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第一部 第一章 異変
第12話 中層の攻略は手早く済ませよう
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長めの小休止を挟んだ後、いよいよ中層に足を踏み入れる。
同接はなおも増え続けており、十万をさっき超えたばかりなのにもう十四万まで膨れ上がっている。
濁流のようにものすごい速さで流れていくコメント欄。増えることを止めない同接数。同じく増えることを止めない新規登録者に高評価。
現実離れな数字ばかりが目に飛び込んでくるため、実はこれは夢を見ているのではないかと思ってしまう。
だがこれは間違いなく現実だ。それをダンジョンの空気の感触やにおい、土を踏む音、明確に向けられるモンスターからの悪意や殺意などで証明される。
「せっかくこんなにたくさんの人が見に来てくれているんだし、最後まで絶対に退屈なんてさせるわけにはいかない」
ふんすと意気込みながら、巨大蜘蛛が張った罠を雷薙の一閃で切り払い天井に張り付いている巨大蜘蛛モンスターを投擲した石で撃ち落としてから真っ二つに斬る。
”ほんと退屈しねーなこの子の配信”
”見ていれば見ているだけ見たことない方法でモンスターが倒されていくwwww”
”さ、流石にここからはさっき使ってた雷を使うよね? ね!?”
”上層はまだ駆け出しが行ける場所だけど、中層まで行くと七割の探索者がそこで攻略が止まるくらいモンスターの数が増えて強くなるから、流石に余裕ぶっこいてられないだろと思ってた時期がありました”
”蜘蛛を石投げて落としてからぶった斬ったー!www”
”あの蜘蛛の糸、少なくとも鋼鉄並みの強度があるはずなんですが”
”もはや鋼鉄程度の硬さじゃ足止めすらできないんだろ(適当)”
上層に引き続きハイテンポで進んでいくことは不可能だろうと思われていたが、その全てがすぐに杞憂だと気付かされる視聴者達。
どれだけの数のモンスターが襲ってきても、美琴は一鳴すら使わずにばっさばっさと薙刀を一閃するだけで塵となって消えて核石と素材を落とす。
「あ、この素材って売ればちょっといい値段になる奴じゃなかった?」
『そうですね。大体五千円前後といったところでしょう』
「うわー、もったいないなあ。こういう時、未成年は原則換金不可が煩わしく思う」
『仕方がないことですね。少なくともお嬢様の世代は成人が十八歳なので、あと一年の辛抱です』
「そう思うと私来年成人式なんだ。なんだか早いなー」
モンスターが落とした牙の素材を前にもったいないと思いながら核石だけ回収し、もう来年成人式であるためどんな振袖を着て行こうかもう悩みだす。
”そういえば来年成人なんだ”
”美琴ちゃんの振袖超見たい!”
”今の着物でさえ似合ってるんだから、振袖なんて破壊力抜群だろうな”
”来年、生の美琴ちゃんの振袖姿が見れる新成人達がウラヤマシイ”
”ダンジョン中層で話すような内容じゃなくて草”
”緊張感どこ行ったwww”
”緊張感なら家でビール飲みながらつまみを摘まんでるよ”
”上層とそう変わらないペースで進んでてワロス”
あまり緊張感のない状態のまま中層を進み、どれも変わらず薙刀一閃で核石と素材に変えていく。
中層は上層よりも数も強さも段違いになるはずなのだが、上層を進んでいる時とほとんど変わらないペースで進んでいるため、最初こそ少しは心配するようなコメントも書き込まれていたが、しだいに雑談に近いコメント欄になってきた。
しかし中層の中域ほどまで進んだところで、珍しく足を止める。
モンスターと遭遇したのだが、そのモンスターがやや厄介なものなのだ。
見た目は白と黒のヤマアラシのようなものなのだが、体が五メートルほどとかなり大きく、強力な神経毒が分泌されている棘を体中から生やしており、どれもが大きな返しが無数にある。
その棘は射出することで遠距離攻撃を可能としており、もしその棘に掠りでもしたら瞬く間に体の自由を奪われ、意識も感覚もあるのに生きたまま食われてしまう。
しかも悪質なことに、神経毒ではあるのだが回復効果も謎に付いており、痛みによるショック死ではなく出血多量のショック死か内臓を食われつくして死ぬかのどちらかでしか死ねない。
そのモンスターの名前はナイトメア・ポーキパイン。中層でぶっちぎりの嫌われているモンスターだ。
そんなモンスターが八体も同時に姿を見せた。
”うわあああああああああああああ!”
