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第一部 序章 伝説となってしまった切り忘れ
第5話 今後の活動方針
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なぜ配信を切ると同時に美琴の承諾もなしに次の配信の枠を取ったのかの説明がされないまま、美琴は朝食を食べて制服に着替えて登校していた。
毎日歩いている通学路なのに、いつもと違う通学路に変貌していた。
たった一晩でとんでもない広がりを見せたあの動画は、ダンジョンというものに興味を持つ人全員が見ていたようで、歩いているとこそこそと話しているのが聞こえた。
『お嬢様の努力がついに報われましたね』
「報われるどころか今精神的に追い詰められてるんですけど……」
右耳に着けているピアスに内蔵されている、アイリとの専用通信回線を使って会話する。
『有名税と思えばよろしいかと。これでお嬢様も有名人、一躍時の人です。よかったですね、有名になりたいというお嬢様の夢が叶いましたよ』
「叶ったけど、これじゃない感がすごい」
服装や髪形は配信の時と比べて大きく違えど、百七十を超える高身長にモデル顔負けのスタイルの女子高生はそうそう見かけない。
第一顔を隠さずに配信しているのだから、あんなバズり方をした日に街中を歩いたらすぐにばれるに決まっている。
とりあえず視線が集中して恥ずかしくなってきたので、急ぎ足で学校へと向かう。
そして学校に着いても、外を歩いている時とそう変わらない視線が向けられる。
元々注目を浴びるほうではあったが、普段とは比べ物にならない視線を感じながらまっすぐ教室に向かい、ドアを開けて中に入る。
すでに多くの生徒が集まって楽しげに会話していたが、美琴が入った瞬間しんと静まり返る。
頼むから普通に会話を続けてくれと思いながら、教室の一番隅にある机に突っ伏している女子生徒のところに向かう。
「昌、おはよう。色々と聞きたいことがあるんだけど」
「んー、おはよう美琴。いやー、すんごいバズり方したね」
声をかけるともそりと起き上がり、眠そうなまなざしで美琴を見てにへらと笑みを浮かべる。
肩より少し下あたりで緩く縛っておさげにしている少女は、美琴の親友兼人間のマネージャーである桜ケ丘昌という。
美琴が配信活動を始めるように助言した張本人であり、こんなになるまでは学校内で唯一美琴の活動を知っていた人物でもある。
「流石にここまでの勢いで行くとは思わなかったけど、なんにせよ半年の努力が報われてよかったねえ」
「それ、アイリにも言われた。嬉しいには嬉しいけど、実感が……」
「湧かないよねえ。だって昨日まで登録者七十六人だったし」
そう言いながらスマホを取り出し、開いた画面を美琴に見せてくる。
それはもちろん昨日の一幕の切り抜きで、再生数が六百万再生を突破している。
概要欄にはきっちりと美琴のチャンネルに飛ぶURLが張られており、きっと今朝よりも増えていることだろう。
「なんでここまで拡散していくのよ」
美琴の席は昌の一つ後ろなので、そこに鞄を置きながら座る。
「なんでって、美琴さあ、スタンピードがどれだけやばいものか知ってる? 熟練探索者が百人単位で集まってやっと拮抗するレベルの大災害の一つだよ? 昨日発生したのは上から三つ目の準一等から、その上の一等のモンスターが六十体以上勢揃いしたとんでも軍団。それを一人で数分で片づけたんだから、そりゃ何も知らない人が見たら『なんだこれ!?』ってなるよ」
昌の言う通り、スタンピードは大災害なのだ。
特定の条件がそろわない限りダンジョンの外に出ることができないため、ダンジョン内限定のものではあるが、もし小さなパーティーで遭遇したら死を覚悟したほうがいいと言われる。
特に今回は準一等から一等のモンスターが大集結していたため、殊更昨日の殲滅は注目されたのだ。
