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3章
潜む者
しおりを挟む真っ直ぐとフローラの瞳がアンジェを捕える。
目をそらすことができない。
そらしてしまえば、築き上げてきた友情と言う名の形にヒビを入れてしまいそうで…。
「アンジェから感じた禍々しい魔力。それを私は知ってるわ…。幼い頃にお爺様に連れられて行った場所で私は同じものを感じた事があったの。ねぇ、アンジェ。貴方の中に潜むさっきのアレは何なの? もしかして、貴方が条件に見合うご令嬢を探している事と何か関係があるの?」
フローラの言葉にアンジェは目を見張った。
何せ、図星だったのだから。
にしてもなんと言う鋭さだろうか。
それとも前々から気付かぬうちに勘ぐられていたのだろうか。どれにしてもフローラの観察力には驚かされた。
数秒見開かれたアンジェの瞳を、フローラは見逃さなかった。だから、フローラはアンジェとの距離を更に詰め、告げた。
「……お願い。事の大きさ次第ではこのまま貴方を放置出来ない。私は…貴方を疑いたくは無いの」
ギュッと両手を握られれば、もうアンジェはフローラに全てを告げるしか無かった。
過ごしてきた環境。
支えてきてくれた存在。
十二歳になった時に患った病のこと。
けれど、アンジェは余命の存在だけは伏せた。
……理由なんて特にない。
ただ、余命の事だけは伝えたく無かった。
伝えてしまったらフローラを悲しませる事くらい分かっているからだ。
「……なるほどね。それなら早く話してくれたら良かったのに」
「その…黙っててごめんなさい」
「別にいいわよ。けど、安心したわ。魔文の呪いって子供が掛かると厄介だけど、完治出来る病だもの。不安がることは無いわよ」
フローラの言葉にアンジェはまた目を見張った。
今、完治出来る病気だとフローラは言った。
それはつまり、フローラはこの病の治し方を知っていると捉えても良いだろう。
アンジェは少しずつ笑みを取り戻す。
なにせ魔導師団団長であるエミルも過去、魔文の呪いに伏せた時代があり、それをアンジェの専属医師であるミルキーが治した。
けれど、今彼は行方不明状態のため、病の治療法が分からないままであった。
そこで王太子ルツが魔文の呪いについて調べていると知り、彼にその研究結果を教えてもらいたいが、無理そうだ。……なんて言うお先真っ暗なドン底の現状から一筋の光が現れたのだから。
「フローラ様、因みにどうして治療法をご存知なんですか!?」
「詳しくは知らないわ。ただお爺様が話していたのを覚えているの。けど、友達に口封じされていて治し方までは教えられない、って言ってたわね。けど……」
そう言ってフローラは隠れ家へと視線を向ける。
「お爺様の書庫がこの家の地下にはあるの。今じゃ私しか知らない書庫よ。もしかしたらそこに何か手掛かりがあるかもしれないわ」
フローラはそう言うと、ニッと白い歯を見せて笑った。
そしてアンジェの手をとって、隠れ家へと駆け出した。
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