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1章
余命六年の幼妻
しおりを挟む「旦那様。リア様がお見えになっています。何でも旦那様と少しお話があると…」
ルーンが書斎で魔導師団へと寄せられた依頼書に目を通していると、外で控えていたテヲが書斎へと入って来るなりそう告げた。
リアの訪問にルーンは少し驚きつつも、アンジェからリアの話はよく聞いていた為、心優しい姉だと言うのは把握済み。
そしてルーン自身、リアとはもっと深く話をしておきたかったので、快くリアを書斎へと通した。
テヲがお茶の準備をし、二人は向かい合うようにソファーに腰掛けた。
改めてリアを見ると、アンジェと酷似とは言わないが、かなり似た容姿をしているなと思う。
アンジェが成長したらリアの様に麗しい女性になるのだろうか、と考えるとルーンもテヲも何だか寂しさを覚えた。
特にテヲなんて娘を思う父親の顔をしていた。
「単刀直入にお尋ねします。貴方はアンジェの事をどう思われているんですか?」
「アンジェのことを…ですか?」
「はい。アンジェは、伯爵家の名を失い、ましてやこの世界で何より重要視される魔法が使えない小さな少女です。そんなアンジェを…どうして貴方の様な方が傍に起き続けたのか疑問に思いました。私はアンジェの良さを誰よりも理解しているつもりです。だからこそ、貴方に強い不満が有るんです。もし……アンジェの心を弄んで、ただ飾りとしてアンジェを傍に置きたいのであれば、今すぐ離縁して下さい。確かに貴方があの家からアンジェを救い出してくれたことには感謝しています。けど……あの子には!!」
リアは咄嗟に口を手で覆う。
危うくアンジェの余命のことを口走ってしまいそうになったからだ。
昨夜、アンジェから聞いた話でまだリアの気持ちは動揺しているらしい。
ルーンに強く当たるつもりも無かったのが、こうも強く当たってしまったのが何よりの証拠だった。
昨日、酷く泣いてしまったためか頭痛が酷い。
リアはリディスに頭痛止めを貰っておけばと強く後悔しながらルーンを見つめる。
「……アンジェは、私にもう一度夢へと進む力をくれた存在です。実は、アンジェとの出会いは国王様主催のパーティーなんですよ」
そう言って嬉しそうに微笑むルーンを見て、リアはもしかして、と…ふとある事に気づく。
「え、もしかして……あの時のハンカチの方…ですか?」
リアの言葉にルーンは驚く。
話すつもりではあったが、こうも早く正体に気づかれるとは思っておらず、ルーンは気が動転する。
姉妹揃って鋭い。
そうルーンは思いつつ、苦笑を浮かべながら言う。
「よく分かりましたね」
「アンジェが嬉しそうに話してくれていたので……と言うか寧ろこの間再会したって昨日聞いたんですけど…まさか貴方、アンジェに話してないんですかっ!?」
リアの言葉に思わずルーンは目を逸らす。
その反応に全てを察したリアは頭を抱えた。
そんなリアの様子を見て、ルーンは事の経緯を説明した。
自分の叶えたい未来。
アンジェと出会った時のこと。
そして昔の自分のこと。
リアはそんなルーンの話を聞き、小さく息を吐いたあと、真剣な眼差しを彼へと向ける。
曇りひとつ無い揺るがないその瞳は、真っ直ぐルーンを射止める。
「事情は分かりました。けど……まぁ、少し安心しました。アンジェのこと、ちゃんと大切に思ってくれているんですね」
リディスの言っていた通りでリアはホッと胸を撫で下ろした。
もし、アンジェの事を弄ぶ最低野郎だったら公爵だろうが宮廷魔道士団副団長だろうが、問答無用で魔法を発動していたかもしれない。
(アンジェと約束したから今は取り敢えず二人を見守っておこうかな。けど……少しぐらいは二人の間を縮めるお手伝いをしてもいいよね? お節介かもしれないけど)
アンジェはルーンの元を去るつもりでいるらしいが、二人の昔の話を聞いた限り、こうして二人が夫婦という関係になったのはリアは運命だと感じていた。
お互いに救い、救われた関係。
そんな二人が夫婦関係にある。
運命でない筈が無い、と。
リアはゆっくりと立ち上がると、ルーンの元へと寄る。
そして小さく微笑むと告げた。
「アンジェ、公爵のこと異性として好きって言ってましたよ……」
ルーンの瞳が大きく見開かれた。
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