絶対に好きにならないと決めたのに。

流雲青人

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 放課後、下駄箱へと向かえばそこには伊織の姿があった。
 伊織は時雨を見るなり、へにゃりと笑う。

 「案外早かったね。もしかして走ってきてくれた?」

 伊織の言葉にドキッとした。
 何故なら図星だったからだ。
 待ってると言われた以上待たせてはいけないと思い時雨はホームルームが終わると直ぐに教室を飛び出し走って来たのだ。

 誰も居ないのを確認し、時雨は頷く。
 上履きから外履きに履き替え、伊織の隣に並んで校門を出た。
 少し速足になってしまっているのは焦りと不安のせいである。

 保育園へと続く道へ曲がれば時雨は安堵したのか歩くスパードが遅くなった。

 「もうすぐ夏休みだね。時雨ちゃんは予定とかあるの?」

 「今の所は家の手伝いぐらいです」

 「そっか。俺は勉強漬けになるのかなー」

 「受験生ですもんね、槙野先輩」

 「だね。けど、一年生だってもう進路先を決めろ、みたいな話あってるんじゃない?」

 心当たりがありすぎる言葉だった。
 まだ一年生なんだから、と愚痴を吐く者も居る。
 将来なんてまだ決まってない。そんな者だって居る。

 時雨は足を止めた。
 そんな時雨に伊織が「どうしたの?」と声を掛ける。

 「実は私、将来のことで悩んでて……」

 「うん」

 「家が和菓子屋なんです。将来は私が継ぐって皆は思ってるみたいなんですけど……私にそんな重大な務めが出来るようには思えないんです」

 「どうして?」

 「私、駄目なんです。どうしても人の顔色を伺ってハッキリと自分の意見を言えなくて。それに……自分に自信が持てないんです」

 幼い頃から夢は家を継ぐことだと言ってきた。
 とは言ってもそれは周囲からの期待を裏切らないためだった。
 けれど特にやりたいと思う事も無い。
 まだ家を継ぐだなんてそんな話は早い、と自分に言い聞かせてきた。けれどもう高校生にもなってしまえば考えたくなくても考えなけらばいけない。もう現実から逃げられないのだ。
 あんこは家を継ぐことを嫌がっている。なにせ彼女は和菓子が大嫌いなのだから。

 伊織と時雨以外誰も居ない帰り道。
 少しの沈黙が続いた。

 生暖かい風が吹き、髪を揺らした。


 「自分に自信が持てないの、凄く分かる。だって俺もそうだから」

 ニコリと微笑む伊織に時雨は驚いた。
 なにせ伊織は皆からの人気者だ。
 だからそんな意外な言葉が彼の口から出るだなんて誰が思っただろうか。

 「大好きだったバレーを辞めたのも自信が無くなったからなんだ。けど、今思うと後悔だけしか残ってない。もう一度ボールを触りたい、っていつも思ってる」

 「……どうして自信が無くなっちゃったんですか?」

 踏み込み過ぎているのは分かっていた。
 けど、知りたくなったのだ。

 「中二の時にいろいろ家庭であって、それでかな」

 「そう、ですか」

 それ以上は聞けなかった。
 一歩勇気をだして踏み込んでみたものの、結局後退りをしてしまった。

 寂しそうな、そんな瞳の伊織に気づけば時雨は手を伸ばしていた。
 けれどその手は宙に浮いたまま結局は届かなかった。
 だらりとだらし無く落ちる腕。
 時雨は小さく息を吐いた。

 「自分に自信を持つ方法は俺にもよく分からないけど。そこで時雨ちゃん。今週の土曜日、暇?」

 「た、多分?」

 「じゃあさ、一緒に出掛けない?」

 突然のお誘いに時雨は目を見開いた。
 なにせ異性からの遊びのお誘いなんて初めてだったからだ。

 「え、でも……!」

 「予定無いんだよね?」

 「そ、そうですけど……!」

 「ならいいでしょ? あ、メアド交換しない?俺、ガラケーだからさ」

 「え、えぇ!?」

 遊びのお誘いに、次はメアドの交換。
 次から次へと起こる有り得ない状況に頭が着いていかない。
 何故学校の人気者、槙野伊織に遊びに誘われ、そしてメアドを交換しているのか……。 

 結局流されるまま遊びの誘いを承諾し、メアドまで交換してしまった。

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