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2章
王女様の密会相手
しおりを挟む「……という事なの」
「成程。事情は分かった」
公爵邸へと帰宅したアンジェは自室でリディスによる診察を受けながら、今日エミルと話したことをリディスへと報告していた。
アンジェの指にはめられた指輪を見てリディスは言う。
「……新しいのに変えた方がいい頃合いかもな」
「あれ? ついこの間変えたばかりじゃないっけ?」
「俺が作ったやつだからな…。師匠と違って直ぐ脆くなっちまうんだよ」
リディスはメモ帳を取りだし文字を綴る。
今のアンジェに合った指輪を作る為に詳細を綴っているらしい。
「……リディス。先生が何処に居るか知ってる?」
「いや。リアさんの学校の件以来会ってない。手紙を送ってはいるけど、返事が来るのは稀。何処に居るかは分からない。けど……師匠が魔文の呪いの事を話してる所は一度も聞いた事が無いな。もし病気について何かを知っているとしても何で黙っている必要があるのか…俺には全く検討が付かない」
「うん、私もだよ…。けど、なんで教えてくれなかったんだろう。昔、魔文の呪いを治したことがあること…」
「師匠なりに何かがあるのかもしれない…としか言い様は無いけど…これに関しては俺に考えがあるから任せてくれ。それと王太子殿下の事だけど」
「その…探れる?」
「情報提供の御礼に叶えられる範囲なら何でも報酬を渡すって言ってたし…頼めば教えて貰えそう。来週、実は王太子殿下主催のパーティーに招待されてるんだ。その時話すタイミングがあったら聞いてみるよ」
なんて頼りになる存在なのだろう、とアンジェは目を輝かせた。
そして満面の笑みを浮かべて御礼の言葉を告げる。
「ありがとう、リディス! やっぱり貴方は本当に頼りになる存在ね」
「はいはい」
リディスはアンジェの言葉を簡単にあしらうと、部屋を後にした。
それから自身の部屋に戻ると、机に向き直る。
そして魔法道具の一種である便箋を引き出しから取り出し、文字を綴り始める。
送り先はリディスの師匠、ミルキーである。
【お尋ねしたい事があります。次の休暇に帰ります】
そう綴ると、便箋が鳥の形へと姿を変える。
そしてゆっくりと浮上する。
リディスは窓を開け、道を作る。
そうすれば便箋の鳥は広い世界へと飛び立っていった。
リディスはそんな便箋の鳥を見送った後、窓を閉める。
そして……
「……何やってんだよ、師匠。俺だけの力じゃアンジェは……」
リディスはグッと奥歯を噛み締めた。
今にも溢れだしそうな涙を堪えながら、リディスは行き場の無い怒りを拳へと込めた。
◇▢▢◇▢▢▢
穏やかな夜風が吹いている。
月の光が照らすバルコニーにて、アンジェとルーンはお茶を楽しんでいた。
「仕事の方は順調か?」
「はい。毎日凄く楽しいです。それに…」
「フローラ様か?」
「は、はい! 連絡が遅れてすいません」
「別に構わないが…ほんと、驚いた。あの人が誰かに心を開いたのはカイン以来だ。しかもその相手がアンジェだとエミル団長に聞いた時は更に驚いたよ。なんせ、かなり良くない噂が出回ってるからな」
「噂ですか?」
「あぁ。フローラ様が誰かと密会している…と。そして国家転覆を目論んでいるのでは無いか…ってね」
ルーンの話に、思わずアンジェは椅子から立ち上がる。
一体なぜそんな噂が…!?
顔色が真っ青になるアンジェ。
そんなアンジェを落ち着かせ様と、ルーンはアンジェの手を優しくとる。
「大丈夫だ。まだフローラ様と面会しているのがアンジェだと知っている者は少ない。それに……アンジェが国家転覆を目論むなんて事有り得ない話だしな」
「そうです…! ただ私はフローラ様の恋のお悩みを……あ」
つい口走ってしまった言葉に慌ててアンジェは口を抑える。
そして恐る恐るルーンへと視線を向ける。
「……私は、今、何も言っていませんでした」
「ん? あ、あぁ。分かったよ。何も聞こえなかったから安心してくれ」
ルーンはそう言うと小さく笑った。
それと同時に安堵した。
フローラと一体どの様な話をしているのか気になって仕方なかったから。
なにせ、国家転覆を狙っている…なんて噂まで拡がってしまっているのだ。
しかし、どうやら年相応の可愛らしい女子会を開いている様で、ルーンは微笑ましくなった。
「そう言えば、明日、良いことがあるかも」
「良いこと…?」
突然ルーンが言った言葉にアンジェは首を傾げた。
その後、いくら問いただしても明日になったら分かるさの一点張り。
(良い事かぁ…一体何だろう?)
アンジェは空に浮かぶ月を見詰めながらもう一度首を傾げた。
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