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第一部 第四章 盛大に楽しむ悪意
56話 Side 繝舌Λ繝?
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午後六時。
大きく日が傾き、自宅に帰れる人は帰路に付き、それができず残業をしている人はビルの窓から羨望の眼差しを、地上に向ける時間。
定時に帰宅できて浮き立っている社会人が歩く道を、スーツに身を包んだ金髪の女性、ブラッククロスの専属アドバイザーのマラブが優雅に歩いている。
すれ違う男性も女性も、思わずはっとなって目で追ってしまうほどの美貌を持つマラブは、そんな視線など意に介さずに目的の場所に向かって進んでいく。
「全く、せっかく人が色々とアドバイスしてあげて来たって言うのに……」
周りからは「すっげえ美人」「声をかけてこようかな」「どこかのモデルか?」などといった声が聞こえてくるが、そんな声が聞こえてきてもそれを上回る不満が胸中に燻っているため、反応しない。
とにかく今は、ストレスが溜まっている時に行くあの場所に行きたい。ただその一心で、ハイヒールを鳴らしながら歩みを進める。
目的の場所があるのは、人が多い大通りではなく、少し引っ込んでいて人気のないところにある。
マラブも偶然それを見つけ、そこでストレスの発散が予想以上にできたため、それ以降は爆発する前に行くようになった。
最近行く回数が増えてしまい、それだけストレスが溜まっているのだと知り、だんだんそんな自分が嫌になってきているが。
「……何か用かしら、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケ」
「あんたのことだし、言わなくてもわかるんじゃない? まあ、ここは敢えて聞くわ。何を考えているの、繝舌Λ繝?」
少し入り組んだ路地に入り人の歩く音と町の喧騒が遠くなったところで、マラブが足を止める。
その後ろには、パーカーのフードを深くかぶった繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケがいた。
「何って、なんのこと?」
「しらを切らないで。私は戦いは苦手な方だけど、悪性と善性の両方を持った完全な繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νといい勝負ができるくらいには戦える。戦闘を捨てて完全な知者の道に逃げたあんたは、私には勝てないし、私から逃げられないわよ」
「随分と物騒な脅しね。それだけ、今の繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νの器が大事なの?」
「今の時期が一番楽しい時なの。あんなに楽しそうに生き生きとしているのを、誰にも邪魔してほしくないだけ」
ごう、という音が後ろから聞こえた。
マラブが振り向くと、背中からは炎と見紛うような神々しさを感じる真紅の翼が生え、両足が炎でできた鳥の足のようになっている。
ここで下手な行動と言動をした瞬間、一秒もかけずにこの世界から灰一つ残さずに消滅させるという強い意志を感じる。
「そんなに慌てないで。別に、私は意図して繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νにちょっかいを出しているわけじゃないわ。というか、あれは完全に黒原仁一の独断と専行よ、今回に限っては私は関与していない」
「どうだか。過去・現在・未来に関する正確な知識や機知・策略を授けるあんたが、何もしていないなんて考えられない」
「信用ないわね」
「その無駄に育っている自分の胸に手を当てて聞いてみなさい」
繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケが言いたいことが何なのかはよく分かるが、今回に限っては本当にマラブは関与していない。
ブラッククロスのメンバーが美琴とトライアドちゃんねるの配信に映り込んだのも、美琴が助けた少女が魔法使いの妹だったのも、そしてその小さな魔術師が異常な成長を見せて価値が跳ね上がり、ブラッククロスが大きな損失を被るのだって、全てはマラブが意図していないことだ。
ただまあ、自分が専属アドバイザーとして雇われているクランが、何のアドバイスもせず己の判断を過信した独断専行で、何をしても大炎上にナパームを放り込んで更に燃えていくその様は、実に面白いとは思うが。
「……まさか、マジで関係ないわけ?」
「だから言ったじゃない。今回に限っては関与していないって」
「信じられるわけないでしょう。あんたが過去にどれだけ私達を騙してきたのか、あんたが一番理解できているでしょう」