”中層のクソモンスだあああああああああ!”
”なんで八体もいるんだよ!?”
”流石にこればかりは逃げて美琴ちゃん!”
”生きたまま食われるところなんて見たくない!”
”美少女リョナは二次元が最高なのであって、リアルは無理!”
『これはこれは。諸願七雷を使わなければ、少し手こずるのでは?』
「うーん、そうかも。八体は危険かな。できれば下層までは使わないで行きたかったんだけど」
ポーキパインが体中の棘を逆立たせて威嚇しながら攻撃態勢に入るのを見て、流石の美琴もあの大量の棘の射出を何もなしに捌くことはできないので、一鳴を開放して処理することにする。
コメント欄は逃げたほうがいいというコメントで溢れるが、すでに姿を捕捉されている以上逃げたところでどこまでも追いかけてくるため、だったらここで処理したほうが早い。
体に紫電をまとわせて集中モードに入り、表情が真剣なものになる。
顎を引き、相手の動きをよく観察する。
普段はどこかおっとりとした雰囲気だが、戦いの時はまさに女武士のような鋭いものになる。
「ギャッギャッギャッ!」
「ピィイイイイイイイイ!!」
威嚇するように声を上げた後、八体とも一斉に体から棘を飛ばす。
その速度は音速とまではいかないがかなりのもので、中層に進出したばかりの探索者であれば反応できずに針山にされていただろう。
しかし美琴は今一鳴を開放しているし、下層を諸願七雷なしでも進むことができるだけの実力を持っているため、その針の速度に反応できないなんてことはない。
そこに雷速で動けるようになる一鳴を開放すればあら不思議。数百もの巨大毒針が、見えなくなるほどの速度で振るわれた雷薙で一本残らず叩き落された。
”えええええええええええええええええ!?”
”はぁあああああああああああああああ!?”
”うそん”
”マンガかよwww”
”薙刀が見えなくなる速度で振るって届く前に叩き落とす。なんて完璧な対処法なんだ(白目)”
”改めてみると早え……”
”中層ではトップクラスのトラウマ級モンスターなはずなんだけど、おかしいな?”
”見間違いかと思ったけど、何度配信を遡って確認しても同じ景色が見える”
”針攻撃が止まった!”
”いけええええええええええ!!”
”ぶち転がせええええええええ!”
”死に晒せこのクソモンスがあああああああああ!!!”
コメント欄も困惑のコメントで一瞬溢れたのちに、美琴にそのような心配は杞憂だったと思い知らされたのか、次第にナイトメア・ポーキパインへの罵倒と暴言へと変わっていった。
まさか全ての針を迎撃されるとは思っていなかったのか、ポーキパインも困惑したように一瞬たじろぎ、瞬時に生やした棘でもう一度攻撃をしようと逆立たせる。
今度は美琴が先に動き、雷鳴もかくやという轟音を鳴らして瞬時に背後を取り、まずは一体に雷薙を突き刺して刃に雷を集中させて内側から電撃で焼き潰す。
内側から一億ボルトの電撃を食らい、断末魔を上げて体からぶすぶすと黒い煙を上げてからぼろぼろと体を崩していき、拳大ほどの核石を一つ落とす。
「次」
鋭い目付きで残り七体のほうへ向き直ると同時に、後ろに引きながら針を射出してくる。
だが一体減った分隙間ができ、掠り傷一つ負うだけで命取りになるので動体視力と脳の情報処理能力を電気で底上げし、最適なルートを決めて潜り抜けながら接近する。
体中が特大毒針で覆われているポーキパインだが、唯一顔の周りだけには針がないので蹴り上げながらバク転して針が当たらないようにして、その遠心力を載せた一撃を下から叩き込んで両断する。
両断されたポーキパインがその体を崩し始めるが、ほぼ同時に左隣にいる個体を袈裟懸けに振り下ろした雷薙で切り裂き、返す刀で水平に薙いでもう一体を上下に分かつ。
一体が崩れるよりも早く二体を倒し、これで残り四体。
