紫音の少女 郷愁

柊 潤一

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向日葵の中で

ジャンヌお婆、紫音を占う

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「ささ、座ってくれい。いま、うまいお茶を入れるでな」

 居間に二人を招き入れたジャンヌお婆は、そう言って小ぶりの茶碗と急須と、大きめの器が乗ったお盆を持ってきた。

「これはな、こないだ手に入れたものなんじゃ。珍しいお茶じゃが美味いぞえ」

 ジャンヌお婆は沸騰したお湯を急須に入れ、急須をしばらく温めてから、そのお湯を茶碗に注いだ。

 そして濃い褐色の茶葉を急須に入れ、お湯を高い位置から注ぎ、蓋を乗せじっと急須を見ていた。

 ややあって頃合いよしと見たジャンヌお婆は、茶碗のお湯を器に捨て、急須から少しづつそれぞれの茶碗に注いでいった。

 最後の一滴を注いだジャンヌお婆は顔をほころばせて

「さあ、出来たぞえ」

 そう言って茶碗をそっと二人の前に置いた。

 まず、ジャンヌお婆が茶碗をつまみ、鼻の前で二・三度動かし香りを嗅いで

「うん。これじゃこれじゃ。ささ、お前たちも香りを嗅いでみやれ」

と言った。 

紫音とカレンお婆は茶碗を手に取ってお茶の香りを嗅いだ。

 そのお茶からは果実のような香りがした。

「これはほんに、良い香りじゃな」

「そうじゃろそうじゃろ。さぁ、飲んでみぃ」

 ジャンヌお婆はそう言って自分もひと口飲んだ。

「うん。いい具合じゃ」

 紫音達も続いてお茶をひとくち口に含んだ。

「おお、甘いのぉ。これはなんというお茶なんじゃ?」

 カレンお婆がたずねた。

「知らぬ。いや、聞いたが忘れてしもうた」

「なんじゃそりゃ」

「いや、このお茶はな、貰い物なんじゃ。昔から懇意にしとる旅の商人がおってな。そ奴の悩み事を占ってやったんじゃ」

「ほほお」

「暫くしてから、占ってもらったお陰で悩み事が解決した、いうてお礼に持ってきたんじゃ。その時に名前を言っとったが、うっかり忘れてしもうた」

「そうじゃったんか。いや、これはほんに美味い」

 そう言ってカレンお婆は最後の一口を飲んだ。

「さぁ、茶碗をかしやれ。あと二杯は飲めるでな」

「しかし、ほんにおぬしも珍しいものが好きじゃな」

「ああ、もともと好きというのもあるがな。わしみたいな商売をしとると、なんと言えばええかの、いつも気持ちをこう・・・ワクワクさせとかにゃいかん。心に張りがなくなるとな、何も見えんようになるんじゃ。お茶にしてもそうじゃ。神経を研ぎ澄ませて香りを楽しむ、味を楽しむ。それがいい刺激になるんじゃよ」

 ジャンヌお婆はそう言いながら、二杯目のお茶を作り始めた。

「ところでなジャンヌよ。おぬし前に珍しい芋のことを言っとったじゃろ」

「はて、なんじゃったかの・・・」

「おお、そうじゃ。ゆうたゆうた。それがどうかしたかえ?」

「その話を詳しく教えてくれんか。実はな・・・」

 カレンお婆はそう言って、新しい畑で作る作物を紫音が欲しがっていることを言った。

「なるほど。その話もな、さっき言った旅の商人から聞いた話なんじゃ。何でもあやつが商いに行った先におなじ旅の商人がおったんじゃと。そやつが旅先で甘くて美味しい芋を食べたと言うとったとな」

「どこにあるとかは言っとらんかったか」

「わしも聞いたが言わなんだ。じゃが、やつが商いに行くのはいつも東の方じゃから、それを食った商人はそこからもっと東から来たんじゃなかろうかの」

「紫音や、そういう事じゃがどうじゃ。役に立つかの」

「はい。だいたいの方角さえわかれば探せると思います」

「そうかえ。じゃ、まぁこの話はこれでええとして、ジャンヌよ、ひとつ頼みたいことがあるんじゃがの」

「なんじゃ、頼み事とは。カレンにしては珍しいの」

「うむ。実はな、この紫音を占ってやってほしいんじゃ。なにか心に引っかかっているものがあるらしい」

「ふむ・・・」
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