「そうねえ。確かに信用されなくても仕方ないわ。でも、もう私は騙すのはやめたの。どれだけ自分のために他人を欺いても、結局はその積み重ねで最後は悲惨な最期を迎えてしまう。なら、私の能力を世のため人のために上手く使った方がいいって、気付いたのよ」
「その結果が、あんな腐れ切ったクランの完成になったわけだけど」
「それに関しては、ちょっと予想外だったわ。もうちょっと大人しくしてくれれば、悪評は立つけどもこんなことにはならなかったはずなんだけど」
そしてそれがマラブの一番のストレスだ。だから早くあの場所に行って、その不満をぶちまけたい。
「でしたらなぜ、あなたはあのような状態になるまで放置なさっていたのですか?」
「わっ。相変わらずいきなり来るわね? 久しぶりね、一番の大噓吐きの繝吶Μ繧「繝ォさん」
「お久しぶりです、繝舌Λ繝?。それで、答えをお聞きしても?」
瞬き一つの間に、何の前触れもなしに突然正面に現れた、アッシュブロンドのアシンメトリーで顔の左半分を隠している、メイド服に身をまとった繝吶Μ繧「繝ォは、異形で禍々しい大鎌を構えながら真意を聞いてくる。
同族の中でぶっちぎりの大嘘吐きだった彼女も、今は随分と変わったのだなと小さく笑みを浮かべてから、恐ろしく物騒なものを向けられているので素直に話す。
「そうねえ、あんなになるまでほっといたのは、だんだんどうでもよくなったからかしら。あとは私の性格を考えてごらんなさい」
「……つまりは、強い権力を地位を持つものが、個として最強に等しい力を持つ者とぶつかる様が見たかったわけ?」
「惜しいけど、とりあえずは正解ね。言っておくけど、私は騙していないわよ? このままいけば、そのうちすさまじい武力と影響力を持ったなにかと衝突するって、結構前から教えていたもの。それを聞かなかったのは仁一の方」
「相変わらずの性悪ですね」
「大噓吐きでド淫乱なあなたには言われたくないわね。今はメイドをやっているみたいだけど、とっくにご主人様のことは食べちゃったのかしら?」
その瞬間、繝吶Μ繧「繝ォの姿がぶれたと認識すると同時に、マラブの後ろにいる繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケも動いて、マラブを庇うように翼で覆い、鋭く繰り出された大鎌を防ぐ。
「私のことはどれだけ悪く言ってもかまいませんが、私の恩人のことを悪く言うのであれば、その首を今ここで落とすことに躊躇いはありません。発言には気を付けてくださいね」
「それ、普通は本気で落としに来る前に言うことじゃない? 繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケが守ってくれなかったら、私ここで死んでいたんですけど」
「そのつもりで仕掛けましたから。私はあなたのことが大嫌いですので」
「嫌いなのは分かるけど、少しは落ち着きなさい繝吶Μ繧「繝ォ。繝舌Λ繝?も悪いけど、ここで殺し合ったところでなんの得にもならない。何だったら、私達がここで殺し合ったらこの町が崩壊するわよ」
「そんな強さをしておきながら、私達の中では戦闘が苦手で温厚だなんて、とても思わないわね」
「繝吶Μ繧「繝ォも言ったけど、あんたも発言に気を付けなさい。下手なことをすれば、焼きながら蘇生させ続けるわよ」
ボウッ! とマラブを包むようにしている翼から真紅の炎が噴き出し、その熱さに目を細める。
この炎というか、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケの能力のことはよく理解している。繧「繝「繝ウの使う地獄の炎とは真逆の特性を持ち、死者すらも場合によっては蘇生可能な炎。
もちろん普通の炎のように焼き払うことも灰燼に帰すことも可能だが、その場合は灰の状態からも復活できるし、その間の記憶も持ったままになるため常人ならすぐに精神が狂って壊れてしまう。
流石にそんなものを受け続けるつもりはないので、多弁は銀、沈黙は金だと口を閉ざす。
「あんたの権能は、直接的な破壊力はなくてもものすごく厄介だから、信用も信頼もしない。今のあんたからは戦う意思もないことだけは分かったし、とりあえずはここで引くことにするわ」
繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケが背中の翼を消し、スニーカーの足音を鳴らしながらマラブを通り過ぎ、繝吶Μ繧「繝ォの隣に立って帰るぞというように肩をぽんと叩く。
「随分と甘いですね、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケ。いずれ寝首を掻かれても知りませんよ」
「私が死なないことくらい、よく知っているでしょう。あぁ、言っておくけど、夜襲しようとしたって無駄だから」
