女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人

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「駄目じゃないか。お客様を驚かせては」

 今度は何処からか心地よい柔らかな声が聞こえてきた。
「今度は何!?」とプレセアが身を潜めれば、カウンターの奥のカーテンが開く。
 次々に起こる現象に、プレセアの頭の中は混乱状態だった。

「私の飼い猫がとんだ失礼をしてしまったみたいだね」

 そう言ってカーテンの奥から姿を現したのは、淡い緑色の肩まで程の髪と鮮やかな金色の瞳をもった幼い少女……否、少し人間と断言してよいのか分からない。なぜなら彼女の耳は人間とは違って横に長く、そしてとんがっているのだから。
 少女は一見十二歳程の少女に見えるが、妙な落ち着きと不思議な雰囲気を漂わせているように思う。

「立てるかな?」

 手をさし伸ばされ、プレセアはその手をとる。
 少女にしては力強い力で引き上げられ、思わずバランスを崩しそうになる。

「リヒトから話は聞いているよ。こっちだ、いらっしゃい」

「は、はい」

 手を招かれ、少女の後についていく。
 そんなプロセアの後を、あの子猫だったはずのものがついてくる。

 歩きながら少女が言う。

「私の名はエリン。この古本屋の店主さ。で、その子はロキだ」

「プレセアと申します。リヒト先輩の後輩で、今は研究のお手伝いをさせて頂いています」

「……まさかあの坊が手伝いを頼むなんて驚いたけど、誰かを頼れる様になったのも成長の一つだな。よろしく、プレセア。君と会えて私は嬉しいよ」

 エリンの表情は後ろからでは見えないが、柔らかな声から確かに言葉通りの思いを持っているのだと分かった。

 エリンがカーテンを開ければ、そこに広がる光景にプレセアは唖然とした。
 なぜならそこには螺旋状の階段が続いていたのだ。そして、その周囲を囲むようにまた大きな本棚が並んでいるのだ。
 あの外観からは想像のつかない店内の次は、無限に続くような螺旋状の階段と本棚。
 まるで魔法の世界のようだと思っていると、ロキが弾んだ声で言う。

「驚いただろ? これね、エリンがぜーんぶ集めたんだぜ」

「こんなにたくさんの本を!?」

「まぁ、伊達に長生きはしてないからな。完全な趣味ではあるが」

 それから階段を降りて行く。
 一体どこまで続くのだろうと思っていると

「あった。これだな」

「なぁ、エリン。わざわざ降りてくる必要あったのか~? いつもなら用意して渡すだけじゃん」

「まぁ、そうした方が効率はいいな。けど、せっかくの新しいお客様だ。このお店のことを知ってもらいたいじゃないか」

 エリンは一冊の本を手に取るとプレセアへと差し出した。
 とても古びた本だ。
 頁は黄ばみ、表紙もかなり傷んでいる。
 タイトルは……読めない。初めて見る文字が記されていたのだ。

「ここは色々な本がある。プレセアは読書は好きか?」

「はい、大好きです!」

 反射的に答えてしまい、プレセアは少し恥ずかしくなった。
 しかし、嘘偽りのない答えである。

「……うん。曇りない美しい瞳だ。プレセア、ここには沢山の本がある。好きなものを持っていくといい」

「い、いいんですか?」

「あぁ。ロキ、探すのを手伝ってやれ。あまりにも数が多すぎるからな」

「分かってるならいい加減整理しろよな~」

「馬鹿を言え。集めるのに何千年かかったと思っているんだ。まぁ、とにかくだ。プレセア、少しゆっくりしていくといい。坊も直ぐには戻れんだろうからな」

エリンはそう言い残すと店の方へと戻って行ってしまった。

まさか本を譲ってもらえることになるとは…。これだけ多くの本があるのだ。きっと……いや、間違いなく心躍る本と運命的な出会いをするのは間違いないだろう。

しかし、一つ気になることが出来てしまった。

(直ぐには戻れないだろう、ってエリンさんは言ってたけど……何かあったのかな)

少し……胸騒ぎがした。






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