女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜

流雲青人

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「失礼します」

「うん、どーぞ」

リヒトに連れられやって来たの第二研究室だ。
いつも使用している研究室は第一研究室のため、初めて入る教室だ。

教室の中は、正直お世辞でも綺麗とは言えなかった。
幸い足の踏み場があることが救いだろうか。
机に乱雑に置かれた本の山と紙の束。
禍々しい色の液体の入ったフラスコや見慣れない薬草の数々。
何か研究の依頼をされていると話していたから、それに関係するものなのだろう。
そして部屋の隅には毛布が乱雑に置かれていたりと、どことなく生活感を感じられた。

「もしかして寝泊まりされてるんですか?」

「うん。追い込みの時とか特にね。家でもいいんだけど、あっちは色々と面倒くさくて」

そう言って椅子に促され、プレセアは腰を下ろす。
一方のリヒトはグツグツとお湯を沸かし始めた。

「ごめんね。コップが無いからビーカーで代用するね。あ、実験とかには使ったことのないビーカーだから安心して」

「突然お仕掛けたのにお茶の用意までしてもらって....」

「気にしないで。研究室で話したいって言ったのは僕だし。おもてなしさせて欲しいな」

ニコリと優しい笑みを浮かべながらそう言われてしまえば、もう何も言うことは出来なかった。
暫くしてお湯が湧き、紅茶が出された。
フルーツの優しい香りのするフルーツティーだ。

「それで僕に聞きたいことって?」

「あ、実はこのノートのことをお聞きしたくて」

プレセアは鞄からノートを取り出しリヒトへと差し出した。
リヒトはノートを受け取るなり、了解を得てページを捲っていく。

「家族に尋ねてみようかとも思ったんですが、尋ねづらくて....。リヒト先輩なら何かご存知かなと思いまして」

「....そっか。プレセアさんはこのノートを見た時どう思った?」

思わぬ質問にプレセアは瞳を瞬かせた。
まるで何かを見定めているような....そんな視線に目を逸らしてしまいそうになる。
けれどリヒトの真剣な眼差しを受け、プレセアは正直に言葉を紡いでいく。

「..きっと誰かのために必死になって考えたんだと思いました。最初は、私の長期休暇のお出かけプランか何かとも考えましたが、絶対にこれは違うと断言できます。だって……あまりにも私の趣味ではありませんせでしたから。だから相手の好きなものを取り入れた計画をこの時の私はたてた。けど……これは正直、実行できたとしても相手を楽しませることは不可能だったと思いました」

「え?」

思わぬプレセアの言葉に今度はリヒトが瞳を瞬かせる番だった。

「だって相手の顔色ばかりを伺ったプランなんてつまらないじゃないですか。二人で出掛けるのなら私の好きな物も共有したいですから」

このノートを見た時、最初に思ったことは、どうしてこんなに必死になって自分はこんな事をノートに綴ったのか、だった。
そしてまるで自分の叫びを聞いている様な気分になって、心地が悪かった。

何のためにこんなことを綴ったのだろうか。
自分のため?
いや、それは絶対に違う。
だってこんなパワースポットなんて、プレセアは微塵も興味は無い。
だから、きつまと大切な人のためなのだと分かった。
けれど、その大切な人が一向に思い出せない。
否、思い出さなくて良い。
そう思ってしまった。
なぜか分からないが、それが正しい判断なのだと思ったのだ。

プレセアの言葉にリヒトは安堵した様に微笑む。
プレセアの導き出した答えから、ルイスとの関係をきちんと心の中で成立がついたのだと分かったからだ。

「……良かったよ。前に進めたみたいで」

「リヒト先輩?」

「うんうん、何でもないよ。にしても……何だかスッキリした顔してる」

「確かにそうですね。一人でどう片付けていいものかと悩んでいたので、リヒト先輩に尋ねて良かったです。ありがとうございます」

どこか心の縁に引っ掛かっていた疑問。
それが晴れたことでプレセアは嬉しそうに微笑んだ。
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