瞬く間に四体倒されたことに怖気付いたのか、素早く後ろ向きに走りながら針を飛ばしてくるという、見るからに撤退戦を仕掛けてきた。
もちろん危険なモンスターなので逃がすわけもなく、最初の一斉射出と比べて薄くなった針の弾幕を雷速で潜り抜けて進行方向に先回りして、突っ込んでくる速度と合わせて体を宙で回転させながら一番先頭を走っていた個体を縦に三枚卸しにする。
体が宙に浮いている状態なのでその隙を狙って一体が棘を逆立たせて体当たりしてくるが、石突を地面に突き立てることで更に上に跳んで回避して、壁に足を着けてから踏み込みと同時に振るって細切れにする。
残りは二体となり、変わらず撤退しながら射出してくるが最初ほどの脅威はもうどこにもない。
薄くなった針の弾幕を楽々と潜り抜けてズドムッ! という鈍い音を立てて石突で顔面を殴り潰して爆散させ、最後の一体は背を向けて全速力で逃げだしたが雷からは逃げられず、後ろから綺麗に真っ二つにされて消滅した。
「こういうのは相手の戦意を削がせてから狩るのが楽なのよね」
頭上にあった一つ巴を消して、ころりと転がった核石を拾いながら言う。
”無茶苦茶すぎるwww”
”戦意を削いでからのほうが楽なのはわかるけど、普通そんな芸当できません”
”ゲームや漫画の槍使いあるあるの、石突で上に跳んで回避は初めて見たwww”
”マジでどうなってやがる。これでフェイクじゃないとかもうバグってるとしか言いようがない”
”我らが中層の最強トラウマモンスターのナイトメア・ポーキパイン戦がここまで爽快なの初めて見たわ”
”本人は戦いじゃなくて狩としか認識してないのほんま酷いwww”
”普通あの雷鳴聞こえたらモンスター寄ってきそうだけど、逆に特大すぎて全く寄ってこないの草生えすぎて森”
”今画面の端にちらっと映ったけど、美琴ちゃんに気付かれる前に全力逃走しててクッソワロwww”
”切り抜き班や職人とかもう狂喜乱舞してそうだなwww”
”そっかー。わざわざでかい盾持って針の攻撃を防ぎつつ、魔術師や呪術師の遠距離攻撃とか、弓矢や投げナイフ、銃とかの遠距離攻撃に頼らなくても、そもそも針が当たらない速度で動けばいいんだー”
”次ダンジョン潜る時に真似してみようかな”
”何人か正気失ってて草”
”そら(到底不可能な芸当をなんてことない表情しながら見せられたら)そうよ”
”アイリちゃんまた超速編集して動画上げてんだけどwww”
”サムネイルに注意書きで『真似したら絶対死にます』って書いてあってめっちゃ笑ったわwww”
中層ボスを除いて最大の脅威とも言えるナイトメア・ポーキパインを無傷で倒したことで大盛り上がりを見せたコメント欄は、若干の困惑ののちに賞賛の嵐となる。
少し運がよかったのか、拳大の大きさの核石が一つとそれより少し小さめの核石二つの計三つ回収することができた。特に拳大の核石は、大きさもそうだが品質も中層のものだから上質で、換金すれば一万円くらいは行くだろう。
ラッキーなことがあり気分が上がり、美琴は軽い足取りで中層を突き進む。
『本当、お嬢様の配信は撮れ高満載で楽しいですね』
毒持ちヤマアラシを倒してから十分ほど。普通なら結構モンスターと遭遇してもおかしくないはずなのだが、一鳴を開放した後の複数の雷鳴でモンスターがビビッてしまっているのか、姿を全く見かけない。
「なんていうか、ちょっと極端な気が」
『あんなに何度も特大の雷鳴を鳴らせば、ダンジョンに住まうモンスターも怖気付いて出てきませんよ』
「これもあるからあまり使いたくないのよね」
”ビビりすぎてどっかに隠れちゃってんのかこれwww”
”モンスターがビビッて隠れるなんてことあるんだ。”
”見たことない行動ばっか見れてすごいんだけど、もう理解が追い付かなくなってきた”
”《トライアドちゃんねる》軽装すぎやしないかって思ってたけど、これで十分なんてちょっと信じがたい……”
”ふぁ!? トライアドちゃんねるやん!?”
