余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

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2章

宮廷専属図書館司書

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 遂に初出勤の日がやって来た。
 アンジェは緊張した様子で馬車へと乗り込み、そして王城へとやって来た。

 こうして王城へとやって来たのは、幼い頃に国王様主催のパーティーに参加して以来である。
 鼓動の早くなる胸に手を当て、アンジェは大きく深呼吸をし王城へと一歩踏み出した。



 「ここが……宮廷図書館!!」


 ルーンの言っていた通りだとアンジェは思った。
 窓から差し込む淡い太陽の光が差し込む図書館。そこには天まで伸びる程の大きな本棚がずらりと並んでいる。
 公爵邸の図書館もかなり広いが、やはり宮廷の図書館はその倍はある広さである。それに流石と言うべきか、本の種類の豊富さには心が踊った。

 とは言っても、アンジェが好む本は物語ばかりなのだが。

 好奇心に満ち溢れた瞳で図書館を見渡していると


 「こんにちは。新入りさん、ですよね?」


 「は、はい! 本日から宮廷図書館司書として勤める事になりました、アンジェ・グレジスと申します。よろしくお願い致します」


 アンジェは深々と頭を下げる。
 すると、アンジェへと声をかけた主──赤茶色の髪に、丸メガネを身に付けた一見穏やかそうな容姿をした男性が微笑む。


 「俺の名前はカイト。この図書館の司書であり代表を務めてる。因みに、ルーンとは魔法学院時代の同期だ」


 「旦那様とですか!?」


 ルーンからは特に何も聞かされていなかったので、まさか自分の上司に当たる人がルーンの同期である事に驚いた。
 敢えて言わなかったのか、それとも単純に言い忘れていたのか真相は分からないが、優しそうな人で良かったとアンジェは胸を撫で下ろした。

 それからカイトに連れられ、アンジェは司書達の控え室へとやって来た。
 するとそこには、二人の司書が居た。
 一人はアンジェを見るなり、花が咲いたかのような笑みを浮かべ、もう一人は人見知りなのか本棚の後ろへ隠れてしまった。


 「その子が新入りさん? 愛らしい子ね~」


 そう言って椅子から立ち上がり、アンジェの元へと寄ってきたのは、アンジェよりも十は歳が離れている様に思える女性だった。
 整った顔立ちと淡いラベンダー色の長い髪を一つに束ねた髪型と濃い紫の瞳の色。
 そして何より抜群のスタイル。
 豊富な胸の膨らみは司書の制服越しでもハッキリ分かる程である。
 あらゆる点で完璧なその女性は、また花が咲いたかのような笑みを浮かべ、自己紹介を始めた。


 「私の名前はイチカ。貴方がグレジス副団長の奥様のグレジス夫人よね? 噂通り愛らしい子ね。これから貴方とお仕事が出来ること、凄く嬉しいわ。よろしくね」


 「はい。アンジェ・グレジスと申します。イチカさん、今日からよろしくお願い致します」


 アンジェはイチカへと頭を下げる。
 そして再び顔を上げた時、イチカから漂う包容力や麗しさ。仕草、言葉遣い。豊富な胸や抜群のスタイルを見て、虚しい気持ちになった。

 イチカの様な容姿だったらルーンの隣に並んでも大丈夫だと。そう思えていたのかもしれない。


 「私とカイト君。そしてシオ君しか図書館司書って居なくてかなり人手不足だったのよ? だから貴方が来てくれて嬉しいわ。あ、もし良かったらアンジェちゃんって呼んでも良いかしら?」


 「勿論構いませんよ。私もイチカさんと呼ばせて頂きますね」


 先程イチカの口から出たシオ君という名前。
 恐らく本棚の後ろに隠れてしまった人物の名前だろう。

 アンジェは本棚の方へと視線を向ける。
 すると、どうやらあちらもアンジェを見ていたようで、二人の視線がバッチリと合う。
 しかし、直ぐに逸らされてしまった。


 「おい、シオ。新しい仲間に挨拶無しは良くないぞ? 」


 「わ、分かってる……」


 カイトの言葉にシオは意を決したのか、渋々と本棚の後ろから姿を表す。

 銀色の長髪と、灰色の瞳。
 雪のように白い肌と少し痩せ気味な体。
 一見女性の様に見えるが……


 「僕はシオ。い、一応男、です…」


 小さな声だったが、しっかりと声変わりした声は容姿からは想像がつかない程低い男らしい声だった。

 良い声だな…とアンジェが思っていると


 「シオはアンジェと同い年だから仲良くしてやってくれ。見て通り人見知りだからさ。という事で、シオはアンジェの世話係に認定するっ! いろいろ教えてやれよ!」


 「ぼ、僕がですかっ!? けど、僕……その……グレジス夫人は…」


 「シオさんが良ければお世話係、お願いしてもいいですか?」


 同年代なのだから是非仲良くなりたい。
 そう思ったアンジェは笑顔で問い掛ければ、シオは数分悩んだ末、小さく頷いた。




 
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