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第一部 序章 伝説となってしまった切り忘れ
第4話 目覚めからの激バズ
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「ほぐっ!?」
沈んでいた意識が浮上し始めると、なんだかやたらとうるさい音が聞こえるなと思い、きっとスマホの目覚ましだろうとベッドに潜り込んだまま手を伸ばし、なかなか触れないので体をずらしながら探っていると、そのままベッドから墜落して背中と後頭部を撃って悶絶する。
じんじんと痛む後頭部をさすりながら起き上がり、今もなお震え続けているスマホを取って、そもそも美琴のスマホの目覚ましはマナーモードにしていようが寝坊防止用に強制的に音楽が爆音で流れる仕様になっているはずなのに、なんで震えているだけなのだろうかと首を傾げる。
スマホの音楽の音量が小さくなるのは基本的に、通知が来た時だ。ということは音楽が鳴る隙間すらないほど連続して通知が来ていることになる。
どうなっているのだと手に取ったスマホの画面を見て、美琴がぴしりと硬直する。
「は!? え!? 何これ!? スマホバグった!?」
スマホの画面に映し出されているのは、次々とツウィーターのフォロワーが増えて行っているという通知と、配信アプリのアワーチューブの新規登録者が増えて行っているというものだった。
慌ててまずはツウィーターを開くと、昨日の時点ではまだ百人程度の弱小アカウントだったものが、六十万人を突破していた。
まさかと思い、震える指でアワーチューブを開いて自分のアカウントのマイページに行くと、七十六人だった登録者が激増して五十七万人となっていた。
しかもどういうわけか、まだ配信が続いている状態になっている。だからなのか、登録者数が数百から千単位で増加していく。
「えぇえええええええええええええ!? なんかいろいろとおかしくなってません!? 何!? ハッキングでも受けたの!?」
理解が追い付かない状況に思わず大声を上げると、部屋の前のドアでスタンバイしているらしい飼い猫のあーじが、抗議するように「お゛お゛お゛お゛ん゛」と凄い鳴き声を上げる。
しかし今はそんなことを気にしている余裕はない。
大急ぎで配信画面へと飛ぶと、大量のコメントが猛烈な速度で流れていくのを見て目を白黒させる。配信時間のほうを確認すると十時間を軽々超えているので、切り忘れは間違いないだろう。
「ど、同接十二万人!? えぇえええええええええええええええ!?」
カメラは切れているが、音声はばっちり拾っているようだ。むしろ昨日の美琴の雷を割と間近で受けていたはずなのに壊れていないことが驚きなのだが、そんなことがどうでもよくなってしまう数字がそこにあった。
どれだけ頑張っても同接が三人程度だったはずなのに、今の美琴の付きっぱなしの配信には四万倍の十二万とかいうぶっ飛んだ数字が示されていて体と思考が硬直する。
”お、起きた”
”おはよう! よく眠れた?”
”朝から昨日も聞こえたすげー猫の鳴き声を聞けるとは思ってなかったわwwww”
”あれだけのことしておきながら、帰宅後普通に学校の宿題やったりしててほんま草”
”登録者五十七万人おめでとう!”
”ツウィーターのトレンド一位おめでとう! 切り抜き観てファンになりました!”
「え、ちょっと待って!? 音声拾ってるってことは、もしかしてお風呂の音とかも入ってた!?」
”流石にそれはなかったなあ”
”カメラ君もそこは自重してた”
”お手洗い行く時とお風呂の時は勝手に音声切られてたからね”
”カメラ君に意思でもあるのかと思った”
流石にセンシティブになりそうなところは音声を拾わなかったようだ。
それよりも、
『おはようございます、お嬢様。そしておバズりおめでとうございます』
「アイリいいいいいいいいいいい!! 配信したままなの気付いていたなら切ってよおおおおおおおお!?」
部屋の天井に付いているスピーカーから女性の機械音声が聞こえると、反射で大きな声で非難する。
ちなみにその声の正体は、父親が経営している電機会社で本格的な商品化に向けてデータ収集のために作られた試作型のAIだ。名前をアイリという。
今現在も電子の海をメインに、様々な場所でデータを収集して学習しており、人と会話していると思うくらいに自然なやり取りができる。
そしてそのアイリは、美琴の配信をサポートする役割をしており、いわゆるマネージャーのようなものだ。アイリ以外にももう一人、人間のマネージャーも存在する。
『そのようなことを申されましても、そもそも配信を切り忘れたのはお嬢様のミスでしょう。それに、配信を切らずにいたのはあれが決定的な起爆剤になると判断してのことです。予想通り、とんでもないことになりましたね』
そう言いながら勝手に部屋にあるパソコンを起動させて、ツウィーターのトレンドを開く。
