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第一部 第四章 盛大に楽しむ悪意
53話 大問題
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「ど、どうしてあの人達が……」
ギルドで少し怖い思いをしたのを思い出したのか、美琴の背中に隠れるようにくっつく。
「……一応聞くが、いつ気付いた」
無精ひげを生やした、右手に棒手裏剣を持つ男性が聞く。
「最初からですよ。ギルドで逃げた時は割と本気っぽかったんですけど、その後からずっと熱い視線を送ってくださっていましたから。気持ち悪い。何が目的で、こんな不意打ちみたいな形で挨拶してくれたんですか?」
ダンジョンに潜った時から、時々感じた視線。実は明確にそれを人のものだと感じたのは、ついさっき休憩していた時だ。つまり最初から気付いていたなんて、はったりだ。
場所が場所なので、悪意や視線といったものはモンスターから向けられているものだと思っていた。きっとこの二人も、モンスターの視線だと思わせるためにしたことだろう。
どうかこのはったりがバレないでくれと内心ドキドキしていると、言葉を額面通りに受け取ってくれたようで、忌々しげに舌打ちをする。
「俺達がどのクランに入っているのか知ってるよな」
「えぇ、黒の驟雨でしょう。なんでわざわざドイツ語読みしているのか、理解に苦しみますけど。言いづらいし読みづらいし、何よりセンスがないです」
眉がピクリと動く。もう一人の槍を持つ男性も、額に若干青筋を浮かべている。
「……俺達のクランがどのクランの傘下に入っているのか、そこにAIがいるんだから知らないわけじゃないだろ」
「ブラッククロスですね。つまり、現在絶賛大炎上中のブラッククロスから、灯里ちゃんを私から引き離して奪って来いとでも言われましたか」
「お前も分かるだろう。その小娘は個人で活動していい強さじゃない。ましてや、お前のような乳臭いガキともな」
「一応私今配信中で、そのセリフとか全部数万人の視聴者にも届いていますが。未成年の女子高生にセクハラ発言したって、余計に燃えたって知りませんよ」
「一々癇に障るガキだなお前はっ……!」
”こいつらまじかー”
”これはもう言い逃れできんな”
”訴えられる覚悟はできてるか”
”我らがぽんこつ可愛い女神様に不意打ちして怪我させようとしたんだ。ぶっ殺されたって文句は言えねえよなあ!?”
”よろしい、ならば戦争だ”
”殲滅を! 一心不乱に腐敗を駆逐する大殲滅を!!”
”配信観てないからだろうけど、今どんなハイパービッグゲストがいるのか知らないって、恐ろしいな”
”美琴ちゃんパパ、コメントを全く書き込まなくなってんだけどwwww”
”こーれ、腐れ雨も終わりやね”
コメント欄も、無謀にも美琴に攻撃を仕掛けたことに対して、美琴を心配するとかではなく相手側に同情するようなコメントを送り始める。
しかもそれをアイリが拡大して相手にも見せているため、濁流のように流れていくコメントを見た男性二人が、怒ったように顔を赤くしたり青筋を浮かべる。
「最近ちょっと有名になったからって調子に乗るんじゃねえぞ、クソガキ」
「別に調子に乗ってるわけじゃないんですけどね」
『むしろ調子に乗っているのは、日本三大クランに数えられるほどに成長を遂げ、それに胡坐をかいて悪事をいくつも働いているにも関わらずに特にお咎めなしの、ブラッククロスの方かと』
低くどすの利いた声で威圧するように言ってくるが、日々下層で一般からすれば凶悪極まりないモンスターと戦っている美琴からすれば、怖くもなんともない。
顔色一つ変えずに返すと、アイリが思ったことをそのまま火の玉ストレートでぶん投げる。
「とにかく、そこの魔法使いの妹を渡せ。じゃないと、痛い目を見ることになるぞ」
「お前も嫌だろ? 痛い思いをするなんてさ」
彼らの言う痛い思いに一瞬だけぴんと来なかったが、視線と見ている場所からすぐに察して、嫌悪感を隠さずに表情に浮かべる。
『この方々は随分とド低能なのですね。お嬢様がどんな偉業を成し遂げたのか、あの時のことを理解なさっていないのでしょうか』
