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第1章 発端

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そんな子だったから、当然、クラスでは浮いた存在だったが、さりとて苛められた記憶もない。

今思うと皆から存在を認知されていなかったのだと思う。宇宙人とか幽霊みたいな? そんな曖昧で透明な存在だったのだろう。

それが『辛かったか?』と聞かれても、負け惜しみではなく『そうでもなかった』と答えるだろう。

学校は勉強をするところだと思っていたし、クラスには馴染めなかったが部室にはいられたし……何より私には“食べる”という行為があったからだ。

私は小さな頃から、『痩せの大食い』と両親が言うほどよく食べた。
味覚というものに非常に興味があったからだ。

そのうち、味覚を左右する基本五味(甘味・旨味・塩味・苦味・酸味)以外に、エッセンスみたいなもの? そんな作り手の“愛”を感じるようになった。

そして、料理に“愛”が加わらないと、真に美味な料理にならないことに気付いた。

料理人は『そんなのは当たり前だ』と言うだろう。でも、私はその“愛”が本物か否か食べればすぐ分かった。それを見極めることが面白くて、私は益々食に嵌まっていった。

おまけに、ある頃から思い入れのある食べ物を食べている人の頭上に、吹き出しを視るようになった。

――よく考えたら、それを初めて視たのは、あの古びた小さな食堂だった。そう、神田先生と一緒に入ったあの小さな食堂だ。

あの時、吹き出しが現われたのは神田先生の頭上だった。
先生が食べていたのは鯵フライ定食。それを注文したのは、その時、神田先生だけだった。

そう言えば、他の子はオムライスを頼んだのに、なぜか私はお握り定食を頼んだ。私もオムライスが大好きだったのに……。

でも、あのお握り定食は母の料理以外で、心から美味しいと思った初めての料理だった。
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