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第七章 甘い誘惑
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「あとはミミに任せます。ミミ、乙女様を今風のお嬢様に仕上げて下さいね。では、失礼します」
「意外ですね……」パタンと閉まったドアを見つめながらミミが言う。乙女の同意見だった。
「今風のお嬢様って……いいのでしょうか? 由緒あるお茶会に?」
「紅子さんがいいと言うのだからいいのでは?」
「でしたら!」ミミの顔がパッと輝く。
「先日雑誌に載っていたモダンガールなお洋服に致しましょう」
「そんなのあったかしら?」
梅大路に来てからからというもの、洋服は全てオートクチュールだった。
それも堅苦しいものばかり!
「当然です! こんなこともあろうかと、密かに通販で買い揃えておりました。サンプル品ですので一点物ばかりです。誰かと被ることはありません」
ミミが鼻歌を歌いながらドレスルームのドアを開けた。
「さあさあ、こちらに」ミミが嬉々と乙女を誘いドレスルームの中をズンズン進む。
「こんな奥に入ったのは初めてだわ」
辺りを見回しながら、「これって全部私のお洋服なの?」と尋ねる。
「当然です」と答えるミミに、乙女はなんたる浪費と心の中で呟く。
そして、「これ何?」部屋の奥に到着した途端、乙女は目を丸くする。
そのコーナーだけ異様に変だったのだ。
ミミが苦笑しながら、「ほとんど綾鷹様からのプレゼントです」と言う。
「あっ、でも、こちらから半分は私が通販で揃えた物です」
「ミミの選んだのはいいとして、綾鷹様ったら何を考えているの?」
超ミニ丈のワンピースや下着のようなドレス……女給のような服もある。
「これを着て歩けと言うの?」乙女の眉間に皺が寄る。
「あっ、これらは全てご家庭で……そのぉ、綾鷹様の前だけで、着る物らしいです」
「何それ! ムッツリ助平! エロ爺?」
「――じゃなく、男のロマンとか仰せでした」
何がロマンだ! 「絶対に着ません!」乙女は強く言い切るとそこから目を逸らせた。
「で、今日の衣装はどれ? こちら側以外で!」
「あっ、そうですねぇ、私のお勧めは……」
ミミが手にしたのは、至極シンプルだが上品なフレアーワンピースだった。
「ブルー系もよろしいのですが、山吹色もお嬢様の白い肌に映えますので、チョイスしてみました」
柄もない単色のワンピースだが、小さな細工を施したボタンや上質のレースなど、サンプル品とは思えないほど丁寧な仕上がりだった。
「もしかしたらこれ、マダム・メープルのもの?」
「流石、乙女様、さようです」
「まぁ!」と乙女が目を輝かせる。
「彼女の作品って、滅多に手に入らないのに……どんな手を使ったの?」
「人聞きの悪い。ちゃんと正規のルートで入手致しました」
ミミがニヤリと笑う。
「実はですね、メイド仲間から教えてもらったのです。マダム・メープルのシークレットサイトを」
上流階級向けのドレスを得意とするデザイナーのマダム・メープルだが、ミミ曰く、「影で、働く女性のためのお洋服も作っておいでなのです」だそうだ。
「高位の方々の手前、大っぴらには宣伝していませんが、そのサイトでサンプル品を格安で分けてくれるのです。その売上金は養護施設などに寄付されているそうです」
「へーっ」と乙女は感心する。
「マダム・メープルってお洋服同様、素敵な方のようね」
「本当に。あっ、でも、雑誌のご本人のお写真。あれは当てにならないそうです。影武者だという噂があります」
「何それ凄くミステリアス」
でも、あの写真だって凄くピンボケだし……と思いながら、一度本人に会ってみたいものだと乙女の好奇心がウズウズする。
「お嬢様、いけませんよ。ご興味を持たれ会いに行く、なんて行為は!」
先手必勝とばかりにミミが注意する。
そう言えば、以前もこんな会話をしたなぁと乙女は化け物屋敷のことを思い出す。
まずはそちらからだわ、とほくそ笑み、「しないわよ!」今は、心の中で呟きニッコリ微笑む。
「どうだか!」とミミの生温かな目を受け、「しないったらしない!」と乙女がムキになる。
漫才のような二人のやり取りが続く中、乙女の準備は着実に進み、すっかりレディーに変身した乙女は國光の運転で有閑マダムのお茶会会場となる常磐邸に到着した。
「意外ですね……」パタンと閉まったドアを見つめながらミミが言う。乙女の同意見だった。
「今風のお嬢様って……いいのでしょうか? 由緒あるお茶会に?」
「紅子さんがいいと言うのだからいいのでは?」
「でしたら!」ミミの顔がパッと輝く。
「先日雑誌に載っていたモダンガールなお洋服に致しましょう」
「そんなのあったかしら?」
梅大路に来てからからというもの、洋服は全てオートクチュールだった。
それも堅苦しいものばかり!