「それにしても、こんだけの騒ぎになっているのに早速次の配信の枠を取ったんだ」
「そのことなんだけど、アイリから学校で昌に聞けって」
『厳密には同じことを言うだろうと思い、機械である私より親友の昌様の口から説明されたほうが良いと判断しました』
「人のスマホハックしてスピーカー使わないでくれない? まあ、こっちのほうが会話の手間が省けるからいいけどさ。で、私と同じ答えなんだ、アイリは」
「その答えって何なのよ」
そう聞くと、本当に何も分からないのかと言わんばかりにため息を吐かれる。
「あのね、今集まっているのは一時的なこの騒ぎに便乗しているだけのミーハーなの。つまりファンじゃなくて野次馬。次に美琴がやらなきゃいけないことは、この野次馬を自分の配信の視聴者に変えること。大注目されている今が一番のチャンスなんだから、これを逃すとまた視聴者一からゼロに元通りだよ?」
『昌様の言う通りでございます。あとはお嬢様がどこかの企業に所属しているアイドル系のダンジョン攻略配信者だと誤解されていますので、それを解くためにもまずは攻略配信よりも雑談をしたほうがよろしいかと』
言われて、納得する。
特別ネットの機微に詳しくはなくても、それくらいは理解できる。
美琴のような配信者に限らず、テレビに出演する芸人や芸能人だって一時期人気が爆発的に高まっても、その後人気を上手く獲得できずに低迷していき、やがて姿を消していって記憶からも消え去ってしまったのを何度も観ている。
今の美琴はまさにそれで、今は爆発的に人気を集めているが、もしここで失敗すればひっそりと消えて行ってしまった芸人・芸能人と同じ道をたどってしまう。
今朝切り忘れた配信を観た時に見えた十二万というあり得ない同接を思い出し、もしこれがまた一桁まで落ちたらと思うとぞっとする。
今のこの現状に満足しては、再びあの何も書かれないし誰も観てくれない虚無地獄へと転落してしまう。
そんなのは嫌だと思い、眉が少し下がる。
「そんなのは嫌だって顔だね。じゃあ、帰ったら早速いつもの着物に着替えて雑談配信を大人しくすること。そこでいろいろと説明してね。ちゃんと個人勢であること含めて、あることないこと吹聴されないうちに自分の口で自分の言葉で言っちゃいな」
ありがたいアドバイスをもらって、やっとここで安心して肩の力が抜ける。
やはり持つべきは友だなと、眠そうにあくびする昌を見てふわりと笑みを浮かべる。
「分かった。じゃあ帰ったらすぐに配信するね。明後日からは今まで通りの攻略配信をしていこうかな。今までと何ら変わりない配信して大丈夫かなって不安があるけど」
「別に大丈夫じゃない? いつもどーりにやりたいようにやればいいと思うよ。というか今まで通りにやったほうが絶対に登録者数が伸びるから。ま、分からなくなったら救援要請出しな。あたしも美琴の配信観ておくから。あ、でもくれぐれも名前は出さないでね。あたしはあくまで裏方なんだから」
「分かってるって。……本気でテンパったら、何言うか分からないけど」
「そうならないことを祈ってるよー」
軽く釘を刺された後に、昌はまた机に突っ伏してしまう。
「ねえ、やっぱあの動画って雷電さんだよね?」
さて、と一時限目の授業の準備をしようと鞄の中から教科書とノートと筆記用具を出していると、一人の女子生徒が恐る恐るといった様子で話しかけてきた。
ぱっと顔を上げてから周囲を見回してみると、他の生徒も気になっているようで今までにないくらい視線を集めていた。
『では予行練習として、ここからはお一人で』
「アイリ!?」
何かいい返し方はないだろうかとアイリに聞こうとするよりも先に、通話が強制的に切られる。
昌に助けを求めようとゆすっても、確実に起きているだろうに起きる気配がない。
