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第一部 第四章 盛大に楽しむ悪意
50話 怪物の棲家
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倒したモンスターの核石を回収して、戦闘音を聞きつけたモンスターが駆けつける前に、ささっと移動する。
美琴の弓術の鍛錬と灯里の経験を積ませるには、次々とやってくるモンスターと戦うことが一番だが、連戦しすぎるとすぐに体力がなくなってしまうだろうし、無制限に雷が使える美琴と違って灯里の魔力は有限だ。
一応消費する速度よりも回復する速度を上回らせる手段もあるにはあるそうだが、それだと魔術のキレが落ちてしまうのでまだ実践的ではないとのこと。
「先輩って普段から薙刀使っていますけど、やっぱり剣術とかも得意なんですか?」
周りにモンスターの気配がないが、いつ襲撃されるか分からないので警戒を怠らずにいると、灯里がそう聞いてくる。
「どっちも得意って感じかしら。剣術も薙刀術も、組討ち術とか弓術、槍術より向いていたからこっちばっかりやってたかな」
「色々武術が使えるんですね」
「私がこの力を使えるようになるまでは、雷一族では絶対に使える雷の力が使えなかったからね。女の子ってことで表立って悪口とか嫌がらせはなかったけど、裏で落ちこぼれとか色々と言われてたわね。だからせめて、武術だけでもって頑張ったのよ」
「その一族全員は、先輩みたいに雷神じゃないのに雷が使えるんですか?」
「天候支配規模じゃないし、雷って言ってもせいぜい数十万ボルトの電撃が限界だけど、使えるわね。お父さんも使えるわよ」
神の力には遠く及ばない、呪術に近い能力でしかない力だというのに、どうやって雷神の力を封印したのかは今でもよく分からない。
少なくとも確実に誰かから助力を得ているだろうが、聞いても答えてくれなかったし、そこまで気になっているわけでもないので、そのうち分かるだろうと頭の隅に追いやっている。
「それはやっぱり、さっき言ってたご先祖様に関係があるのですか?」
「えぇ。最初の現人神は女性の姿で現れて、人間の男性と恋に落ちて子を成した。そして生まれた子供も神の力を持って、それが雷一族の始まりなの。だから男女問わず現人神の素質はあるけど、それを最大限引き出せて神として覚醒できるのが女性だけ。男性は今言ったように、電撃を放つのが限界なの」
「ずっと昔から、日本というか、世界は結構なファンタジーだったんですね」
怪異や魔物、呪術師や魔術師といった存在が公になったのは数十年前と比較的最近の話だ。
それまではずっとこういった存在は政府から秘匿され続けてきた。
だが昔は妖怪とか呪術とか、そういったものは公になる前の時代と比べると一般的だったのに、いつから、どうして秘匿されるようになったのかが不思議だ。
知り合いに平安時代から生きている仙人がいるので、もしまた会う機会があってこのことを覚えていたら聞いてみようと、頭の片隅に置いておく。
「先輩はどうして、覚醒するまでは雷が使えなかったんですか?」
「それがよく分からないのよね。一族の人達は、一族の掟を破ったから欠陥品が生まれたとか騒いでたらしいけど、意外とその話も間違っていないから、もしかしたらそうなんじゃないかってお父さんも思っていた時もあったみたい。結局こうなったわけだけど」
あまり大きな声では話せないが、雷一族は結構タブーなことをして、その力を現代まで伝えている。
魔術や呪術に似ているが異なる超能力は、次の世代に残すことはかなり難しいが、そのタブーを冒すことで残す確率を引き上げることも可能だ。
現人神としての権能も魔術でも呪術でもなく、生まれてくる一族の体の中にある神の力が源流であるため、後世に確実に残すためならばその手段の方が確実だ。
美琴が十歳の頃に、京都で百鬼夜行に遭遇するまで力が全く使えていなかったのも、もしかしたら父親がタブーを避けた結果かもしれない。
あるいは、七年も望んでやっと生まれた娘が、一族の崇める神となるのを避けるために一度もその手の鍛錬をさせなかったことが原因かもしれない。
どっちにしろ間違いなくかなり重い話になるので、よっぽどな機会がなければ聞くつもりはない。
「まあ、あまり気にしたことないし興味ないから、本当に機会が巡ってこない限り聞きに行くつもりはないかな。そんなことを気にするより、毎日どう楽しく過ごしたほうがいいか考える方がいいもの」
『それは些か楽観的過ぎではありませんか?』
「別にいいじゃない。青春は短いんだから。今のうちに楽しんでおかないと、後々後悔するわよ」
自分の一族がどんなものなのかを知って周りを気にして過ごすより、普通の女の子として友達と楽しく過ごすことの方が今は重要だ。
数年もすれば友人達は就職して遊ぶ時間も限られてくるし、今のうちに謳歌しておかないと確実に後悔する。
「お姉ちゃんも似たようなこと言っていました。魔術師として大成することなんかよりも、今しか味わえない青春を楽しむことの方が重要だって。両親はそんなお姉ちゃんに色々言っていたみたいですけど、結局そんな過ごし方をしていても魔法使いになったので、何も言えなくなってました」
「説得力がすごいわね、雅火さん……」
灯里も美琴の言葉に同意しているようで、やっていることは普通とはややかけ離れてはいるものの、今しか味わえないものでもある。
そんな会話をしながら進むと、やけに広い空間に出る。
一体この広い空間はなんだと一瞬思ったが、すぐにミスをしたと気が付いて、灯里の手を掴んで引き返そうとするが遅かった。
美琴達を取り囲むように空間全体にびしりと亀裂が入り、その中からぞろぞろとモンスターが姿を現す。
美琴達が足を踏み入れた空間はモンスターハウスと言い、踏み入れた瞬間は何もないが、数秒そこに留まっていると一斉にモンスターが現れる特殊エリアであり、これもまた怪物災害の一つだ。
一見すればただの広い場所だし、普通に安全地帯のようになっているところもあるので油断しやすいが、きちんと観察していれば危険かそうじゃないかの判別がつく。
中層程度はどうってことはないという美琴の認識と一瞬の油断で、二人は大量のモンスターに取り囲まれてしまった。
”うぎゃああああああああああああああ!?”
”モンスターハウスじゃん!?”
”やけに広い場所に出たなと思ったらそういうことかよ!”
”美琴ちゃん灯里ちゃん逃げて! 超逃げて!”
”いや、でも逃げたら今度はもっとやべーことになるぞ”
”《トライアドちゃんねる》なんか配信観に来たらすごいことになってる!?”
”あやちゃーん! 美琴ちゃん達を助けてあげて!”
”でも待てよ? 美琴ちゃんがいるんだし案外平気なんじゃね?”
”雷神様がいるんだし、これくらい平気じゃない?”
”一瞬焦ったけど、美琴ちゃんと灯里ちゃんだし何とかなるっしょ”
”神様JKと超火力幼女だもんな。この二人の猛攻をどれくらい耐えられるんだろう”
”心配してるのとしてないのとで温度差がwwww”
「しくじったわね……」
「ど、どうしましょう!?」
中層産のモンスターで、一体一体は大したことはないとはいえ、その数が数十体にもなればそれは脅威だ。
しかも現れるモンスターは一種類ではないため、多種多様なモンスターがひしめき合っている。そしてその中には、ナイトメア・ポーキパインも混じっているため、かなり危険だ。
逃げることは可能だ。灯里を抱えて飛び越えて行けばこの部屋から出られるが、もちろんモンスター達が追いかけて来る。
そうなると複数のモンスターが一斉に追いかけて来るため、今度はスタンピードという別の怪物災害が発生する羽目になる。
もし移動した先に他の探索者がいればその人達も巻き込むことになるし、そこで逃げ切ってしまうと怪物譲渡という最悪の違反行為になる。
なので、ここでとれる最善の手段はたった一つだけだ。
「灯里ちゃん、後方のサポートをお願い」
「え、サポート、ですか?」
「えぇ。そう時間はかけない。今からこのモンスターを全部、殲滅するわ」
弓をしまって雷薙を取り出し、七つに分割してある力のうち三つを取り出してまとう。
結局のところ、どうしても鎧などの防具にすることができなかったため、力はただ体の中で七分割にされて、鍵をかけているだけだ。
それでもかつての諸願七雷と同じような状態となり、七つのうち三つを合わせた今の状態は、かつての三鳴と同じだ。
雷をまといながら前に出る。
