余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人

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1章

買い物

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 「リディス。そうと決まれば出掛けましょう!」


 「は、何処に? てか、さっきの言葉は何だよ! お前、何企んでるだろ?」


 「そのままの意味よ。私は旦那様に相応しくない。だから相応しい人を探すのよ!」


 アンジェはそう言うと、微笑んだ。
 王都には、多くの国民や他国からの旅行者や旅人。冒険者等が多く集っている。もしかしたらルーンに相応しい人が見つかるかもしれない。

 その笑顔にリディスは首を傾げると同時に肩を竦めた。

 アンジェが幸せな結婚生活を夢見ていたことはリディスはよく知っている。
 政略結婚とは言え、ルーンの人の良さは平民であるルーンの耳に届く程有名で、彼ならばアンジェを幸せにしてくれるだろう、そうリディスは期待していたのだが…その期待は儚く散ってしまったらしい。
 アンジェ自身がルーンの新しい妻を探すなどと言っている間は、幸せな結婚生活など夢のまた夢だろう。

 
 「買い物ぐらい全然別付き合うけど、許可降りるの?」


 「大丈夫だと思う。だから待ってて」


 アンジェはそう言うと、浮き足立った足取りで部屋を出て行った。



 それから数分後、アンジェが部屋へと戻ってきた時、リディスは一瞬目を見張った。何故ならアンジェが連れてきたのは五人の護衛騎士と、専属侍女のイリスの六人だったからだ。
 ただ王都へ出掛けるだけだと言うのにここまで護衛が必要なのか? とリディスは不思議に思った。まるで何処かの国の王女様を護衛するかの様であったからである。


 「改めて自己紹介させて下さい。私は奥様の専属侍女をしております。イリスと申します」


 イリスがそう告げれば、リディスもまた挨拶をする。


 「私の方も改めて自己紹介をさせて下さい。私はリディスと申します。グレジス夫人とは幼い頃からの付き合いで、親しくさせて頂いております」


 ニッコリと微笑み、いつものリディスからは想像も出来ない程の変わりぶりにアンジェは背筋を凍らせる。

 一方イリス、護衛騎士達は酷く焦っていた。

 突如現れたアンジェの幼い頃からの友人。
 しかも、かなりの美少年で、アンジェから話を聞く限りとても信頼しているらしい。
 アンジェの気持ちがリディスの方へと傾いてしまうことを使用人達はとても恐れていたのだ。


 「イリスさん……でしたっけ」


 ふとリディスがイリスの名を呼ぶ。
 アンジェからイリスの話はよく聞いていたので、リディスは彼女のことを認識していたし、薄々彼女の心境も勘づいていた。


 「心配なさっているような事は絶対に起きませんので御安心を」


 リディスの言葉にイリス、そして護衛騎士達が気まずそうに目を逸らす。
 その反応に、やっぱりかとリディスは肩を竦めた。

 一方、アンジェの方は何も気付いている様子は無く、ただただ買い物で何を買おうかと計画を立て始めていた。

 そんな楽しそうなアンジェの横顔を見つめながら、リディスは心が穏やかになるのを感じた。


 それからアンジェ達は王都にある様々な店を周り歩いた。

 洋服やアクセサリーを買おうかとも思ったが、ルーンが沢山贈ってくれたので、当分買う必要は無さそうだ。
 となれば……とアンジェは目を輝かせ、とある店へと足を踏み入れた。


 「この本、凄く面白そう」


 アンジェが入った店は書店だった。
 天まで伸びる大きな本棚にはズラリとたくさんの本が並べられている。アンジェはその本棚に並べってあったロマンス小説を一冊手に取るなり、頬を緩ませる。

 そして、そんなアンジェの隣でイリスが微笑む。


 「何か良い本はありましたか?」


 「はい。姉とよく一緒に読んでいた作家さんの最新刊が出ていました。早く読んでお姉様に感想を送らなくちゃ」


 アンジェとリアは、よく二人でロマンス小説を買ってはお互いに感想を述べあっていた。しかし、リアは今隣国で勉強中。直接は語れない。だから文通をしようと思ったのだ。

 満足気にアンジェが微笑んでいると、横からリディスがその本をとる。


 「あ、またこの人の本ですか? ほんと、好きですよね。あとリアさんも」


 「ちょっ!? リ、リディス返してよ!」


 必死に取り返そうと手を伸ばすが、リディスが高い位置へと本を持っていくのでどうしても取れない。
 そんなリディスにアンジェは少し苛立ちを覚える。


 「そーいうリディスこそ、その手の本は何? また研究の論文とかじゃないの?」


 そうアンジェは言うと、リディスの手から彼が購入しようとしていた本を奪い取る。本の題名は『治癒魔法の在り方』とやはり、研究の論文だった。しかも、かなり分厚くて難しそうな本だ。


 「リディス様は大変難しそうな物をお読みになるんですね…」


 イリスが関心したように言えば、リディスはいえいえ、と首を横に振った。
 どうなら謙遜しているらしい。


 「リディスは、小さい頃からずっと難しそうな本ばかり読んでいるんです。ほんと、もう少し子供らしい物を読めばいいのに」


 「好き好みと言う物があるんですよ、グレジス夫人」


 リディスはそう言うと、アンジェの手から本を取り、 代わりにアンジェの買う予定としていた本を返した。


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