「さあ? 見た目が背の高い着物を着た女子高生だから、舐めてるんじゃない? あるいは、普段は強気に出られないから女の子にだけ、ああいった態度を取っているのかも」
『弱者だけにしか強く出られない可哀そうな方々でしたか。ここは少し、自分達が強いと思わせてあげたほうがいいのか悩みますね』
「そんな面倒なことしたくないわよ。手加減だって楽じゃないんだから」
「ず、随分すごいことをすらすら言ってますね、先輩……」
「だってそうでしょ? ああいう人達って大体、自分よりも強い人に劣等感を抱いていたり力で従わされているから、自分達よりも体格も力も劣る女の子に強く当たるのよ。これってあまりにも可哀そうじゃない?」
「さっきから俺達のことを煽ってんのかてめえら!!」
棒手裏剣を持つ男が怒鳴り付けると、灯里がびくりと体を震わせて、美琴の後ろに隠れて着物の裾をぎゅっと掴む。
「え、ずっと煽られていないと思っていたんですか? あ、もしかして分かりづからったでしょうか? ごめんなさい、もっとはっきりと言った方がよかったですね」
”さっきから美琴ちゃんがすんげえwwwww”
”超煽るやんこの子www”
”超ハイスペックAIと一緒になって繰り出される煽りが愉快すぎるwwwww”
”何返してもやべー煽りで帰って来そうだなwww”
”煽り性能高くて愉快痛快”
”顔真っ赤にしとるやんwwwww おもろーwwwww”
”女子高生に言い負かされる気持ちはどうですかーwwwww”
”やっぱ怒ってるんだな。雷様を怒らせたら後が怖いぞ”
美琴とアイリ、そして視聴者達の悪乗りに怒りが限界に達したのか、怒った表情のまま一人が槍を構えて突撃をしてきて、もう一人が棒手裏剣を投げてくる。
長いことコンビを組んでいるのか、左に避けたら槍の男とぶつかるし、右に避けても棒手裏剣が待ち構えている。
一応対人戦闘の経験は多少はあるのだなと思いながら、素早く灯里を左腕だけで抱きかかえ、まずは手裏剣を叩き落す。
「すぐ終わるけど、しっかり掴まっててね」
片腕お姫様抱っこのように抱きかかえられた灯里は目を白黒させていたが、優しい口調で言うと頬に朱色を咲かせてからこくこくと頷き、振り落とされないようにしっかりと掴まる。
それを確認すると同時に雷と雷薙の効果で身体能力を大幅に底上げし、まずは後方の棒手裏剣を投げてきた男の方に向かう。
雷と同じ速度での移動ではないが、それでも人間が反応できない速度で移動したため、美琴を認識した時にはとっくに雷薙の間合いに入っており、攻撃動作に入っている。
咄嗟の判断で足のホルスターにあるナイフを抜こうと動くが、あまりにも遅いなと思いながら電流をまとわせた薙刀の柄で側頭部を叩き、意識を刈り取る。
「大祐!?」
いつの間に美琴が移動していたこと、そして大祐というらしい相棒が一瞬のうちに無力化させられていたことに驚愕しているもう一人が、予想外なことが起こって頭の働きが鈍くなっているようだ。
人間というのは予想外なことが起こると、脳の処理能力が著しく低下する特徴がある。
もちろんそれで動きが止まっているところを見逃すはずもなく、ギルドで灯里を怖がらせたこと、そしてここで奇襲を仕掛けたり怒鳴ったりすることで怯えさせたことに対しての怒り。それをありったけ乗せて、一瞬で間合いを詰めてから強烈な横蹴りをみぞおちに叩きこんで頽れさせ、頭を垂れるように前のめりになった男性の頭に触れ、スタンガンのように電流を流して気絶させる。
「……え、こんなに弱くて私達に喧嘩売ってきたの?」
煽りでも何でもなく、素直にそう感じたことを口にする。
あまりにも弱すぎる。それが美琴が、この二人に対して抱いた感想だ。
”お嬢さんや、そこの二人は一応準一等探索者で、かなり等級が高いやつらですぜ”
”黒の意思を受け継いでんのかね”
”そりゃー、美琴ちゃんからすればほぼ全ての探索者や弱いだろうな”
”おい誰だよ、〇の意思みたいな言い方したやつwww”
”結構驚いた顔して言ってたから、想定以上に弱かったんじゃね?”
”呆け顔も可愛いhshs”
”美琴ちゃんに蹴ってもらえるとか、ご褒美じゃないですか”
”小柄とはいえ、JC片手に抱えてもそんなに速く動けるん?”