今はもう宣言せずとも使えるようになったが、ここは一種の景気付けとして口にすることにする。
「諸願七雷・三鳴」
一つ巴紋を三つ背後に出現させて、その宣言と共に雷鳴と共に踏み出してモンスターの殲滅に取りかかる。
美琴の弓術の鍛錬と灯里の経験を積ませるには、次々とやってくるモンスターと戦うことが一番だが、連戦しすぎるとすぐに体力がなくなってしまうだろうし、無制限に雷が使える美琴と違って灯里の魔力は有限だ。
一応消費する速度よりも回復する速度を上回らせる手段もあるにはあるそうだが、それだと魔術のキレが落ちてしまうのでまだ実践的ではないとのこと。
「先輩って普段から薙刀使っていますけど、やっぱり剣術とかも得意なんですか?」
周りにモンスターの気配がないが、いつ襲撃されるか分からないので警戒を怠らずにいると、灯里がそう聞いてくる。
「どっちも得意って感じかしら。剣術も薙刀術も、組討ち術とか弓術、槍術より向いていたからこっちばっかりやってたかな」
「色々武術が使えるんですね」
「私がこの力を使えるようになるまでは、雷一族では絶対に使える雷の力が使えなかったからね。女の子ってことで表立って悪口とか嫌がらせはなかったけど、裏で落ちこぼれとか色々と言われてたわね。だからせめて、武術だけでもって頑張ったのよ」
「その一族全員は、先輩みたいに雷神じゃないのに雷が使えるんですか?」
「天候支配規模じゃないし、雷って言ってもせいぜい数十万ボルトの電撃が限界だけど、使えるわね。お父さんも使えるわよ」
神の力には遠く及ばない、呪術に近い能力でしかない力だというのに、どうやって雷神の力を封印したのかは今でもよく分からない。
少なくとも確実に誰かから助力を得ているだろうが、聞いても答えてくれなかったし、そこまで気になっているわけでもないので、そのうち分かるだろうと頭の隅に追いやっている。
「それはやっぱり、さっき言ってたご先祖様に関係があるのですか?」
「えぇ。最初の現人神は女性の姿で現れて、人間の男性と恋に落ちて子を成した。そして生まれた子供も神の力を持って、それが雷一族の始まりなの。だから男女問わず現人神の素質はあるけど、それを最大限引き出せて神として覚醒できるのが女性だけ。男性は今言ったように、電撃を放つのが限界なの」
「ずっと昔から、日本というか、世界は結構なファンタジーだったんですね」
怪異や魔物、呪術師や魔術師といった存在が公になったのは数十年前と比較的最近の話だ。
それまではずっとこういった存在は政府から秘匿され続けてきた。
だが昔は妖怪とか呪術とか、そういったものは公になる前の時代と比べると一般的だったのに、いつから、どうして秘匿されるようになったのかが不思議だ。
知り合いに平安時代から生きている仙人がいるので、もしまた会う機会があってこのことを覚えていたら聞いてみようと、頭の片隅に置いておく。
「先輩はどうして、覚醒するまでは雷が使えなかったんですか?」
「それがよく分からないのよね。一族の人達は、一族の掟を破ったから欠陥品が生まれたとか騒いでたらしいけど、意外とその話も間違っていないから、もしかしたらそうなんじゃないかってお父さんも思っていた時もあったみたい。結局こうなったわけだけど」
あまり大きな声では話せないが、雷一族は結構タブーなことをして、その力を現代まで伝えている。
魔術や呪術に似ているが異なる超能力は、次の世代に残すことはかなり難しいが、そのタブーを冒すことで残す確率を引き上げることも可能だ。
現人神としての権能も魔術でも呪術でもなく、生まれてくる一族の体の中にある神の力が源流であるため、後世に確実に残すためならばその手段の方が確実だ。
美琴が十歳の頃に、京都で百鬼夜行に遭遇するまで力が全く使えていなかったのも、もしかしたら父親がタブーを避けた結果かもしれない。
あるいは、七年も望んでやっと生まれた娘が、一族の崇める神となるのを避けるために一度もその手の鍛錬をさせなかったことが原因かもしれない。
どっちにしろ間違いなくかなり重い話になるので、よっぽどな機会がなければ聞くつもりはない。
「まあ、あまり気にしたことないし興味ないから、本当に機会が巡ってこない限り聞きに行くつもりはないかな。そんなことを気にするより、毎日どう楽しく過ごしたほうがいいか考える方がいいもの」