”まじ!? 本物!?”
”公式マークついてるから……これ本物だああああああああああ!!”
「え、トライアドちゃんねるさんも観に来てくださったんですか? ありがとうございます!」
大物の出現にコメント欄が盛り上がり、美琴もそれを確認してきてくれたことにまずは感謝を述べる。
「あの後大丈夫でしたか? 私アフターフォローとか何もしないで帰っちゃったので、モンスターとか襲ってきませんでしたか?」
”《トライアドちゃんねる》大丈夫だったよー。むしろなんかモンスター寄ってこなかった”
”今と全く同じことが起きてて草”
”ダンジョンの中にいれば雷なんて見る機会も聞く機会もないから怖いんだろうなあ”
”《トライアドちゃんねる》あの時は助けてくれてありがとう! 本当は昨日の雑談配信にお邪魔しようと思ってたんだけど、時間が取れなくて今日になっちゃった”
トライアドちゃんねるの誰が書き込んでいるのかは分からないが、一昨日助けたことについてありがとうとコメントを送ってきた。
それと一緒に、お礼を言うのが少し遅れてしまったことに対して謝罪も付け加えていた。
「いえいえ、お気になさらず。困った時はお互い様ですし、助けたいと思ったから助けただけですから。……七割くらい、八つ当たりでしたけど」
”《トライアドちゃんねる》八つ当たり対象にしちゃいけない規模なはずなんだけど……?”
”困惑しとる困惑しとるwww”
”困惑しないわけがない”
大物チャンネル到来と今話題の美琴の配信。それで注目度が上がっているのか、コメントでツウィーターでトレンド入りしているという情報が入り、そのトレンドから来たという視聴者が増えだした。
すでに十万人というとんでもない数字を目撃しているためもう驚かないと思っていたのだが、十五万人を突破してなおも数百人、千何百人と増えていくのを見て、またもや思考が止まりそうになる。
せっかく大先輩が来てくれているのだから思考停止している場合じゃないと、ぺちりと頬を両手で叩くように挟んで意識をはっきりとさせ、中層の攻略をしているのに雑談と変わらない緩い雰囲気で会話する。
そうこうしているうちに、美琴は下層へ続く道であり、下層進出を阻んでいる最大の脅威が住まう大広間、通称ボス部屋の前までやってきた。
同接はなおも増え続けており、十万をさっき超えたばかりなのにもう十四万まで膨れ上がっている。
濁流のようにものすごい速さで流れていくコメント欄。増えることを止めない同接数。同じく増えることを止めない新規登録者に高評価。
現実離れな数字ばかりが目に飛び込んでくるため、実はこれは夢を見ているのではないかと思ってしまう。
だがこれは間違いなく現実だ。それをダンジョンの空気の感触やにおい、土を踏む音、明確に向けられるモンスターからの悪意や殺意などで証明される。
「せっかくこんなにたくさんの人が見に来てくれているんだし、最後まで絶対に退屈なんてさせるわけにはいかない」
ふんすと意気込みながら、巨大蜘蛛が張った罠を雷薙の一閃で切り払い天井に張り付いている巨大蜘蛛モンスターを投擲した石で撃ち落としてから真っ二つに斬る。
”ほんと退屈しねーなこの子の配信”
”見ていれば見ているだけ見たことない方法でモンスターが倒されていくwwww”
”さ、流石にここからはさっき使ってた雷を使うよね? ね!?”
