【悲報】ダンジョン攻略JK配信者、配信を切り忘れて無双しすぎてしまいアホほどバズって伝説になる

夜桜カスミ

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第一部 第二章 炎雷

第31話 諸願、則ち神への祈り

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 美琴は考えていた。
 九年前、京都に住んでいた時に見舞われた大規模な怪異災害、百鬼夜行。
 その時に雷一族の崇める神の力を覚醒させ、父親が雷一族の猛反対を無理やり押し切って引っ越すことになったきっかけとなった日。

 諸願七雷は、美琴が自分で編み出したものではなく父親が美琴の覚醒後半年で構築した、父親の封印術だ。美琴が編み出したのは、自ら放出する雷を蓄積して放出する手段だ。
 その封印にどうして、諸々の願いをかなえるという意味を持つ諸願成就に使われ、神や仏に掲げる祈りの意味である「諸願」という言葉が入っているのか、考えていた。

 純粋に考えるのなら、美琴が一族の崇拝する神とならないように七つに分割して封印し、普通の女の子として生きられるように神仏に祈ったと捉えることができる。
 だがもしそうなのだとしたら、絶対に神の力を開放できないほど強固な封印を施すはずだ。それこそ、最強の呪術師である朱鳥霊華と繋がりがあるのだから、彼女に頼むことだってできたはずなのだ。
 しかしそれをしなかったということは、少なくとも美琴が完全に普通の女の子として生きてほしいだけではないということだ。

 美琴が強く心の中で、何があってもアモンを倒すと決意すると、それに比例するように速度も力も雷の威力も精度も上昇していく。
 その決意は、美琴自身が抱いている願いそのものだ。その願いが強ければその分だけ力が上がる。つまり、自分の人としての願いをかなえるために、神としての力がそれに呼応して上昇していることになる。

 その結論にたどり着いた美琴は、
 だが純粋な人間というわけでもないのだろう。体も魂も人のものだが、同時に神の力を受け入れて過度に行使しても壊れない、雷神の力を納めるのに最も適した器だ。

 魔神ではなく、人でありながら同じ体に神の力が共生している。
 そうでなければ、心に抱く誰かを守りたいという強い願望を、願いを、叶えるために力が上昇するはずがない。

 アモンの刃が毀れた斧槍が、脳天に目がけて振り下ろされてくる。美琴の武器は折れているが、もうそれはどうでもいい。
 美琴は願う。神ではなく人として、雷電美琴という一人の少女として、目の前に立つ魔神を倒したい。そのために、どんなものすらも折れず曲がらず真っすぐに、断ち切るだけの武器と力が欲しい、と。

 折れた刀が消失する。全ての雷神としての力を胸の中心に収束させる。
 一滴残さず、髪の毛先にある分まで全てを余さずに。
 その瞬間、胸の中心に感じていた違和感が、ばきりと音を立てるように外れる感触があった。

「……神刀真打じんとうしんうち───」

 右手を胸の真ん中に当てる。斧槍がすぐそこまで振り下ろされている。
 収束させた神の力を変質させる。雷ではなく、物質に変化する。
 胸に触れている右手の平に、幾度となく触れてきたよく知っている固い感触を感じ、それを掴む。

「───抜刀!」

 振り下ろされてくる斧槍に向かって、胸から出てきたそれを一気に引き抜く。
 空に昇る雷の様に放たれた一閃は、バターを切断するようにアモンの斧槍を斬り飛ばした。

「なっ……!?」

 アモンが驚いたように目を見開いて声を上げる。それもそのはずだろう。
 今の美琴は完全な人となり、雷神としての全ての力は右手に持つ刀の形に凝縮され物質化してそこにあるのだから。
 人でありながら神でもある美琴が、一時的に神の力を肉体から放棄するような形で取り出し、人として神を殺すためにたどり着いた答えだ。

 神の力が肉体にない分、大幅に弱体化している。だが、神の力を肉体から失うという大幅な制限をかけ、人として神を殺すと誓約を立てることで、その強さは七鳴神を使用している時以上となっている。

「あなたは私がバアルゼブルだと言ってきかないけど……」

 振り上げた刀の柄を両手で握り、上段に構える。

「私は神でも何でもない、ただの人間の女の子の、雷電美琴よ!」

 振り下ろす。
 同時に、空が、空間が、割れる。
 今までとは比べ物にならない一撃が放たれ、ギリギリで逃げるように回避したアモンも、その一刀を放った当人も驚いたように目を丸くする。

「その力……魔神の力を武器に押し固めたというの? 神の力の物質化は、バアルゼブルの特権だからやっぱりあなたはそういうことになるけど」
「あいにく、うちの一族が信仰する神様の名前はそんなんじゃないわ。あまり口にはしたくはないけどね、私に宿る神の力の根源は厳霊業雷命ごんりょうごうらいのみことって言う神様から来ているの。だから間違っても、バアルゼブルじゃないわ。私はこの力を神のものとは思ってはいないけどね」

