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夜の校舎はなんとなくひんやりしている。
スマホのライトで辺りを照らしながら教室に進む。1年の教室は2階にあり、三咲のクラスは更に奥のほうにある。なんとも奇妙なメンバーで学校の廊下を進む。委員長と結城先輩が前を歩き、俺と三咲が後ろをついていく構図だ。ちらっと三咲を見ると、辺りを怖々と見渡しながらも、結城先輩を意識しているのが丸わかりで、なんだか俺まで照れてしまいそうだ。せっかくだから話しかければいいのに、と思うが結城先輩は委員長と話しており、これでは三咲が話しかけることは出来ない。しょうがない、二人きりにしてやるか。友人の恋路を応援すべく、頭に浮かんだ作戦を実行する。作戦と言っても至極単純なものだが。
前を歩いている風紀委員長の服をちょいちょいと引っ張ると、すぐに振り向いてくれた。
「ん?どうした?」
『図書室に行きませんか?』
文字を打ち込んだ画面を向ける。それを読んだ先輩と目を合わせて、三咲と結城先輩の方を目線で示す。何が言いたいかわかってくれたようで、すぐに頷いてくれた。面白そうに口角が上がっている。
「夜の図書室ってのも面白そうだな。行くか。結城、俺たちは図書室に行ってくるから用事が済んだら入ってきた玄関集合で頼む」
「ああ。わかった」
「えっ、木南!?」
『じゃ、そういうことだから』
慌てる三咲に、にやっと笑ってみせると意図を理解したのだろう。真っ赤になった。結城先輩に話しかけられてあたふたしているのを尻目に二人と別れる。図書室は三咲の教室とは反対側で且つ3階にある。近くにあった階段を上がると、二人の声はすぐに聞こえなくなった。明かりも二人分減って、辺りは一気に暗闇に包まれる。
『すいません。こんなことに付き合ってもらっちゃって』
「いや、俺も楽しんでるし構わない。三咲は結城のことが好きなのか?」
『そうみたいです。焦れったいんで二人きりにしてみようと思って』
「ははっ、進展があればいいけどな」
『結城先輩の気持ちがわからないんでなんとも……』
「三咲は結城のタイプだと思うけどな。小動物系の可愛いやつ。確か料理も出来るんだろ?」
その言葉に隣を見上げると、委員長は本当だというふうに頷いて笑った。へぇ、結城先輩は三咲みたいな可愛くて料理が出来るタイプなのか。どんぴしゃじゃないか。後で三咲に教えてやろう。というか、
『委員長、三咲のことちゃんと可愛いって思ってたんですね』
「ふはっ、ちゃんとってなんだ。あいつはどう見ても小動物だろ。お前は反対に……美人な猫みたいだな」
ふいに委員長から褒められて心拍数が一気に上がる。必死に取り繕ってジト目で見上げると、柔らかく細められた委員長の視線に出会って余計に心拍数が上がった。いや、意味がわからない。なぜ上がる俺の心拍数が上がるんだ。またSub性が喜んでいるのか。だったら抑えないとまずい。
『猫って!先輩もネコ科の猛獣っぽいじゃないですか!クロヒョウみたいな』
「俺がクロヒョウ?ははっ、光栄だな」
どこまでも余裕な委員長にどうにかして焦らせてやりたいと思う。でもその会話の間になんとか心を落ち着かせることは出来たので、よしとする。それにちょうど図書室にも到着した。
ガラガラと扉を開けながら委員長が俺の方を向く。
「建前上何か借りて帰らないとだが、何か木南のおすすめはあるか?」
『あ、じゃあ持ってきます。委員長のおすすめもあれば読んでみたいです』
「ん。じゃあ俺も探してくる。また入り口集合で」
ライトの光が2つに別れる。委員長は迷いない足取りで棚の間に入っていった。俺も数列離れた通路に入る。静かな空間に、二人分の足音が響いている。俺が止まっても委員長の足音が聞こえる。言いようのないくすぐったさを感じて口元が緩んだ。
目当ての本を見つけて、入口の方へ戻る。手に取ったのは海外のファンタジー小説。ドイツのものだ。英語にしか翻訳されていないものだが、委員長なら読めるだろう。
扉の前には既に委員長が立っていた。待たせてしまったので、小走りに近づく。
「あったか?」
頷いて答えて、手に持っていた本を差し出す。豪華な装長に、美しい飾り文字。委員長の手に本が渡る。長い指がそっと表紙を撫でた。入れ替わりに委員長から本を受け取る。緑色の少し古びた表紙。
もと来た廊下を歩きながら本の内容について尋ねる。
『どんな本なんですか?』
「んー、ジャンルで言うとミステリーだな」
ふんふんと頷きながらページをパラパラ捲ってみていたが、細かい文章が目に入らないようにすぐにパタンと閉じる。ミステリーはネタバレ厳禁だ。
「これは?どんな本なんだ?」
『ファンタジー小説です。普段あんまり読まないんですけど、普通に面白い上に設定がとても珍しくて』
「設定?」
『はい。ダイナミクスがない世界っていう設定で』
「…へぇ」
委員長の指がまたすぅっと表紙を撫でた。
俺はこの小説を読んで、とても羨ましいと思った。何にも囚われない世界。委員長はどう思うのだろうか。それが気になってこの本を選んだ。ちらっと見上げると委員長は手に持った本を眺めていた。何を考えているのかわからない静かな表情になぜかざわつきを感じた。
スマホのライトで辺りを照らしながら教室に進む。1年の教室は2階にあり、三咲のクラスは更に奥のほうにある。なんとも奇妙なメンバーで学校の廊下を進む。委員長と結城先輩が前を歩き、俺と三咲が後ろをついていく構図だ。ちらっと三咲を見ると、辺りを怖々と見渡しながらも、結城先輩を意識しているのが丸わかりで、なんだか俺まで照れてしまいそうだ。せっかくだから話しかければいいのに、と思うが結城先輩は委員長と話しており、これでは三咲が話しかけることは出来ない。しょうがない、二人きりにしてやるか。友人の恋路を応援すべく、頭に浮かんだ作戦を実行する。作戦と言っても至極単純なものだが。
前を歩いている風紀委員長の服をちょいちょいと引っ張ると、すぐに振り向いてくれた。
「ん?どうした?」
『図書室に行きませんか?』
文字を打ち込んだ画面を向ける。それを読んだ先輩と目を合わせて、三咲と結城先輩の方を目線で示す。何が言いたいかわかってくれたようで、すぐに頷いてくれた。面白そうに口角が上がっている。
「夜の図書室ってのも面白そうだな。行くか。結城、俺たちは図書室に行ってくるから用事が済んだら入ってきた玄関集合で頼む」
「ああ。わかった」
「えっ、木南!?」
『じゃ、そういうことだから』
慌てる三咲に、にやっと笑ってみせると意図を理解したのだろう。真っ赤になった。結城先輩に話しかけられてあたふたしているのを尻目に二人と別れる。図書室は三咲の教室とは反対側で且つ3階にある。近くにあった階段を上がると、二人の声はすぐに聞こえなくなった。明かりも二人分減って、辺りは一気に暗闇に包まれる。
『すいません。こんなことに付き合ってもらっちゃって』
「いや、俺も楽しんでるし構わない。三咲は結城のことが好きなのか?」
『そうみたいです。焦れったいんで二人きりにしてみようと思って』
「ははっ、進展があればいいけどな」
『結城先輩の気持ちがわからないんでなんとも……』
「三咲は結城のタイプだと思うけどな。小動物系の可愛いやつ。確か料理も出来るんだろ?」
その言葉に隣を見上げると、委員長は本当だというふうに頷いて笑った。へぇ、結城先輩は三咲みたいな可愛くて料理が出来るタイプなのか。どんぴしゃじゃないか。後で三咲に教えてやろう。というか、
『委員長、三咲のことちゃんと可愛いって思ってたんですね』
「ふはっ、ちゃんとってなんだ。あいつはどう見ても小動物だろ。お前は反対に……美人な猫みたいだな」
ふいに委員長から褒められて心拍数が一気に上がる。必死に取り繕ってジト目で見上げると、柔らかく細められた委員長の視線に出会って余計に心拍数が上がった。いや、意味がわからない。なぜ上がる俺の心拍数が上がるんだ。またSub性が喜んでいるのか。だったら抑えないとまずい。
『猫って!先輩もネコ科の猛獣っぽいじゃないですか!クロヒョウみたいな』
「俺がクロヒョウ?ははっ、光栄だな」
どこまでも余裕な委員長にどうにかして焦らせてやりたいと思う。でもその会話の間になんとか心を落ち着かせることは出来たので、よしとする。それにちょうど図書室にも到着した。
ガラガラと扉を開けながら委員長が俺の方を向く。
「建前上何か借りて帰らないとだが、何か木南のおすすめはあるか?」
『あ、じゃあ持ってきます。委員長のおすすめもあれば読んでみたいです』
「ん。じゃあ俺も探してくる。また入り口集合で」
ライトの光が2つに別れる。委員長は迷いない足取りで棚の間に入っていった。俺も数列離れた通路に入る。静かな空間に、二人分の足音が響いている。俺が止まっても委員長の足音が聞こえる。言いようのないくすぐったさを感じて口元が緩んだ。
目当ての本を見つけて、入口の方へ戻る。手に取ったのは海外のファンタジー小説。ドイツのものだ。英語にしか翻訳されていないものだが、委員長なら読めるだろう。
扉の前には既に委員長が立っていた。待たせてしまったので、小走りに近づく。
「あったか?」
頷いて答えて、手に持っていた本を差し出す。豪華な装長に、美しい飾り文字。委員長の手に本が渡る。長い指がそっと表紙を撫でた。入れ替わりに委員長から本を受け取る。緑色の少し古びた表紙。
もと来た廊下を歩きながら本の内容について尋ねる。
『どんな本なんですか?』
「んー、ジャンルで言うとミステリーだな」
ふんふんと頷きながらページをパラパラ捲ってみていたが、細かい文章が目に入らないようにすぐにパタンと閉じる。ミステリーはネタバレ厳禁だ。
「これは?どんな本なんだ?」
『ファンタジー小説です。普段あんまり読まないんですけど、普通に面白い上に設定がとても珍しくて』
「設定?」
『はい。ダイナミクスがない世界っていう設定で』
「…へぇ」
委員長の指がまたすぅっと表紙を撫でた。
俺はこの小説を読んで、とても羨ましいと思った。何にも囚われない世界。委員長はどう思うのだろうか。それが気になってこの本を選んだ。ちらっと見上げると委員長は手に持った本を眺めていた。何を考えているのかわからない静かな表情になぜかざわつきを感じた。
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