余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

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1章

約束と約束

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 太陽が沈み、月が姿を現した頃。
 静まり返った公爵邸の私室で、アンジェは窓から月を眺めていた。

 パーティー終了後、リアとイリスから質問攻めにされたアンジェ。
 二人曰く、ルーンとアンジェ醸し出される雰囲気が甘いお菓子の様だったとかで、パーティーで何かあったのだと二人は感づき、期待の眼差しを向けられた。

 一方ルーンの方も、メモ帳とペンを持ったノーニアスに無理矢理個室に連れていかれていた。
 恐らく続編を執筆するにあたってルーンから話を聞くのだろう。
 

 『人間ってどうして群れることが好きなの? ボクには理解出来ないんだけど』


 「まぁ、賑やかで煌びやかだし私はあまり好きじゃなかったよ」


 『過去形ってことは、何? 今は好きなの?』


 「今まではさ、お姉ちゃんと比べられたり私が魔法を使えない事を馬鹿にして陰口を言ってくる人ばかりで、パーティーに参加する時いつも怖かったの。だってパーティーでは守ってくれる人が居なかったから。お姉ちゃんは挨拶回りで別行動だったし。けどね、こんな私に優しく接してくれた人が居た。そしてそんな人と再会した。だからね…もう怖くないっ!」


 ニッと白い歯を見せてアンジェが笑うと、マモンは目を細めた。
 その瞳には「詰まらない」そうハッキリと書かれている。

 鼻歌を歌い、ご機嫌そうなアンジェを横目にルーンは尋ねる。


 『君さ、ダンナさまと仲良くなったみたいだけど、病気については話さない訳? そしてボクのことも』


 マモンの問にアンジェは鼻歌を辞めた。
 そしてゆっくりとマモンの方へ視線を向け、俯いた。

 二人の間に少しの沈黙が走る。
 夜風の音しか聞こえない、静かな夜。
 真っ赤な赤い瞳が、真っ直ぐアンジェを見つめている。


 「旦那様は勇気を出して私に秘密にしたかった事を話してくれた。私も言おうと思ったんだけど…」


 『言えなかったんだ』


 「…うん」


 バルコニーで二人で会話していた時、アンジェは病気のことをルーンに打ち明けようと試みた。
 自分だけ秘密を打ち明けないのは不公平だと思って。
 しかし、声が出なかった。
 言葉を紡ぐことが出来なかった。


 アンジェはバルコニーに置かれた椅子に腰を下ろすと、小さく微笑む。


 「旦那様が私のこと、とっても大切に思ってくれてるって分かった。だから…余計言えなかったの。もしもの未来を考えたら」


 『あんなに強気だった癖に急に弱気だね。まぁ、ボクからしたら君が静かに朽ち果てて行くのは有難いんだけどね』


 「うん、そうだよね」


 アンジェは小さく頷くと、指輪を外す。
 そして左袖を捲ってみせた。


 『……っ!』


 「まだ患って一年も経ってないのにこの有様。ほんと、厄介な病気よ。まだ体に異変が無いだけマシかな?」


 乾いた笑みを浮かべるアンジェに、マモンは思わず目を逸らす。
 アンジェは指輪を身に付け、袖を戻す。
 マモンは自分がアンジェの小さく華奢な体を取り巻く禍々しい文様の原因だと一番分かっていながら、アンジェの身に広がる文様を見て、思わず目を背けていた。


 『……君さ、ダンナさまのこと異性として好きなの?』


 マモンの問にアンジェは目を見開いた。
 そして……もう一度乾いた笑みを浮かべた。
 感情を押し殺し、何もかもを塞ぎきった様な笑顔で。


 「分かんない」


 その言葉に、笑顔にマモンは小さく舌打ちをすると、アンジェの目の前に立つ。
 そして鼻と鼻の先がぶつかる程の距離までに近付くと…


 『ボクのこと、そして病気のこともダンナさまに話したら魔物の侵入を防いでる結界を解くから。あと』


 マモンはアンジェの手入れの行き届いた美しい亜麻色の髪を右に救い、そして左首に噛み付いた。
 あまりにも咄嗟な出来事に、アンジェは困惑する。
 顔は真っ赤になり、突き返そうとするものの気付けばマモンはもう離れた所に立っていた。


 『バレるのも駄目だからね』


 マモンはそれだけ言うと、姿を消した。
 一方のアンジェはまだ放心状態であった。


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