結局、何を言えばいいのか分からず素直にそうだと言った結果それはもう大騒ぎになって取集がつかなくなってしまい、担任の教師が教室に来るまでひっきりなしに質問攻めにされ、授業が始まる頃にはすっかり疲れてしまっていた。
毎日歩いている通学路なのに、いつもと違う通学路に変貌していた。
たった一晩でとんでもない広がりを見せたあの動画は、ダンジョンというものに興味を持つ人全員が見ていたようで、歩いているとこそこそと話しているのが聞こえた。
『お嬢様の努力がついに報われましたね』
「報われるどころか今精神的に追い詰められてるんですけど……」
右耳に着けているピアスに内蔵されている、アイリとの専用通信回線を使って会話する。
『有名税と思えばよろしいかと。これでお嬢様も有名人、一躍時の人です。よかったですね、有名になりたいというお嬢様の夢が叶いましたよ』
「叶ったけど、これじゃない感がすごい」
服装や髪形は配信の時と比べて大きく違えど、百七十を超える高身長にモデル顔負けのスタイルの女子高生はそうそう見かけない。
第一顔を隠さずに配信しているのだから、あんなバズり方をした日に街中を歩いたらすぐにばれるに決まっている。
とりあえず視線が集中して恥ずかしくなってきたので、急ぎ足で学校へと向かう。
そして学校に着いても、外を歩いている時とそう変わらない視線が向けられる。
元々注目を浴びるほうではあったが、普段とは比べ物にならない視線を感じながらまっすぐ教室に向かい、ドアを開けて中に入る。
すでに多くの生徒が集まって楽しげに会話していたが、美琴が入った瞬間しんと静まり返る。
頼むから普通に会話を続けてくれと思いながら、教室の一番隅にある机に突っ伏している女子生徒のところに向かう。
「昌、おはよう。色々と聞きたいことがあるんだけど」
「んー、おはよう美琴。いやー、すんごいバズり方したね」
声をかけるともそりと起き上がり、眠そうなまなざしで美琴を見てにへらと笑みを浮かべる。
肩より少し下あたりで緩く縛っておさげにしている少女は、美琴の親友兼人間のマネージャーである桜ケ丘昌という。
美琴が配信活動を始めるように助言した張本人であり、こんなになるまでは学校内で唯一美琴の活動を知っていた人物でもある。
「流石にここまでの勢いで行くとは思わなかったけど、なんにせよ半年の努力が報われてよかったねえ」
「それ、アイリにも言われた。嬉しいには嬉しいけど、実感が……」
「湧かないよねえ。だって昨日まで登録者七十六人だったし」
そう言いながらスマホを取り出し、開いた画面を美琴に見せてくる。
それはもちろん昨日の一幕の切り抜きで、再生数が六百万再生を突破している。
概要欄にはきっちりと美琴のチャンネルに飛ぶURLが張られており、きっと今朝よりも増えていることだろう。
「なんでここまで拡散していくのよ」
美琴の席は昌の一つ後ろなので、そこに鞄を置きながら座る。
「なんでって、美琴さあ、スタンピードがどれだけやばいものか知ってる? 熟練探索者が百人単位で集まってやっと拮抗するレベルの大災害の一つだよ? 昨日発生したのは上から三つ目の準一等から、その上の一等のモンスターが六十体以上勢揃いしたとんでも軍団。それを一人で数分で片づけたんだから、そりゃ何も知らない人が見たら『なんだこれ!?』ってなるよ」
昌の言う通り、スタンピードは大災害なのだ。
特定の条件がそろわない限りダンジョンの外に出ることができないため、ダンジョン内限定のものではあるが、もし小さなパーティーで遭遇したら死を覚悟したほうがいいと言われる。
特に今回は準一等から一等のモンスターが大集結していたため、殊更昨日の殲滅は注目されたのだ。
「それにしても、こんだけの騒ぎになっているのに早速次の配信の枠を取ったんだ」
「そのことなんだけど、アイリから学校で昌に聞けって」
『厳密には同じことを言うだろうと思い、機械である私より親友の昌様の口から説明されたほうが良いと判断しました』