”上層はまだ駆け出しが行ける場所だけど、中層まで行くと七割の探索者がそこで攻略が止まるくらいモンスターの数が増えて強くなるから、流石に余裕ぶっこいてられないだろと思ってた時期がありました”
”蜘蛛を石投げて落としてからぶった斬ったー!www”
”あの蜘蛛の糸、少なくとも鋼鉄並みの強度があるはずなんですが”
”もはや鋼鉄程度の硬さじゃ足止めすらできないんだろ(適当)”
上層に引き続きハイテンポで進んでいくことは不可能だろうと思われていたが、その全てがすぐに杞憂だと気付かされる視聴者達。
どれだけの数のモンスターが襲ってきても、美琴は一鳴すら使わずにばっさばっさと薙刀を一閃するだけで塵となって消えて核石と素材を落とす。
「あ、この素材って売ればちょっといい値段になる奴じゃなかった?」
『そうですね。大体五千円前後といったところでしょう』
「うわー、もったいないなあ。こういう時、未成年は原則換金不可が煩わしく思う」
『仕方がないことですね。少なくともお嬢様の世代は成人が十八歳なので、あと一年の辛抱です』
「そう思うと私来年成人式なんだ。なんだか早いなー」
モンスターが落とした牙の素材を前にもったいないと思いながら核石だけ回収し、もう来年成人式であるためどんな振袖を着て行こうかもう悩みだす。
”そういえば来年成人なんだ”
”美琴ちゃんの振袖超見たい!”
”今の着物でさえ似合ってるんだから、振袖なんて破壊力抜群だろうな”
”来年、生の美琴ちゃんの振袖姿が見れる新成人達がウラヤマシイ”
”ダンジョン中層で話すような内容じゃなくて草”
”緊張感どこ行ったwww”
”緊張感なら家でビール飲みながらつまみを摘まんでるよ”
”上層とそう変わらないペースで進んでてワロス”
あまり緊張感のない状態のまま中層を進み、どれも変わらず薙刀一閃で核石と素材に変えていく。
中層は上層よりも数も強さも段違いになるはずなのだが、上層を進んでいる時とほとんど変わらないペースで進んでいるため、最初こそ少しは心配するようなコメントも書き込まれていたが、しだいに雑談に近いコメント欄になってきた。
しかし中層の中域ほどまで進んだところで、珍しく足を止める。
モンスターと遭遇したのだが、そのモンスターがやや厄介なものなのだ。
見た目は白と黒のヤマアラシのようなものなのだが、体が五メートルほどとかなり大きく、強力な神経毒が分泌されている棘を体中から生やしており、どれもが大きな返しが無数にある。
その棘は射出することで遠距離攻撃を可能としており、もしその棘に掠りでもしたら瞬く間に体の自由を奪われ、意識も感覚もあるのに生きたまま食われてしまう。
しかも悪質なことに、神経毒ではあるのだが回復効果も謎に付いており、痛みによるショック死ではなく出血多量のショック死か内臓を食われつくして死ぬかのどちらかでしか死ねない。
そのモンスターの名前はナイトメア・ポーキパイン。中層でぶっちぎりの嫌われているモンスターだ。
そんなモンスターが八体も同時に姿を見せた。
”うわあああああああああああああ!”
”中層のクソモンスだあああああああああ!”
”なんで八体もいるんだよ!?”
”流石にこればかりは逃げて美琴ちゃん!”
”生きたまま食われるところなんて見たくない!”
”美少女リョナは二次元が最高なのであって、リアルは無理!”
『これはこれは。諸願七雷を使わなければ、少し手こずるのでは?』
「うーん、そうかも。八体は危険かな。できれば下層までは使わないで行きたかったんだけど」
ポーキパインが体中の棘を逆立たせて威嚇しながら攻撃態勢に入るのを見て、流石の美琴もあの大量の棘の射出を何もなしに捌くことはできないので、一鳴を開放して処理することにする。
コメント欄は逃げたほうがいいというコメントで溢れるが、すでに姿を捕捉されている以上逃げたところでどこまでも追いかけてくるため、だったらここで処理したほうが早い。
体に紫電をまとわせて集中モードに入り、表情が真剣なものになる。
顎を引き、相手の動きをよく観察する。
普段はどこかおっとりとした雰囲気だが、戦いの時はまさに女武士のような鋭いものになる。
「ギャッギャッギャッ!」
「ピィイイイイイイイイ!!」
威嚇するように声を上げた後、八体とも一斉に体から棘を飛ばす。
その速度は音速とまではいかないがかなりのもので、中層に進出したばかりの探索者であれば反応できずに針山にされていただろう。
しかし美琴は今一鳴を開放しているし、下層を諸願七雷なしでも進むことができるだけの実力を持っているため、その針の速度に反応できないなんてことはない。
そこに雷速で動けるようになる一鳴を開放すればあら不思議。数百もの巨大毒針が、見えなくなるほどの速度で振るわれた雷薙で一本残らず叩き落された。
”えええええええええええええええええ!?”
