44 / 93
2章
宮廷専属図書館司書
しおりを挟む遂に初出勤の日がやって来た。
アンジェは緊張した様子で馬車へと乗り込み、そして王城へとやって来た。
こうして王城へとやって来たのは、幼い頃に国王様主催のパーティーに参加して以来である。
鼓動の早くなる胸に手を当て、アンジェは大きく深呼吸をし王城へと一歩踏み出した。
「ここが……宮廷図書館!!」
ルーンの言っていた通りだとアンジェは思った。
窓から差し込む淡い太陽の光が差し込む図書館。そこには天まで伸びる程の大きな本棚がずらりと並んでいる。
公爵邸の図書館もかなり広いが、やはり宮廷の図書館はその倍はある広さである。それに流石と言うべきか、本の種類の豊富さには心が踊った。
とは言っても、アンジェが好む本は物語ばかりなのだが。
好奇心に満ち溢れた瞳で図書館を見渡していると
「こんにちは。新入りさん、ですよね?」
「は、はい! 本日から宮廷図書館司書として勤める事になりました、アンジェ・グレジスと申します。よろしくお願い致します」
アンジェは深々と頭を下げる。
すると、アンジェへと声をかけた主──赤茶色の髪に、丸メガネを身に付けた一見穏やかそうな容姿をした男性が微笑む。
「俺の名前はカイト。この図書館の司書であり代表を務めてる。因みに、ルーンとは魔法学院時代の同期だ」
「旦那様とですか!?」
ルーンからは特に何も聞かされていなかったので、まさか自分の上司に当たる人がルーンの同期である事に驚いた。
敢えて言わなかったのか、それとも単純に言い忘れていたのか真相は分からないが、優しそうな人で良かったとアンジェは胸を撫で下ろした。
それからカイトに連れられ、アンジェは司書達の控え室へとやって来た。
するとそこには、二人の司書が居た。
一人はアンジェを見るなり、花が咲いたかのような笑みを浮かべ、もう一人は人見知りなのか本棚の後ろへ隠れてしまった。
「その子が新入りさん? 愛らしい子ね~」
そう言って椅子から立ち上がり、アンジェの元へと寄ってきたのは、アンジェよりも十は歳が離れている様に思える女性だった。
整った顔立ちと淡いラベンダー色の長い髪を一つに束ねた髪型と濃い紫の瞳の色。
そして何より抜群のスタイル。
豊富な胸の膨らみは司書の制服越しでもハッキリ分かる程である。
あらゆる点で完璧なその女性は、また花が咲いたかのような笑みを浮かべ、自己紹介を始めた。
「私の名前はイチカ。貴方がグレジス副団長の奥様のグレジス夫人よね? 噂通り愛らしい子ね。これから貴方とお仕事が出来ること、凄く嬉しいわ。よろしくね」
「はい。アンジェ・グレジスと申します。イチカさん、今日からよろしくお願い致します」
アンジェはイチカへと頭を下げる。
そして再び顔を上げた時、イチカから漂う包容力や麗しさ。仕草、言葉遣い。豊富な胸や抜群のスタイルを見て、虚しい気持ちになった。
イチカの様な容姿だったらルーンの隣に並んでも大丈夫だと。そう思えていたのかもしれない。
「私とカイト君。そしてシオ君しか図書館司書って居なくてかなり人手不足だったのよ? だから貴方が来てくれて嬉しいわ。あ、もし良かったらアンジェちゃんって呼んでも良いかしら?」
「勿論構いませんよ。私もイチカさんと呼ばせて頂きますね」
先程イチカの口から出たシオ君という名前。
恐らく本棚の後ろに隠れてしまった人物の名前だろう。
アンジェは本棚の方へと視線を向ける。
すると、どうやらあちらもアンジェを見ていたようで、二人の視線がバッチリと合う。
しかし、直ぐに逸らされてしまった。
「おい、シオ。新しい仲間に挨拶無しは良くないぞ? 」
「わ、分かってる……」
カイトの言葉にシオは意を決したのか、渋々と本棚の後ろから姿を表す。
銀色の長髪と、灰色の瞳。
雪のように白い肌と少し痩せ気味な体。
一見女性の様に見えるが……
「僕はシオ。い、一応男、です…」
小さな声だったが、しっかりと声変わりした声は容姿からは想像がつかない程低い男らしい声だった。
良い声だな…とアンジェが思っていると
「シオはアンジェと同い年だから仲良くしてやってくれ。見て通り人見知りだからさ。という事で、シオはアンジェの世話係に認定するっ! いろいろ教えてやれよ!」
「ぼ、僕がですかっ!? けど、僕……その……グレジス夫人は…」
「シオさんが良ければお世話係、お願いしてもいいですか?」
同年代なのだから是非仲良くなりたい。
そう思ったアンジェは笑顔で問い掛ければ、シオは数分悩んだ末、小さく頷いた。
31
お気に入りに追加
3,091
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに
おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」
結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。
「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」
「え?」
驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。
◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話
◇元サヤではありません
◇全56話完結予定
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる