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1章
嫁ぐ日
しおりを挟むそして、遂にアンジェがグレジス公爵家に嫁ぐ日となった。
身に付けさせられたドレスは、純白の膝よりも少し長めのドレス。
無駄な飾りは一つもない、至ってシンプルなデザインのモノだったが、まだ十二歳の少女には大人っぽすぎるような気さえもした。
心底嬉しそうに微笑む両親達の姿を見て、もうアンジェは何も感じ無くなっていた。
ただ今は一人、ある人物の事が頭に過った。
それは、今隣国で勉強を頑張っている姉、リアの姿だった。
リアには、アンジェの結婚、そして病気について知らされていない。
なぜなら、アンジェの事が大好きな彼女に結婚、そして病気の事を知らせては勉強に集中が出来なくなるだろう、と言う両親の判断により報告はしない運びとなったのだ。
リアはアンジェと違って魔法の才能にも恵まれ、周囲から大きな期待を向けられている。
だからこそ、今回ばかりは両親の意見に賛成だった。
理由は簡単だ。それは、アンジェもまたリアの事が大好きだからだ。
誰もがアンジェを役立たずと馬鹿にして、虐げてきたけれど、リアだけはいつもアンジェの見方で居てくれたし、何よりそんな苦しい環境から守ってくれた存在の一人だった。
そして今、彼女が隣国で勉強しているのはアンジェの為でもあるのだ。
だから自分の為にも頑張ってくれている姉の足をアンジェは引っ張りたくなかった。
用意が全て整えば、馬車に乗り込みアンジェはルーンの待つ公爵邸へと向かった。
そして屋敷へと着くなり、アンジェは思わず「おぉ…」と声を漏らした。
「奥様。お待ちしておりました」
公爵邸へと着くなり、沢山の使用人達が門でアンジェを迎え入れてくれたのだ。
そして大きくて立派な御屋敷は、さすが公爵邸と言うべきだろうか。アンジェの住んでいた伯爵邸とは迫力が違う。
アンジェがペコリと淑女の挨拶をする。
「現在旦那様は仕事の為、留守でございますが、夜には帰宅されますので先ずはお部屋にご案内致します」
メイド長と思われる五十代ぐらいの女性はそう言うと、アンジェを部屋へと案内した。
そして、案内された部屋を見てアンジェは驚いた。
「あの、客室では無いのですか…?」
「アンジェ様は奥様でございます。客室だなんてとんでもない!」
メイド長は目を見張って、有り得ないと言った様子でそう告げた。
しかし、アンジェだって同じ気持ちだった。
アンジェが案内された部屋は、夫人専用の部屋。
まだ幼い子供だからとてっきり名ばかりの持て成しをされるとばかり思っていたので、予想外の出来事に驚きを隠せない。
部屋は、これまでアンジェが使用してきた自室よりも当たり前だが、遥かに広い。
家具も最低限の物しか置かれていないので、まだ部屋には沢山のスペースがある。
そして、中でも部屋の片隅に積み上げられた数々の鮮やかな箱にはどうしても目がいった。
「あの、これは何でしょうか」
あまりの存在感に気になり、アンジェが尋ねれば、メイド長は答えた。
「奥様への贈り物でございます」
「お、贈り物…ですか?」
「はい。開けてみてはどうでしょう?」
そう言われてしまったら、開ける以外の選択肢など無く、アンジェは少し大きめの丸い水色の丸い箱を手に取り、ゆっくりとリボンを解いて、箱を開けてみる。
中には、淡い桃色のドレスが入っていた。
「あの、もしかしてこの箱の山……」
「全て旦那様からの物でございます」
メイド長の答えに、アンジェは固まった。
アンジェが見上げる程に積み上げられた箱の山。
これが全てルーンからの贈り物だと言う事と、噂通りの人柄に更に驚きを隠せなかった。
箱からドレスを取り出してみれば、胸元に大きなリボンが着いており、それ以外の装飾は何一つ無い無難な物だった。
言わば、子供過ぎず大人過ぎず…と言ったドレスである。
「今夜、奥様の歓迎パーティを行う予定でございます。と言っても正式なパーティではありませんが、その際に着てみてはどうでしょうか? きっと旦那様もお喜びになられますよ」
「そう、ですね。では、着てみます」
アンジェの返事にメイド長は安心したのか、嬉しそうに微笑んだ。
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