恋し、挑みし、闘へ乙女

米原湖子

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第十二章 対決

6.

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「そして、貴方は黒棘先卿の陰謀を知った。婚ピューターを違法に操作しているのを……」

「ほほう」と鏡卿が初めて頷く。

「きっと貴方は考えたはずです。このままでは黒棘先が和之国を滅ぼすと」
「流石、作家先生だね。バラバラになっていたピースを拾い集めるのが上手い」

 鏡卿の目尻が下がる。益々月華の君にソックリだと乙女は思った。

「貴方は敵の手の内にまんまと引っかかったフリをして、見事に裏婚ピューター室を……こちらが本物でしょう。お役所にある婚ピューター室はフェイクですね。それを乗っ取った」

「真の策士ですね」と乙女は感心したように微笑む。
「しまったな」と鏡卿が残念そうに溜息を吐く。

「月華王の相手を君にせず、私にしておけばよかった」
「はい?」
「まぁ、元々梅大路綾鷹が君の相手なのだが……彼に渡すのが惜しくなった」

 益々意味が分からない、と乙女がマジマジと鏡卿を見つめていると、いきなり鏡卿が立ち上がり、目前に立つ乙女の手をグッと引き、その身を抱き締めた。

「なっ、何をなさるのですか?」
「君が気に入った。私の妻になりなさい」

 この男……メチャクチャだ!
 乙女は身をよじり、その腕から逃れようと抵抗する。

「この穴蔵にやってきたのが運の尽き。もう、逃れられない。諦めなさい」
「諦める? 私の辞書にはそんな言葉はありません! 諦めるものですか」

 乙女がギロリと鏡卿を睨む。

「でも、よく考えてみたまえ。ここから逃れたとしても、君は大嫌いな梅大路と結婚しなくてはいけないのだよ」

「諦めているじゃないか」と皮肉を込め言う。

「誰が大嫌いだと言いました? 私は綾鷹様が……好きです」

 乙女の凜とした声が部屋に響く。

「――だそうだよ、梅大路綾鷹君」

「はい?」と鏡卿の腕の中で乙女が振り返る。

「お気付きだったのですか? いい加減、乙女から手を放してもらいましょうか、鏡卿」

 いつの間に……? ドアの前に立っていたのは、たった今、愛の告白をした相手だった。

「嘘! どうして?」

 乙女は混乱と恥ずかしさから、ギャーと声にならない悲鳴を上げ鏡卿の胸に再び顔を埋める。

「おやおや、可愛い人だ。梅大路君、これは不可抗力だからね」

 そう言いながらも鏡卿は綾鷹に対する嫌がらせのように乙女をギュッと抱き締めた。
 ツカツカと足音が近付き、グイッと乙女の腕が引かれる。

「君は愛の告白をしたばかりだというのに、もう、他の者と浮気をするのかい?」

 ポスンと綾鷹の胸に抱かれ、息も出来ないほど強く抱き締められる。

「――よかった無事で……」

 囁くような声と共に綾鷹が深く息を吐き出す。そして、乙女を抱いたまま鏡卿に目を向ける。

「お初にお目に掛かります」
「そうだったね。実物の君に会うのは初めてだね。画面の中より断然こちらの方がいい男だ!」

 クスクス笑いながら鏡卿はまたソファーに腰を下ろした。

「パソコンで世界を覗き見していらしたのですね?」

 綾鷹の質問を鏡卿はコホンと咳払いで誤魔化す。

「それより、よくここが分かったね」
「愛があれば当然です」

 綾鷹が愛しげに乙女を見つめる。

「全く! いくら彼女が心配だからといって、先に行くんじゃないよ!」

 また別の声が乙女の耳に届く。

「乙女ちゃん、久し振りだね」

 誰? 顔を上げると乙女は声のする方に視線を向け、驚きと共に「月華の君!」と叫ぶ。

「おやおや、君まで来ちゃったのか」

 鏡卿が苦笑いを浮かべる。

「全く! 生きているのならどうして知らせてくれなかったのです。隠遁生活なんかしちゃって!」

 月華の君が鏡卿に食ってかかる。
 乙女にはこの展開がどうにも理解できなかった。

「これはいったいどういうことですか?」

 イライラと乙女が尋ねる。

「くっそー、痛かった!」

 するとまた思いがけない人物がドアの向こうから現われた。龍弥だ。彼が首を擦りながら入ってくる。

「おーっ、お嬢、大丈夫だったか?」
「大丈夫だったかは、貴方の方でしょう!」

 キャンキャンと吠える子犬のような乙女に龍弥が笑いを噛み殺す。
 綾鷹の腕の中からだから、全く迫力がない。

「国家親衛隊が全員逮捕したんだよ」
「えっ?」

 乙女の視線が龍弥から綾鷹に移る。

「そういうこと」
「俺は協力者としてお咎めなしだってさ、梅大路綾鷹、ありがとうよ」
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