その一位の場所には、『雷神少女琴峰美琴』とかいう謎の単語が君臨していた。
それを認識するや否やアイリが更に操作してその単語をクリックし、一番上に表示されている再生数が四百八十万回を突破している動画を再生する。
そこには美琴が背後に一つ巴を三つ浮かばせながら、薙刀と雷撃で次々とモンスターを蹂躙していく動画が。
よりにもよって人があまりにも来ない上に、つまらないとばっさり切り捨てられたことでストレスがマッハで溜まり、そのうっ憤を晴らすためにモンスターに八つ当たりしている動画が、とんでもなくバズっていたのだ。
しかし、しかしだ。あんな感情をほとんど浮かばせていない虚無顔で殺戮している動画が、どうしてここまで半端ない伸び方をしているのか全く理解できなかった。
ほかにも単純に『雷神少女』や『スタンピードソロ殲滅』、『サーチ&デストロイ系探索者』、『ターミネーター美少女』などの言葉もトレンド入りを果たしている。
多分まだ探せばわんさか出てくるだろう。一体どれだけ自分に関する呟きがなされたのか、もはや想像もつかない。
ちなみに更新したら、『機械音声と漫才』がトレンドにねじ込んできた。
とりあえず癒しが欲しくなったので、ドアを外からがりがりと引っ搔いて入れろと主張しているあーじを迎えに行き、抱っこしてベッドのふちに腰を掛ける。
「アイリ」
『何でございましょう』
一分ほど何もしゃべらず、抱っこされてご機嫌になって喉をゴロゴロと鳴らすあーじの背中を優しい手つきで撫でた後、アイリに声をかける。
その間も、横に置いておいたスマホの画面に映る配信画面では、コメントが川のように流れていく。
「配信切って。今すぐ」
『かしこまりました。では放課後に雑談枠を作っておきますね』
「ちょっっっっっと待って!? いきなり雑談しろって言うの!? かなりな無茶ぶりだよ!?」
『事情は後程、もう一人のマネージャーからも同じことを言われるでしょうから、その時に聞いてくださいませ』
アイリはそれだけ言って、配信を切る。その直前まで、コメント欄は盛りに盛り上がっていた。きっちりと、次の配信が放課後に設定されて。
沈んでいた意識が浮上し始めると、なんだかやたらとうるさい音が聞こえるなと思い、きっとスマホの目覚ましだろうとベッドに潜り込んだまま手を伸ばし、なかなか触れないので体をずらしながら探っていると、そのままベッドから墜落して背中と後頭部を撃って悶絶する。
じんじんと痛む後頭部をさすりながら起き上がり、今もなお震え続けているスマホを取って、そもそも美琴のスマホの目覚ましはマナーモードにしていようが寝坊防止用に強制的に音楽が爆音で流れる仕様になっているはずなのに、なんで震えているだけなのだろうかと首を傾げる。
スマホの音楽の音量が小さくなるのは基本的に、通知が来た時だ。ということは音楽が鳴る隙間すらないほど連続して通知が来ていることになる。
どうなっているのだと手に取ったスマホの画面を見て、美琴がぴしりと硬直する。
「は!? え!? 何これ!? スマホバグった!?」
スマホの画面に映し出されているのは、次々とツウィーターのフォロワーが増えて行っているという通知と、配信アプリのアワーチューブの新規登録者が増えて行っているというものだった。
慌ててまずはツウィーターを開くと、昨日の時点ではまだ百人程度の弱小アカウントだったものが、六十万人を突破していた。
まさかと思い、震える指でアワーチューブを開いて自分のアカウントのマイページに行くと、七十六人だった登録者が激増して五十七万人となっていた。
しかもどういうわけか、まだ配信が続いている状態になっている。だからなのか、登録者数が数百から千単位で増加していく。
「えぇえええええええええええええ!? なんかいろいろとおかしくなってません!? 何!? ハッキングでも受けたの!?」
理解が追い付かない状況に思わず大声を上げると、部屋の前のドアでスタンバイしているらしい飼い猫のあーじが、抗議するように「お゛お゛お゛お゛ん゛」と凄い鳴き声を上げる。
しかし今はそんなことを気にしている余裕はない。
大急ぎで配信画面へと飛ぶと、大量のコメントが猛烈な速度で流れていくのを見て目を白黒させる。配信時間のほうを確認すると十時間を軽々超えているので、切り忘れは間違いないだろう。
「ど、同接十二万人!? えぇえええええええええええええええ!?」
カメラは切れているが、音声はばっちり拾っているようだ。むしろ昨日の美琴の雷を割と間近で受けていたはずなのに壊れていないことが驚きなのだが、そんなことがどうでもよくなってしまう数字がそこにあった。
どれだけ頑張っても同接が三人程度だったはずなのに、今の美琴の付きっぱなしの配信には四万倍の十二万とかいうぶっ飛んだ数字が示されていて体と思考が硬直する。
”お、起きた”
”おはよう! よく眠れた?”