「これで準一等? 功績詐称して実力に見合わない昇格していないかしら?」
『雷薙による強化と雷の強化を合わせた速度で移動してくるお嬢様に、反応できる人などごく一握りくらいかと思われますが』
「だとしても、こんなあっさり倒されるかしら?」
抱えていた灯里を下ろしながら地面に倒れる男を見下ろし、絶対に何か裏があると思うが、意識を刈り取ってしまっているので聞こうにも聞けないし、正直どうだっていいので聞くつもりもない。
「……この人達、先輩のことを狙って攻撃してきましたよね」
「えぇ、そうね。……灯里ちゃん?」
ぽつりと呟くように零した言葉に反応すると、すとんと感情が抜け落ちた表情をするのを見て、ものすごく嫌な予感がした。
「ただでさえ違反行為をしているのに、その上で傷害事件、最悪殺人事件になりかねないことをしたんです。相応の罰を受けてもらいませんと」
「待って、灯里ちゃんあなた、何を考えているのかしら」
「魔術にはいろんな種類があるんです。攻撃魔術、防御魔術、回復魔術、等々。その中で最も、自白に向いている魔術があるんです。焼かれているような激痛と熱を感じるのに火傷を一切負わない、ひたすらに苦痛を与え続ける拷問魔術って言うんですけど」
「待ちなさい。それ以上はダメよ? 落ち着きましょう、ね?」
だんだんと綺麗な瞳からハイライトが消えていくのが見え、ダークサイドに落ちかけている。
これは非常にまずいなと思い、彼女が怒る理由というのも思いつくものがある。
そもそも灯里は探索者を始めたのは美琴の影響だと言っていたし、憧れとも言ってくれた。それはつまり、美琴のファンの名称でもある眷属の一員ということであり、自分の推しを傷付けられそうになったことに憤怒しているということだ。
とはいえ、火傷を負わないのに炎の熱さと焼けるような激痛を与え続ける拷問魔術なんてものを、人に使わせるわけにはいかない。
どうやって止めようかと考えるが、もうこの際手っ取り早く後ろからそっと抱きしめて説得しようと、焦りで変な答えに行きつく。
「落ち着いて灯里ちゃん。私は無事だし怪我もしていないから。だから、そんなことをしちゃダメよ」
小さな体を後ろから優しく抱きしめ、諭すように優しい声で言う。
びくりと体が小さく震え、徐々に落ち着きを取り戻してきたのか、瞳から消えていたハイライトが戻ってくる。
「……ごめんなさい、冷静さを欠いていました」
完全に落ち着いたのか、美琴に抱き着かれていることに恥ずかしさを感じたからか、ほんのりと頬を赤くしながら小さな声で言う。
灯里から離れてから優しい手付きで頭を撫で、それから地面に力なく倒れる二人を再度見る。
「これ、どうしましょう」
『人だというのに「これ」呼ばわりとは中々ですね』
「だって嫌いだもの、この人達」
『これは珍しい。誰にでも優しいお嬢様でも、明確に嫌いというなんて』
「嫌いなものは嫌いって、はっきり言うタイプよ、私。……担いで行くのも嫌というか触りたくもないから、ギルドに連絡してきてもらいましょうか」
”ぶっちゃけそれが最適解か”
”触りたくもないとかwww 嫌われてんなあwww”
”あんなことしておいて好かれるはずなし”
”露骨に嫌悪感丸出しの表情して、ぞくぞくした”
”ゴミ虫を見るような目、最高です!”
”スクショしてスマホとパソコンの壁紙にします”
相変わらず時々流れてくる変態コメントを見ながら、スマホを取り出してギルドへ連絡する。
美琴からの連絡と、既に結構な数の通報が寄せられていたこともあって大問題と捉え、連絡して一時間足らずで職員が駆けつけて保護してくれた。
ギルドで少し怖い思いをしたのを思い出したのか、美琴の背中に隠れるようにくっつく。
「……一応聞くが、いつ気付いた」
無精ひげを生やした、右手に棒手裏剣を持つ男性が聞く。
「最初からですよ。ギルドで逃げた時は割と本気っぽかったんですけど、その後からずっと熱い視線を送ってくださっていましたから。気持ち悪い。何が目的で、こんな不意打ちみたいな形で挨拶してくれたんですか?」
ダンジョンに潜った時から、時々感じた視線。実は明確にそれを人のものだと感じたのは、ついさっき休憩していた時だ。つまり最初から気付いていたなんて、はったりだ。
場所が場所なので、悪意や視線といったものはモンスターから向けられているものだと思っていた。きっとこの二人も、モンスターの視線だと思わせるためにしたことだろう。
どうかこのはったりがバレないでくれと内心ドキドキしていると、言葉を額面通りに受け取ってくれたようで、忌々しげに舌打ちをする。
「俺達がどのクランに入っているのか知ってるよな」
「えぇ、黒の驟雨でしょう。なんでわざわざドイツ語読みしているのか、理解に苦しみますけど。言いづらいし読みづらいし、何よりセンスがないです」
眉がピクリと動く。もう一人の槍を持つ男性も、額に若干青筋を浮かべている。
「……俺達のクランがどのクランの傘下に入っているのか、そこにAIがいるんだから知らないわけじゃないだろ」
「ブラッククロスですね。つまり、現在絶賛大炎上中のブラッククロスから、灯里ちゃんを私から引き離して奪って来いとでも言われましたか」
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”殲滅を! 一心不乱に腐敗を駆逐する大殲滅を!!”
