余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

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3章

研究によると

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 アンジェの部屋で誰もが悲しみに暮れる中、突如部屋の中央に大きな魔法陣が姿を現した。

 一体何事だ、と誰もが驚き慌てる中、その魔法陣から現れた二人の姿に皆が目を見張る。


 「フローラ様! それに王太子殿下も…」


 リアの言葉にまた皆が目を見張った。

 確かに今リアは「フローラ様」と言った。
 つまり、今ルツの隣にいる美少女はあの謎多き第一王女、フローラなのだと誰もが初めて知った。

 一人を除いては……。


 「フローラ様……」


 「カイン。久しぶりね。もう腕の怪我は平気?」


 「はい。剣を持つことは不可能になってしまいましたが……」


 カインは再びフローラとこうして顔を合わせて話せた事に感激を覚えていた。


 「皆、聞いて! アンジェの病を治す方法があるの!」


 フローラの言葉に皆が騒ぎ始める。
 誰もがその方法を知りたくて。

 そんな中、ルツが静かにフローラへと耳打ちする。


 「約束、覚えてるよな?」


 「……分かってるわよ」


 そう答えて、フローラはルツから一冊の本を受け取った。

 それはルツがこれまで研究した魔文の呪いについての研究結果が記されたものである。

 フローラはベッドに横になり、目を開ける気配の無いアンジェの姿を見て、目頭がカッと熱くなった。


 いつもなら、満面の笑みを浮かべながら「フローラ様」と呼んでくれる筈なのに、今は呼んでくれない。
 それがとても辛くて悲しくて……涙がどっと溢れ出そうになる。

 けど、フローラは唇を噛み締めてそれを堪えた。


 「アンジェの中には、魔文の呪いを患った原因とされるあるモノが存在しているわ。そしてアンジェは、その存在を体から追い出すべく、ある契約を交わしていたの」


 フローラの言葉にざわめきが起こる。

 それもそのはず。
 マモンの存在など、フローラ以外には知らされてはいなかったからだ。


 そんな中、ギシッ……とベッドが軋む音がした。

 誰もが弾かれたかのようにベッドの方へと視線を投げれば、そこにはベッドから起き上がったアンジェの姿。

 けれど様子がいつもとは違う。


 「…………久しぶりね、マモン」


 フローラの言葉に、アンジェ……いや、マモンが前髪を掻き分けて少し不満げに頷きつつ、答える。


 『気安くボクの名前を呼ばないでくれる? 王女サマ』


 アンジェの姿で、声な筈なのにそこにいる人物がアンジェでは無いと、この場に居た誰もが気付いた。


 「……ねぇ。アンジェはまだ助かるの?」


 『完全に体を乗っ取れた訳じゃないからまだ助かるよ』


 その言葉にフローラは安堵した。
 何故なら、ルツの研究してきた魔文の呪いについての情報の中にはマモンの記憶を取り戻す手掛かりと成りうる事が記されていた。


 「アンジェは今、自分自身で体を動かせる状況なの?」


 『意識が戻るかも微妙な所かな』


 「……そう」


 マモンはそう答えると、ルーンの方を見た。
 二人の視線がぶつかい、火花を産む。
 ルーンが険しい顔付きでマモンへと距離を縮めれば、マモンはベッと舌を出すと再びベッドの中へと潜り込んで目を閉じた。

 突如行き場の無くなってしまった、言葉と感情に、ルーンは拳を握り締めた。


 「グレジス副団長」


 そんな中、フローラがルーンの名を呼んだ。

 ルーンは拳に籠った力を解放し、フローラへと体を向ける。


 その表情は酷く苦しそうだった。


 「アンジェの病気を治す為に、貴方の力が必要よ。勿論、協力してくれるわよね?」


 ………そんなの、答えは一つだけ。


 「勿論です」



 アンジェは、ルーンにとって大きな壁にぶつかって挫折して、逃げ回っていた自分をもう一度夢へと突き進む為の勇気をくれた存在であり、そして今は大切な妻である。


 (……今度は俺がアンジェを助ける番だ)


 ルーンはベッドに横になるアンジェの白い頬を優しく撫でた。



 
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