バースデーソング

せんりお

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楽しい時間はあっという間で、日付が変わった頃、会はお開きになった。

「来年はちゃんと来いよー」

「すごいことしてやるから楽しみにしとけ」

とか言いながらよく晴れた星空の下を帰っていくおっちゃんたちにありがとー、とか楽しみにしときますよ、と返して手を振った。
最後に店に残ったのは俺とニコラで俺はニコラにお礼を言って帰ろうとした。

「ニコラ、今日はほんとにありがとな」

そう言うとニコラは悪戯っぽく笑った。

「お礼はまだ早いかな」

そしていつの間にか手に持っていた包みを俺に手渡した。ポカンとする俺に更に笑みを深めて言う。

「誕生日プレゼント」

「あ、え、俺に?」

「他に誰がいるのさ」

優しい水色の包装紙を、破かないようにゆっくりと開けると中から、モスグリーンのマフラーが出てきた。広げて生地を撫でると、滑らかで手に馴染むさわり心地がとても気持ちいい。

「まだまだ寒いからね。歌手は風邪ひいちゃ駄目でしょ?」

そう言いながらさらっと俺の手からマフラーを取り首に巻いてくれた。近い距離に一瞬ドキッとするが、すぐ離れる。

「あったか…」

2月の冷え込む夜に、そのマフラーは意外なほどに温かかった。

「でしょ?」

ニコラがドヤ顔で笑う。

「うん。ありがとう」

温かさが嬉しくて俺は、首をすくめて顔を半分近くそれに埋めた。
なんとなく帰りがたくなって寒空の下を佇む。ニコラも店の中には戻らずに隣に立っていた。

「そういや、さ。なんで俺の誕生日知ってんの?」

言った覚えがなくて不思議だった。

「あー、それね。マルコさんに言われたんだよ。そういや明日はあいつの誕生日だったな、ってぼそっとさ。それで俺がパーティーを企画したって訳。確かネットで知ったって言ってたかな」

あの人ネットとか縁遠そうなのにねー、と笑うニコラに脱力する。

「あの人はほんっとに…いい人だよな」

だよね、とニコラはまだ笑っている。

「だからあんなに拗ねてたのか」

「そうそう」

くくっと笑うニコラに俺も笑いが込み上げてきた。ははっと声を出して笑う。

「あー、あの人誕生日いつなんだろう。絶対祝い返してやる」

「リサーチしとくよ」

笑いが収まらない俺たちの間を冷たい風が通り抜けた。それにニコラが軽く首を竦めたのを見てはっとする。ニコラは店に戻るから格好は部屋の中のままだ。

「じゃあ帰るわ」

名残惜しいけど別れの挨拶をして一歩踏み出そうとして、

「ニコラの誕生日っていつ?」

これだけ聞いて帰ろうと立ち止まる。
振り返った俺にニコラがおどけた表情になる。

「んー?秘密」

それに思わずえ?と声をあげた。

「秘密って、ここで秘密にする意味ある!?」

「あるある」

尚も冗談のように言うニコラ。でもその雰囲気から俺は今は言ってくれないだろうことを悟った。理由はまったくわからないけど。

「そのうち言ってくれるんだよな?」

「いつか、ね」

まあいっか、と俺は今度こそ歩き出した。ニコラがいつかって言うならいつか言ってくれるんだろう。それに、これ以上寒い中にいさせるわけにはいかないし。
少し行って振り返ると、ニコラはまだ店の前立っていた。早く入れよ、そういう意味で手を振ると向こうも手を降ってくれた。俺は前に向き直りながら温かい真新しいマフラーに自然と笑みの溢れる口元を隠した。









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