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番外編 先輩の恋人2 後輩side
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扉をくぐると、店内は木の温かみ溢れる内装だった。テーブルには数人客がいる。
「お、今日は空いてるな。ラッキー」
セルジオさんがそう呟きながら迷いなく真正面にあるカウンターに向かうので俺たちもそれにぞろぞろ続いた。
「よ!ニコラ、今日は後輩連れてきてやったぞ」
ひどく親しげにセルジオさんが声をかけた先はカウンターの中のいた、恐らく店主だろう男。
声に反応して顔を上げたその男の顔を見て俺は一瞬戸惑って目をしばたかせた。
「いらっしゃい。あれ?今日はチハル何も言ってなかったけど」
ニコラと呼ばれたその店主は、とても整った顔をしていた。金茶の髪に、たれ目気味の甘い顔立ち。…セルジオさんと並んでも遜色ないイケメン一般人っていたんだな。そんな失礼なことを考えかけて、俺ははっとあることに気づいた。メンバーも同じことに気づいたようだ。ベルナルドがカルロを小突いて、二人して首を傾げているのが視界の端に映る。
「あぁ。今日は言ってないんだ」
セルジオさんがにやっと笑って答える。
「上にいるけど、呼ぶ?」
「頼むわ」
指を天井に向けるジェスチャーとともに問いかけた店主にセルジオさんは頷いた。
上って、え?この店2階にも席あるのか?
っていうか呼ぶって誰を?
「おっけー。じゃあ適当なところに座ってて」
軽やかに階段を上がっていった店主を見送って、俺はセルジオさんに疑問を投げかけた。
「あのー、誰を呼ぶんです?」
「誰ってチハルだけど」
やっぱりさっきのは聞き間違いじゃなかった。でもなんで?
「チハルさんここにいるんですか?」
ベルナルドが聞く。
「あぁ、ここあいつの家だから」
さらっと放たれた言葉を一瞬聞き流しかけて、え!?と目を見開いた。
と、はあー!?という声が2階からここまで届いた。そしてすぐに慌ただしく階段を下りてくる音がする。
階段の入り口から勢いよく顔を出したのは、やっぱりチハルさんだった。
「セルジオ!お前なんでっ」
焦った表情でセルジオさんに詰め寄るチハルさん。セルジオさんはそんなことなどどこ吹く風、というように悠然と構えている。
「なんでって、美味しい店を後輩に紹介してやろうと思って」
「確かにここは世界一美味しい店だけど!だからってさ!」
「さすが、のろけか」
にやっと笑って言ったセルジオさんにチハルさんがはっとした表情をした。
「ありがと、チハル」
苦笑を浮かべながらゆっくりと階段を下りてきた店主がチハルさんの隣に立って言った。その瞬間チハルさんの顔が赤く染まる。
「っ、あーもう!」
チハルさんはその顔を隠すようにぐしゃっと髪をかき混ぜた。
「あのー」
少し会話が途切れた合間、控えめにカルロが声を出した。ここまで目の前で起こる状況に置いてけぼりだった俺たちはやっと説明してもらえそうだ。
「どういうことです?」
「あー、そうだな、うん。とりあえず聞きたいこと聞いてくれ」
チハルさんが俺たちのテーブルの空いていた椅子に腰をおろして諦めたように言った。
俺たちは顔を見合わせてから質問する代表を無言で押し付けあった。結果、無言の攻防に負けたのはメンバーのアランだった。
「あー、えーっと、チハルさんはここに住んでるんですか?」
真っ先に核心を突きにいったアランに内心称賛を送る。
「まあ、そうだよ。ここは俺の…家」
チハルさんも躊躇わずに答えてくれた。
…若干顔を赤らめているのが気になるけど。
「でもチハルさんってアパートで一人暮らしじゃなかったっすか?」
カルロが踏み込む。お前すげえよ。
「あー、最近引っ越したんだよ」
これには少し目をそらして答えるチハルさん。あれ?でもここはパブだ。じゃああの店主はどこに住んでるんだ?メンバーの顔にも疑問符が浮かぶ。すると横からセルジオさんがにやにやと悪い笑みを作りながら口を挟んだ。
「ニコラとな、シェアハウスしてんだよなー」
ニコラ、は確か店主の名前だ。ということはこの2階に二人で住んでいるということか。
「はぁ、シェアハウスですか…」
「そうそう。チハルがニコラに惚れこんじまってなー」
「っおい、セルジオ!」
チハルさんがセルジオさんにヘッドロックをかける。惚れこんで…え?俺たちの疑問符はますます増える。
「料理に!料理に、だからなお前ら!」
勢いよくそう言うチハルさん。痛い痛いとヘッドロックをかける腕を叩きながらもセルジオさんはその言葉に更に笑みを深める。
「まぁまぁチハル、落ち着いて」
ふっと楽しげな声が届いて、それとともにテーブルにビールのジョッキが人数分並んだ。
見ると、店主が柔らかに微笑んで立っていた。
「だってニコラ!こいつが!」
「後で聞いてあげるから、ね?」
店主に宥められてチハルさんは渋々といった様子でセルジオさんを解放した。が、その顔はまだしかめっ面でセルジオさんを睨んでいる。その様子に店主がふっと笑みを溢した。
「ご注文は何にしましょう?」
言いながらメニューを差し出されて反射的に受けとる。
メニューを他のメンバーに先に譲って、ふと店主を見るとその視線はチハルさんに向けられていた。それを見て目を見開く。なんというか、その視線が表情がとても優しいものだったからだ。…まるで愛しいものを見守るかのような。
「あっ!」
思わず声が出ていた。皆が驚いたようにこちらを見るのを手を振ってなんでもないと言う。でも内心はなんでもないことなんか全くなかった。
引っ越し、シェアハウス、惚れ込んだ、極めつけは二人の空気。
あぁぁ!そういうことかよ!!すべてに合点がいって俺は内心で手を打った。
チハルさんと店主は恋人同士だ、ということに気づけば後は簡単だ。なによりわかってしまえば二人の雰囲気はとても分かりやすく甘いものであることに気づかされていたたまれなくなった。
セルジオさんがなぜ俺たちをここに連れてきたのかは謎だ。それにこの関係に気づいてもいいものなのか、よくないのか…
とりあえず気づかないふりをしながら俺は内心で叫んだ。
みんな早く気づいてくれ!!それで俺のこの大好きなかっこいい先輩が甘やかされている、という状況に何とも言えない気持ちを共有してくれ!!!
「お、今日は空いてるな。ラッキー」
セルジオさんがそう呟きながら迷いなく真正面にあるカウンターに向かうので俺たちもそれにぞろぞろ続いた。
「よ!ニコラ、今日は後輩連れてきてやったぞ」
ひどく親しげにセルジオさんが声をかけた先はカウンターの中のいた、恐らく店主だろう男。
声に反応して顔を上げたその男の顔を見て俺は一瞬戸惑って目をしばたかせた。
「いらっしゃい。あれ?今日はチハル何も言ってなかったけど」
ニコラと呼ばれたその店主は、とても整った顔をしていた。金茶の髪に、たれ目気味の甘い顔立ち。…セルジオさんと並んでも遜色ないイケメン一般人っていたんだな。そんな失礼なことを考えかけて、俺ははっとあることに気づいた。メンバーも同じことに気づいたようだ。ベルナルドがカルロを小突いて、二人して首を傾げているのが視界の端に映る。
「あぁ。今日は言ってないんだ」
セルジオさんがにやっと笑って答える。
「上にいるけど、呼ぶ?」
「頼むわ」
指を天井に向けるジェスチャーとともに問いかけた店主にセルジオさんは頷いた。
上って、え?この店2階にも席あるのか?
っていうか呼ぶって誰を?
「おっけー。じゃあ適当なところに座ってて」
軽やかに階段を上がっていった店主を見送って、俺はセルジオさんに疑問を投げかけた。
「あのー、誰を呼ぶんです?」
「誰ってチハルだけど」
やっぱりさっきのは聞き間違いじゃなかった。でもなんで?
「チハルさんここにいるんですか?」
ベルナルドが聞く。
「あぁ、ここあいつの家だから」
さらっと放たれた言葉を一瞬聞き流しかけて、え!?と目を見開いた。
と、はあー!?という声が2階からここまで届いた。そしてすぐに慌ただしく階段を下りてくる音がする。
階段の入り口から勢いよく顔を出したのは、やっぱりチハルさんだった。
「セルジオ!お前なんでっ」
焦った表情でセルジオさんに詰め寄るチハルさん。セルジオさんはそんなことなどどこ吹く風、というように悠然と構えている。
「なんでって、美味しい店を後輩に紹介してやろうと思って」
「確かにここは世界一美味しい店だけど!だからってさ!」
「さすが、のろけか」
にやっと笑って言ったセルジオさんにチハルさんがはっとした表情をした。
「ありがと、チハル」
苦笑を浮かべながらゆっくりと階段を下りてきた店主がチハルさんの隣に立って言った。その瞬間チハルさんの顔が赤く染まる。
「っ、あーもう!」
チハルさんはその顔を隠すようにぐしゃっと髪をかき混ぜた。
「あのー」
少し会話が途切れた合間、控えめにカルロが声を出した。ここまで目の前で起こる状況に置いてけぼりだった俺たちはやっと説明してもらえそうだ。
「どういうことです?」
「あー、そうだな、うん。とりあえず聞きたいこと聞いてくれ」
チハルさんが俺たちのテーブルの空いていた椅子に腰をおろして諦めたように言った。
俺たちは顔を見合わせてから質問する代表を無言で押し付けあった。結果、無言の攻防に負けたのはメンバーのアランだった。
「あー、えーっと、チハルさんはここに住んでるんですか?」
真っ先に核心を突きにいったアランに内心称賛を送る。
「まあ、そうだよ。ここは俺の…家」
チハルさんも躊躇わずに答えてくれた。
…若干顔を赤らめているのが気になるけど。
「でもチハルさんってアパートで一人暮らしじゃなかったっすか?」
カルロが踏み込む。お前すげえよ。
「あー、最近引っ越したんだよ」
これには少し目をそらして答えるチハルさん。あれ?でもここはパブだ。じゃああの店主はどこに住んでるんだ?メンバーの顔にも疑問符が浮かぶ。すると横からセルジオさんがにやにやと悪い笑みを作りながら口を挟んだ。
「ニコラとな、シェアハウスしてんだよなー」
ニコラ、は確か店主の名前だ。ということはこの2階に二人で住んでいるということか。
「はぁ、シェアハウスですか…」
「そうそう。チハルがニコラに惚れこんじまってなー」
「っおい、セルジオ!」
チハルさんがセルジオさんにヘッドロックをかける。惚れこんで…え?俺たちの疑問符はますます増える。
「料理に!料理に、だからなお前ら!」
勢いよくそう言うチハルさん。痛い痛いとヘッドロックをかける腕を叩きながらもセルジオさんはその言葉に更に笑みを深める。
「まぁまぁチハル、落ち着いて」
ふっと楽しげな声が届いて、それとともにテーブルにビールのジョッキが人数分並んだ。
見ると、店主が柔らかに微笑んで立っていた。
「だってニコラ!こいつが!」
「後で聞いてあげるから、ね?」
店主に宥められてチハルさんは渋々といった様子でセルジオさんを解放した。が、その顔はまだしかめっ面でセルジオさんを睨んでいる。その様子に店主がふっと笑みを溢した。
「ご注文は何にしましょう?」
言いながらメニューを差し出されて反射的に受けとる。
メニューを他のメンバーに先に譲って、ふと店主を見るとその視線はチハルさんに向けられていた。それを見て目を見開く。なんというか、その視線が表情がとても優しいものだったからだ。…まるで愛しいものを見守るかのような。
「あっ!」
思わず声が出ていた。皆が驚いたようにこちらを見るのを手を振ってなんでもないと言う。でも内心はなんでもないことなんか全くなかった。
引っ越し、シェアハウス、惚れ込んだ、極めつけは二人の空気。
あぁぁ!そういうことかよ!!すべてに合点がいって俺は内心で手を打った。
チハルさんと店主は恋人同士だ、ということに気づけば後は簡単だ。なによりわかってしまえば二人の雰囲気はとても分かりやすく甘いものであることに気づかされていたたまれなくなった。
セルジオさんがなぜ俺たちをここに連れてきたのかは謎だ。それにこの関係に気づいてもいいものなのか、よくないのか…
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