”朝から昨日も聞こえたすげー猫の鳴き声を聞けるとは思ってなかったわwwww”
”あれだけのことしておきながら、帰宅後普通に学校の宿題やったりしててほんま草”
”登録者五十七万人おめでとう!”
”ツウィーターのトレンド一位おめでとう! 切り抜き観てファンになりました!”
「え、ちょっと待って!? 音声拾ってるってことは、もしかしてお風呂の音とかも入ってた!?」
”流石にそれはなかったなあ”
”カメラ君もそこは自重してた”
”お手洗い行く時とお風呂の時は勝手に音声切られてたからね”
”カメラ君に意思でもあるのかと思った”
流石にセンシティブになりそうなところは音声を拾わなかったようだ。
それよりも、
『おはようございます、お嬢様。そしておバズりおめでとうございます』
「アイリいいいいいいいいいいい!! 配信したままなの気付いていたなら切ってよおおおおおおおお!?」
部屋の天井に付いているスピーカーから女性の機械音声が聞こえると、反射で大きな声で非難する。
ちなみにその声の正体は、父親が経営している電機会社で本格的な商品化に向けてデータ収集のために作られた試作型のAIだ。名前をアイリという。
今現在も電子の海をメインに、様々な場所でデータを収集して学習しており、人と会話していると思うくらいに自然なやり取りができる。
そしてそのアイリは、美琴の配信をサポートする役割をしており、いわゆるマネージャーのようなものだ。アイリ以外にももう一人、人間のマネージャーも存在する。
『そのようなことを申されましても、そもそも配信を切り忘れたのはお嬢様のミスでしょう。それに、配信を切らずにいたのはあれが決定的な起爆剤になると判断してのことです。予想通り、とんでもないことになりましたね』
そう言いながら勝手に部屋にあるパソコンを起動させて、ツウィーターのトレンドを開く。
その一位の場所には、『雷神少女琴峰美琴』とかいう謎の単語が君臨していた。
それを認識するや否やアイリが更に操作してその単語をクリックし、一番上に表示されている再生数が四百八十万回を突破している動画を再生する。
そこには美琴が背後に一つ巴を三つ浮かばせながら、薙刀と雷撃で次々とモンスターを蹂躙していく動画が。
よりにもよって人があまりにも来ない上に、つまらないとばっさり切り捨てられたことでストレスがマッハで溜まり、そのうっ憤を晴らすためにモンスターに八つ当たりしている動画が、とんでもなくバズっていたのだ。
しかし、しかしだ。あんな感情をほとんど浮かばせていない虚無顔で殺戮している動画が、どうしてここまで半端ない伸び方をしているのか全く理解できなかった。
ほかにも単純に『雷神少女』や『スタンピードソロ殲滅』、『サーチ&デストロイ系探索者』、『ターミネーター美少女』などの言葉もトレンド入りを果たしている。
多分まだ探せばわんさか出てくるだろう。一体どれだけ自分に関する呟きがなされたのか、もはや想像もつかない。
ちなみに更新したら、『機械音声と漫才』がトレンドにねじ込んできた。
とりあえず癒しが欲しくなったので、ドアを外からがりがりと引っ搔いて入れろと主張しているあーじを迎えに行き、抱っこしてベッドのふちに腰を掛ける。
「アイリ」
『何でございましょう』
一分ほど何もしゃべらず、抱っこされてご機嫌になって喉をゴロゴロと鳴らすあーじの背中を優しい手つきで撫でた後、アイリに声をかける。
その間も、横に置いておいたスマホの画面に映る配信画面では、コメントが川のように流れていく。
「配信切って。今すぐ」
『かしこまりました。では放課後に雑談枠を作っておきますね』
「ちょっっっっっと待って!? いきなり雑談しろって言うの!? かなりな無茶ぶりだよ!?」
『事情は後程、もう一人のマネージャーからも同じことを言われるでしょうから、その時に聞いてくださいませ』
アイリはそれだけ言って、配信を切る。その直前まで、コメント欄は盛りに盛り上がっていた。きっちりと、次の配信が放課後に設定されて。
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