『それは些か楽観的過ぎではありませんか?』
「別にいいじゃない。青春は短いんだから。今のうちに楽しんでおかないと、後々後悔するわよ」
自分の一族がどんなものなのかを知って周りを気にして過ごすより、普通の女の子として友達と楽しく過ごすことの方が今は重要だ。
数年もすれば友人達は就職して遊ぶ時間も限られてくるし、今のうちに謳歌しておかないと確実に後悔する。
「お姉ちゃんも似たようなこと言っていました。魔術師として大成することなんかよりも、今しか味わえない青春を楽しむことの方が重要だって。両親はそんなお姉ちゃんに色々言っていたみたいですけど、結局そんな過ごし方をしていても魔法使いになったので、何も言えなくなってました」
「説得力がすごいわね、雅火さん……」
灯里も美琴の言葉に同意しているようで、やっていることは普通とはややかけ離れてはいるものの、今しか味わえないものでもある。
そんな会話をしながら進むと、やけに広い空間に出る。
一体この広い空間はなんだと一瞬思ったが、すぐにミスをしたと気が付いて、灯里の手を掴んで引き返そうとするが遅かった。
美琴達を取り囲むように空間全体にびしりと亀裂が入り、その中からぞろぞろとモンスターが姿を現す。
美琴達が足を踏み入れた空間はモンスターハウスと言い、踏み入れた瞬間は何もないが、数秒そこに留まっていると一斉にモンスターが現れる特殊エリアであり、これもまた怪物災害の一つだ。
一見すればただの広い場所だし、普通に安全地帯のようになっているところもあるので油断しやすいが、きちんと観察していれば危険かそうじゃないかの判別がつく。
中層程度はどうってことはないという美琴の認識と一瞬の油断で、二人は大量のモンスターに取り囲まれてしまった。
”うぎゃああああああああああああああ!?”
”モンスターハウスじゃん!?”
”やけに広い場所に出たなと思ったらそういうことかよ!”
”美琴ちゃん灯里ちゃん逃げて! 超逃げて!”
”いや、でも逃げたら今度はもっとやべーことになるぞ”
”《トライアドちゃんねる》なんか配信観に来たらすごいことになってる!?”
”あやちゃーん! 美琴ちゃん達を助けてあげて!”
”でも待てよ? 美琴ちゃんがいるんだし案外平気なんじゃね?”
”雷神様がいるんだし、これくらい平気じゃない?”
”一瞬焦ったけど、美琴ちゃんと灯里ちゃんだし何とかなるっしょ”
”神様JKと超火力幼女だもんな。この二人の猛攻をどれくらい耐えられるんだろう”
”心配してるのとしてないのとで温度差がwwww”
「しくじったわね……」
「ど、どうしましょう!?」
中層産のモンスターで、一体一体は大したことはないとはいえ、その数が数十体にもなればそれは脅威だ。
しかも現れるモンスターは一種類ではないため、多種多様なモンスターがひしめき合っている。そしてその中には、ナイトメア・ポーキパインも混じっているため、かなり危険だ。
逃げることは可能だ。灯里を抱えて飛び越えて行けばこの部屋から出られるが、もちろんモンスター達が追いかけて来る。
そうなると複数のモンスターが一斉に追いかけて来るため、今度はスタンピードという別の怪物災害が発生する羽目になる。
もし移動した先に他の探索者がいればその人達も巻き込むことになるし、そこで逃げ切ってしまうと怪物譲渡という最悪の違反行為になる。
なので、ここでとれる最善の手段はたった一つだけだ。
「灯里ちゃん、後方のサポートをお願い」
「え、サポート、ですか?」
「えぇ。そう時間はかけない。今からこのモンスターを全部、殲滅するわ」
弓をしまって雷薙を取り出し、七つに分割してある力のうち三つを取り出してまとう。
結局のところ、どうしても鎧などの防具にすることができなかったため、力はただ体の中で七分割にされて、鍵をかけているだけだ。
それでもかつての諸願七雷と同じような状態となり、七つのうち三つを合わせた今の状態は、かつての三鳴と同じだ。
雷をまといながら前に出る。
今はもう宣言せずとも使えるようになったが、ここは一種の景気付けとして口にすることにする。
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