バースデーソング

せんりお

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lumeの前に立つとまだ開店一時間前。冬の日は短く辺りが暗いから明かりがついているのがよくわかる。どうやらニコラは中にいるらしい。少し窓の中を覗き混んでみると人影が動くのが見えた。

「…え?」

思わず声が出た。人影が――1人分じゃない。二人いる…?
ニコラの影だろうものは判別出来た。そしてもう一人の影はニコラのものにほど近い。どうやら隣に並んで座っているような感じだ。固まっている俺に中の声が聞こえてきた。

「ニコラもだいぶ上手くなったね。これなら大丈夫だよ」

「そ?ルカのおかげだよありがとう」

ルカ!?中にいるのはルカさんなのか!?

「っていうかルカまた香水つけてるでしょ。移るから止めてって言ったのに」

「いいじゃん。そうわかるもんでもないでしょ?」

「わかるよ!この前指摘されたんだから」

「あー恋人君に?」

ルカさんがくすくすと笑う声が聞こえる。俺の頭は真っ白だった。この間ニコラから嗅いだシトラスの匂い。あれはもしかしてルカさんから移った香水…?ニコラはあの時そのシトラスの匂いを柔軟剤だと言った。でもそれはほんとなのか?もしルカさんからの移り香だったとしたら二人は匂いが移るほど近くにいた…?

親しげな二人の会話がふっと途切れた。

「もうこんな時間か」

「もう開店でしょ?バレないように帰るね」
 
「うん。毎日ごめんね」  

「料理のお礼だからね」
 
ルカさんが出てくる気配がして俺は慌てて扉の前から踵を返した。早足がいつの間にか駆け足に変わる。ここでルカさんとニコラに会って冷静でいられる自信がなかった。

走りながら俺は混乱の絶頂にいた。二人の会話がぐるぐると頭の中を回る。
昼間にいたルカさん、誤魔化された香水、バレないようにという言葉。

「っばか野郎…」 

ここまで揃ってしまえば誰だって最悪のほうに思考が向かう。
こんなの…ルカさんとニコラの仲なんて疑いたくなかったのに…!




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