「人のスマホハックしてスピーカー使わないでくれない? まあ、こっちのほうが会話の手間が省けるからいいけどさ。で、私と同じ答えなんだ、アイリは」
「その答えって何なのよ」
そう聞くと、本当に何も分からないのかと言わんばかりにため息を吐かれる。
「あのね、今集まっているのは一時的なこの騒ぎに便乗しているだけのミーハーなの。つまりファンじゃなくて野次馬。次に美琴がやらなきゃいけないことは、この野次馬を自分の配信の視聴者に変えること。大注目されている今が一番のチャンスなんだから、これを逃すとまた視聴者一からゼロに元通りだよ?」
『昌様の言う通りでございます。あとはお嬢様がどこかの企業に所属しているアイドル系のダンジョン攻略配信者だと誤解されていますので、それを解くためにもまずは攻略配信よりも雑談をしたほうがよろしいかと』
言われて、納得する。
特別ネットの機微に詳しくはなくても、それくらいは理解できる。
美琴のような配信者に限らず、テレビに出演する芸人や芸能人だって一時期人気が爆発的に高まっても、その後人気を上手く獲得できずに低迷していき、やがて姿を消していって記憶からも消え去ってしまったのを何度も観ている。
今の美琴はまさにそれで、今は爆発的に人気を集めているが、もしここで失敗すればひっそりと消えて行ってしまった芸人・芸能人と同じ道をたどってしまう。
今朝切り忘れた配信を観た時に見えた十二万というあり得ない同接を思い出し、もしこれがまた一桁まで落ちたらと思うとぞっとする。
今のこの現状に満足しては、再びあの何も書かれないし誰も観てくれない虚無地獄へと転落してしまう。
そんなのは嫌だと思い、眉が少し下がる。
「そんなのは嫌だって顔だね。じゃあ、帰ったら早速いつもの着物に着替えて雑談配信を大人しくすること。そこでいろいろと説明してね。ちゃんと個人勢であること含めて、あることないこと吹聴されないうちに自分の口で自分の言葉で言っちゃいな」
ありがたいアドバイスをもらって、やっとここで安心して肩の力が抜ける。
やはり持つべきは友だなと、眠そうにあくびする昌を見てふわりと笑みを浮かべる。
「分かった。じゃあ帰ったらすぐに配信するね。明後日からは今まで通りの攻略配信をしていこうかな。今までと何ら変わりない配信して大丈夫かなって不安があるけど」
「別に大丈夫じゃない? いつもどーりにやりたいようにやればいいと思うよ。というか今まで通りにやったほうが絶対に登録者数が伸びるから。ま、分からなくなったら救援要請出しな。あたしも美琴の配信観ておくから。あ、でもくれぐれも名前は出さないでね。あたしはあくまで裏方なんだから」
「分かってるって。……本気でテンパったら、何言うか分からないけど」
「そうならないことを祈ってるよー」
軽く釘を刺された後に、昌はまた机に突っ伏してしまう。
「ねえ、やっぱあの動画って雷電さんだよね?」
さて、と一時限目の授業の準備をしようと鞄の中から教科書とノートと筆記用具を出していると、一人の女子生徒が恐る恐るといった様子で話しかけてきた。
ぱっと顔を上げてから周囲を見回してみると、他の生徒も気になっているようで今までにないくらい視線を集めていた。
『では予行練習として、ここからはお一人で』
「アイリ!?」
何かいい返し方はないだろうかとアイリに聞こうとするよりも先に、通話が強制的に切られる。
昌に助けを求めようとゆすっても、確実に起きているだろうに起きる気配がない。
結局、何を言えばいいのか分からず素直にそうだと言った結果それはもう大騒ぎになって取集がつかなくなってしまい、担任の教師が教室に来るまでひっきりなしに質問攻めにされ、授業が始まる頃にはすっかり疲れてしまっていた。
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