眉唾だけど」
デジタル時計という現代の技術で作られたものよりも精度がいいアナログ時計、それも鍵巻き式ゼンマイで動くアンティーク系の時計を作れるだけの技術があるのに、どうしてなくなってしまったのだろうか。
リタの方を見ると、先ほどと表情を変えずに上品にうどんを食べているが、心なしか、少し痛みをこらえているようにも見える。
「そこのお嬢さんが何か言ってるけど、説明とかはしないわけ?」
昌が最後の一本のポテトをくるくると指で顔の前で回しながら、何も言わないリタに問う。
「話しても面白いものではありませんから。それに、人には話したくないものだってあるのですよ。あなたにだって、言えないことの一つや二つ、あるのではないですか?」
「それもそーだ。そういうわけだから、あまりこのことには触れないで頂戴。本人も、話したくはないみたいだし」
「えー」
「凛ちゃん、聞きたい気持ちは分かるけど、ね」
「はーい」
灯里に諭されて渋々といった様子で聞くのを諦め、注文したハンバーガーの包装を解いてかぶりつく。
灯里も包装を解いてかぶりつき、サクサクとした触感とピリッとした辛さのあるチリソースの味を楽しむ。
凛や昌、リタと会話しながら半分ほど食べて、アイスティーをストローで啜っている時に、ふとまた一つ思い出す。
レイフォード家について調べた時、確かその当時の夫妻には高校生になる息子一人と、養子に取った養女がいたと書いてあった。
もしかしてと思ってちらりとリタを見るが、その時のことを知っているわけじゃないし、リタ本人も語りたがらないようなので、気にはなるが忘れるように努める。
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