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3章
封印
しおりを挟む 課長のもと、5日間指導を受けただけだったが、元々課長は管理職でありながら成績トップの営業マンでもあった為、そろそろ本来の職に戻したいと、今日の朝礼で部長からお達しがあった。
「私は今日から外回りだ。鈴原、分からない事があったら小川さんに聞いて。それでも解決しない時は私に電話して。」
「…はい。承知しました。」
「…どうした?不安か。」
「…はい、正直言って不安です…。」
「鈴原、5日間しかお前を見ていないが、大丈夫だと思うぞ。自信を持てよ。」
「…え?」
「何回も言わすなよ。鈴原、分からないければ聞けばいいんだ。自信を持ってやれ。」
「課長…。はい!」
優しく微笑んで…はくれなかったが、自信を持てと励ましてくれた。課長の貴重な時間を5日間も貰って勉強したのだ。期待に応える為にやってみよう、と頷いた。
・・・
課長は、外回りに出るともう、その日に成果を持ってきた。大口の運送業者の新規契約だ。
(すごい…。前から追っていたにしても。)
私は、というと、電話応対や見積書の作成、会議の資料作りに、一日奮闘する事になった。
これはどうだったっけ、と思い、ノートを見ると、的確な回答が自分の字で書き込んであった。そういう事が何度かあり、実践に役立つ事を教えてくれていたのだな…と感嘆した。
(スーパーマンみたいな人だな…。面接の時みたいにまた笑いかけて欲しいよ。)
ふぅ。と伸びをしてデスクを片付けた。
・・・
独り立ちして数日たち、いつもの業務をこなしていると、電話が鳴った。
「お電話ありがとうございます。岡崎コーポレーションの鈴原でございます。」
「もしもし?今アウディで事故っちゃってさ、うちの担当、誰だっけ?電話するように言って?」
「かしこまりました。大変でございましたね。それではお電話番号を…」「頼むね。」
ガチャ。ツーツーツー…
「お客様?…お客様?」
自分の顔色がサーっと青くなるのを感じた。ナンバーディスプレイには電話番号の表示はない。
(どうしようー?お客様の名前も担当者の名前も何も分からない…。)
小川さんに事情を話してはみたが、何も分からないのではお手上げだと言う。お客様は待っているというのに。
怒られそうだが、課長に指示を仰ぐ事にした。
「お疲れ様です、課長、今お電話大丈夫ですか?」
「ああ、平気だが?」
「実はアウディで事故を起こしたと電話が入ったのですが、担当者の名前もお客様の名前も仰らず切ってしまわれて…。どうしたらいいでしょう?」
「…。鈴原?アウディでって言ったのか?」
「はい。それだけしか…。」
「もしかしたら、向田運送の向田社長かもしれない。1年前に私から神谷に担当をかえたから神谷に連絡するように伝えてみる。少しそのまま待っていてくれ。」
「課長…、ありがとうございます。」
「いや、切るぞ。」
待っている時間は1時間にも2時間にも感じたが、実際は25分程で、神谷さんから電話が入った。
「鈴原さん、さっきの電話、向田社長で間違いなかった。近くにいたから顔を出したら、すぐ来てくれたって感謝されたよ。」
「本当ですかっ?〰️〰️、良かったですぅ。」
へにゃっと力が抜けてホッとした。地獄で仏、課長さま様、本当に助かりました。
以前の担当の顧客とはいえ、アウディだけでピンとくるなんて、どれだけ頭に入ってるんですか…!
…だけど、これ以上素敵な所を見せないで欲しいです…本当に。私に恋愛脳は、禁止なんですから。
「私は今日から外回りだ。鈴原、分からない事があったら小川さんに聞いて。それでも解決しない時は私に電話して。」
「…はい。承知しました。」
「…どうした?不安か。」
「…はい、正直言って不安です…。」
「鈴原、5日間しかお前を見ていないが、大丈夫だと思うぞ。自信を持てよ。」
「…え?」
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「課長…。はい!」
優しく微笑んで…はくれなかったが、自信を持てと励ましてくれた。課長の貴重な時間を5日間も貰って勉強したのだ。期待に応える為にやってみよう、と頷いた。
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小川さんに事情を話してはみたが、何も分からないのではお手上げだと言う。お客様は待っているというのに。
怒られそうだが、課長に指示を仰ぐ事にした。
「お疲れ様です、課長、今お電話大丈夫ですか?」
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