145 / 170
第6章 再就職
13
しおりを挟む
「どうしてそんなこと言い切れるの?」
「理由は言えません」
いくら樫野チーフが西園寺オーナーの親友だからと言っても、やっぱり彼がひた隠しにしていることを本人の同意なしにバラすわけにはいかない。
頑なな私の態度に樫野チーフもとうとう「分かったわ」と深い溜息と共に降参した。
「でも、私が折れたとしても、綾時はきっと貴女を連れ戻すわ」
溜息を吐きたいのは私の方だ。樫野チーフは理由を知らないからそんな無責任な発言ができるのだ。
「――私だって、戻れるなら戻りたい――でも、無理なんです」
本音が零れる。
「だから、この話はこれでおしまい! 樫野チーフのお料理、食べさせて下さい。これで最後かもしれないし……」
持ったままだった箸をサーモンで作られた見事な薔薇に持っていく。
――こういうところだと思う。樫野チーフが海外で人気だったのは……。
味もさることながら、持って生まれた美的感覚もあったのだろう。とにかく彼の料理はどれも繊細で美しいのだ。
「チーフって天才ですね」
ポツリと呟く私の言葉に白戸さんが笑みを浮かべた。
「ああ、友宏は天才だ」
そう言いながら白戸さんが出し巻き卵を口に入れたその時、彼の頭上に吹き出しが現われた。
――これは!
そう、それは白戸さんと樫野チーフの出会いのシーンだった。
「理由は言えません」
いくら樫野チーフが西園寺オーナーの親友だからと言っても、やっぱり彼がひた隠しにしていることを本人の同意なしにバラすわけにはいかない。
頑なな私の態度に樫野チーフもとうとう「分かったわ」と深い溜息と共に降参した。
「でも、私が折れたとしても、綾時はきっと貴女を連れ戻すわ」
溜息を吐きたいのは私の方だ。樫野チーフは理由を知らないからそんな無責任な発言ができるのだ。
「――私だって、戻れるなら戻りたい――でも、無理なんです」
本音が零れる。
「だから、この話はこれでおしまい! 樫野チーフのお料理、食べさせて下さい。これで最後かもしれないし……」
持ったままだった箸をサーモンで作られた見事な薔薇に持っていく。
――こういうところだと思う。樫野チーフが海外で人気だったのは……。
味もさることながら、持って生まれた美的感覚もあったのだろう。とにかく彼の料理はどれも繊細で美しいのだ。
「チーフって天才ですね」
ポツリと呟く私の言葉に白戸さんが笑みを浮かべた。
「ああ、友宏は天才だ」
そう言いながら白戸さんが出し巻き卵を口に入れたその時、彼の頭上に吹き出しが現われた。
――これは!
そう、それは白戸さんと樫野チーフの出会いのシーンだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました
吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆
第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます!
かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」
なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。
そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。
なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!
しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。
そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる!
しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは?
それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!
そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。
奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。
※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」
※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」
後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~
碧野葉菜
キャラ文芸
古くからの暗殺家系、韻の者である翠玉(スイギョク)は、楊国の皇帝、暁嵐(シャオラン)暗殺の依頼を受ける。
任務遂行のため宮廷を襲撃した翠玉は、まさかの暁嵐に敗れ、捕らえられてしまう。
しかし、目覚めた翠玉を待っていたのは、死でも拷問でもなく……暁嵐からの溺愛だった――!?
「わしはお前が大層気に入った、どうせ捨てる命ならわしによこせ」
暁嵐の独断で後宮入りが決まった翠玉は、任務の相棒で旧友の凛玲(リンレイ)と再会を果たす。
暗殺失敗による依頼人の報復を阻むため、皇妃となった翠玉は依頼人探索に乗り出す。
皇帝暗殺を企てたのは誰か――?
暁嵐の熱烈な愛に翻弄されつつ、翠玉は謎を解き、真実に辿り着くことができるのか。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
裕也の冒険 ~~不思議な旅~~
ひろの助
キャラ文芸
俺。名前は「愛武 裕也」です。
仕事は商社マン。そう言ってもアメリカにある会社。
彼は高校時代に、一人の女性を好きになった。
その女性には、不思議なハートの力が有った。
そして、光と闇と魔物、神々の戦いに巻き込まれる二人。
そのさなか。俺は、真菜美を助けるため、サンディアという神と合体し、時空を移動する力を得たのだ。
聖書の「肉と骨を分け与えん。そして、血の縁を結ぶ」どおり、
いろんな人と繋がりを持った。それは人間の単なる繋がりだと俺は思っていた。
だが…
あ。俺は「イエス様を信じる」。しかし、組織の規律や戒律が嫌いではぐれ者です。
それはさておき、真菜美は俺の彼女。まあ、そんな状況です。
俺の意にかかわらず、不思議な旅が待っている。
わけありのイケメン捜査官は英国名家の御曹司、潜入先のロンドンで絶縁していた家族が事件に
川喜多アンヌ
ミステリー
あのイケメンが捜査官? 話せば長~いわけありで。
もしあなたの同僚が、潜入捜査官だったら? こんな人がいるんです。
ホークは十四歳で家出した。名門の家も学校も捨てた。以来ずっと偽名で生きている。だから他人に化ける演技は超一流。証券会社に潜入するのは問題ない……のはずだったんだけど――。
なりきり過ぎる捜査官の、どっちが本業かわからない潜入捜査。怒涛のような業務と客に振り回されて、任務を遂行できるのか? そんな中、家族を巻き込む事件に遭遇し……。
リアルなオフィスのあるあるに笑ってください。
主人公は4話目から登場します。表紙は自作です。
主な登場人物
ホーク……米国歳入庁(IRS)特別捜査官である主人公の暗号名。今回潜入中の名前はアラン・キャンベル。恋人の前ではデイヴィッド・コリンズ。
トニー・リナルディ……米国歳入庁の主任特別捜査官。ホークの上司。
メイリード・コリンズ……ワシントンでホークが同棲する恋人。
カルロ・バルディーニ……米国歳入庁捜査局ロンドン支部のリーダー。ホークのロンドンでの上司。
アダム・グリーンバーグ……LB証券でのホークの同僚。欧州株式営業部。
イーサン、ライアン、ルパート、ジョルジオ……同。
パメラ……同。営業アシスタント。
レイチェル・ハリー……同。審査部次長。
エディ・ミケルソン……同。株式部COO。
ハル・タキガワ……同。人事部スタッフ。東京支店のリストラでロンドンに転勤中。
ジェイミー・トールマン……LB証券でのホークの上司。株式営業本部長。
トマシュ・レコフ……ロマネスク海運の社長。ホークの客。
アンドレ・ブルラク……ロマネスク海運の財務担当者。
マリー・ラクロワ……トマシュ・レコフの愛人。ホークの客。
マーク・スチュアート……資産運用会社『セブンオークス』の社長。ホークの叔父。
グレン・スチュアート……マークの息子。
戦国主婦
三苦之一幸(sankunoissi)
キャラ文芸
主人公は、二児の母でぐーたらな専業主婦。
戦国時代へとタイムスリップ?いや、魂だけがあの有名な戦国大名へと入り込んでしまったのだ。
女性から男性へ。現代から戦国時代へ。
主人公は、主婦的発想で戦国の世を乗り切ることが出来るのか。
乞うご期待。
みえる彼らと浄化係
橘しづき
ホラー
井上遥は、勤めていた会社が倒産し、現在失職中。生まれつき幸運体質だったので、人生で初めて躓いている。
そんな遥の隣の部屋には男性が住んでいるようだが、ある日見かけた彼を、真っ黒なモヤが包んでいるのに気がついた。遥は幸運体質だけではなく、不思議なものを見る力もあったのだ。
驚き見て見ぬふりをしてしまった遥だが、後日、お隣さんが友人に抱えられ帰宅するのを発見し、ついに声をかけてしまう。
そこで「手を握って欲しい」とわけのわからないお願いをされて…?
後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~
絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。
※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる