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第八章 スキャンダラスな失踪
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理不尽に叱られ乙女は逆ギレする。
「――ん? ああ、まぁ、それもそうか」
龍弥が頭を掻き掻き「すまん」と素直に謝る。それにちょっと気を良くした乙女は身を起こし、「ねぇ」と言いながら「どうして親切なの?」と訊く。それに龍弥は「惚れたから」と笑いながら答える。
「また冗談ばっかり!」
「まぁ、そう思っておけ」
「ふーん。それよりいいの? こんなにペラペラ雇い主のことを話しても」
「仲間じゃないの?」と乙女が疑問に思い訊くと、肩を竦めて龍弥が涼しい顔で答える。
「さっきも言ったが、俺はお前を見張っていろと頼まれただけだ。与えられた金はその分だけ」
そして、目の前にあるローテーブルに腰を下ろすとニッと嗤った。
「お前と話すなと言われていないし、親切にするなとも言われていない。見張っていれば何をしていてもいいということだろう?」
どんな道理だと思いながら、この男は本当にお金にシビアな男だな、と乙女は妙な感心をする。
「で、ここはどこなの?」
「化け物屋敷」
龍弥がクッと唇の端を上げる。
「夜露卿のお屋敷?」
「流石、梅大路綾鷹の見合い相手だ。よく知っているな」
近々偵察に来るつもりだったが、と乙女はほくそ笑み、まさかこんな形で来るとは思ってもいなかった、ともう一度辺りを見回し、アンティークだが、豪華な調度品の数々もそれなら頷けると独り言ちる。
「それにしても、また、どうしてこんなところに?」
「俺が連れてきた訳じゃない。こんなおどろおどろしいところ、俺でもご免だ。だが……」
だが……どうしたというのだろう?
乙女の疑問に答えるように、龍弥がチッと舌打ちをする。
「蘭丸が乙女嬢を運び込んだのがここだったって訳」
ここなら見つからないと思ったから?
益々増える疑問に乙女は頭がパンクしそうになる。
「乙女嬢さんよぉ、まだ顔が青いぞ、横になれ。今は何も分からない。考えても無駄だ。それより薬が切れるまで眠った方がいい」
確かに、と乙女は納得すると素直に横になる。それを眺めながら龍弥が苦笑する。
「お前って、本当、警戒心ないな。いくら言われたからって男の前で寝転がるなよ……襲われるぞ」
寝ろと言ったり、寝転がるなと言ったり、「だったら座りながら寝ろというの!」怒り出す乙女に、「本当、お前って可愛いな」と言いながら乙女の頭をポンポンと軽く叩き、「俺は隣の部屋にいる」と立ち上がった。
「で、その蘭丸はもうここには来ないの?」
「いや、仕事を済ませたら来るだろう」
「仕事って?」
「俺もそこまでは知らない。ただ、今回の拐かしに関係することだろうよ」
拐かしという言葉で、自分は本当に拉致られたのだと乙女は実感する。
「――ねぇ、私の携帯電話知らない?」
さっきからキョロキョロと見回しているが、持っていたバッグも見当たらない。
「蘭丸が持って行ったんじゃないのか」
「貴方、電話貸して下さらない?」
「お前、馬鹿か! 貸すわけないだろ」
やっぱり。
「案外親切だから頼めば貸してくれると思って、ちょっと言ってみました」
「そんなことをしたら俺が捕まるだろ。そこまでお人好しじゃない」
龍弥が憮然とした顔で乙女を睨む。
「――だって、綾鷹様がね、遠出される前に『くれぐれもおとなしくしていること』と言って、執事とか女中頭に私のお守りを頼んで言ったの」
「お前、全然信用ないんだな。まぁ、分かるような気がする」
その様子にムッとしながら乙女がヤケクソのように言う。
「もし、私が拐かされたと知ったら……彼、凄く怒るわ」
「そりゃあ、そうだろうな。あいつ、怒るとメチャクチャ怖いんだぞ、知ってるよな」
綾鷹の真の怖さを知っている龍弥は悪寒を感じブルッと震える。
「もう! 脅かさないでよ。だからね……」
「だから何だ?」
「だから丸く収めるために『お友達のところにお泊まりにいった』と言っておけば……」
乙女の突拍子もない言葉に龍弥は呆れる。
「俺、今、ちょっとだけ梅大路綾鷹に同情した。お前、無茶苦茶だな。この状況で丸く収まると思ってんの?」
「だから、拉致とか誘拐とかじゃなくて、ちょっと外出しましたにしたら……」
しどろもどろに言う乙女に龍弥が言う。
「当然、お前が物凄く叱られるだろうな。ほら、何をしても丸くなんて収まらない。だから、もう寝ろ! 起きているとろくなこと考えないみたいだからな」
