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3章
封印
しおりを挟む泣いて村へ駆けていくハルを追ってユアも走る。
ハルに拒絶された事のショックは大きい。
心に大きな傷を勿論負った。
けど、それでも今は走り去っていく小さな後ろ姿が心配で、ユアはその後を追った。
「……きゃっ!」
そして遂にユアが恐れていたことが今起こってしまった。
ハルが躓いてしまったのだ。
よく転んで泣くハルの姿をよく見てきたユアだからこそ、何とかハルを受け止めようと腕を伸ばすが……。
「おっと。大丈夫かな、お嬢さん」
何者かがハルの体を受け止めた。
ユアはその瞬間、安堵した。
しかし、安堵出来る瞬間など本当は存在していなかった。
突然突きつけられる剣の先。
ユアは戸惑いで、ただその剣を向けてくる人物を見つめることしか出来なかった。
「………この森に突然巨大な魔力を察知し駆け付けて来たが……その正体はお前か、この化け物めっ!」
「巨大な魔力? 化け物……? なんですかそれ……」
訳が分からず、更にユアの頭は混乱する。
しかし、剣と言う危ない武器を持った人物にハルを任せてはいられない。
そう思い、ユアが歩を進めれば
「やだ、来ないでっ!!」
「…っ! は、ハル…どうして?」
またもやハルに拒絶された。
あまりにも悲しくて、ユアの瞳には涙が溜まり始める。
ハルを助けてくれた人物……灰色の鎧に身を包んだその男は、ギロリとユアを睨みつける。
その視線に、ユアは首を横に振る。
「違います、僕はハルの……妹をただ…!」
「化け物の分際で人の言葉を話すとは……。気味が悪いな」
「待ってください、僕は……!」
そうユアが声を上げようとした時だった。
茂みの奥から男と同じ鎧に身を包んだ人間たちが続々と姿を現し始める。
そして一斉に鞘から剣を抜き、ユアへと向けられた。
もう何が何だか………ユアはさっぱり理解出来なくなっていた。
それからユアがハッキリと覚えているのは、暗い檻の中に閉じ込められ、ただ絶望に暮れる日々を送った事だ。
なぜ自分がこんな目に…?
大切な妹を助けたくて無我夢中だっただけなのに……。
檻の中に閉じ込められてどれぐらいの月日が流れたのだろう。気が付けば真っ暗な暗闇から、太陽の光が眩しい地上にいた。
「………ここ、どこですか」
足枷と手枷をされ身動きが出来ない状態のユア。
そんな彼の前には、あの時森で出会った男の姿。
虚ろな瞳をしたユアに、彼は静かに話を始めた。
「君には今から生贄となってもらう」
「………は?」
生贄
意味が分からず、ユアは目を見開いた。
ずっと長い間檻の中に監禁されていた事もあり覚醒しきってなかった頭が、その言葉で徐々に覚醒し始める。
そして漸く言葉の意味を理解したその時、目の前に広がる光景に……ユアは驚愕した。
「………何で皆、ボクのことそんな目で見てるの?」
気づけば数十人の鎧を身にまとった軍団に囲まれていたユア。
そして、ユアの事を冷酷な瞳で見つめていたのは、村の仲間達と母親とハルだった。
そして彼等は口を揃えて言葉を紡ぎ始める。
「こんな化け物が村に潜んでいたとは…!」
「あぁ……。平和のためにどうか今すぐこの村から出て行っておくれ」
耳を………塞ぎたかった。
次々ユアへと向けられる、心の無い言葉の数々。胸が苦しくて、張り裂けそうだった。
そんな中、母親と目が合った。
けれども母親は、ユアをただ睨み付けて…
「あんた何か、産まなければ良かった。いいえ、あんた何か家の子じゃない…! さっさと村から出て行って…!!」
母親にも拒絶された瞬間だった。
それから檻の中にまた入れられ、ユアはとある場所へと運ばれる事となった。
もう……生きている心地なんてしなかった。
しかし
「少年には悪いとは思うが……まさかあーも簡単に信じ込むとはな」
「ホントだよ。ただ最近魔物の被害が多発してるからその抑制の為に利用するだけだってのにな」
「確かに通常の人間よりも遥かに数値の高い魔力を持ってるが、それで化け物呼ばわりとは………。ってそう敢えて呼んで信じ込ませたのは俺たちだけどな!」
そう言って高笑いをする鎧の男たち。
ユアは唇を噛み締めた。
抵抗しようと試みた。
しかし、手枷と足枷にどうやら魔法を無効化する効果がある様で魔法が使えない。
痛々しい視線が注がれる中、ふとユアはとある人物と目が合った。
「…………ミルキー」
唯一無二の親友。
そんな彼へ静かにユアは手を伸ばす。
けれどもミルキーは、そっとユアから視線を逸らし、両親と共に家へと帰って行ってしまった。
「…………誰も、もう居ないんだ」
母親も妹も、そして親友も……皆、ユアの前から居なくなってしまった。
それから数時間後、ユアは森の奥の遺跡に封印された。
凶暴な魔物たちと共に。
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