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顔色一つ変えずに返すと、アイリが思ったことをそのまま火の玉ストレートでぶん投げる。
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「お前も嫌だろ? 痛い思いをするなんてさ」
彼らの言う痛い思いに一瞬だけぴんと来なかったが、視線と見ている場所からすぐに察して、嫌悪感を隠さずに表情に浮かべる。
『この方々は随分とド低能なのですね。お嬢様がどんな偉業を成し遂げたのか、あの時のことを理解なさっていないのでしょうか』
「さあ? 見た目が背の高い着物を着た女子高生だから、舐めてるんじゃない? あるいは、普段は強気に出られないから女の子にだけ、ああいった態度を取っているのかも」
『弱者だけにしか強く出られない可哀そうな方々でしたか。ここは少し、自分達が強いと思わせてあげたほうがいいのか悩みますね』
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「ず、随分すごいことをすらすら言ってますね、先輩……」
「だってそうでしょ? ああいう人達って大体、自分よりも強い人に劣等感を抱いていたり力で従わされているから、自分達よりも体格も力も劣る女の子に強く当たるのよ。これってあまりにも可哀そうじゃない?」
「さっきから俺達のことを煽ってんのかてめえら!!」
棒手裏剣を持つ男が怒鳴り付けると、灯里がびくりと体を震わせて、美琴の後ろに隠れて着物の裾をぎゅっと掴む。
「え、ずっと煽られていないと思っていたんですか? あ、もしかして分かりづからったでしょうか? ごめんなさい、もっとはっきりと言った方がよかったですね」
”さっきから美琴ちゃんがすんげえwwwww”
”超煽るやんこの子www”
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”何返してもやべー煽りで帰って来そうだなwww”
”煽り性能高くて愉快痛快”
”顔真っ赤にしとるやんwwwww おもろーwwwww”
”女子高生に言い負かされる気持ちはどうですかーwwwww”
”やっぱ怒ってるんだな。雷様を怒らせたら後が怖いぞ”
美琴とアイリ、そして視聴者達の悪乗りに怒りが限界に達したのか、怒った表情のまま一人が槍を構えて突撃をしてきて、もう一人が棒手裏剣を投げてくる。
長いことコンビを組んでいるのか、左に避けたら槍の男とぶつかるし、右に避けても棒手裏剣が待ち構えている。
一応対人戦闘の経験は多少はあるのだなと思いながら、素早く灯里を左腕だけで抱きかかえ、まずは手裏剣を叩き落す。
「すぐ終わるけど、しっかり掴まっててね」
片腕お姫様抱っこのように抱きかかえられた灯里は目を白黒させていたが、優しい口調で言うと頬に朱色を咲かせてからこくこくと頷き、振り落とされないようにしっかりと掴まる。
それを確認すると同時に雷と雷薙の効果で身体能力を大幅に底上げし、まずは後方の棒手裏剣を投げてきた男の方に向かう。
雷と同じ速度での移動ではないが、それでも人間が反応できない速度で移動したため、美琴を認識した時にはとっくに雷薙の間合いに入っており、攻撃動作に入っている。
咄嗟の判断で足のホルスターにあるナイフを抜こうと動くが、あまりにも遅いなと思いながら電流をまとわせた薙刀の柄で側頭部を叩き、意識を刈り取る。
「大祐!?」
いつの間に美琴が移動していたこと、そして大祐というらしい相棒が一瞬のうちに無力化させられていたことに驚愕しているもう一人が、予想外なことが起こって頭の働きが鈍くなっているようだ。
人間というのは予想外なことが起こると、脳の処理能力が著しく低下する特徴がある。
もちろんそれで動きが止まっているところを見逃すはずもなく、ギルドで灯里を怖がらせたこと、そしてここで奇襲を仕掛けたり怒鳴ったりすることで怯えさせたことに対しての怒り。それをありったけ乗せて、一瞬で間合いを詰めてから強烈な横蹴りをみぞおちに叩きこんで頽れさせ、頭を垂れるように前のめりになった男性の頭に触れ、スタンガンのように電流を流して気絶させる。
「……え、こんなに弱くて私達に喧嘩売ってきたの?」
煽りでも何でもなく、素直にそう感じたことを口にする。
あまりにも弱すぎる。それが美琴が、この二人に対して抱いた感想だ。
”お嬢さんや、そこの二人は一応準一等探索者で、かなり等級が高いやつらですぜ”
”黒の意思を受け継いでんのかね”
”そりゃー、美琴ちゃんからすればほぼ全ての探索者や弱いだろうな”
”おい誰だよ、〇の意思みたいな言い方したやつwww”
”結構驚いた顔して言ってたから、想定以上に弱かったんじゃね?”