まぁ、確かにそうだな、と乙女も思い直すと、「分かった。いろいろありがとう」と言って目を閉じる。
「――ん? ああ、まぁ、それもそうか」
龍弥が頭を掻き掻き「すまん」と素直に謝る。それにちょっと気を良くした乙女は身を起こし、「ねぇ」と言いながら「どうして親切なの?」と訊く。それに龍弥は「惚れたから」と笑いながら答える。
「また冗談ばっかり!」
「まぁ、そう思っておけ」
「ふーん。それよりいいの? こんなにペラペラ雇い主のことを話しても」
「仲間じゃないの?」と乙女が疑問に思い訊くと、肩を竦めて龍弥が涼しい顔で答える。
「さっきも言ったが、俺はお前を見張っていろと頼まれただけだ。与えられた金はその分だけ」
そして、目の前にあるローテーブルに腰を下ろすとニッと嗤った。
「お前と話すなと言われていないし、親切にするなとも言われていない。見張っていれば何をしていてもいいということだろう?」
どんな道理だと思いながら、この男は本当にお金にシビアな男だな、と乙女は妙な感心をする。
「で、ここはどこなの?」
「化け物屋敷」
龍弥がクッと唇の端を上げる。
「夜露卿のお屋敷?」
「流石、梅大路綾鷹の見合い相手だ。よく知っているな」
近々偵察に来るつもりだったが、と乙女はほくそ笑み、まさかこんな形で来るとは思ってもいなかった、ともう一度辺りを見回し、アンティークだが、豪華な調度品の数々もそれなら頷けると独り言ちる。
「それにしても、また、どうしてこんなところに?」
「俺が連れてきた訳じゃない。こんなおどろおどろしいところ、俺でもご免だ。だが……」
だが……どうしたというのだろう?
乙女の疑問に答えるように、龍弥がチッと舌打ちをする。
「蘭丸が乙女嬢を運び込んだのがここだったって訳」
ここなら見つからないと思ったから?
益々増える疑問に乙女は頭がパンクしそうになる。
「乙女嬢さんよぉ、まだ顔が青いぞ、横になれ。今は何も分からない。考えても無駄だ。それより薬が切れるまで眠った方がいい」
確かに、と乙女は納得すると素直に横になる。それを眺めながら龍弥が苦笑する。
「お前って、本当、警戒心ないな。いくら言われたからって男の前で寝転がるなよ……襲われるぞ」
寝ろと言ったり、寝転がるなと言ったり、「だったら座りながら寝ろというの!」怒り出す乙女に、「本当、お前って可愛いな」と言いながら乙女の頭をポンポンと軽く叩き、「俺は隣の部屋にいる」と立ち上がった。
「で、その蘭丸はもうここには来ないの?」
「いや、仕事を済ませたら来るだろう」
「仕事って?」
「俺もそこまでは知らない。ただ、今回の拐かしに関係することだろうよ」
拐かしという言葉で、自分は本当に拉致られたのだと乙女は実感する。
「――ねぇ、私の携帯電話知らない?」
さっきからキョロキョロと見回しているが、持っていたバッグも見当たらない。
「蘭丸が持って行ったんじゃないのか」
「貴方、電話貸して下さらない?」
「お前、馬鹿か! 貸すわけないだろ」
やっぱり。
「案外親切だから頼めば貸してくれると思って、ちょっと言ってみました」
「そんなことをしたら俺が捕まるだろ。そこまでお人好しじゃない」
龍弥が憮然とした顔で乙女を睨む。
「――だって、綾鷹様がね、遠出される前に『くれぐれもおとなしくしていること』と言って、執事とか女中頭に私のお守りを頼んで言ったの」
「お前、全然信用ないんだな。まぁ、分かるような気がする」
その様子にムッとしながら乙女がヤケクソのように言う。
「もし、私が拐かされたと知ったら……彼、凄く怒るわ」
「そりゃあ、そうだろうな。あいつ、怒るとメチャクチャ怖いんだぞ、知ってるよな」
綾鷹の真の怖さを知っている龍弥は悪寒を感じブルッと震える。
「もう! 脅かさないでよ。だからね……」
「だから何だ?」
「だから丸く収めるために『お友達のところにお泊まりにいった』と言っておけば……」
乙女の突拍子もない言葉に龍弥は呆れる。
「俺、今、ちょっとだけ梅大路綾鷹に同情した。お前、無茶苦茶だな。この状況で丸く収まると思ってんの?」
「だから、拉致とか誘拐とかじゃなくて、ちょっと外出しましたにしたら……」
しどろもどろに言う乙女に龍弥が言う。
「当然、お前が物凄く叱られるだろうな。ほら、何をしても丸くなんて収まらない。だから、もう寝ろ! 起きているとろくなこと考えないみたいだからな」
まぁ、確かにそうだな、と乙女も思い直すと、「分かった。いろいろありがとう」と言って目を閉じる。
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