余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

文字の大きさ
上 下
57 / 93
2章

王女様の密会相手

しおりを挟む


 「……という事なの」


 「成程。事情は分かった」


 公爵邸へと帰宅したアンジェは自室でリディスによる診察を受けながら、今日エミルと話したことをリディスへと報告していた。

 アンジェの指にはめられた指輪を見てリディスは言う。


 「……新しいのに変えた方がいい頃合いかもな」


 「あれ? ついこの間変えたばかりじゃないっけ?」


 「俺が作ったやつだからな…。師匠と違って直ぐ脆くなっちまうんだよ」


 リディスはメモ帳を取りだし文字を綴る。
 今のアンジェに合った指輪を作る為に詳細を綴っているらしい。


 「……リディス。先生が何処に居るか知ってる?」


 「いや。リアさんの学校の件以来会ってない。手紙を送ってはいるけど、返事が来るのは稀。何処に居るかは分からない。けど……師匠が魔文の呪いの事を話してる所は一度も聞いた事が無いな。もし病気について何かを知っているとしても何で黙っている必要があるのか…俺には全く検討が付かない」


 「うん、私もだよ…。けど、なんで教えてくれなかったんだろう。昔、魔文の呪いを治したことがあること…」


 「師匠なりに何かがあるのかもしれない…としか言い様は無いけど…これに関しては俺に考えがあるから任せてくれ。それと王太子殿下の事だけど」


 「その…探れる?」


 「情報提供の御礼に叶えられる範囲なら何でも報酬を渡すって言ってたし…頼めば教えて貰えそう。来週、実は王太子殿下主催のパーティーに招待されてるんだ。その時話すタイミングがあったら聞いてみるよ」


 なんて頼りになる存在なのだろう、とアンジェは目を輝かせた。
 そして満面の笑みを浮かべて御礼の言葉を告げる。


 「ありがとう、リディス! やっぱり貴方は本当に頼りになる存在ね」


 「はいはい」


 リディスはアンジェの言葉を簡単にあしらうと、部屋を後にした。
 それから自身の部屋に戻ると、机に向き直る。
 そして魔法道具の一種である便箋を引き出しから取り出し、文字を綴り始める。
 送り先はリディスの師匠、ミルキーである。


 【お尋ねしたい事があります。次の休暇に帰ります】


 そう綴ると、便箋が鳥の形へと姿を変える。
 そしてゆっくりと浮上する。
 リディスは窓を開け、道を作る。
 そうすれば便箋の鳥は広い世界へと飛び立っていった。

 リディスはそんな便箋の鳥を見送った後、窓を閉める。
 そして……


 「……何やってんだよ、師匠。俺だけの力じゃアンジェは……」


 リディスはグッと奥歯を噛み締めた。
 今にも溢れだしそうな涙を堪えながら、リディスは行き場の無い怒りを拳へと込めた。




 ◇▢▢◇▢▢▢



 穏やかな夜風が吹いている。
 月の光が照らすバルコニーにて、アンジェとルーンはお茶を楽しんでいた。


 「仕事の方は順調か?」


 「はい。毎日凄く楽しいです。それに…」


 「フローラ様か?」


 「は、はい! 連絡が遅れてすいません」


 「別に構わないが…ほんと、驚いた。あの人が誰かに心を開いたのはカイン以来だ。しかもその相手がアンジェだとエミル団長に聞いた時は更に驚いたよ。なんせ、かなり良くない噂が出回ってるからな」


 「噂ですか?」


 「あぁ。フローラ様が誰かと密会している…と。そして国家転覆を目論んでいるのでは無いか…ってね」


 ルーンの話に、思わずアンジェは椅子から立ち上がる。
 一体なぜそんな噂が…!?
 顔色が真っ青になるアンジェ。
 そんなアンジェを落ち着かせ様と、ルーンはアンジェの手を優しくとる。


 「大丈夫だ。まだフローラ様と面会しているのがアンジェだと知っている者は少ない。それに……アンジェが国家転覆を目論むなんて事有り得ない話だしな」


 「そうです…! ただ私はフローラ様の恋のお悩みを……あ」


 つい口走ってしまった言葉に慌ててアンジェは口を抑える。
 そして恐る恐るルーンへと視線を向ける。


 「……私は、今、何も言っていませんでした」


 「ん? あ、あぁ。分かったよ。何も聞こえなかったから安心してくれ」


 ルーンはそう言うと小さく笑った。
 それと同時に安堵した。
 フローラと一体どの様な話をしているのか気になって仕方なかったから。
 なにせ、国家転覆を狙っている…なんて噂まで拡がってしまっているのだ。

 しかし、どうやら年相応の可愛らしい女子会を開いている様で、ルーンは微笑ましくなった。


 「そう言えば、明日、良いことがあるかも」


 「良いこと…?」


 突然ルーンが言った言葉にアンジェは首を傾げた。
 その後、いくら問いただしても明日になったら分かるさの一点張り。


 (良い事かぁ…一体何だろう?)


 アンジェは空に浮かぶ月を見詰めながらもう一度首を傾げた。



 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。

にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。 父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。 恋に浮かれて、剣を捨た。 コールと結婚をして初夜を迎えた。 リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。 ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。 結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。 混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。 もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと…… お読みいただき、ありがとうございます。 エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。 それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...