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第1章 発端
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「お願いです。私をここで働かせて下さい。何でもします!」
二十四年生きてきて、こんな必死に何かを誰かに頼んだことなど一度もない。だって、私はずっと『天才』と言われてきたから。就職活動以外は、願い乞わなくても自分の力で何でも叶えてきた。
「必死だな。どうしてここで働きたいんだ? 私がいるからか?」
『私がいる』とはどういう意味だろうと思ったが、とにかく即座に否定する。
「西園寺オーナー云々じゃなく……ここの賄いが絶対に美味しいと思ったからです!」
「はぁ?」と彼が思わずといったように間抜け面になる。だが、すぐ我に返り顔を引き締めた。
「私ではなく賄い? 君はこの私を馬鹿にしているのか? 意味が分からん!」
「いえ、全く! 本心です。私、賄いの美味しいお店で働きたいんです」
付き合いきれないというように、西園寺オーナーはフルフルと頭を振り、シッシッと犬でも追い払うように手を振った。
「帰ってくれ。これ以上無駄な時間を費やしたくない」
静かな声だが、態度に『今すぐ帰れ!』と明らかな拒絶の姿勢が窺えた。
「――だったら、あの男性が本当に無銭飲食の常習犯だったら、私をこの店で雇ってくれますか?」
尚も食い下がる私に、西園寺オーナーは鼻で笑った。
「それが本当だったら、私は君に謝罪をして正式に正社員として雇おう。但し、本当だったらの話だ」
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