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2章
姫と側近
しおりを挟む翌日。
宮廷図書館司書の控え室に届いたアンジェ宛の一通の手紙に控え室に居たメンバーは驚きを隠せずにいた。
アンジェ宛に届いた手紙。
それはフローラからのお茶会への招待状だった。
「アンジェちゃん、フローラ様と知り合いだったの!?」
イチカが驚いた様子で言う。
「実は昨日偶然…その、お会いしまして」
「フローラ様と言えば、カインが昔フローラ様の側近をしていた時があってね。彼からフローラ様のこと、詳しく聞いてから接した方がいいかも。彼女、凄く繊細な人だから」
そう言うとイチカは仕事へと戻ってしまった。
それからアンジェもまた仕事に戻った。
時々痛む左腕の痛みを堪えながら本棚の整理をする。
その時突然走った激痛に思わず手に持っていた本を床へと落としかけた。
かけた…と言うのは、その本をカインが宙で受け止めてくれたからである。
アンジェは脚立から降りると慌ててカインに頭を下げた。
そうすればカインは笑いながら首を横に振った。
「シオからも聞いていたが、アンジェは案外ドジっ子なんだな」
ドジっ子、というイメージが着いてしまった事にアンジェは恥ずかしさを覚えつつも、腕が痛くて本を落とした…なんて正直に言える訳もないので勘違いしてくれるのはそれなりに有難かった。
アンジェは御礼を言って本を受け取る。
「そう言えば、フローラ様からお茶会の招待状が届いたらしいな。俺は嬉しいよ」
「元々はフローラ様の側近だったとイチカさんからお伺いしましたけど……あの純粋に疑問に思ったのですが、何故今は宮廷図書館司書に?」
「遠征で怪我をしたんだ。それで剣を持てない腕になってしまった。これじゃあもうフローラ様を守れないだろ? だから側近は辞めた。本当は大人しく故郷に帰ろうと思ったんだが、フローラ様が心配で図書館司書として城に留まったんだ」
「フローラ様が心配…?」
「あぁ。人見知りの激しい御方でな。今も部屋に篭ってばかりだ。そんなフローラ様が心配でな」
「では、カインさんが連れ出してみてはいかがですか?」
アンジェの言葉にカインは大きく目を見開いた。
そして大きな声で笑い始めた。
静かな図書館にはその大きな笑い声が響き渡る。
アンジェが咄嗟に「図書館ではお静かにっ!」と声を上げれば、カインは「すまない」と白い歯をニッと見せて謝罪した。
「俺はもうフローラ様には会えないんだ。会う資格がない」
「何故ですか?」
「あの人は強い俺が好きだったんだ。まるで物語に出てくる騎士様みたいな。けど、俺はもう強くない。今の俺を見たらフローラ様はきっと絶望する。言うならば、俺が今の俺をフローラ様に見せたくないんだよ」
カインはそう言うと本棚から一冊の本を取り出した。
その本を見つめて、カインは穏やかな笑みを浮かべる。
「この本はフローラ様が幼い頃から愛読されている物だ。人と親しくなるには共通の話題があるとより良い筈だ。それと……口は悪いが、本当は心優しい御方だからどうか仲良くしてやって欲しい」
カインはそう告げるとアンジェへ本を渡して図書館の奥へと行ってしまった。
アンジェは手渡された本を台車に乗せて急いで仕事を終わらせようと取り掛かった。
早めの休憩時間をとって、この本を読む為に。
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