上 下
120 / 170
第5章 解雇

17

しおりを挟む
「失礼な奴だな、と怒りたいところだが、この格好では致し方ないか」
「――その声は、もしや西園寺オーナー?」
「ああ。そうだ」

まさかまさかだった。

「変身後の王子役ではなかったのですか?」
「夏乃お嬢様の反乱よ」

答えたのは西園寺オーナーではなく樫野チーフだった。

どうやら、恋人宣言が相当お気に召さなかったらしい。いつもは女性陣だけに向けられる敵意が、今回は西園寺オーナーまで及んだのだという。

「全く、分かり易いお嬢様だわ」

樫野チーフが苦笑いを浮かべると、「子どもだからな」と西園寺オーナーが言う。
特殊メイクのせいで表情は分からないが、声の調子で面白がっているように思える。

もしかしたら、西園寺オーナーってコスプレ好き? 変な妄想が脳内を飛び交い、笑いが込み上げてきた。だが、「何を笑っている」と問う西園寺オーナーの声で我に返る。

「しっ、しかし、本格的なメイクですね」

誤魔化すように言うが、冗談ではなく本当に野獣その者に見える。

「ハリウッドから呼び寄せられた奴がやったからな」

呆れることに、そのメークアップアーチストは西園寺オーナーのためだけに飛んで来たのだという。

「開いた口が塞がらないか?」

呆ける私を西園寺オーナーは嗤うが……当たり前だ。なんたる無駄遣い!

「しかし、お前もそうやっているとまともに見えるな」
「まともって……失礼な!」

ムッとするが、寝転がったままの状態なので全然サマにならない。

そんな私を西園寺オーナーの顔が見下ろす。そして、ニッと意地悪な笑みを浮かべて「白雪姫は王子のキスで目覚めるんだったな」と言い、顔を近付けてきた。

「ちょっ、ちょっと何をするつもりです! ふざけないで下さい」

慌てて起き上がろうとするが、樫野チーフが「ちょっと待ったぁ!」と止める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

飛島ゆるりカフェ 平家の守護霊と悪霊退治はじめます

沖田弥子
キャラ文芸
失職した天藤蓮は、山形県の離島である飛島へやってきた。小学生の頃に気になっていた、不思議な店の正体を確かめるために。扉を開けるとそこは寂れたカフェ。美貌の店主に妙な珈琲を提供され、身の上話を聞かされる。なんと彼は、平清盛の九男・清光であるという。平安時代に壇ノ浦の合戦から逃れて飛島へ辿り着き、守護霊となったのだ。しかも彼は歴史上で失われた三種の神器のひとつである、天叢雲剣を所持していた。衝撃の事実に驚く蓮は金百両の借金を背負わされ、カフェで働くことになる。ところが廃墟のカフェを訪れるのは、一癖あるあやかしたち。ウミネコのあやかし兜丸や、妖狐の小太郎とともに、依頼された悪霊退治につきあうことになり――

【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜

四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】 応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました! ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. 疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。 ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。 大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。 とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。 自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。 店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。 それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。 そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。 「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」 蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。 莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。 蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。 ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. ※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。 ※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。

ブランリーゼへようこそ

みるくてぃー
恋愛
今王都で人気のファッションブランド『ブランリーゼ』 その全てのデザインを手がけるのが伯爵令嬢であるこの私、リーゼ・ブラン。 一年程前、婚約者でもあった王子に婚約破棄を言い渡され、長年通い続けた学園を去る事になったのだけれど、その際前世の記憶を取り戻し一人商売を始める事を決意する。 試行錯誤の末、最初に手掛けたドレスが想像以上に評価をもらい、次第に人気を広めていくことになるが、その時国を揺るがす大事件が起きてしまう。 やがて国は変換の時を迎える事になるが、突然目の前に現れる元婚約者。一度は自分をフッた相手をリーゼはどうするのか。 そして謎の青年との出会いで一度は捨て去った恋心が再び蘇る。 【注意】恋愛要素が出てくるのは中盤辺りからになると思います。最初から恋愛を読みたい方にはそぐわないかもしれません。 お仕事シリーズの第二弾「ブランリーゼへようこそ」

ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十
キャラ文芸
蒼井ミハエルは、外見は十一歳くらいの人間にも見えるものの、その正体は、<吸血鬼>である。人間の<ラノベ作家>である蒼井霧雨(あおいきりさめ)との間に子供を成し、幸せな家庭生活を送っていた。 なお、長男と長女はミハエルの形質を受け継いで<ダンピール>として生まれ、次女は蒼井霧雨の形質を受け継いで普通の人間として生まれた。 これは、そういう特殊な家族構成でありつつ、人間と折り合いながら穏当に生きている家族の物語である。     筆者より  ショタパパ ミハエルくん(マイルドバージョン)として連載していたこちらを本編とし、タイトルも変更しました。

初芝オーシャンズ2! 〜6人まとめてターゲット〜

もちお
キャラ文芸
変態教頭から親友・沙織を助け出してから一年。青春を謳歌する羽澄たちの前に、今度は学校転覆を目論む天才イケメン教師が現れた!? 頭脳明晰、容姿端麗な天才教師に、女子生徒たちはあの手この手で落ちていく。羽澄率いる初芝オーシャンズのメンバー達は、この危機を切り抜けて、自分たちの青春を守り抜くことはできるのか!?

冷たい貴方とそんな夢を見た

かれは
キャラ文芸
その日、ひみとけいはひみの家で遊びそのまま眠ってしまっていた。 なんでもない日々。 2人が目覚めるとそこは自分達の知っている世界とは違っていた。 街のあちこちが壊された戦場。 武装した兵士。 全てを破壊するロボット。 人間は人間だけの世界を築こうとしていた。 それに対するは不思議な力を持った人たち。 彼らは全ての生物を守る為に立ち上がる。 ひみとけいも共に行く。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

優等生≒劣等生

三日月
キャラ文芸
羨ましく思われがちな優等生の龍馬。 自業自得だと思われがちな劣等生の健人。 違うようで実はにている二人。 そんな二人は一つのいざこざから知り合い、仲良くなっていき絆を深めていく。 二人で助け合いながら楽しく過ごしていた。 だが、理不尽なこの世界で二人は様々な絶望を体験する。 そして最後には衝撃の結末が…

処理中です...