バースデーソング

せんりお

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イタリアに帰って来て。俺は自宅とlumeを行き来する日々を送って、毎日ニコラの料理を食べて、ニコラに会えて幸せでしかない日々。

――の、はずだったのに、俺はもやもやとしたものを抱えていた。


ニコラと目が合えば必ずにこっと微笑まれる。俺の好物をたくさん作ってくれる。
マルコさんたちからも呆れられるほど相変わらず彼は甘い。

でもニコラに昼間は会えないと、言われてしまった。

「ごめんね、最近昼間は用事とか料理の開発とかでほったらかしになっちゃうから。1週間だけほんとにごめんね」

帰ってきた日の帰り際にそう言われた。

「え、あぁ。うん、わかった」

ほんとに申し訳なさそうな顔でそう言うニコラに、構ってくれなくていいから傍にいたいよ、なんて言えなくて俺は頷いただけだった。でもほんとはそれが心にずっと引っ掛かっている。俺のことを考えてくれたのかもしれないけど、少し寂しい。

「…なんでもいいから一緒にいたいのは俺だけなのかな」

はぁーっとため息混じりにそう溢す、と向い合わせのセルジオがあぁぁぁと髪の毛をぐしゃぐしゃにした。

「あぁぁ!辛気くさい!!」

ニコラに来るなと言われた1週間の内、5日目。寂しさを持て余した俺はとうとうセルジオの家に転がり込んでいた。
アメリアさんは昼間は仕事でいないのをいいことに遠慮なく上がり込んだ。

「だって…最近ニコラから近寄ってきてくれないし、抱き締めてくれないんだよ!?避けられてる…」

机に突っ伏してぐちぐちと不安を口にしていると後頭部をすぱーんとはたかれて涙目になる。

「寂しいのはわかったけど俺ん家でまぎらわすのやめろ!そのニコラってやつのとこ行ってこい!」

「だって来るなって言われた…」

「構えないって気を使われただけだろ?そんなの気にしないよ!とか言って行けよ!」

「んんん」

それが出来ないからここでうじうじしてるのに!だって来るなとか言われたらやっぱり不安になる。それにどこか避けられてるように感じるのだ。俺にほんとに来てほしくないのかな、とか嫌われたのかな、とか。ニコラに限ってそんなことないって信じてるのに、そう思ってしまう自分が嫌で負の無限ループ。

「ったくよー、やっと彼氏が出来たと思ったらとんでもないバカップルで、そんで今度はこれだよ…世話の焼ける」

セルジオに呆れたように言われて身を縮めた。

「…ごめんセルジオ。俺、迷惑」

「バカ。迷惑とか思ってねーよ」

今度はため息をつかれた。

「どんどんネガティブ思考にずぶずぶ嵌まっていくのは性格なのかねー。どうせ俺には好かれるような要素なんてないし…とか考えてんだろ?」

思考を言い当てられてギクッとした。固まった俺の髪をセルジオがぐしゃっとかき回した。

「図星か。…おい、そこに直れ」

急に地を這うように低くなった声に俺は慌てて姿勢を正した。え、え?なんでセルジオ怒ってんの!?

「お前はバカか?」

「は、え?」

「ここでうじうじしてたって解決になんねーだろ」

「…」

「返事は!」

「は、はい!」

「もやもやしたままだと今後に引きずるぞ」

「っやだ!」

「じゃあどうすんだ?」

「…」

「どうすんだ!」

「っ行ってきます」

「よろしい」

鬼軍曹!!内心涙目になりながらも正論のセルジオに逆らえるはずもなく、俺はlumeへ向かうことになった。渋々という風に家を出る俺に後ろからセルジオが

「当たって砕けてこい」

と容赦ない言葉をかけてきて今度こそ俺は涙目になった。

「不吉なこと言うなよ!」

「大丈夫だろ。お前らみたいなバカップル」

しれっとそう言うセルジオを睨み付ける。

「当たって不安だけ砕いてこい」

そんな台詞と共に優しくそう微笑まれて俺は玄関の扉をバン、と勢いよく閉めてセルジオの家を出た。扉にもたれて天を仰ぐ。

「…なんだあいつイケメンかよ」

いや、紛れもなくイケメンだけども。
俺のことを心配してくれている親友はうじうじしている俺を送り出してくれた。容赦ない言葉の後に優しい言葉。まさに飴と鞭。

「まあでも…」

よしっと声を出して歩き出す。せっかく背中を押してくれたのに無駄には出来ない。セルジオの最後の言葉で、なけなしの勇気ゲージは満タン。
ちゃんとニコラに会いたいって伝えよう。

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