【悲報】ダンジョン攻略JK配信者、配信を切り忘れて無双しすぎてしまいアホほどバズって伝説になる

夜桜カスミ

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第一部 第五章 知者の王と雷神

68話 第一班の思い

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 大百足と人間サイズ百足を倒した後、今の戦闘音を聞きつけたモンスターが寄ってくる前に移動しようということになり、町のような場所の中央広場のような場所まで移動して、そこで一息つく。
 まさか足を踏み入れて早々、あんなものと戦うことになるとは思っていなかったが、あのような奇襲を受けても犠牲者ゼロであったのはよかった。
 だが犠牲者がいないだけで、やはり深層モンスターということもあって怪我人は出てしまっている。回復魔術が使える魔術師や、治療用呪具、魔術道具を用いて、怪我人の回復を最優先で行う。

 小休止を取りつつ怪我人の回復が終わるのを待っていると、仁一が怒った表情をしながら近付いてきた。

「この作戦の指揮官はこの俺だ。次また勝手な真似をしたら、相応の罰を受けてもらうぞ」
「ならあなたはあんな奇襲を受けて、パニックになっている人達をまとめ上げてあれを倒せるとでも? 恐らくですけど、別個体とはいえ大百足が十年前の攻略班を壊滅させた原因のようなものでしょう。あまりにも奇襲が完璧すぎました。あんな奇襲を仕掛けられてパニックになった人達を、あなたはまとめ上げることができると言うのですか?」
「できるに決まっているだろう。手下は指揮官の命令を聞かねばならない。それは戦場では鉄則だ」
「ここにいる人達は人間であって、あなたの願望を叶えるための道具じゃありません。黒い噂しかない人の指揮を聞く人なんて、多分ここにはいないですよ」
『実際、お嬢様が咄嗟に簡潔に人間サイズ百足を倒すように指示を出した時、明確に士気が上昇したのを確認しました。面白いくらい、あなたには人望がないようですね』
「言わせておけば……!」

 額に青筋を浮かべて、右拳を強く握って今にもそれを振りかざしそうだが、アイリが美琴の隣で同接百七十万という数字と、濁流のように流れるコメント欄を表示させているため、一瞬の感情に任せて殴りかかりたいのを、理性で必死で押さえているようだ。
 その様子がなんだか少し面白く、どこまでが限界なのか少し試してみたくなったが、本当に殴られたらそれはそれで男性が怖くなりそうなのでやめておく。

「はいはい、そこまで。こればかりは、そこのお嬢さんとAIの言うことが正しいわよ。常に状況が変化する戦場では臨機応変が鉄則。一つのことに固執していると、それこそ死にかねないわよ」
「マラブ! お前はどっちの味方なんだ!」
「私は私達を生きて地上に帰してくれる人の味方よ。現状でその可能性が一番高いのは、あんたじゃなくて雷電美琴。だから今は美琴さんの味方なだけ」

 言い合いが白熱化しそうなところにマラブが割って入り、その場を諫めてくれる。
 仁一は美琴のことを庇っているように見えるマラブに不満を爆発させるが、生きて多くの情報を持って帰ることが重要なので、彼女の言うことも一理ある。
 何かを言いたそうに口を開くが、大百足戦を見て何か感じることでもあったのか、じろりと睨み付けてから不機嫌そうにその場から立ち去っていく。

「ごめんなさいね。あいつ、余裕がないみたい。あなたを攻略組に勝手に入れて、あなたが立てた功績を掠め取ることで名誉を回復させようとしていたのよ。でも私が、配信をする許可を無理やり押し通したからそれもできなくなって、参加した全員を指揮して深層上域を攻略して、全員を生かして帰らせることで黒い噂を流そうとしているの」
「うわぁ、仲間なのにぼろぼろとすごい情報を私に流すんですね」
「ぶっちゃけると、もうあそこにい続けるメリットがなくなってきたし、そもそも給料払ってくれないから見切りを付けようかなって思っているところなのよ。こっちだって雨風凌いでご飯食べなきゃ死ぬってのに、自分がいい思いするためだけに下に給料を十分に回さないとか、ふざけるのも大概にしろってのよ」

 給料未払いに着服、脱税などをしているという噂は聞いたことはあるが、本当にしているようだ。
 まあ、傘下クランだった黒の驟雨もその三つに加えて、数々のハラスメント地獄ですさまじい数の被害者から訴えられているのだから、大本であるブラッククロスもそれくらいはやっているのだろう。

「ところで、さっきの大百足はどうして、薙刀で倒しきらなかったのかしら? 前は刀の一振りで消し飛ばしていたけど」
「大百足の伝承を思い出したんです。いくつかそれに関する伝承はあるんですけど、どれも共通して弓矢で倒されているので、その伝承を基に生まれたモンスターなら弓矢の方が効きやすいのかなって」
「効きやすい云々の前に、あの威力で姿形を保っていられる生き物はいないと思いますよ」

 美琴の後ろの方で、仁一との言い合いの最中ずっとものすごい殺意を向けていた華奈樹が、左手で鞘を掴んだまま傍にやってくる。
 彼女の言う通り、あんな威力の攻撃をされて生きていられる生き物はいない。何しろ、これよりもずっと威力が低い時でさえも、ダンジョンの壁に風穴を開けるほどなのだから。

 伝承などを基に生まれる怪異は、それに沿った特性を持って生まれる。
 だが以前消し飛ばした時はアモンが従える使い魔になっていたため、そういった特性が消えていた可能性がある。

 大百足は、伝承と現実とで大きさにかなりの差異はあるが、おおよその内容は一致していた。
 なのでもしかしたら、美琴の雷での攻撃は有効かもしれないが、それだけでは足りない可能性があることを考慮して、伝承通りに弓矢で倒すことにしたのだ。
 ちなみに伝承では矢じりに唾液を塗って、八幡大菩薩に祈ってから矢を放って倒しているが、そこまで再現するつもりはなかった。

「あの一撃のおかげで大百足は倒せたけど、できればあれを使うなら一声かけてくれるかしら? 味方側にモンスターがいる時は使わないでしょうけど、一応念のために」
「分かりました。次からは気を付けますね」

 情報の伝達を怠ったせいで仲間が巻き込まれ、それで命を落としてしまうなんて状況になってほしくない。
 もしそんな最悪なことが起こってしまえば、もう二度と立ち上がることはできないだろう。
 それを防ぐために、次から白雷の矢を使う時は先に伝えるか、離れていたらアイリに伝言を頼むことにする。

 しばらくすると、怪我人の治療が終わって集まってきたので、また三つの班に分かれて行動することになる。
 何があるのか分からないので、できるだけ集まっていた方がいいのではと思ったが、それだと逆に一網打尽にされるなと考えを改める。
 三つに分かれるように指示を出したのは仁一だったので、徒に被害を出すだけのものではないかという声も上がったが、マラブが美琴が思い至ったことと同じことを説明して納得させた。

「くっ……ふふ……。相変わらず誰にも信用されてなどおらんかったのう」

 美琴達第一班が広場から離れて数分経った頃、美桜が堪え切れなくなったように笑い声を零す。

「そりゃあ、美琴とあんなやり取りをしている人の指揮なんて、信用できるわけないでしょう。言ってしまえば、私達のことを使い捨ての道具だと公言したようなものなんですから。だとしても、あまり笑わないほうがいいですよ」
「あれで笑うなというほうが無茶があるじゃろう。ふふっ、ここにきて名誉が回復するどころかどんどん落ちて行っておるのう」

”自分のクランメンバー以外、誰も信じてなかったのクッソワロ”
”そのクランメンバーですら、本当に全員信じているのかさえ怪しい”
”金髪ボインなマラブさんがフォロー入れてなかったら、多分美琴ちゃんに指揮してもらいたいって言いだすやつ出て来たかもな”
”美桜ちゃんめっちゃ笑うやんwww”
”それはそれで、さっきのが割と的確っぽかったしいいんじゃね?”
”出した指示が人間サイズ百足を倒してください、なだけなんですが”
”同じ命令を出す人でも、どれだけの人がそれに従うかで人望が丸分かり”
”多分あの時腐れマスターだったら、全員突撃とか言って半分くらいあそこで死んでそう”
”なんなら最初の奇襲で大分やられてたろ。よく気付いたね美琴ちゃん”
”迅速な対処のおかげで、怪我人は出たけど死者ゼロ。さすぽん神”

 あの時、咄嗟に音もなく落下してくる大百足を離れた場所に蹴り飛ばしたおかげで、その後の戦いで怪我人こそ出ても死者が出なかったことを、視聴者達が賞賛する。
 奇襲を仕掛けてきた大百足は、第一班が到着してすぐに仕掛けてくるのではなく、全員が揃ってから仕掛けてきた。
 あの図体なのでその分知能も高いのか、それとも過去に経験しているからなのか、あの落下を逸らすことができる人がいなければ、それこそあれで半壊、最悪全滅していた可能性がある。