「そんな度胸はないわよ。私自身に戦闘力はないんだし、気配を消す技術だって持ち合わせていないもの。もちろん、クランの連中をそそのかすようなこともしない。バカの集まりとはいえ、愛着がないわけじゃないから」
「その言葉、覚えておきなさいよ。もしあのクランの馬鹿どもが繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νに何かするようだったら、こっちだって容赦はしないわよ」
「最強の武神にして最強の雷神に喧嘩を売るほど、私も馬鹿じゃないわよ。あれの怒りを買ったら、痛い目を見るどころじゃないもの」
肩を竦めながら言うと、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケはふんっ、と鼻を鳴らしてから炎をまとってその場から姿を消す。
「……関わることはないと思いますが、私の雇い主に少しでも手を出そうとして見てください。その瞬間、あなたを細切れにしてお魚の餌にします」
「その雇い主のこと、よっぽど好きなのね。安心して、人間はこりごりよ」
「……その言葉、ゆめ忘れないでください」
大鎌を消した繝吶Μ繧「繝ォはそう言い、現れた時と同じように何の予備動作もなしにその場所から一瞬で消える。
トップクラスの戦力を持つ二人がその場所からいなくなってから三秒後、マラブはへなへなとその場所に座り込んでしまう。
「本当、勘弁してよ……」
死なない魔神とどんな動作すらも目視することができない偽りと最速の魔神。
一体どうしたこんな化け物に目を付けられなければいけないんだと、こんな酷い騒ぎになってしまった元凶でもある仁一に、心の中で激しく罵りの言葉を送り付ける。
もう疲れた。早くあの場所に行きたいと、よろよろと立ち上がって少しふらつきながら目的の場所に行く。
その場所は、世田谷の路地裏を抜けて表通りから大分引っ込んでいて、ひっそりと営業しているとてもいい雰囲気のバーである。
置いてあるお酒も、出してくれる料理も、何もかもが高品質で、どうしようもないくらいストレスが溜まった時はここに足を運んで、バーのマスターに諸々の秘密がバレない程度に愚痴をこぼしている。
化け物二人に詰め寄られてから数十分後。カクテルやウィスキーを飲み干して出来上がったマラブはカウンターに突っ伏して、グラスを丁寧に拭いているマスターに愚痴を延々と溢し続けていた。
そうやってストレスを解消し、日曜日は休みで自宅でのびのびと休んでからの月曜日。
配信中の美琴に対して、ブラッククロスの傘下クランのメンバーが暗殺未遂を起こしてくれやがったおかげで、職場から一瞬のうちに繝吶Μ繧「繝ォの手で連れ去られ、人気のない廃倉庫でブチ切れた繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケとハイライトの消えた繝吶Μ繧「繝ォから、深夜までずっと問い詰められることになるのは、また別の話。
大きく日が傾き、自宅に帰れる人は帰路に付き、それができず残業をしている人はビルの窓から羨望の眼差しを、地上に向ける時間。
定時に帰宅できて浮き立っている社会人が歩く道を、スーツに身を包んだ金髪の女性、ブラッククロスの専属アドバイザーのマラブが優雅に歩いている。
すれ違う男性も女性も、思わずはっとなって目で追ってしまうほどの美貌を持つマラブは、そんな視線など意に介さずに目的の場所に向かって進んでいく。
「全く、せっかく人が色々とアドバイスしてあげて来たって言うのに……」
周りからは「すっげえ美人」「声をかけてこようかな」「どこかのモデルか?」などといった声が聞こえてくるが、そんな声が聞こえてきてもそれを上回る不満が胸中に燻っているため、反応しない。
とにかく今は、ストレスが溜まっている時に行くあの場所に行きたい。ただその一心で、ハイヒールを鳴らしながら歩みを進める。
目的の場所があるのは、人が多い大通りではなく、少し引っ込んでいて人気のないところにある。
マラブも偶然それを見つけ、そこでストレスの発散が予想以上にできたため、それ以降は爆発する前に行くようになった。
最近行く回数が増えてしまい、それだけストレスが溜まっているのだと知り、だんだんそんな自分が嫌になってきているが。
「……何か用かしら、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケ」
「あんたのことだし、言わなくてもわかるんじゃない? まあ、ここは敢えて聞くわ。何を考えているの、繝舌Λ繝?」
少し入り組んだ路地に入り人の歩く音と町の喧騒が遠くなったところで、マラブが足を止める。
その後ろには、パーカーのフードを深くかぶった繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケがいた。
「何って、なんのこと?」