「当然です! こんなこともあろうかと、密かに通販で買い揃えておりました。サンプル品ですので一点物ばかりです。誰かと被ることはありません」
ミミが鼻歌を歌いながらドレスルームのドアを開けた。
「さあさあ、こちらに」ミミが嬉々と乙女を誘いドレスルームの中をズンズン進む。
「こんな奥に入ったのは初めてだわ」
辺りを見回しながら、「これって全部私のお洋服なの?」と尋ねる。
「当然です」と答えるミミに、乙女はなんたる浪費と心の中で呟く。
そして、「これ何?」部屋の奥に到着した途端、乙女は目を丸くする。
そのコーナーだけ異様に変だったのだ。
ミミが苦笑しながら、「ほとんど綾鷹様からのプレゼントです」と言う。
「あっ、でも、こちらから半分は私が通販で揃えた物です」
「ミミの選んだのはいいとして、綾鷹様ったら何を考えているの?」
超ミニ丈のワンピースや下着のようなドレス……女給のような服もある。
「これを着て歩けと言うの?」乙女の眉間に皺が寄る。
「あっ、これらは全てご家庭で……そのぉ、綾鷹様の前だけで、着る物らしいです」
「何それ! ムッツリ助平! エロ爺?」
「――じゃなく、男のロマンとか仰せでした」
何がロマンだ! 「絶対に着ません!」乙女は強く言い切るとそこから目を逸らせた。
「で、今日の衣装はどれ? こちら側以外で!」
「あっ、そうですねぇ、私のお勧めは……」
ミミが手にしたのは、至極シンプルだが上品なフレアーワンピースだった。
「ブルー系もよろしいのですが、山吹色もお嬢様の白い肌に映えますので、チョイスしてみました」
柄もない単色のワンピースだが、小さな細工を施したボタンや上質のレースなど、サンプル品とは思えないほど丁寧な仕上がりだった。
「もしかしたらこれ、マダム・メープルのもの?」
「流石、乙女様、さようです」
「まぁ!」と乙女が目を輝かせる。
「彼女の作品って、滅多に手に入らないのに……どんな手を使ったの?」
「人聞きの悪い。ちゃんと正規のルートで入手致しました」
ミミがニヤリと笑う。
「実はですね、メイド仲間から教えてもらったのです。マダム・メープルのシークレットサイトを」
上流階級向けのドレスを得意とするデザイナーのマダム・メープルだが、ミミ曰く、「影で、働く女性のためのお洋服も作っておいでなのです」だそうだ。
「高位の方々の手前、大っぴらには宣伝していませんが、そのサイトでサンプル品を格安で分けてくれるのです。その売上金は養護施設などに寄付されているそうです」
「へーっ」と乙女は感心する。
「マダム・メープルってお洋服同様、素敵な方のようね」
「本当に。あっ、でも、雑誌のご本人のお写真。あれは当てにならないそうです。影武者だという噂があります」
「何それ凄くミステリアス」
でも、あの写真だって凄くピンボケだし……と思いながら、一度本人に会ってみたいものだと乙女の好奇心がウズウズする。
「お嬢様、いけませんよ。ご興味を持たれ会いに行く、なんて行為は!」
先手必勝とばかりにミミが注意する。
そう言えば、以前もこんな会話をしたなぁと乙女は化け物屋敷のことを思い出す。
まずはそちらからだわ、とほくそ笑み、「しないわよ!」今は、心の中で呟きニッコリ微笑む。
「どうだか!」とミミの生温かな目を受け、「しないったらしない!」と乙女がムキになる。
漫才のような二人のやり取りが続く中、乙女の準備は着実に進み、すっかりレディーに変身した乙女は國光の運転で有閑マダムのお茶会会場となる常磐邸に到着した。
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