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第4章 美しい女性
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しかし……と頭の中のどこか奥の方から声が聞こえた。
『こんな美味しい話、ないんじゃない』と。
だが、すぐに頭を振る。
バカバカしい。美味しい? だが結婚だ。それも偽装結婚。
亡くなった両親がこの話を聞いたら……きっと悲しむ。それはできない。
だが、西園寺オーナーの要求を飲んだら……ずっとここにいられる。
しかし……だが……と天秤ばかりの左右で激しい葛藤が繰り返される。実に悩ましい案件だ。
うーんと唸りながら宙を見上げ――そうだ! ピカンと閃いた。
「結婚云々は横に置き、恋人としてお父上に会ったら、全てを反故にして、私を今すぐ正式に正社員にしてくれますか?」
「それは、年内に私の思い入れのある食べ物が見つけられない、ということか?」
フンと西園寺オーナーは鼻で笑ったが、「いいだろう」と承知した。
自分から提案しておきながらだが、西園寺オーナーの素直な反応にちょっと驚いた。どうやら彼もかなり切羽詰まっていたみたいだ。
「では、念書を頂きとうございます」
「予想どおりだ。そう言うと思った」
西園寺オーナーがデスクの引き出しからA四判の用紙を取り出した。
「読んでOKならサインをしろ」
それを受け取り、読み進め、目を見開いた。
「どういうことです? 私が提案した内容そのものじゃないですか」
「当たり前だ、交渉は相手の二手・三手先を見て進めなければ勝てない。お前の思いなどとうの昔にお見通しだ」
何て男だ! 唖然とする私に西園寺オーナーは、「だが、あの変な力だけは今以て分からない」と悔しそうに唇を噛んだ。
そんなの当然だ。私だって今以て分からないのだから……。
『こんな美味しい話、ないんじゃない』と。
だが、すぐに頭を振る。
バカバカしい。美味しい? だが結婚だ。それも偽装結婚。
亡くなった両親がこの話を聞いたら……きっと悲しむ。それはできない。
だが、西園寺オーナーの要求を飲んだら……ずっとここにいられる。
しかし……だが……と天秤ばかりの左右で激しい葛藤が繰り返される。実に悩ましい案件だ。
うーんと唸りながら宙を見上げ――そうだ! ピカンと閃いた。
「結婚云々は横に置き、恋人としてお父上に会ったら、全てを反故にして、私を今すぐ正式に正社員にしてくれますか?」
「それは、年内に私の思い入れのある食べ物が見つけられない、ということか?」
フンと西園寺オーナーは鼻で笑ったが、「いいだろう」と承知した。
自分から提案しておきながらだが、西園寺オーナーの素直な反応にちょっと驚いた。どうやら彼もかなり切羽詰まっていたみたいだ。
「では、念書を頂きとうございます」
「予想どおりだ。そう言うと思った」
西園寺オーナーがデスクの引き出しからA四判の用紙を取り出した。
「読んでOKならサインをしろ」
それを受け取り、読み進め、目を見開いた。
「どういうことです? 私が提案した内容そのものじゃないですか」
「当たり前だ、交渉は相手の二手・三手先を見て進めなければ勝てない。お前の思いなどとうの昔にお見通しだ」
何て男だ! 唖然とする私に西園寺オーナーは、「だが、あの変な力だけは今以て分からない」と悔しそうに唇を噛んだ。
そんなの当然だ。私だって今以て分からないのだから……。
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