”はぁあああああああああああああああ!?”
”うそん”
”マンガかよwww”
”薙刀が見えなくなる速度で振るって届く前に叩き落とす。なんて完璧な対処法なんだ(白目)”
”改めてみると早え……”
”中層ではトップクラスのトラウマ級モンスターなはずなんだけど、おかしいな?”
”見間違いかと思ったけど、何度配信を遡って確認しても同じ景色が見える”
”針攻撃が止まった!”
”いけええええええええええ!!”
”ぶち転がせええええええええ!”
”死に晒せこのクソモンスがあああああああああ!!!”
コメント欄も困惑のコメントで一瞬溢れたのちに、美琴にそのような心配は杞憂だったと思い知らされたのか、次第にナイトメア・ポーキパインへの罵倒と暴言へと変わっていった。
まさか全ての針を迎撃されるとは思っていなかったのか、ポーキパインも困惑したように一瞬たじろぎ、瞬時に生やした棘でもう一度攻撃をしようと逆立たせる。
今度は美琴が先に動き、雷鳴もかくやという轟音を鳴らして瞬時に背後を取り、まずは一体に雷薙を突き刺して刃に雷を集中させて内側から電撃で焼き潰す。
内側から一億ボルトの電撃を食らい、断末魔を上げて体からぶすぶすと黒い煙を上げてからぼろぼろと体を崩していき、拳大ほどの核石を一つ落とす。
「次」
鋭い目付きで残り七体のほうへ向き直ると同時に、後ろに引きながら針を射出してくる。
だが一体減った分隙間ができ、掠り傷一つ負うだけで命取りになるので動体視力と脳の情報処理能力を電気で底上げし、最適なルートを決めて潜り抜けながら接近する。
体中が特大毒針で覆われているポーキパインだが、唯一顔の周りだけには針がないので蹴り上げながらバク転して針が当たらないようにして、その遠心力を載せた一撃を下から叩き込んで両断する。
両断されたポーキパインがその体を崩し始めるが、ほぼ同時に左隣にいる個体を袈裟懸けに振り下ろした雷薙で切り裂き、返す刀で水平に薙いでもう一体を上下に分かつ。
一体が崩れるよりも早く二体を倒し、これで残り四体。
瞬く間に四体倒されたことに怖気付いたのか、素早く後ろ向きに走りながら針を飛ばしてくるという、見るからに撤退戦を仕掛けてきた。
もちろん危険なモンスターなので逃がすわけもなく、最初の一斉射出と比べて薄くなった針の弾幕を雷速で潜り抜けて進行方向に先回りして、突っ込んでくる速度と合わせて体を宙で回転させながら一番先頭を走っていた個体を縦に三枚卸しにする。
体が宙に浮いている状態なのでその隙を狙って一体が棘を逆立たせて体当たりしてくるが、石突を地面に突き立てることで更に上に跳んで回避して、壁に足を着けてから踏み込みと同時に振るって細切れにする。
残りは二体となり、変わらず撤退しながら射出してくるが最初ほどの脅威はもうどこにもない。
薄くなった針の弾幕を楽々と潜り抜けてズドムッ! という鈍い音を立てて石突で顔面を殴り潰して爆散させ、最後の一体は背を向けて全速力で逃げだしたが雷からは逃げられず、後ろから綺麗に真っ二つにされて消滅した。
「こういうのは相手の戦意を削がせてから狩るのが楽なのよね」
頭上にあった一つ巴を消して、ころりと転がった核石を拾いながら言う。
”無茶苦茶すぎるwww”
”戦意を削いでからのほうが楽なのはわかるけど、普通そんな芸当できません”
”ゲームや漫画の槍使いあるあるの、石突で上に跳んで回避は初めて見たwww”
”マジでどうなってやがる。これでフェイクじゃないとかもうバグってるとしか言いようがない”
”我らが中層の最強トラウマモンスターのナイトメア・ポーキパイン戦がここまで爽快なの初めて見たわ”
”本人は戦いじゃなくて狩としか認識してないのほんま酷いwww”
”普通あの雷鳴聞こえたらモンスター寄ってきそうだけど、逆に特大すぎて全く寄ってこないの草生えすぎて森”
”今画面の端にちらっと映ったけど、美琴ちゃんに気付かれる前に全力逃走しててクッソワロwww”
”切り抜き班や職人とかもう狂喜乱舞してそうだなwww”
”そっかー。わざわざでかい盾持って針の攻撃を防ぎつつ、魔術師や呪術師の遠距離攻撃とか、弓矢や投げナイフ、銃とかの遠距離攻撃に頼らなくても、そもそも針が当たらない速度で動けばいいんだー”