「しらを切らないで。私は戦いは苦手な方だけど、悪性と善性の両方を持った完全な繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νといい勝負ができるくらいには戦える。戦闘を捨てて完全な知者の道に逃げたあんたは、私には勝てないし、私から逃げられないわよ」
「随分と物騒な脅しね。それだけ、今の繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νの器が大事なの?」
「今の時期が一番楽しい時なの。あんなに楽しそうに生き生きとしているのを、誰にも邪魔してほしくないだけ」
ごう、という音が後ろから聞こえた。
マラブが振り向くと、背中からは炎と見紛うような神々しさを感じる真紅の翼が生え、両足が炎でできた鳥の足のようになっている。
ここで下手な行動と言動をした瞬間、一秒もかけずにこの世界から灰一つ残さずに消滅させるという強い意志を感じる。
「そんなに慌てないで。別に、私は意図して繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νにちょっかいを出しているわけじゃないわ。というか、あれは完全に黒原仁一の独断と専行よ、今回に限っては私は関与していない」
「どうだか。過去・現在・未来に関する正確な知識や機知・策略を授けるあんたが、何もしていないなんて考えられない」
「信用ないわね」
「その無駄に育っている自分の胸に手を当てて聞いてみなさい」
繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケが言いたいことが何なのかはよく分かるが、今回に限っては本当にマラブは関与していない。
ブラッククロスのメンバーが美琴とトライアドちゃんねるの配信に映り込んだのも、美琴が助けた少女が魔法使いの妹だったのも、そしてその小さな魔術師が異常な成長を見せて価値が跳ね上がり、ブラッククロスが大きな損失を被るのだって、全てはマラブが意図していないことだ。
ただまあ、自分が専属アドバイザーとして雇われているクランが、何のアドバイスもせず己の判断を過信した独断専行で、何をしても大炎上にナパームを放り込んで更に燃えていくその様は、実に面白いとは思うが。
「……まさか、マジで関係ないわけ?」
「だから言ったじゃない。今回に限っては関与していないって」
「信じられるわけないでしょう。あんたが過去にどれだけ私達を騙してきたのか、あんたが一番理解できているでしょう」
「そうねえ。確かに信用されなくても仕方ないわ。でも、もう私は騙すのはやめたの。どれだけ自分のために他人を欺いても、結局はその積み重ねで最後は悲惨な最期を迎えてしまう。なら、私の能力を世のため人のために上手く使った方がいいって、気付いたのよ」
「その結果が、あんな腐れ切ったクランの完成になったわけだけど」
「それに関しては、ちょっと予想外だったわ。もうちょっと大人しくしてくれれば、悪評は立つけどもこんなことにはならなかったはずなんだけど」
そしてそれがマラブの一番のストレスだ。だから早くあの場所に行って、その不満をぶちまけたい。
「でしたらなぜ、あなたはあのような状態になるまで放置なさっていたのですか?」
「わっ。相変わらずいきなり来るわね? 久しぶりね、一番の大噓吐きの繝吶Μ繧「繝ォさん」
「お久しぶりです、繝舌Λ繝?。それで、答えをお聞きしても?」
瞬き一つの間に、何の前触れもなしに突然正面に現れた、アッシュブロンドのアシンメトリーで顔の左半分を隠している、メイド服に身をまとった繝吶Μ繧「繝ォは、異形で禍々しい大鎌を構えながら真意を聞いてくる。
同族の中でぶっちぎりの大嘘吐きだった彼女も、今は随分と変わったのだなと小さく笑みを浮かべてから、恐ろしく物騒なものを向けられているので素直に話す。
「そうねえ、あんなになるまでほっといたのは、だんだんどうでもよくなったからかしら。あとは私の性格を考えてごらんなさい」
「……つまりは、強い権力を地位を持つものが、個として最強に等しい力を持つ者とぶつかる様が見たかったわけ?」
「惜しいけど、とりあえずは正解ね。言っておくけど、私は騙していないわよ? このままいけば、そのうちすさまじい武力と影響力を持ったなにかと衝突するって、結構前から教えていたもの。それを聞かなかったのは仁一の方」
「相変わらずの性悪ですね」
「大噓吐きでド淫乱なあなたには言われたくないわね。今はメイドをやっているみたいだけど、とっくにご主人様のことは食べちゃったのかしら?」
その瞬間、繝吶Μ繧「繝ォの姿がぶれたと認識すると同時に、マラブの後ろにいる繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケも動いて、マラブを庇うように翼で覆い、鋭く繰り出された大鎌を防ぐ。
