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結婚式まで残り8日 ①
しおりを挟むイレーナを尋ねてきた男は家の前で待っているらしい。
早速外へと向かえば、そこには確かに青年の姿があった。その奥には馬車が待機しており、そして更にその奥にそんな村とは無縁の煌びやかな客人の訪問を聞きつけてか、村の人々が集まって来ていた。
その青年は、手入れの行き届いた光沢のある漆黒の髪と鮮やかな青い瞳を持った端正な顔立ちをしている。且つ上品な佇まいと身に付けている服装……燕尾服から更に上品さ、気高さ、そして優雅さが醸し出され、より青年の美しさを際立たせている。
そんな突如現れた異分子に誰もが魅入ってしまっていた。
村にも勿論若い男は勿論居る。しかしか、皆泥に塗れ、汗の香りを漂わせ、そしてヨレヨレの古びたツナギに手入れもされてないボサボサの髪をした芋臭い男達ばかりだ。
だからこそ、明らかに村の男とは違うその雰囲気……まるで御伽噺から出てきたと言われても信じてしまいそうなその男に誰もが魅入ってしまったのだ。
一方、イレーナはと言うと……そんな青年の胸元のネクタイに施された刺繍のデザインを見て、拳をギュッと握りしめていた。
青年はイレーナの姿を視界に捉えるなり、綺麗な一礼をする。
「初めまして。私、バーツル伯爵家の使用人のルカと申します」
バーツル伯爵家。
その名は聞いていち早く動いたのはヘレンだった。
「バーツルってイレーナの元婚約者の…」
「……うん」
「でも迎えは明日の筈でしょ?」
「申し訳ございません。予定が変わりまして1日早くお迎えに参った次第でございます。イレーナ様。御屋敷にてセシル様が貴方様をお待ちです。参りましょう」
そう淡々とまるで台詞を口にする様に言うルカ。
「イレーナ…行くの?」
心配そうに尋ねるヘレン。
その問いに暫くイレーナは考えた後、答えを出した。
「………うん、行く」
そうイレーナが答えれば、ヘレンは口元を緩ませ頷いた。
イレーナの意思で決めた事に反対する気は無いらしい。けれどその表情は心配と不安の色で染まっている。
けれどこちらがこんなに不安そうにしまえば、更にイレーナに不安な思いをさせてしまう。
そう思ったヘレンはニッと白い歯を見せて、イレーナの背中をポンと叩いた。
「よし、よく言った! 小旅行の気分で楽しんでおいで。こーんな小さな村じゃ味わえない娯楽が山程あるんだからさ。最近は芋むきばっかで大変だったし、羽根伸ばしてきなよ」
「うん、そうする。お土産楽しみにしてて」
「お、その言葉待ってたよ~! 楽しみにしてるからね」
ヘレンの言葉にイレーナは頷く。
それからイレーナは馬車へと乗り込んだ。
王都で行われるセシルの結婚式に出席する為に。
王道までは向かうには馬車で一日は掛かる。ルカ曰く、途中の街で今日は一旦休み、そしてまた朝から王都へ向けて出発するらしい。
「行ってらっしゃい~! イレーナ!!」
「うん! 行ってきます、ヘレンー!」
イレーナは馬車の窓から身を乗り出しながらヘレンへと手を振った。
お互いの姿が見えなくなるまで手を振り続けた後、イレーナは馬車へと。ヘレンは仕事へと戻った。
お互いに不安と心配を抱きながら。
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