婚約破棄から2年。元婚約者から結婚式の招待状が届きました。しかも、友人代表挨拶を頼まれまして。

流雲青人

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結婚式まであと6日①

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翌日。
イレーナは豪華な品々を前にゴクリと息をのんでいた。

その一方で目の前ではセシルとエリが楽しそうに何やら話をしているが、イレーナは目の前に並べられた食事に完全に意識は向いていた。


「一昨日は済まなかったね、イレーナ」

「私も昨日はごめんなさいね。けど、今日は沢山時間があるからイレーナさんと沢山お話しがしたいわ」

「奇遇だな、エリ。僕も同じことを考えていたよ!」

「あら? 貴方もだったのね、セシル!」


今にも手を絡め合い、ミュージカルのように歌い出しそうな勢いの2人。

そんな2人の賑やかな会話を聞きながら、イレーナは再度目の前の料理にゴクリと息をのんだ。


本当は食事会なんて欠席したかった。
誰が好き好んで元婚約者とそのまた新たな婚約者と食事などするだろうか。

けれど、どうしてもイレーナは欠席する事が出来なかった。

その理由は……。


「まぁ、せっかくこうしてまた会えたんだ。食事をしながらゆっくり話を聞かせてくれないか、イレーナ」

「私も是非聞きたいわ、イレーナさんのお話。それとシェフが腕に腕をかけて作った料理よ。沢山食べてちょうだいね」

「は、はい。頂きます」


目の前にずらりと並べられた数々の料理。
採れたての野菜を使ったサラダに芋がたっぷり入ったスープ。焼きたてのパンに超高級なフルーツを贅沢に使ったフルーツジャム。新鮮な卵で作られた出来たてホカホカの卵料理たち。

別に食い意地を張ってこの食事会を断ることが出来なかった……という訳では無い。
ただこの2年でイレーナは作る側の苦労と喜びを知った。そして汗を流しながら必死に育てた作物たちが沢山の人のエネルギーとなり、笑顔となる光景を多く目にしてきた。そして同時にそれ程多くの愛と努力を捧げ、育て上げた作物達を無駄にすること……所謂廃棄や食べ残しがどうしてもイレーナには出来なくなった。


(前々から思ってたけど…やっぱりここのシェフの料理は凄く美味しそう。何より食材を無駄なく使ってる…! )


芋がたっぷり入ったスープを見て、この間まで必死に芋向きをしていたのも無駄では無かったのだと感じ、目尻が赤くなる。


ルカに既にもう食事会の準備は始まっていると聞いた時、行きたくない…という気持ちよりも食べ物を粗末にしたくない…! という気持ちが勝ってしまった。

その事をルカに伝えれば…


『作り手になったからこそ出てくる考えだな』


と笑っていた。

用意された料理を口にしながら、この大地の恵と作物を育てて下さった農家の皆様に感謝の気持ちを抱きながらよく咀嚼し、飲み込む。


(あ、このお芋。村で作ってるお芋だ。)


そして口にした芋が村で作られている特産の芋だという事に気づき、イレーナは思わず笑みがこぼれる。


その一方、芋をポイポイと掬い出し、スープのみを堪能しようとしている者が1人…。


「……セシル」

「ん? どうしだい、イレーナ?」


そう。セシルだった。
芋嫌いは相変わらずのようで、綺麗に芋だけを残し、スープだけを堪能している。

イレーナはジトッとセシルを見つめながら言う。


「好き嫌いはよく無いよ。それに残すのは農家の方、調理して下さった方にも失礼」

「そう言われてもなぁ……僕にはこんな芋芋とした物は似合わないだろう?」

「えぇ、セシルの言う通りよ。貴方みたいな素敵な人にそもそもこんな安っぽい芋は相応しくないわ!」

「え、えっと…」


な、何を言ってるんだ?この人たちは?


そうイレーナは思った。
そして同時に思った。
……セシルって、こんな人だったっけ?


イレーナが引かれていたセシルは、確かに自分に自信を持ち、まるで星のようにキラキラと輝いていた心優しいセシルであった。
好き嫌いだってあったものの、ちゃんと「作り手の立場に立て! 感謝の意を込めて咀嚼するんだ!!」と自分に強く言い聞かせて頑張って食していた。


しかし、今はどうだろう?
これではまるでチヤホヤされて甘やかされ、浮かれているただのナルシストではないだろうか。


「そう言えば…ルカから聞いたんだが、イレーナ。お前、今は村で農家として働いているというのは本当なのか?」

「はい。事実です」

「まぁ…! まさか事実だなんて!」


イレーナの返答に2人は顔を見合わせる。
何か不味い事でも口走ってしまっただろうか? とイレーナが思わず首を傾げた時…


「なんて汚いのかしら」


そうハッキリエリが言ったのは。






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