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1章
コレクション
しおりを挟む「やぁ! 待っていたよ! アンジェ!!」
ノーニアスの館に着いたのは、オレンジ色の夕焼けが綺麗な夕方の時だった。
馬車から降りるなり、突然茶色の扉が開いたかと思えば、金髪のおかっぱを激しくなびかせながら、ノーニアスが現れた。
アンジェは思わずリディスの後ろに隠れてしまう。そんなアンジェの反応に、ノーニアスは心底楽しそうに笑う。
「そう怯えないでくれ給えよっ! もう私と君は親友だろ?」
(友達になった覚えも無いんですけど…)
微笑みつつも、アンジェは内心そう思う。
「目と目が合ったらもう皆友達! だからそこの君も、もう友達! そして親友さっ!」
「……おい、アンジェ。この人、かなりヤバくないか?」
リディスがそう小声で言うので、アンジェは肯定しておいた。
一方、ノーニアスの方は愉快そうに笑うのみである。
使用人達がアンジェ達の手荷物を預かると、部屋へと案内してくれた。
屋敷は大きく立派な白いレンガ造りの御屋敷で、藍色の屋根をしている。そして何より庭いっぱいにあるハーブの畑からはほんのりと安らぎの香りがする。
緑に囲まれたノーニアスの館。通称、ハーブの魔法使いの館と呼ばれているらしい。
リディスはそんなハーブ畑に興味津々の様で、ほんの少し口元を緩めてハーブ畑を見詰めていた。
そんな館の一番豪華な客室にアンジェは案内された。
大きなキングベッドにふかふかのソファー。そして広いバスタブの着いた部屋、一人で使うには勿体ないような部屋だ。それから庭一面を見渡せるバルコニーもあり、そこで優雅にお茶を楽しめるように、椅子とテーブルもあった。
部屋にもだが、館のあちらこちらに観葉植物が沢山置かれており、心が安らぐ。外も中も緑溢れたこの館、アンジェ直ぐには気に入った。
「アンジェ。少しいいかい?」
「フェルセフ卿。はい、構いませんよ」
イリスに荷物の整理を頼み、アンジェは部屋へとやって来たノーニアスを出迎える。そんな彼の隣にはリディスの姿があり、大きく目を見開き、アンジェの部屋を見詰めていた。
「広っ…俺の部屋でもかなり広かったのにここは更に広い…。あの、狭い部屋ってありますか? 広い部屋って落ち着かないんですよね。あと、専属の使用人も外して貰えませんか? その、なんと言うかむず痒いので…」
どうやらリディスは畏まった服に広い部屋。そして自分専属で付けられた使用人に窮屈さを感じているらしい。
アンジェは貴族の身である為、畏まった服も広い部屋も自分専属の使用人も慣れているが、庶民のリディスにはどれも中々味わえる事では無い。だから余計に息苦しい様だ。
「君の部屋はこの館の客室で二番目に広い部屋だが、せっかくだ。広い部屋を十分に楽しんでみてくれ。それと専属の使用人に関しては了解したよ。しかし、何かあったら直ぐにこれを鳴らすといい。使用人が飛んでいくからね。それで、二人とも。この館は気に入ってくれたかい?」
リディスはノーニアスから小さなハンドベルを受け取った。
そのベルからは微かに魔力の気配を感じた。
ノーニアスの問に対して、アンジェとリディスが頷けばノーニアスはうんうん、と嬉しそうに笑みを浮かべ頷いた。
それから二人はノーニアスに連れられてとある部屋の前へとやって来た。
屋敷の中はハーブの香りが漂っているが、この部屋の前だけは違う香りがした。
何だか懐かし様な…そして心落ち着くような香りだ。
「さぁ、見たまえ! 私のコレクションをっ!」
ノーニアスはそう言うと、チョコレート色の扉を開けた。
そうすれば次の瞬間、視界に入った光景にアンジェもリディスも瞳を輝かせた。
二人の視界に広がる光景。
ガラス張りのその部屋には、力強く輝くオレンジ色の夕焼けが差し込み部屋一面をオレンジ色に染めている。
天井まで高く伸びる本棚。そこには沢山の本が並んでおり、アンジェは瞳を輝かせた。
どうやらノーニアスのコレクションとは、この沢山の本らしい。
「この本は色々な国、大陸を巡った時に買い集めた物なんだ」
「集めたって…この本全部ですか?」
見た限り、千…いや、それよりも遥かに多く見える。
見たことのない文字で書かれているものも少なくは無く、未知の世界に踏み込んだ様な気がしてアンジェは思わず嬉しくなった。
「あ…! レベッカさんの作品がある」
そんな中、本棚にアンジェが愛読している数々のロマンス小説を手掛けているレベッカという作者の本を見つけた。
本を手に取ると、それは初めて見る作品だった。
レベッカの執筆した作品全て目を通している気がしていたのだが…。
「あー。それはまだ未発表の作品だよ。今回はかなりの自信作だから期待して欲しい」
「み、未発表の作品…!? どうして未発表の作品があるんですかっ!? も、もしかしてフェルセフ卿ってレベッカ先生の担当さんなんですかっ!?」
「担当…と言うか、私がレベッカなのさっ!」
ノーニアスの言葉に、アンジェとリディスは言葉を失った。
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