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3章
最終話 ①
しおりを挟むアンジェの行ってみたい所リストを作り終えたユアは、その場所を地図と照らし合わせながら苦笑を浮かべていた。
「こんなに多く一人で回っても詰まらないよ」
そう小さくユアが呟いた時だった。
コンコン
扉をノックする音が部屋に響く。
ユアが「どうぞ」と返せば、そこに居たのはリディスだった。
「確か君はアンジェの…」
「専属医師であり薬師のリディスと言います。お話があってきました」
そう言ってユアを見つめるリディスの瞳には、悲しみの色は浮かんでいない。
ただただ現実を受け入れた様な……そんな決心の着いた顔をしていた。
「僕に話?」
「………アンジェの事です。きっと一人で消えていってしまいそうな気がしたので会いに来たんです」
リディスの言葉にユアは一瞬目を見開く。
それと同時に、肩を竦め、心の中でアンジェに語り掛けた。
…お見通しみたいだよ、と。
「君の言う通りだよ。アンジェは一人で旅立とうとしてる」
「………本当にアンジェはもう助からないんですか?」
リディスの問いに、ユアは俯くことしか出来なかった。
二人の間に長い沈黙が走る。
ユアは静かに机の上に置いておいたメモ帳に手を伸ばす。
そしてそれをリディスへと見せると、苦笑を浮かべながら言った。
「此処、全部行ってみたいんだって」
「多すぎじゃないですか?」
「ね。けど、全部行ってみようと思う。僕に出来ることなんてそれくらいだから」
なんて切なさそうに、ユアは笑った。
それから数時間。
リディスはとある手伝いをしていた。
その手伝いとは…。
「助かったよ。これで安心して旅立てる」
ユアは荷物をつめたトランクを見て、満足気に微笑む。
そして
『リディス。今までありがとう』
そう………アンジェが確かに言ったのだ。
その次の瞬間、アンジェの体からキラキラと輝く淡い一粒の光が現れた。
その光は、まるでリディスにさようならを告げるかのように、クルリとリディスの周りを一周すると、空へと飛んで行った。
リディスの瞳から大粒の涙が溢れ出す。
それからその場に崩れ落ち、唇をかみ締め、涙を流した。
ユアはそんなリディスを目に入れないよう、静かに窓から外へ飛び出した。
瞬間移動魔法を使い、ユアはすぐ様王国を飛び出した。
そして、アンジェの行きたい所リストを開き、地図と照らし合わせると、まずはアンジェが大好きなノーニアス……いや、レベッカ先生の初作品の舞台となった魔法学校へと足を向けた。
そして月日は流れ、フローラの誕生日当日。
アンジェと初めて出会った時とはまるで別人の様な……美しく可憐で、凛々しい女性となったフローラがそこには居た。
「アンジェ。見ててね」
そう小さくフローラは呟くと、パーティ会場へと向かった。
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