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3章
次の誕生日
しおりを挟む「アンジェ……っ…ヒクッ…アン…ジェ」
耳元で響くしゃくりを上げ、泣きじゃくるまるで子供みたいな泣き声。
けど、その優しい声をアンジェは知っていた。
重い瞼を上げれば、視界に映ったのはリアの姿。
綺麗な顔を真っ赤に染めて泣きじゃくる姿に、アンジェは思わず笑みを浮かべる。
だって、リアに泣き顔なんて似合わないから。
そっとアンジェはリアの頬に手を添えて微笑む。
「お姉ちゃん……綺麗な顔が台無しだよ?」
「っ……! ごめんね。一番アンジェが辛いって分かってるはずなのに……ごめんね」
リアは何とか涙を止めようと試みる。
けれど、弱々しくなった妹の姿を前にしたら、やはりどう頑張っても涙は止まる事を知らない。
歪む視界。
頬を伝うのは生ぬるい液体…。
その時アンジェは、漸く自分も泣いているのだと気づいた。
「……アンジェ」
「リディス…?」
リアの隣に姿を現したのはリディスだった。
彼は涙は流してはいないが、目尻が赤く腫れている。恐らく、ずっと彼も涙を流してアンジェの事を心配していてくれたのだろう。
リディスは静かに言葉を紡ぎ始める。
行き場の無い怒りを胸に秘めながら。
「かなり病気が進行してる。どんな魔法道具でも、薬でも止められないくらい」
悔しそうに唇を噛み締めるリディス。
アンジェはまるで自分の体では無いような……重たい腕をゆっくり動かして袖を捲ってみる。
まだ右腕には侵食していなかった筈の禍々しい文様がそこにはビッシリとあった。
恐らく体の全てにこの文様はもう行き渡ってしまったに違いない。
「……私は、あとどれくらい生きれるの?」
アンジェの言葉に、その場に居た全員が体をビクリと動かした。
どうやらアンジェに一番触れて欲しくなかった話題だったらしい。
「……次のアンジェの誕生日にまで生きれたらいい方だと思う」
つまり十六歳の誕生日。
(旦那様の目指す未来を……フローラ様の勇姿を……私は見届ける事が出来ないのね)
ルーンは、魔物の居ない安全な世界を。
フローラは、元側近であるカインの隣に立つのに相応しい女性になる為の努力を。
そして……大切な人達ともう会えなくなってしまうのか……。
そう考えるだけで胸が張り裂けそうになるし、何よりまた涙が溢れそうになる。
そんな時、扉が勢いよく開いた。
扉の先に視線が集まる。
そこに居たのは、顔を真っ青にしたルーンとエミル、それからアンジェの同僚達だった。
エミルとルーンの服装は遠征用の衣服だ。
そう言えばフリーマーケット開催にあたって、二人は外の警備で随分遠くまで仕事に出ていたので、恐らくその帰りだろう。
「……気づいてあげられなくてごめん」
ルーンもまたリディス同様に悔しそうに唇を噛み締めてそう謝罪の言葉を述べた。
しかし、アンジェはその言葉にゆっくりと首を横に振った。
だってルーンが気に病む必要なんて無い。
敢えて気づかれぬ様にアンジェが接していたのだから。
(そう言えば…フローラ様の姿がない?)
フローラの姿を探すが、どうやらこの部屋には居ない様だ。
そう言えば、自分はどのくらいの間眠りに着いていたのだろう。
尋ねようと思ったが、次第に瞼が閉じていく。
アンジェは夢の中へと誘われた。
一方その頃。
フローラは薄汚れたローブを身につけ、とある場所へとやって来ていた。
その手に握られているのは煌びやかな招待状が握られている。
フローラは意を決した様な表情で、招待状に記された王女である彼女でさえ知らない、王城のとある隠し部屋へと足を踏み入れた。
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