「……この辺でいいか」

 味方とは近すぎず離れすぎずな距離で歩いていると、班長がぽつりと零して立ち止まる。
 何か見つけたのかと思って美琴も足を止めると、班長の周りにブラッククロスの成員が集まる。

 真剣な表情をしているので、もしやこちらに攻撃を仕掛けようとでもしているのではないかと思い、雷薙を握る力が強くなる。
 しかし、並んだ彼らが取った行動は、頭を下げることだった。

「琴峰美琴さん! うちのクランマスターが、本当にすまない! 全く関係のない君を、こんな危険まみれな深層攻略に無理やり参加させてしまったことを、あれに変わって謝罪する!」
「……え?」

 続いて班長から謝罪の言葉を言われて、どういう状況なのだと少し固まる。

「最初の戦闘、一番危険なのを引き受けてくれてありがとう! おかげで助かった!」
「あのバカが何度も君の本名を言ったり、さっきみたいに君が指示を出した時に変なことを言ったりして、本当にごめんなさい!」
「元々配信を観てて、どれだけ美琴ちゃんが戦闘に優れているのか知っているから、これからは美琴ちゃんに従うよ」
「一番強いやつに従えって言うのがあれの言い分だけど、それに従うなら琴峰さんの方がぶっちぎりで強いからね。その理屈なら、琴峰さんに従っても問題ないよ」

 次々と、さりげなくマスターのことをバカだのあれだの言いながら、感謝の言葉を述べたり美琴の指示に従うというブラッククロスの成員達。
 てっきりここで人間バトルが始まるのかと思っていたのだが、全くそんなことはなかった。
 参加組も一触即発の気配を感じて得物を構えていたが、予想外のことに呆けた顔をする。

「どうやら、一枚岩じゃないみたいですね」
「前に下層ボスに挑んだ時に入り口にいた、あの二人と似たようなものじゃろうな」
『それにしても、この班にいる全てのブラッククロス成員がお嬢様に好意的とは、演算できませんでした。ここでこうなのですから、他の班も似たような状態なのでしょうか』
「全員が全員、そういうわけじゃないよ。ここにいるクランメンバーは全員、琴峰さんのファンなんだけど、第二、第三班は琴峰さんファンが少ない。俺らみたいな成員は、あのアホからすれば邪魔ものなんだろうな」

 つまるところ、ダンジョンに先に足を踏み入れたのも、先に深層に向かったのも第一班だったのは、あわよくばそこで自分のクランと敵対しているような状態にある美琴のことを、好意的に捉えている成員を減らそうとしていたかもしれないということだ。
 どこまでも最低で卑劣な行為ばかりだなと、人の命を本当にクラン成長のために道具とした思っていないことに激しく憤り、体の周りにパチパチと小さく電気が走る。

「正直、先鋒任されるのは超怖いけどさ、でも琴峰さんがいてくれるから安心もできる。だからあんなやつのことなんか気にしないで、普段通りにモンスターをばっさばっさ倒してほしい」
「その方がストレスも解消できるだろうしね。なにより、私も間近で美琴ちゃんの戦いが見たい。絶対すごく参考になるだろうし」

 落ち着けと言うように華奈樹が肩に手を置き、体の周りに出ていた電気を引っ込める。
 それが引っ込むと、班長が優しい笑顔を浮かべながらいつも通りやってくれと言い、女性の成員も思い切りやってほしいと言う。
 今日会ったばかりで完全に信用しきれていないが、それでもいい人だと言うことがしっかりと感じられて、どうにかしてこの班にいるブラッククロスの成員を、あの場所から助け出したいと思った。

「分かりました。何があっても、皆さんは危険な目には遭わせません」

 真っすぐ彼らを見据えながら返す。

「それは頼もしいね。でも、俺らだってただ守られるだけなのは嫌だから、仕事は残してほしいかな」
「強すぎて加減できないせいで、トライアドちゃんねるの人達が何もできなくなってたの、ちょっと笑っちゃったよね」
「まさか自分達もそれを味わうことになるとは、思いもしなかったけど」
「あはは……。が、頑張ります」

 これは美琴一人でやっている攻略ではなく、大勢での攻略だ。
 こんな場所まで来ることは今後ほとんどないとはいえ、何もせずに帰らせるわけにもいかないので、しっかりと彼らも活躍できるように誤ってモンスターを瞬殺しないようにしようと意気込んだ。
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