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1章
一時間前
しおりを挟む「奥様。顔色が悪いようですが…大丈夫ですか?」
「え!? い、いえ! 少し考え事をしていただけで……。体調の方は全然大丈夫ですよ。御心配をおかけしてすいません」
パーティ開始まであと一時間。
淡い水色と桃色のグラデーションのかかったふんわりと柔らかなドレスに身を包み、長い亜麻色の髪を高く結った姿のアンジェは、何処か落ち着かない様子でいた。
昨日の夜、マモンの様子がおかしかった。
あれから何度もマモンに話しかけているのだが、返事は無い。
(凄く辛そうな顔だったな……)
ずっと脳裏からあの時のマモンの表情が忘れられずにいる。このままじゃパーティを楽しむ事なんて出来ないだろう。
イリスに頼み、一人っきりにしてもらった。
マモンにもう一度問いかけてみようと思ったからだ。
「マモン。聞こえる?」
アンジェが尋ねる。すると
『……聞こえてる。で、何?』
脳裏に響いた声。それは間違いなくマモンのものだった。
しかし、その声はいつも以上に冷たい。そして何より全てに絶望しきったような…そんな感じにも思えた。
「あのね、その…大丈夫かなって」
『別に。ちょっと、記憶が蘇りそうになって頭痛が酷くなってただけ。とは言っても、誰かの声が聞こえただけだね。ねぇ今さ、ボクから開放されるかもって期待した?』
「…ほんと、ひねくれてるよね」
アンジェは肩を竦めた。
記憶が蘇りそうになって頭痛がした、とマモンが言うものだからその頭痛はもう落ち着いたのか、そう純粋にマモンの体調の方をアンジェは心配した。
しかし、マモンの性格は大変ひん曲がっているようで、アンジェは少しムッとする。
マモンは自分を酷く卑下している様にアンジェには感じた。自分自身の魔法の才能については自信満々だが、それ以外…特にマモンという自分の存在を酷く卑下しているようにアンジェには思えた。
『ねぇ、もしもボクが記憶探し辛いから辞めるって言ったら、君はどうする?』
マモンの問に、アンジェは息を飲んだ。
アンジェの余命はあと六年。
魔文の呪いを治す方法は、まだ医学的な面からは発見されていない。ただ一つ治る方法として分かっていることは、アンジェの体の中に潜むマモン自体を体の外へ追い出す事。
だからアンジェとマモンは契約を交わしたのだ。
しかし、ここでマモンが記憶探しを投げ出したら、契約違反となるが、マモンという男は性格がかなりひん曲がっている。もしかしたら契約を投げ出してくる可能性も高い。
その時アンジェは思った。
この様な事は起こりかねない事だったのではないかと。だから、マモンと契約を交わした時、何故契約廃棄をした場合のペナルティを設定しなかったのかアンジェは頭を抱えた。
しかし、アンジェは同年代の子達と比べて賢い子だが、所詮まだ十二歳だ。
あの時は目の前の事でいっぱいいっぱいで、その先を見通す事なんて出来なかった。
『まぁ、逃げたりしないから安心しなよ』
マモンの言葉に、アンジェは心底安堵した。
さっきの問はどうか返して良いのか分からなかったからだ。
『じゃあお迎えが来たみたいだからボクは寝るよ』
「え? う、うん」
マモンの声が聞こえなくなった後、アンジェの部屋の扉がノックされた。はい、と返事を返せば、そこにはイリスの姿があり、どうやらもうパーティ開始の時間となっていたらしい。
しかし、イリスの顔は何処か不安げだ。
桜色の唇を少し歪めたイリスに、アンジェは違和感を抱く。
「どうかしましたか?」
「奥様。実は……」
一方その頃、ノーニアスの館にとある人物が来客していた。
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