余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

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1章

病気の真相

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 その日の夜、アンジェは酷くうなされていた。


 見渡しても何も無い、ただただ暗闇だけが広がる場所にアンジェは一人で立っていた。
 不安で、リアやリディス。それからイリスの名を呼ぶが、返事は無い。
 だんだんこれが夢なのか、それともそうで無いのかさえも分からなくなってきて……アンジェは小さな体を更に小さくさせた。

 アンジェは暗闇の中を勇気を出してゆっくりと歩き出す。
 夢なら早く覚めて欲しい、と願いながら。


 暫く歩いていると、小さな光が見えてきた。
 アンジェはその光に大きな希望を抱き、走り出す。

 しかし、光の元に辿り着いたその瞬間、アンジェはベッドから飛び起きた。
 冷や汗がアンジェの白い頬を伝う中、横目に見えた人影にアンジェは目を見開いた。


 『あれ? もしかして目が覚めた…? 今まではぐっすり眠ってたのに……』


 いかにも怪しげな人物の声が部屋に響く中、アンジェは咄嗟に魔法を使おうと試みる。
 しかし、次の瞬間、激痛が体中に走り、アンジェはベッドに崩れ落ちてしまった。

 そんなアンジェの様子を見て、声の主の男は口を弧を描く様にして笑った。


 『苦しい? 死にそう? けど、駄目だよ。君は死んではいけない。だって君はボクに選ばれたんだから』


 月明かりに照らされ、男の銀色の髪の毛先をが輝いている様に見える。

 そしてまるで血のように赤い瞳と目が合い、アンジェはビクリと肩を震わせた。


 「死、なせたく、ない、なら…。助けて、よ…」


 苦しそうに息をしながらアンジェは言う。
 すると男はベッドに腰掛け、笑った。

 その笑みの憎たらしさと言ったら……。

 アンジェが男を睨みつければ、男は微笑むと、アンジェのおでこをつついた。
 すると次の瞬間、息苦しさは消え去った。
 アンジェは直ぐにベッドから飛び降りる。そして魔法を使用とした時だった。


 『さっき使おうとして死にかけたのに分からなかった訳?』


 男はアンジェの腕を握り、魔法を使わせない様にする。

 一方のアンジェは、身の危険を大いに感じている。自己防衛の為にも魔法を使おうとしたが、まさかあそこまで苦しい思いをするとは……。
 もう二度とあんなに苦しい思いはしたく無いし、何より再び魔法を使おうとすれば、今目の前にいる憎たらしい男にまた助けを求める事になるだろう。
 アンジェはそれだけは絶対に嫌だった。だから、無駄な抵抗は辞め、大人しくする事に決めた。


 「ねぇ……貴方は一体誰なの? 」


 『ボクは、マモン。君の中に居候中』


 「マモン……それって」


 アンジェが顔を青ざめさせれば、マモンは心底嬉しそうに微笑んだ。その笑みの不吉さ。そして、恐ろしさ。アンジェは体が震えるのを感じながら、怯んではいけない、と自分に言い聞かせる。

 ここで怯んではマモンに弱い人間だと思われる。そう認識されたら最後、悪い方向に進むような気がした。

 自分の患っている病名と同じ名の男。
 最初、何かのイタズラかとも思った。

 しかし、男から感じる禍々しさは、アンジェの身を取り巻くあの文様と同じモノで、嫌でも同じモノだと分かった。


 『もうちょっと怖がってくれる方がボクは嬉しいんだけど。怖がらないの、人間?』


 「あ、あんたなんて怖い訳無いじゃない…!
それよりも、貴方は一体何なの!? どうして私にこんな病気を患わせたのっ!?」

 
 アンジェがマモンへと必死に尋ねれば、マモンは心底楽しそうに話し始める。


 『魔文の呪いって言うのはね、かつてボクが封印された時に僅かに封印されずに済んだボクの魔力の残りが人間の体内に取り込まれて発病するんだよ。その魔力が今、君の中にある。ボクの魔力は徐々に君の魔力を蝕んでゆく。そして最終的には君は体の主導権を奪われ、魂のみが消滅するんだ」


 マモンの言葉はあまりにも恐ろしくて、今すぐ目を背けたくなった。しかし、マモンの瞳から何故か目が離せない。まるで何かに取り憑かれたかのように体が動かない。


 「そんなの初耳なんだけど…」


 そして何とか声が出た時、その声は酷く掠れていた。


 「まぁ、人間如きに解明できる訳ないよね」


 「………ねぇ、私はもう絶対に死ぬ運命なの?」


 アンジェが俯きながら尋ねた。
 少し震えたその声に、マモンは楽しそうな満足気な笑みを浮かべ、まるで昔話を語るかのように話し出す。


 「封印されたことでボクの実体は遠い昔に無くなってしまった。だから代わりの体を探してた。そしたら君を偶然見つけた。けどね…一つだけこの残酷な運命を変える方法があるよ』


 身を大きく見開いて微笑むマモン。
 その不気味さにアンジェは身を震わせながらも、それを悟られないようにグッと拳に力を込め、顔を上げる。
 そして勇気をだして尋ねた。


 「貴方が魔文の呪いの正体だって事は分かった。でも、今貴方には姿形があるけど?」


 『これは君の魔力から作り上げた仮の体。ずっと君の体の中に居ても暇だから、たまにこうして君の魔力で実体化してるんだよ。それにボクを見て何か思わない?』


 確かに言われてみれば、マモンの姿は薄く透けて見える。恐らく魔力で実態化しているからだろう。


 「つまり、貴方が私の体から出て行けば、私は死なずに済むんでしょう!? 早く出ていってよ!」


 マモンはアンジェの言葉を無視し、ベッドから立ち上がり窓の外を眺めた。
 そして遠くを指さすと、目を見開き笑う。


 『ねぇ、君。あっちで今何があってるか分かる?』


 「私の話を無視しないでっ!」


 アンジェがムッとしたように呟く。
 しかし、それをお構い無しにマモンは話を続ける。


 『ボクはね、ずっと封印されてたんだ。数多の魔物を封印する為に魔物と一緒にね。封印されていた月日は途中で数えるの辞めたけど、多分三千年以上。けど、何かを切っ掛けにボクは目覚めた。何でか分かる? それはね、君がボクの魔力を大量に取り込んでしまったからなんだよ。今まで多くの人間が取り込んできたけど、君はそれ人間達以上の…言わば、全てのボクの魔力をね』


 マモンの言葉にアンジェは大きく目を見開いた。
 そして慌てて窓へと駆け寄り、外を見た。

 勿論、アンジェの部屋からは王都の街並みしか見えない。しかし、マモンの言う通りならば、現在この王都の先にある集落が魔物に襲われているかもしれないと考えるだけでゾッとした。

 そう言えば、思い当たる節があった。
 発病してから、魔物が集落を襲撃する事件が後を絶たなくなった。

 そして、その原因を作り出したのが自分だと思うと……。


 アンジェは強く唇をかみ締めた。
 そしてそんなアンジェに対して、マモンは微笑みながら言った。


 『ねぇ。取り引きしない?』


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