”呆け顔も可愛いhshs”
”美琴ちゃんに蹴ってもらえるとか、ご褒美じゃないですか”
”小柄とはいえ、JC片手に抱えてもそんなに速く動けるん?”
「これで準一等? 功績詐称して実力に見合わない昇格していないかしら?」
『雷薙による強化と雷の強化を合わせた速度で移動してくるお嬢様に、反応できる人などごく一握りくらいかと思われますが』
「だとしても、こんなあっさり倒されるかしら?」
抱えていた灯里を下ろしながら地面に倒れる男を見下ろし、絶対に何か裏があると思うが、意識を刈り取ってしまっているので聞こうにも聞けないし、正直どうだっていいので聞くつもりもない。
「……この人達、先輩のことを狙って攻撃してきましたよね」
「えぇ、そうね。……灯里ちゃん?」
ぽつりと呟くように零した言葉に反応すると、すとんと感情が抜け落ちた表情をするのを見て、ものすごく嫌な予感がした。
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「待って、灯里ちゃんあなた、何を考えているのかしら」
「魔術にはいろんな種類があるんです。攻撃魔術、防御魔術、回復魔術、等々。その中で最も、自白に向いている魔術があるんです。焼かれているような激痛と熱を感じるのに火傷を一切負わない、ひたすらに苦痛を与え続ける拷問魔術って言うんですけど」
「待ちなさい。それ以上はダメよ? 落ち着きましょう、ね?」
だんだんと綺麗な瞳からハイライトが消えていくのが見え、ダークサイドに落ちかけている。
これは非常にまずいなと思い、彼女が怒る理由というのも思いつくものがある。
そもそも灯里は探索者を始めたのは美琴の影響だと言っていたし、憧れとも言ってくれた。それはつまり、美琴のファンの名称でもある眷属の一員ということであり、自分の推しを傷付けられそうになったことに憤怒しているということだ。
とはいえ、火傷を負わないのに炎の熱さと焼けるような激痛を与え続ける拷問魔術なんてものを、人に使わせるわけにはいかない。
どうやって止めようかと考えるが、もうこの際手っ取り早く後ろからそっと抱きしめて説得しようと、焦りで変な答えに行きつく。
「落ち着いて灯里ちゃん。私は無事だし怪我もしていないから。だから、そんなことをしちゃダメよ」
小さな体を後ろから優しく抱きしめ、諭すように優しい声で言う。
びくりと体が小さく震え、徐々に落ち着きを取り戻してきたのか、瞳から消えていたハイライトが戻ってくる。
「……ごめんなさい、冷静さを欠いていました」
完全に落ち着いたのか、美琴に抱き着かれていることに恥ずかしさを感じたからか、ほんのりと頬を赤くしながら小さな声で言う。
灯里から離れてから優しい手付きで頭を撫で、それから地面に力なく倒れる二人を再度見る。
「これ、どうしましょう」
『人だというのに「これ」呼ばわりとは中々ですね』
「だって嫌いだもの、この人達」
『これは珍しい。誰にでも優しいお嬢様でも、明確に嫌いというなんて』
「嫌いなものは嫌いって、はっきり言うタイプよ、私。……担いで行くのも嫌というか触りたくもないから、ギルドに連絡してきてもらいましょうか」
”ぶっちゃけそれが最適解か”
”触りたくもないとかwww 嫌われてんなあwww”
”あんなことしておいて好かれるはずなし”
”露骨に嫌悪感丸出しの表情して、ぞくぞくした”
”ゴミ虫を見るような目、最高です!”
”スクショしてスマホとパソコンの壁紙にします”
相変わらず時々流れてくる変態コメントを見ながら、スマホを取り出してギルドへ連絡する。
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