”次ダンジョン潜る時に真似してみようかな”
”何人か正気失ってて草”
”そら(到底不可能な芸当をなんてことない表情しながら見せられたら)そうよ”
”アイリちゃんまた超速編集して動画上げてんだけどwww”
”サムネイルに注意書きで『真似したら絶対死にます』って書いてあってめっちゃ笑ったわwww”
中層ボスを除いて最大の脅威とも言えるナイトメア・ポーキパインを無傷で倒したことで大盛り上がりを見せたコメント欄は、若干の困惑ののちに賞賛の嵐となる。
少し運がよかったのか、拳大の大きさの核石が一つとそれより少し小さめの核石二つの計三つ回収することができた。特に拳大の核石は、大きさもそうだが品質も中層のものだから上質で、換金すれば一万円くらいは行くだろう。
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「なんていうか、ちょっと極端な気が」
『あんなに何度も特大の雷鳴を鳴らせば、ダンジョンに住まうモンスターも怖気付いて出てきませんよ』
「これもあるからあまり使いたくないのよね」
”ビビりすぎてどっかに隠れちゃってんのかこれwww”
”モンスターがビビッて隠れるなんてことあるんだ。”
”見たことない行動ばっか見れてすごいんだけど、もう理解が追い付かなくなってきた”
”《トライアドちゃんねる》軽装すぎやしないかって思ってたけど、これで十分なんてちょっと信じがたい……”
”ふぁ!? トライアドちゃんねるやん!?”
”まじ!? 本物!?”
”公式マークついてるから……これ本物だああああああああああ!!”
「え、トライアドちゃんねるさんも観に来てくださったんですか? ありがとうございます!」
大物の出現にコメント欄が盛り上がり、美琴もそれを確認してきてくれたことにまずは感謝を述べる。
「あの後大丈夫でしたか? 私アフターフォローとか何もしないで帰っちゃったので、モンスターとか襲ってきませんでしたか?」
”《トライアドちゃんねる》大丈夫だったよー。むしろなんかモンスター寄ってこなかった”
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”ダンジョンの中にいれば雷なんて見る機会も聞く機会もないから怖いんだろうなあ”
”《トライアドちゃんねる》あの時は助けてくれてありがとう! 本当は昨日の雑談配信にお邪魔しようと思ってたんだけど、時間が取れなくて今日になっちゃった”
トライアドちゃんねるの誰が書き込んでいるのかは分からないが、一昨日助けたことについてありがとうとコメントを送ってきた。
それと一緒に、お礼を言うのが少し遅れてしまったことに対して謝罪も付け加えていた。
「いえいえ、お気になさらず。困った時はお互い様ですし、助けたいと思ったから助けただけですから。……七割くらい、八つ当たりでしたけど」
”《トライアドちゃんねる》八つ当たり対象にしちゃいけない規模なはずなんだけど……?”
”困惑しとる困惑しとるwww”
”困惑しないわけがない”
大物チャンネル到来と今話題の美琴の配信。それで注目度が上がっているのか、コメントでツウィーターでトレンド入りしているという情報が入り、そのトレンドから来たという視聴者が増えだした。
すでに十万人というとんでもない数字を目撃しているためもう驚かないと思っていたのだが、十五万人を突破してなおも数百人、千何百人と増えていくのを見て、またもや思考が止まりそうになる。
せっかく大先輩が来てくれているのだから思考停止している場合じゃないと、ぺちりと頬を両手で叩くように挟んで意識をはっきりとさせ、中層の攻略をしているのに雑談と変わらない緩い雰囲気で会話する。
そうこうしているうちに、美琴は下層へ続く道であり、下層進出を阻んでいる最大の脅威が住まう大広間、通称ボス部屋の前までやってきた。
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沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
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