余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

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1章

芽生え

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 「……!?」


 思わず目を瞑ったアンジェ。
 しかし、一向に自分に液体が掛かることは無い。
 カタン…と何かの落ちる音がして恐る恐ると目を開ければ、そこにはライアーの姿があった。

 彼の胸部が濡れている。
 恐らくアンジェを庇ってくれたのだろう。

 取り乱すエリーゼの取り巻きの令嬢達は、みるみるうちに顔を真っ青にする。
 しかし、エリーゼは怯むことなく、逆に強気の態度でライアーへと向かう。


 「あら貴方、確か後ろのチンチクリン娘をエスコートしていた人じゃなくて? ……あら? ちょっの貴方。よく見たらかなりのイケメン君じゃない? そんなチンチクリンと一緒に居ないで、私とパーティを過ごさない? 絶対に楽しいわよ」


 そう言ってエリーゼは豊かな胸をライアーへと近付ける。なんて無粋な行動だろう…とアンジェは思う。これが侯爵令嬢? それにパーティで色仕掛けなんて……とドン引きしている。

 
 「……相変わらず、貴方は変わりませんね」


 そうポツリと呟かれた言葉は、誰にも聞こえること無く静かに消えて行く。

 ルーンはエリーゼを睨みつける。
 その瞳の鋭さは、仮面を付けていても尚、ハッキリと分かる。


 「お断りします。私は、貴方のような色仕掛けでしか自身をアピール出来ないような女性では無く、グレジス夫人のようなお淑やかで、護って差し上げたくなる様な…そんな女性が好みなので」


 「なっ!?」


 「グレジス夫人。参りましょうか」


 そう言ってライアーは、アンジェの手を取りバルコニーを後にする。
 何の騒ぎだ、とパーティの参加者達がバルコニーへと顔を出し始める。
 何故か濡れた洋服を身に纏うライアーを誰もが不思議そうに見つめながら、二人はパーティ会場を後にした。


 それから二人は会場を出ると、突然アンジェが足を止めた。そして懐からハンカチを取り出し、ライアーの濡れた服を拭う。


 「……庇ってくださり、ありがとうございます。その…せっかくのお召し物を汚してしまって本当にごめんなさい」


 「貴方が謝ることじゃ有りません。それよりもお怪我はありませんか?」


 「え、は、はい! 全然平気です……」


 ほんのりと頬を赤くし、俯くアンジェ。
 ライアーはもしかしたら疲労が溜まって、熱でも出ているのかもしれない、そう思った。


 「グレジス夫人。少し、失礼致します」


 ライアーの手がゆっくりアンジェへと伸びる。
 そしてその手はアンジェのおでこへと当てられる。

 そうすれば、ライアーの手にじんわりと熱が当たった。


 「やはり熱がある様ですね…」


 「いえ、私は元気です! ほら!」


 そう言って拳をギュッと握ってガッツポーズをする。しかし、次の瞬間急に目眩がして、アンジェは思わず体勢を崩す。その場に崩れ落ちそうになるアンジェを、ライアーは咄嗟に手を伸ばし、支えた。

 その手の感触にアンジェは戸惑う。
 服越しからでも分かる、ゴツゴツとした大きな逞しい手。
 手を取った時はあまり意識していなかったが、なぜか今は酷く意識してしまっていた。


 鼓動が大きく高鳴るのを感じた。


 「……歩けそうですか? 正直に答えてください」


 その言葉にアンジェは更に力が抜けていくのを感じた。
 そして…体の芯に渦巻く気配に、アンジェの体が熱くなる。


 「ちょっと…無理、かもです」


 そう正直に言葉を告げれば
 

 「…貴方に触れることをお許し下さい」


 ライアーは先に謝罪の言葉を掛けると、軽々とアンジェを抱えた。いわゆるお姫様抱っこで。


 「部屋まで運びます」


 「あ、ありがとう…ございます」


 一気に力が抜けてしまったのか、だんだん思考が上手く回らなくなってきた。
 アンジェは感謝の言葉を述べるとふにゃりと微笑んだ。ほんのりと赤く染った頬と、その愛らしい笑みに、ライアーの胸が高鳴った。

 弱っている相手に自分は何を…!? とライアーは焦るものの、今はアンジェの身が心配だと、アンジェの部屋へと急いだ。
 

 
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