 想像以上の威力が出て若干動揺するが、これだけの力があればアモンを倒せると構えなおす。
 ただ使って分かったが、これは長続きしない。人の体で神の力を形にした武器を使っているのだから当たり前だが、負担が想像以上に大きい。
 いくら神様規模で制誓呪縛に似たものを使っているのだとしても、それでも体がぎしぎしと軋みを上げているのが分かる。

「そろそろ終わりにしましょう、アモン」

 大上段に構えながら、アモンを倒すのに必要なのは一刀だけでいいと、更に制限をかけることで力を底上げする。

「もうおしまいにするの? もう少し楽しみたいのだけれど」

 そう言う彼女もそれを感じ取ったのか、彼女の体の周囲が歪むほどの熱が立ち込める。
 破壊したはずの斧槍が再び彼女の右手に現れて、ぐっと引き絞るように捻りながら構える。

 次の攻撃で全てが決まる。
 ぴんと糸を張り詰めたような緊張感が空間を支配する。
 不気味なほどの静寂が訪れ、アモンが先に動き出す。

 爆音を響かせて踏み出してくる。それに合わせて美琴も雷鳴を轟かせて踏み出す。
 空間を捻じ曲げるほどの熱と威力を持つ一閃をアモンが放ち、空間を割るほど鋭く暴力的な電圧の一刀を美琴が振り下ろす。

 両者の間で己の得物が衝突する。アモンの攻撃の衝撃が美琴の背後に向かって飛んで、地面をえぐり建物を破壊する。
 美琴の一刀がアモンを通り抜けて、アスファルトの地面に深く裂傷を刻む。

 炎の魔神の全力を、神の力の宿る武器を持つ人間で受け止める。それはどう見ても不利でしかないが、自らを不利に置くからこそ常識の埒外の力を引き出すことができる。

 力で勝るアモンが美琴の刀を弾き上げる。
 バランスを崩して後ろに数歩下がるがすぐに立て直す。しかしアモンはすでに次の攻撃に入っている。

 だがそんなのは関係ない。この刀は、自らが思い描いた結末に向けて進むように力を貸してくれるのだから。
 また上段に構え、理想を思い浮かべる。何よりも速く、何よりも鋭く、折れず曲がらず真っすぐに敵を切り裂く一刀を。

「諸願七雷・夢想浄雷むそうじょうらいッ!」

 その一刀の名を宣言し、振り下ろす。
 アモンのほうが先に攻撃を仕掛けていたはずなのに、それよりも先に美琴の刀が振り下ろされる。

 地面に裂傷は刻まれない。全ての雷の力を、最後の一刀に集約させることで光を超える速度で振り下ろすだけの攻撃。
 それは確かな手ごたえと共に、アモンを殺したことを実感させた。

「これが、人間の底力よ」
「……えぇ、よく分かったわ。少し、見くびっていたみたいね」

 夥しい量の血を傷口からこぼし、少しずつ体の恥から崩壊していく。それはまさしく、怪異やモンスターの最後だ。

「あーあ、負けちゃったか。もっと強いやつと戦いたかったし、ベリアルとの勝負もつかなかったし」
「ベリアル?」
「そ、虚数の魔神ベリアル。私の最高の好敵手。最後はあいつと戦いたかったけど、バアルゼブルと戦えたことも悪くはないわね」
「だから、私は、」
「そうね。あなたは雷電美琴。バアルゼブルで、雷電美琴。ソロモン王が一気に封印できないからって二つに分けた、人々に豊穣の神として崇められていた、善性の神としての力の持ち主。そりゃ、記憶がないわけね」

 アモンの体の大部分が消滅する。それを見たアモンは、少し寂しそうにも悲しそうにも捉えられる表情を浮かべる。

「もう限界ね。あ、伝言を頼むわ。もしどこかでベリアルと会うことがあったら、よろしく伝えておいて」
「もう二度と、魔神なんかと会いたくはないわ」
「まあまあ、そう言わずに。どうせ、私を殺したんだから向こうからやってくるわよ」

 最後になんてことを言い残すんだと嫌そうな顔をする。
 そんな美琴を見たアモンは、おかしそうに小さく笑う。

「それじゃ、ばいばい、美琴。もしいつかどこかで再会できるなら、今度こそあなたに勝って見せるから」

 最後にそれだけ言い残し、アモンは完全に消滅する。

「……もう二度と会いたくないって言ったでしょう」

 美琴は完全に消滅したアモンだったものの僅かな灰を見下ろしながら嘆息して呟く。
 やっと勝てたと安堵して、周りを見回す。
 戦いの余波でとてつもない被害を受けているが、周囲に漂っている自分の力の残滓を使って索敵して、人的被害はどうにかゼロに抑えることができたようだと安心する。

 その瞬間、かなり無茶をしてきた反動か体中が一斉に特大の悲鳴を上げて激痛が走り回り、極度の疲労と緊張の解放、そしてその激痛のトリプルパンチで意識を手放して地面に倒れた。
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