女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人

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リヒトside ①

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 一ヶ月に一度、研究の進歩を国王陛下に報告しなければいけない。
 こうして王城に足を運ぶようになったのはもう両手で数えても足りない程だというのに相変わらず慣れない。
 元々こんな煌びやかな世界とは程遠い人生を送ってきた。萎縮しなくなっただけマシな方だ。

 しかし、此処に足を運ぶ度に思う。
 本当にこの選択は正しかったのだろうか、と。

 過去の選択を振り替えたって意味も無いことくらい分かっている。
 魔法使いではあるけど、魔法はそこまで万能なものでは無いことくらい僕が一番よく知っている。
 未来も、過去も……そう簡単には変えられないし、覆せないのだ。

 今日はどんな無茶振りを言われるのだろう……と報告前に胃がキリキリと痛むのを感じた。

「お! やっと来たか。待ちくたびれたぞ~?」

 そんな中、僕へと大きく手を振る男の姿が見えてきた。
 底抜け明るい声に、今年で三十後半になる親父の癖になぜそこまで元気が有り余っているのか分からない。

 燃えるように赤い炎の様な赤い短髪の髪色。
 この王国の国王陛下専属の部隊である印が施されたマントを羽織ったこの男は、齢十四にしてその剣術の腕前を認められ、団員として迎え入れられた男だ。

 そして……一応、恩人である。

「……迎えは必要ないと前から言ってるじゃないですか、ケインさん」

「そんな他人行儀な態度とるなよ~? 悲しくなるじゃねぇか」

 突然肩を組まれ、あまりの鬱陶しさと暑苦しさに自然と眉間にシワがよる。
 お酒の匂いがしないのが、せめてもの救いだった。

「今日はお酒飲んでないんだね」

「そう毎日飲まねぇよ。それに、禁酒しろってお前がうるさいし」

「僕はただケインさんのことを思って忠告してたんだけど」

 よく国王陛下は馬鹿げた注文をしてくる。
 不老不死の魔法、空を飛べる魔法、風邪が治る魔法などなど。

 魔法という存在がおとぎ話として定着した今、その存在が真実だと知る者は極わずかとなった。
 けど、そんな僅かな人間は皆古代の魔法を知っているからこそ夢見がちな所がある。しかし、残念な事にそんな魔法はもうとっくに使えない。魔法使いの力は年月と共に劣化しているからだと母は言っていた様な気がする。

「魔法では病気は治せないからね。後から縋られても面倒だ」

「……そう言う割には、ちゃんと研究するんだな」

 本当に、嫌なところばかりついてくる。
 頬がひきつりそうなのを感じながら、僕はケインさんを見据える。

「魔法は万能じゃない。お前はよくそう言ってるよな」

「事実だから」

「そうらしいな。けど、俺には研究している時のお前はどんな時よりも輝いて見えるぞ」

 そう言って白い歯を豪快に見せて笑うケインさん。
 もうかれこれ十年以上の付き合いになるけど、この人の事はよく分からない。
 底抜け明るくて、体力バカで。正義感に溢れたお人好し。けど、どこか掴めない不思議な部分もある。

「……人生経験豊富なおじさんはやっぱり分かっちゃうのかなー」

「あ、おい! 今、俺のことおじさんって言ったな!? 俺だってついこの間までは二十代で……」

「それ、おじさんは皆言うよね」

 僕は肩を竦める。
 慌てた様子で一人でベラベラと言葉を述べるケインさん。余程おじさんという言葉に動揺しているらしい。正直、ケインさんは童顔気味であるのと、鍛え抜かれた身体もあって実年齢には到底見えないんだけど……敢えて秘密にしておくことにした。

「あー、それで? 研究の方は上手くいってるのか?」

 少し気まずそうに尋ねられる。
 さっきの会話もあってだろう。

「馬鹿げた注文のせいで全く。知識がある人は夢見がちで困る。まぁ、ただの遊び心と……」

「研究依頼を出せば素直にお前もお金を受け取るからな」

「……もう十分頂いてるのにね」

「心配してるんだよ、陛下は。今日はちゃんと学校の事も伝えろよ。いつも研究の経過しか伝えずに帰るから悲しんでた」

「定期報告なんだから当然じゃない?」

「国王陛下にとっては、研究の報告よりも余っ程楽しみにされてると思うが?」

 正直、薄々そうなのではないかと疑っていた。
 やけに学園でのことを尋ねられるし……。

「まぁ、善処するよ」


 ▢◇◇▢


「久しいな、リヒト」

「たった一月じゃないですか」

「若人には分からないだろうな。老人にとっての一月はとーっても長いんじゃよ」

 相変わらず優しい眼差しで僕を見る国王陛下。
 ケインさんに連れられて、早速国王陛下に定期報告へやって来ていた。

「薬の方は間に合いそうか?」

「飲み薬はできました。なので後日お届けに参ります。……それと、あー……最近、助手を雇いました。そのおかげでかなり薬草採取が楽になったので、今回は納期よりも早くに終わりました」

 今までなら絶対に、助手を雇ったなんて報告はしなかった。
 けど、ケインさんにあそこまで言われてしまえば、致し方ない。

 まさか僕が報告以外のことを話すとは思っていなかったのだろう。
 国王陛下の表情が驚きと歓喜で忙しそうだ。

「そ、そうだったか! 助手を雇ったのだな。確かにリヒト一人で熟すには大変な仕事量だったな……。必要とあらばこちらで人を貸そうか?」

「いえ、お気持ちだけで十分ですから」

 僕の返事に国王陛下は「そうか」と残念そうに、けどどこか嬉しそうに言った。
 そんな反応が気になったけど、今一番気になるのは。

「……勝手に助手を雇ったこと、申し訳ないと思っています」

 自分が魔法使いという立場であることは、公にはしない。それが国王陛下との約束だ。けど、助手を雇った。それが示す事くらい、国王陛下ならば直ぐにお気づきになるはずだ。
 だから正直、ご立腹になられるのではと思っていた。でも、蓋を開けてみれば意外な反応が返ってきたから。

「リヒトの負担を考えられなかった私にも落ち度はある。だがら謝罪など不要だよ。だが安心した。お前が誰かを頼れるようになったことに」

 それからたわいもない話をした。
 こんなに国王陛下と話したのはいつぶりだろう、なんて思いながら。


「そうだ、最後に一つだけ」


 そう改めて国王陛下が言う。


「リヒト。魔法は好きか?」

「……僕は」



 __その問に、なんて答えたかは正直、よく覚えていない。


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