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「嫌いなのは分かるけど、少しは落ち着きなさい繝吶Μ繧「繝ォ。繝舌Λ繝?も悪いけど、ここで殺し合ったところでなんの得にもならない。何だったら、私達がここで殺し合ったらこの町が崩壊するわよ」
「そんな強さをしておきながら、私達の中では戦闘が苦手で温厚だなんて、とても思わないわね」
「繝吶Μ繧「繝ォも言ったけど、あんたも発言に気を付けなさい。下手なことをすれば、焼きながら蘇生させ続けるわよ」
ボウッ! とマラブを包むようにしている翼から真紅の炎が噴き出し、その熱さに目を細める。
この炎というか、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケの能力のことはよく理解している。繧「繝「繝ウの使う地獄の炎とは真逆の特性を持ち、死者すらも場合によっては蘇生可能な炎。
もちろん普通の炎のように焼き払うことも灰燼に帰すことも可能だが、その場合は灰の状態からも復活できるし、その間の記憶も持ったままになるため常人ならすぐに精神が狂って壊れてしまう。
流石にそんなものを受け続けるつもりはないので、多弁は銀、沈黙は金だと口を閉ざす。
「あんたの権能は、直接的な破壊力はなくてもものすごく厄介だから、信用も信頼もしない。今のあんたからは戦う意思もないことだけは分かったし、とりあえずはここで引くことにするわ」
繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケが背中の翼を消し、スニーカーの足音を鳴らしながらマラブを通り過ぎ、繝吶Μ繧「繝ォの隣に立って帰るぞというように肩をぽんと叩く。
「随分と甘いですね、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケ。いずれ寝首を掻かれても知りませんよ」
「私が死なないことくらい、よく知っているでしょう。あぁ、言っておくけど、夜襲しようとしたって無駄だから」
「そんな度胸はないわよ。私自身に戦闘力はないんだし、気配を消す技術だって持ち合わせていないもの。もちろん、クランの連中をそそのかすようなこともしない。バカの集まりとはいえ、愛着がないわけじゃないから」
「その言葉、覚えておきなさいよ。もしあのクランの馬鹿どもが繝舌い繝ォ繧シ繝悶Νに何かするようだったら、こっちだって容赦はしないわよ」
「最強の武神にして最強の雷神に喧嘩を売るほど、私も馬鹿じゃないわよ。あれの怒りを買ったら、痛い目を見るどころじゃないもの」
肩を竦めながら言うと、繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケはふんっ、と鼻を鳴らしてから炎をまとってその場から姿を消す。
「……関わることはないと思いますが、私の雇い主に少しでも手を出そうとして見てください。その瞬間、あなたを細切れにしてお魚の餌にします」
「その雇い主のこと、よっぽど好きなのね。安心して、人間はこりごりよ」
「……その言葉、ゆめ忘れないでください」
大鎌を消した繝吶Μ繧「繝ォはそう言い、現れた時と同じように何の予備動作もなしにその場所から一瞬で消える。
トップクラスの戦力を持つ二人がその場所からいなくなってから三秒後、マラブはへなへなとその場所に座り込んでしまう。
「本当、勘弁してよ……」
死なない魔神とどんな動作すらも目視することができない偽りと最速の魔神。
一体どうしたこんな化け物に目を付けられなければいけないんだと、こんな酷い騒ぎになってしまった元凶でもある仁一に、心の中で激しく罵りの言葉を送り付ける。
もう疲れた。早くあの場所に行きたいと、よろよろと立ち上がって少しふらつきながら目的の場所に行く。
その場所は、世田谷の路地裏を抜けて表通りから大分引っ込んでいて、ひっそりと営業しているとてもいい雰囲気のバーである。
置いてあるお酒も、出してくれる料理も、何もかもが高品質で、どうしようもないくらいストレスが溜まった時はここに足を運んで、バーのマスターに諸々の秘密がバレない程度に愚痴をこぼしている。
化け物二人に詰め寄られてから数十分後。カクテルやウィスキーを飲み干して出来上がったマラブはカウンターに突っ伏して、グラスを丁寧に拭いているマスターに愚痴を延々と溢し続けていた。
そうやってストレスを解消し、日曜日は休みで自宅でのびのびと休んでからの月曜日。
配信中の美琴に対して、ブラッククロスの傘下クランのメンバーが暗殺未遂を起こしてくれやがったおかげで、職場から一瞬のうちに繝吶Μ繧「繝ォの手で連れ去られ、人気のない廃倉庫でブチ切れた繝輔ぉ繝九ャ繧ッ繧ケとハイライトの消えた繝吶Μ繧「繝ォから、深夜までずっと問い詰められることになるのは、また別の話。
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